「プレジデントロイター」より
http://president.jp.reuters.com/article/2011/10/05/0B837B86-E971-11E0-BEC3-DAB63E99CD51.php
<転記開始>↓
プレジデント 2011年10.3号
「なぜ「九電」は他の不祥事と同列でないか」
やらせ九電、暴走検察……権力はなぜ「ウソ」を愛するか【1】
九電、検察で起きた不祥事を他人事とせず、「企業価値の維持と防衛」のプロの指摘に耳を傾けよう。
郷原信郎 原 貴彦=撮影 PANA=写真
日本社会を「思考停止」という病が覆っている。明日はわが身だ。九電、検察で起きた不祥事を他人事とせず、「企業価値の維持と防衛」のプロの指摘に耳を傾けよう。自分の組織発展の秘訣が自ずと見えてくる。
■企業価値の防衛とバッシング最小化
12年7月に発覚した「やらせメール問題」に関する九州電力の第三者委員会をはじめ、私はこれまで、不祥事を起こした組織が設置した多くの第三者委員会に委員長として関わってきた。
第三者委員会には、依頼者側の組織からの独立性の確保と、中立的、客観的な観点からの調査、提言等が求められるが、とりわけ私企業が依頼者の場合には、委員会の目的、活動姿勢、依頼者側の組織の意向との関係などについて、多くの困難な問題がある。日弁連の「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」は、第三者委員会とは、「不祥事を起こした企業等が、企業の社会的責任(CSR)の観点から、ステークホルダー(編集部注:利害関係者のこと)に対する説明責任を果たす目的で設置する委員会」であるとしている。しかしその一方で、第三者委員会の目的は企業価値の中長期的な維持・防衛にあるとする考え方もある(詳細は、塩崎彰久「第三者委員会ガイドラインの弾力的運用の薦め―企業不祥事調査に関する実務上の留意点―」ビジネス法務2010年8月号)。
私は、かねてから、企業経営とは「需要に応え、利潤を確保することをベースに様々な社会の要請にバランス良く応えること」をめざすことであり、「社会的要請に応えること」としてのコンプライアンスは、企業の経営上の意思決定に包まれるものととらえてきた。
その立場からは、第三者委員会の目的と企業経営がめざすところとは基本的に異ならないのであり、第三者委員会の存在意義は企業価値の維持・防衛を中心に整理すべきだと考えている。
純粋な私企業であれば、不祥事にどのように対処し、それを契機に、どの程度抜本的な改革を行うのかは、経営上の意思決定に委ねられる。経営の結果に責任を負う経営者から委任された第三者委員会の運営方針、調査対象、提言が踏み込む程度については、基本的には経営者の判断を尊重すべきである。
■第三者委員会の意義とは
しかし、公益事業の場合には異なる面がある。公益事業の多くは、その影響が社会全体、消費者・国民全体に及ぶ。また、多くの場合、何らかの競争制限があり、政府の指導監督の余地が大きい。このような企業においては、経営者による結果責任は限定的であり、その分、ステークホルダーである社会全体に対して十分な説明責任を果たすことが求められる。
例えば、民需向け製造業のような純粋な民間セクター(部門・分野)の企業であれば、主なステークホルダーは株主、従業員、商品の需要者である。そこでの経営の基本方針、経営戦略の策定は、全面的に経営者に委ねられ、その結果について経営トップが全責任を負う。
商品の品質・価格による市場競争が機能している限り、企業の業績、株主価値によって評価される立場の経営者の責任を基本的に重視すべきである。ステークホルダーに対する説明責任も、経営者がその責任を果たすうえで必要な事項の一つである。
不二家をはじめ、これまで私が手掛けてきた第三者委員会の多くは、純粋民間セクターの企業において発生した不祥事に関するものであった。そこでは、委員会の目的を「企業価値の維持・防衛」ととらえ、不祥事によって失われた企業の信頼回復、あるいは、信頼失墜の防止をめざして、経営陣と十分な意思疎通を行い、その基本的な方針を尊重してきた。
もちろん、事実調査の客観性や、原因分析の信頼性、再発防止策の実効性についてはプロとしてのこだわりを持ってきたが、社会の誤解を解消あるいは防止し、マスコミ報道の歪みなどによる不当なバッシングのリスクを最小化することも重要な役割であった。
第三者委員会の活動を通して、当該企業が社会的責任を果たし、社会からの信頼を維持・回復するために貢献してきたとの自負がある。
一方、今、私が取り組んでいる九州電力の第三者委員会は、純粋な私企業の場合と同列には語れない。電力会社の事業は、公益事業そのものだからだ。
とりわけ、地域独占に守られている日本の電力会社の収益は、供給者の選択の余地のない消費者、国民全体の電気料金の負担によるものであり、ステークホルダーは社会全体と考えられる。電力会社の業務に対しては経産省をはじめとする政府の関与の程度も大きく、経営の裁量の範囲も限定される。また、総括原価方式の下で、原則として事業利益の確保が保障されており、経営者が負う結果責任のレベルは、一般の企業と比較すれば低い。
一度事故が発生すれば「制御不能」となってしまう原発の恐ろしさを見せつけられた国民とって、原子力発電事業を担う電力会社、とりわけ原発事業部門が信頼できる組織であるか否かは重大な関心事であり、本件の真相解明、原因分析は、社会が強く求めているものである。

このような第三者委員会においては、企業価値の維持・防衛という観点で、経営者の意向に沿った活動を行うだけではその使命を果たすことはできないのであり、ステークホルダーである社会全体への説明責任を果たすという観点から、依頼者たる企業からの独立性を確保し、客観性、中立性を重視して第三者委員会の活動を行うべきであろう。
この第三者委員会の調査によって、膿を出し切り、社会からの信頼を回復することが、九州電力が企業として再生するための最良の方策である。
それが、今回の一連の問題が表面化して以降も、電力の安定供給のために、不安を抱えながら、日夜業務に取り組んでいる多くの社員も救うことにもつながるのである。
※すべて雑誌掲載当時
↑<転記終了>