つづき・・・

 

 

店員さんに注文すると、兄はすぐに切り出した。

悲しい告知

「率直にいうとね、転移した」

「そうか。どこ?」

「腹膜播種」

 

フクマクハシュ・・・

 

いちばん聞きたくない音。

 

「腹膜かぁ、シビアな話しだねぇ」

「そうだよ、シビアだ」

 

兄は、1時間半ほど前に主治医から聞いたばかりの数値や今後の治療方針なんかを説明してくれた。兄は抗がん剤の影響で声が出にくくて少し聞きずらいときがある。

 

「だからね、何もしなければ半年。治療して1年から1年半。50代で3年生きるのは数%らしい」

 

聞こえにくいよ。

思わず、ン?聞こえないとくり返えさせてしまった。

 

 

去年、胃癌ステージ4が発覚し、今年、年明け早々の手術をした。

結果はステージ3に訂正され、そこそこ安堵していた。

 

再発が早すぎるよな。

予定では2年後くらいに再発だったのになぁ

仕事も年内で辞めるかな…

兄は言った。

 

机に置かれた命の期限

お互いに冷静な感じでいろんな話をした。

治療、最期、お金、家財…とても具体的な話しだ。

 

わたしたちは4人兄弟で、父は去年亡くなった。

そして79歳の母も先月、乳がんの手術をしたばかり。

 

兄は長兄で、わたしは末っ子。10歳離れている。兄は、ほかの兄弟や母にはまだ少し告知したくないと言った。その気持ちはよくよく理解できる。

 

二度目の覚悟のはずだけど、今回のほうが兄も私も、「それ」を強く意識しているのが分かった。もちろん、この先どう展開するか命の期限など本当は分からない。しかし、目の前に、確実に視える化されたのだ。

 

「どうなるか分からないけど、「やらねばリスト」に優先順位をつけないとね」と言うと、「そりゃカツラだな、今後の治療は脱毛するから」と兄は勢いよくしゃべった。本気だな。

 

兄とはわりと冷静に笑ったりしながら話しをした。それは決して無理やりではない。まだふわふわとして地に足がついていなかったのかも知れない。

 

話しながら時々、平均値通りのばあいの残り時間、1年や1年半という時間の短さが襲ってきた。まるで一瞬の突風みたいに。大人になると時間が早く過ぎることを、体感で知っている。大人もつらいんだよ。

 

 

つづく・・・