被災地見学体験記
東京大学1年(灘中・灘高出身)
武縄真和
私は東京大学文科Ⅱ類に属する武縄真和といいます。
昨年2015年11月28日,29日に「番來舎」のスタッフの一員として、 「南相馬学習支援室」での直接の学習支援と,その翌日の講演会の開催の手伝いをしに南相馬を訪れました。
私個人としては、震災後一度も福島を訪れたことがなかったため、この訪問を機に被災地の現場の見学も行おうと考えていました。
震災の被害についてはニュースなど様々なメディアを通してある程度は理解していたつもりでした。
それに震災から約5年近く。
大きく回復しているだろうと思っていました。
しかし、実際に見るとその理解は大きく間違っていると気付かされました。
最初に衝撃を受けたのは移動中に見たフレコンバッグの数の多さでした。
私が描いていた風景ではフレコンバッグは一箇所に集められ、また除染による土壌が少ないと思っていました。
しかしながら移動するバスの中で飯館村を移動中、処理できるとは思えないほど大量のフレコンバッグがいたるところに置かれている現実をこの目で見ました。
それまで少し賑やかだった前の座席の女性たちも飯館村を通過するときは無口になっていました。私は「これが現実なのか・・・」と捉えることしかできませんでした。
その後、「番來舎」主宰の番場さち子先生に、原町区周辺の被災地を案内していただきました。
津波が到達した地域はただただ地面が広がって、ほとんど根こそぎ持って行かれていました。
また壊れたままの橋や、ほんの少し高いだけで被害を免れた公園をみて、胸を突き動かされました。
比較的高いとこにあったにもかかわらず被害を受けた野球場、
海岸から実際の被害地までの遠さ、
大量に設置された仮設住宅に対する衝撃は、実際に見ることでしか得られないものでした。
一方で現在も遺体捜索を続けられている「福興浜団」代表上野敬幸氏や、小高区から仮設店舗に移動して営業している双葉食堂のことを知り、前に進もうという動きもみることができました。
その後、南相馬学習支援室で実際に学習支援を行いました。
普段行っているSkypeを通してよりも、実際に教える方が目の前に相手がいるため、生徒にとっては質問がしやすく、スタッフにとっては説明がしやすい環境でした。質問に対して自分なりの説明でも「わかりました」と返事をもらったときはやりがいを感じました。
翌日の午前には元デザイン学校の先生で、神戸から震災後に南相馬に移住された、もとまちベースの加納智明さんに、2015年時点ではまだ「避難指示解除準備区域」に指定されている小高区を「番來舎」の先輩方と共に案内していただきました。
2016年4月には帰宅が許可されるという話を移動中に聞いていました。しかし実際に行ってみるとやはり人の気配がほとんどありませんでした。
社会学者の開沼博先生のご著書で「原発事故は地方過疎を早めただけ」という趣旨の文を拝見した覚えがありましたが、これがその現実なのだろうかとふと頭をよぎりました。しかし、ちょうどその日小高区でイルミネーションの点灯式が行われるということで様々な人が集まっていて、ここでも着実に前に進んでいこうという意思が感じられました。
再び原町に戻った後は講演会の手伝いを行うこととなりました。
その日のイベントは、番場さち子先生が主催された「福島復興本社って何してるんですか?」
というトークイベントです。
東京電力副社長、福島復興本社代表の石崎芳行氏と福興浜団の上野敬幸代表、
そしてベテランママの会代表の番場さち子先生が復興本社が成すべきことは何なのか?ということを議題に話されたのです。
司会は、フリーアナウンサーの大和田新氏が大変絶妙に取り仕切っていらっしゃいました。
準備をお手伝いしていて驚いたのが、東京など遠方から来られる人も存在したことでした。それほど注目を集める会なのだと思い、真剣に聴こうと改めて思いました。
講演会の内容は、知っているようで知らなかった福島原子力発電所の現状に対する説明、
東電としての立場をしっかりと知ることができた貴重な機会となりました。
取材陣も多数来ており、Yahoo newsではこのイベントがトップ記事になったほどです。
最後に、私が福島訪問を通して何を得たのでしょうか。
正直言って「現実を現実として捉える」ことしかできなかったというのが本音です。
テレビを通してしか知らなかった被災地の現場を、実際に自分の目で見て、「現実はこうなっているのか」と捉え直すことで精一杯でした。
しかしながらこれを捉え直すだけではなく、これを他の人、特に知っているようで全然知らない自分のような人に伝えるのかが大事ではないかと考えています。
知ると知らないのでははっきり言って天と地ほど違うのだと気付かされました。知らないでいるということは、無知と一緒です。
これからも「自分が見た、聴いた」ことを他人に伝えていきたいと思っています。
このような機会を与えていただいたことや、番場先生を始めとする皆様にお会いできましたことに感謝申し上げます。