南相馬で脳卒中患者「3.4倍増」、医師は「医療崩壊」訴え


国会の参考人として地域医療の実態を訴える南相馬市立病院の及川友好医師(衆議院インターネット審議中継)
福島県の南相馬地域で、脳卒中患者の発症率が震災前から3倍以上に高まったという医師の報告が波紋を呼んでいる。原発事故による放射能の影響も完全には否定できないが、要因として強く訴えるのは仮設住宅暮らしによる生活の変化や不十分な医療ケア。復興どころでない「医療崩壊」の進行が深刻さを増している。

南相馬市立総合病院副院長で広島大学客員教授(脳神経外科)の及川友好医師が8日、衆議院の東日本大震災復興特別委員会に参考人として出席し、原発事故後の患者の健康管理などについての現状報告の中で明らかにした。

「まだ暫定的ではあるが、恐ろしいデータが出てきています」

及川医師はこう切り出し、「われわれの地域での脳卒中発症率が65歳以上で約1.4倍、35歳から64歳までの壮年期では3.4倍に上がっている」と公表した。

脳卒中は広島・長崎の原爆被爆者の調査などから放射線との因果関係も指摘されていて、及川医師の発言が中継された後、福島第一原発事故との関連を疑う声もネット上などで広がっている。

しかし、国会で及川医師は「脳卒中の主な原因は高血圧や糖尿病、高脂血症、肥満、喫煙、アルコール。これらの基礎疾患について薬の服用ができなかったり、食生活が変化したり、アルコール中毒などが働き盛りの年齢層にも増加しているのではないか」と説明。

また、同病院の別の医師は取材に対し、「放射能の影響がないとは言えないものの、それ以外の要因が発症リスクを上げているのは明らか。現在の南相馬は原発事故によってライフスタイルががらりと変わり、仮設住宅で過酷な生活を強いられている人もまだまだ多い。実際のところはこれからサブ解析を行い、さまざまなバイアスを取り除かないと分からない」とする。

脳卒中患者は震災後、宮城や岩手でも増加が認められていて、日本脳卒中学会は国に救急体制などの総合的な対策強化を要望している。及川医師は国会議員を前にこうも訴えた。

「南相馬には7割弱の人口が戻ってきているが、原発事故でいったん休院した病院などが再開できず、入院できる患者数は震災前の42%にまで減っている。これこそ医療崩壊だ」(オルタナ編集委員=関口威人)