『砂の女』読了

 

 何十か国分も翻訳されている不条理文学の傑作。

 

 教師の男が、趣味の昆虫採集で新種の発見をしたいと、ある砂丘に妻や同僚など誰にも告げずに出かけ、その砂丘に暮らす部落の男達に騙されて、まるで蟻地獄のような穴の檻に閉じ込められ、ひたすら毎日穴が埋もれてしまわないように砂を掻きだす仕事をさせられる。騙された男はなんとしても逃げ出そうと色々な方法を試すがことごとく失敗し、あともう少しのところでも失敗し、穴に戻され、ついにはその生活に順応してしまって逃げ出すチャンスが普通に来ても、「いつでも逃げ出せる」とその地に留まることを選んでしまうようになり、数年後に家に残した妻に失踪届を出される話。

 

 

 

 一ページ目からその失踪届が書かれてるので(思い切りネタバレ…)、結末が判りながら読むので、男性のやることは全て無駄に終わると判っているから、読んでいてしんどくて、ちょっと読んではやめ、ちょっと読んではやめ、でこんなに時間がかかってしまいました…確かに読んでいてこれは傑作だし読むべきだと思うけど、私不条理文学があわない…全て無駄に終わるって判ってるのに読むの辛い…ってなりました。

 

 この作品を読むきっかけは、NHKでやっていた『読書の森へ 本の道しるべ』の『ヤマザキマリ』さん回がきっかけで

す。ヤマザキマリさんは17歳の時に高校を中退して、絵の勉強をしたくて単身イタリアのフィレンツェへ留学しましたが、お金もないし惨憺たるものだったそう。絵で生きていくって決めても絵が売れない。

 

 そんな中で唯一の癒しが、地元の画家や作家たちが集まるサロンに通うことで、そのサロンでイタリア人老作家に「君は日本の文学は何が好きか?川端康成か?谷崎潤一郎か?三島由紀夫か?」と訊かれたけど、17歳のヤマザキさんは、碌に本を読んだことがなく、物凄く馬鹿にされ「何にもそんなの知らないで何の絵を描くんだ?」と言われたけど、『文学と絵って何の関係ないもないじゃん』と思っていたけど、老作家に「絵を描くためには、様々なコンテンツが自分の中になければならない」「それらが自分の中に無いのに、そんな薄っぺらい自分で何の絵を描くんだ?誰かの真似をした絵を描いて何が愉しいんだ?」と物凄く言われたそうです。そして「これを読め!」と薦められたのが『安倍公房の砂の女』だったそうです(イタリアに翻訳されたもの)。

 その当時は地のどん底で全てにおいて否定的で悲観していたし、絶望・失望・苦悩・失敗、そんなさなかに読んだから、物凄く自分の心情や葛藤とマッチングしていることに気づき、それをきっかけにむさぼるように色んな本を読んだそうです。あの世の狂暴さとあらがって生きていくには、本しかなかった。本を読むことで満たされ、支えられ、次への持続力になっていた。本は栄養、ガソリン、生き延びるための。ご飯よりも大事なもの。

 

 ガルシア・マルケスの『百年の孤独』もイタリア留学時にむさぼるように読んだ本の一つだそう。今復刊されて即売り切れ重版されていますが、絶版だけど読みたいと元々思っていた人達もいるでしょうが、多分ヤマザキさんがこの番組で紹介したから読んでみたくなった人が多いんじゃないかなぁと思ってます。復刊もヤマザキさんきっかけでは?と。

 

 ヤマザキさん曰く、活字でないとトレーニングされない筋肉がある。漫画でもダメだし映画でもダメだし。活字で精神力の筋力を鍛える。

 

 絵を描くことが好きで、でも本を読むのが苦手~本なんて読まないです~って言ってる(思ってる)人には、かなり耳が痛いだろうと思います(元々は17歳のヤマザキさんがイタリア人老作家に言われたことですが)。

 私は絵も描かないし物語を書くこともないですが、17歳のヤマザキさんがボロクソに言われて薦められた本はどんなものかなと思い読むことにしました。結果、不条理文学は辛い…ってなりましたが(努力しても努力しても全てが無駄に終わる結末はしんどい…)、でも確かにこういう本を碌に読んだことがない人には表現出来ないものはあるだろうなというのはなんか判りました。

 

 ヤマザキさんは、特に大切な本は、日本・イタリア・ポルトガルのそれぞれの自宅に同じ本を本棚に置いているそうです。持って移動するのが大変だから。あと好きな本は何回も読むそう。『砂の女』も何十回と読んだそうです。私砂の女再読するのいつになるだろう(笑)

 

 NHKの『読書の森へ 本の道しるべ』レギュラー番組化してほしいな~色んなお仕事されてて本が好きな方の本棚もっと見てみたいし、面白い本紹介してほしいです。