『黄金の丘(コート・ドール)で君と転げまわりたいのだ』読了

 

 お酒は大好きだけど、ワインの詳しい知識があるわけではなかった小説家・三浦しをん(とポプラ社編集者や販売者とともに)が、ポプラ社の一室で、ワイン&食文化研究家の岡元麻理恵による『自分の意思でワインを学ぼうと思わない』ワイン教室に参加した、ワイン初心者向け入門エッセイ。

 

 三浦しをんさんがそういう本を書きたいと思ったのではなく、ポプラ社と岡元先生がそういう入門書を出したくて三浦しをんさんを選んだっていうのが先だそうです(三浦しをんさんに白羽の矢を立てたと書いてましたが、白羽の矢は元々悪い意味だから(俗用で良い意味として使われてる言葉)その部分はちょっと気になったので、ここでは『選んだ』と書きます)。三浦しをんさんのエッセイは評判が良くてファンがついているし、お酒が大好きだからでしょうか。

 

 私は体質的にほとんどお酒が飲めないので(数口飲んだだけで顔真っ赤で心臓バクバクで、その状態で立って歩くと立てなくなるし、場合によっては吐き気が一気にきます。)この入門書を読んでも飲む方に活かすことはできませんが、それでも読んでいてとても楽しかったです。

 

 まずワインの名前が覚えにくいからと、しをんさんはワインにあだ名を付けてるところからして面白い。

チリワインの『モンテス・アルファ カベルネ・ソーヴィニヨン二〇〇六』に『オシャレなターザン』とか。理由は『森のなかにいるような、すがすがしくも野性的な香りがする。(中略)味わいも濃厚で、例えるなら『オシャレなターザン』。ターザンって腰蓑一枚だけど、よく見ると筋肉はジムで鍛えたみたいに美々(びび)しいし、むだ毛も一本もないうえに、とても優しい男性だ。ジャングルで咆哮しているわりに、くさそうでもない。モンテス・アルファくんはまさに、洗練されたターザンのようなワインなのだ』とか。他にも『島耕作課長時代』『幼稚園の先生』とか。

 

 三浦しをん原作『風が強くふいている』の登場人物も最初の自己紹介で本名が書いてあるだけで、後はあだ名で話が進んでいくから、「キングの本名なんだっけ?」ってふと思っても「まぁキングはキング」で、本名とかどうでもよくなるし、しをんさんはあだ名を付けるのが上手ですね。

 

 ワイン教室でのやり取りをしをんさんが『体験篇』エッセイとして書き、その後に岡元先生が『解説篇』を書いています。ワイン教室は五年間の間に時々集まって全十七回です。単行本が2011年12月、文庫が2015年10月に出版。

 

 『自宅でたのしめるワイン』がテーマなので、基本的にはワインショップや酒屋で購入できるワインが選ばれています(中には中々なお値段のものもありますが。ドンペリとか。)今は円安で十年前の値段と今の差にビックリしそうですが…

 

 常温と適温は違う。フランスの常温が適温だけど、日本はフランスより暑いから日本の室温(常温)だと高いから適温を知ろう。では、昔和風総本家(スタッフが海外で『あなたの自慢の日本製商品教えて』って訊ねる企画)で、日本製のワインクーラーを友人からプレゼントしてもらった三ツ星レストランで働くソムリエが、そのワインクーラーは氷を入れないのに卓上で適温に維持できるのが素晴らしくてレストランで大量に買った。って絶賛してるのを観た事があったので、適温で飲みたくても卓上に置いてるだけで温度が上がってしまう問題は解決できるな~と頭によぎりました。確か二重構造で真空断熱構造だから温度が上がらないっていうワインクーラーだったはず。一万円以上はする良いモノだったから、検索に引っかかる一万円以下の商品はそれではないんですが(友人からプレゼントされたって言ってて当時検索したら数万円だったし、それをプレゼントしたのも気に入ったからレストランで大量発注したのもビックリしたから一万円以下の商品ではないのは確実)、なんでか検索に引っかからない。

 

 シャンパンは口紅着いた状態で飲むと口紅の脂肪分でコルレットが消えてしまう。っていうのはお洒落して(化粧して)レストランでシャンパン飲みたい女性には悩ましいですね。飲む時に口紅拭ってからってわけにはいかないし。

 

 『重いワイン』回で紹介されたワインはどちらもコクも渋味もあって、酒・タバコ・ブラック珈琲が好きな男性が好む味って書いているのを読んで、私が今ハマってる作家アリスシリーズの探偵役の火村もこのワイン好みなのかな~って想像して愉しかったです(笑)

 

 チーズとワインは『黄金の結婚法則』があって、お互いの魅力を際立たせる関係。それが、マンステールチーズと白のゲヴィツトラミネール。フランスワイン界の重鎮フィリップ・ブルギニョンは「マンステールはゲヴュルツトラミネールのスパイシーな香りを、ゲヴュルツトラミネールはマンステールの花の香りを際立たせる」と言っているそうで、物語のそういう組み合わせの親友同士だったりカップル好きだな~って思いました。

 

 シャルドネ(ブドウの品種)とオーク樽との相性が抜群で、ジャンシス・ロビンソンが「シャルドネとオークはお互いのために生まれてきたようなもの」と言わしめたとか。ワイン関連を擬人化したら楽しそうです。

 

 『ロアルド・ダール』の『味(Taste)』(あなたに似た人に収録)という短編を読んできてもらって、作中ではそのワインが何であるかを当てていたけど、このワイン教室では三種類のワインの中から、作中で表現されてた描写を頼りにそのワイン(シャトー・ブラネール・デュクリュ)がどれかを当てるというお題が出されましたが、流石は言葉の世界で生きてる方々、全員正解していました。

 

 ヴォーヌ・ロマネ 一級畑クロ・バラントゥー一九九八は、以前ワイン評論家に「ワインにおける春琴抄(谷崎潤一郎)」と例えられたとか。文学とワインの組み合わせも面白い。出版社業界・本屋業界が不況に立たされていますが、そういう文学とワインって切り口でお店開いても愉しいかもしれませんね。コラボイベントとか。小説家の皆さんにこのワインのイメージで何か物語作ってほしいって依頼して、朗読劇とワインを楽しむとか。

 

 ワイン用語辞典のことが書かれていたところを読んだら、ドラマ『舟を編む』で『○○辞典』をクリスマスのプレゼント交換していた場面が浮かんで、この辞典をプレゼントに選んだ人も今までにいたのかも。って思ったり、フランス版『舟を編む』を作るとしたらワイン用語辞典を作る物語はフランスっぽいな!と思ったり。  

 

 フランスワインの美味しさを世界に広めたのはイギリスって部分を読んで、イギリスが広めたのは自分達が(輸送などで)利益を得るためとはいえ、百年戦争するようなギスギスした関係になりやすかったイギリスが『フランスのワインは絶品だよ!』って世界に広め、フランスワインを不動のものにしたというのは不思議です。

 

 お酒がほとんど飲めない体質でもそういう豆知識とかそれによる妄想で充分読んでいて愉しかったです。

 

 岡元先生はなかなかの画伯だそうで、舟を編むのみどりが画伯なのはそこからきてたりして?って思ったり(笑)