旅行記エッセイ『作家の犯行現場』読了

 

 ミステリ小説の舞台になった場所に、有栖川有栖さんが訪ねた二年間の旅行記エッセイ(今風?に言うと『ミステリ作家によるミステリ小説聖地巡礼』かな…?軽い印象になっちゃうからちょっと違うんですが)。雑誌編集担当さんに連載を依頼されたけれど、当時数本の小説を抱えていたので新たに連載小説は無理だったのと、エッセイなら大丈夫だったので、「あっちこっちに行って書きたい」とミステリにからんだ場所に行きエッセイにまとめることに。同行はカメラマンの川口宗道(そうどう)さんと担当編集者さん。

 

 有栖川さんは連載中一度だけ入院された期間はこの取材旅行に行けなかったので、その月は担当さんとカメラマンさんが行って写真とレポを見せてもらって掌編小説に(『白い塔の記憶』)。また、担当さんがインフルエンザで同行出来なかった回もあるので、皆勤賞はカメラマンさんだけだったそう。

 

 それぞれのエッセイの最後のページは、例えば第一回目の軍艦島なら『軍艦島とミステリー』な四作を紹介。江戸川乱歩や横溝正史にまつわる場所にも当然行っています。

 

 綾辻行人さんが作品の中ではどこをモデルにしたのかボカして書いてるから読者にはどこか判らないけど、有栖川さんは直接本人に「モデルは○○だよ」と教えてもらったそうで、その時から行ってみたいと思っていたからと選んでいたり。試しに『綾辻行人 ○○(地域名)』で検索してみたけど引っかからなかったので(検索をひたすら辿ればあったのかもだけど最初の数ページでは表示されなかった)、その作品のモデルとしてはあまり知られていないのですね。観光地ではあるみたいですが。

 

 エッセイ連載中の掌編小説は入院中の一回分のみですが、単行本にあたって掌編小説を二本書き下ろし。その内一本は、『マジックミラー』や作家アリスシリーズで登場する編集者『片桐光雄』が、バーで一人で飲みながらマスターと話しているもの(仕事で連続で嫌な事ばかり起こった一日でくさくさしてた)。片桐さんが空知さんやアリス以外にも担当してる作家さんがいることを知れたのが良かった。作家アリスシリーズのどの巻だったかに『高橋先生が~』って言ってるシーンがあって、この高橋先生が高橋風子なら、アリスと風子先生は担当が同じなんだな~片桐さんはミステリ作家担当なのかな?と思っていたのですが、この掌編で名前があがった作家は『荒唐無稽にして痛快な伝記小説が人気を博している』だそうで、ミステリ作家専門ではなかったことが判りました。

 

 片桐さんが登場するということはこのエッセイ本は学生アリスが書いてるともとれる。って思ったり。二年間作家アリスがこんなに毎月旅行してたら、火村がフィールドワークにアリスを呼び出しても何回かは『ごめん。エッセイのために取材旅行で無理やねん』ってなりますね。

 

 今は円安で各地の観光名所も外国人観光客でとんでもないことになってますが、翻訳されていない作品の観光地ではない場所が舞台なら聖地巡礼として観光しに行っても人込みはそれほどだったりするんでしょうか…?

 

↓はこのエッセイとは関係ないんですが(江戸川乱歩のゆかりの地としては関係ありますが)、有栖川さんが近鉄に昔寄稿した江戸川乱歩に関すること(作品やゆかりの地)を書いたことが最近映像化されたもの。有栖川さんの文章や近鉄が用意した映像も素敵なんですが、ナレーションの声が素敵でつい何回も聴いています。というかこの人間往来シリーズ最近ずっと楽しみにしてます。大体二週間に一度くらい?の更新。江戸川乱歩や横溝正史って外国でどの程度の知名度なんでしょう?外国では知名度無いなら観光地としては混んでない?日本人でも興味あるのはファンだけですし。