『古都』読了

 

 京都中京区の京呉服問屋の一人娘・佐田千恵子。彼女は産まれたばかりの頃捨てられた捨子で、佐田家の家の前に捨てられていたのを、子どもに恵まれなかった佐田夫婦(太吉郎・しげ)が引き取って我が子として愛情深く育ててくれた。

 

 幼馴染の水木真一、西陣の織屋の長男・大友秀男、真一の兄の水木竜助は、美しく育った千恵子に心惹かれる。

 

 五月の半ば、千恵子が友人の真砂子と北山杉を観に行った時、真砂子が北山から下りてきた女性の中に千恵子と瓜二つの美しい女性を発見する。その時は遠目から見かけただけだったが、七月の祇園祭の最中の『御旅所おたびしょ』で七度まいりをしている苗子と出逢い、苗子の口から自分達は赤ん坊の時に生き別れた双子だったと知った。

 

 

 

 生き別れた双子ということは裏表紙のあらすじにガッツリ書いてあるのでネタバレじゃないです。

 

 有栖川有栖の作家アリスシリーズ『ロシア紅茶の謎』に収録されている『ルーンの導き』に、火村が同僚で友人のジョージに殺人事件に巻き込まれたから助けてほしいと呼ばれて車で向かっている時の描写で『国道は渓流を離れて山に分け入った。急な道を上るほどに、北山杉の美林が周囲に広がりだす。川端康成が『古都』を書いた頃とさして変わらない風景だろう。』とあったので、読んでみました。

 

 川端康成は『舞姫』と『みずうみ』は母が持っていたので読んだことあるくらいで(あと学生の頃に教科書でくらい)、自分で本を買って読んだのは初めて。千恵子と両親、千恵子と三人の男、千恵子と苗子のやりとりの中に、京都の四季とそれぞれの季節のお祭りの描写があったり、生活描写があって、登場人物のやりとりにも心惹かれますが、四季を彩る京都のガイドブックとしてかなり優秀な作品でした。

 

 作家アリスシリーズは火村が暮らしているのが京都だし、学生アリスシリーズのEMCメンバーが暮らしているのも京都だし(アリスは大阪からの通いだけど)、作家アリスシリーズなら大家の篠宮時絵刀自、学生アリスシリーズなら江神二郎が、川端康成『古都』の雰囲気に溶け込んでる感じがします。

 

 好きな作品の作中に書かれている本を読んでみるって愉しいですよ。全国あちこち育ちだった火村はどのタイミングで『古都』を読んだんだろう?って想像したり。京都の大学に行くことに決めたタイミングか、入学してからか?とか。子供の時に京都に数年住んだことあるみたいだからその時?とか。

 

 『古都』は京都が舞台の他の作品読んだ時の世界観を広げてくれるなと思いました。今の京都は観光客だらけで作中の風情は得られない部分も多いだろうなとも。

 

 『今、ふたたびの京都 東山魁夷を訪ね、川端康成に触れる旅』ってガイドブックがあるそうで、見てみたくなりました。単行本の時の口絵が東山魁夷の『冬の花』だったそうで(文庫版には収録されていない)。川端康成は読みやすいです。千恵子が結局誰を選んだのかとか(千恵子自身は両親が選んだ人がいるならその人と結婚するつもりでいる)、千恵子と苗子の今後の交流はどうなったのかは書かれてないので、ハッキリとした結末がほしい人には物足りないかもしれないけど、想像の余地があるところがいい。

 

 千恵子と苗子も相当な美人という描写がありますが、多分作中一番の美人は男性の水木真一だろうなって思います。祇園祭のお稚児さんやった時は、『女の子より可愛い』と言われ、二十歳超えてもお稚児さん当時の面影が残ってるから兄から弟への愛称が『お稚児さん』だったり。長いまつげって描写も。

 

 映画化も過去何度かしているみたいですが、瓜二つな双子の姉妹だからどれも女優さんの一人二役なようです。