日常的に家族の世話や介護を担う「ヤングケアラー」の状態が思春期に長期間続くと、メンタルヘルス不調を訴えるリスクが高まるとの調査結果を、東京都医学総合研究所や東京大の研究グループが14日までに発表したという記事を読み、家族のケアを担っていない児童と比べ、抑うつ症状や自傷行為を経験した割合が高かったため、研究グループは、地域包括支援センター等のサポートが重要だとした上で、学校に対しても『先生と児童の信頼関係を高め、学校や公的機関が早い段階で気付き、負担を減らす支援をすることが重要』とした上で、『児童が助けを求めやすい居場所をつくることが必要』と締め括っていたのですが、そのために大人に対する不信を抱き、非行に走ってしまう子というのもいるわけで、、、
 
私が心理学部を選んだ理由は、犯罪心理学を学びたいと考えたからですが、現在は心理学のジャンルの内、最も取り扱う幅が広い児童心理学という学問と、精神病理学という学問に身を起き、常日頃からカフェでの面接や真夜中の相談を通して、精神疾患者さんや児童及び保護者さん等に対する臨床と研究をさせて頂いている分、老若男女問わず関わるのですが、、、

臨床させて頂ければ頂くほど、研究/論文等を読めば読むほどに、いかに人の心という存在が、単純明快でありながら、複雑怪奇な存在であるのかと悩まされる故に、中には自分の心を疲弊させてしまい、辞めてしまった方も少なくなく、院長から言われ、私はスタッフの心理ケアも担当させて頂いたりして、辞めてしまった方々の心境等に触れる機会もあった分、人の心のケアという仕事がいかにメンタル面に負担を与え、その人の精神を削ってしまうのかということについても考えさせられました。

そして、考えさせられたケースの一つに、院生として私が通う大学に来て、犯罪心理学を専門に学び、後に某鑑別所で勤務された(現在はスマホが壊れた際に、連絡先が消えたため、音信不通になった)先輩のケースがあり、先輩はとにかく明るい方で、大学時分から何かと私に目をかけてくれた一人で、図書館で心理学や哲学の本を読み漁っていると、「中條くん、今の間に大学にある本はある程度、読み切り、知識として蓄えておきなよ。それは社会人になっても助けてくれるからね」と言ってくれたり、院での勉強や臨床での現場について教えてくれ、私がクリニックでの勤務に就いた際には、すごく喜んでくれ、「祝いだ」と、呑みにも連れて行ってくれ、いつも臨床の難しさや注意する点等について教えてくれました。

しかし、ある日、夜に電話があり、呼び出された際に、「中條くん、臨床はどう?慣れた?」と聴かれ、「まだまだです」と即答すると、先輩は私の頭をポンと叩き、「君は変わらないね。僕はね、分からなくなったよ」と言われ、私に犯罪心理学の難しさについて、教えてくれたのです。

当時、先輩は、保護責任者遺棄致死罪という罪で逮捕された17歳の子のカウンセリングを担当されていたそうで、パートに出ている母親がいない間に、精神疾患がある父親と口論になり、それにカッとなった父親がODをしたにも関わらず、救急車を呼ぶことなく、偶然、荷物を持ってきた隣の家のおばちゃんにその見殺しにしている姿を見られ、罪に問われたとのことなのですが、その子は、泣きながら先輩に、「俺は間違っていたんですか?」と質問されたそうなのです。

というのも、それまで父親は何度も酒を呑んでは喚き散らし、死にたいと叫び、道路に飛び出すこともあり、自殺未遂を繰り返していたそうなのですが、その度にパートに出ている母親の代わりにその子が頭を下げていたそうで、事件があった日も、「救急車を呼ぼうと携帯を手に取ったものの、このままの方が、親父にとっても楽なんじゃないか、と、頭がよぎって、どうしようもできなかった」と、先輩に話されたそうなのです。

結果として、その子は罪に問われ、先輩が担当するに至ったわけですが、「その子は既に十分過ぎるほどの罰を受けていて、世間では父親殺しと見られるかもしれないけど、その子も被害者なんだよ」と、先輩はお酒を呑みながら話され、「犯罪を犯す子を、全て『=悪』で結んじゃいけない。けど、世間は全ての犯罪=悪で捉えるから、心が報われない。勿論、中には思わず殴りそうになった奴もいたけど…」と、私に笑ったわけで、「犯罪ってなんだろうね?」と質問される先輩の表情が、今も非行をされた児童の相談や症例を聴かせて頂く際に、ふいに思い出されるのです。

そして、先輩が教えてくれたケースのこの子は、今でいうヤングケアラーであるわけですが、今ほどその名が世間で知られていない時期でしたから、その子が抱える苦しみの声は誰にも届かず埋もれ、父親の自殺未遂が日常化されたことで、益々世間からも透明化され、その子の葛藤は凄まじかっただろうと、当時、先輩の話を聴きながら思いました。

そして今、児童心理カウンセラーをし続ける中で、そういう環境にさらされている子が、少なくないのだということを知り、成人になってから、「実はそうだった」という方もいるため、胸を痛めることも少なくないからこそ、彼女ら彼らが自分の親や家族のケアだけに人生を当てるのではなく、彼ら彼女ら自身の人生や未来を生きていけるように支援及び協力をさせて頂きたいと思うようになり、これまで何かと人の手を借りながら子ども討論会やフィールドワークなどを行ってきたのですが、記事を読み、やはり超高齢化社会が来ているだけに、その数は増えているのだなぁと感じる今日この頃。