『とある統合失調症の女性の話』

まだ、DSM-5やICD-10(現在、ICD-11)、薬学、診察学含め、心理カウンセラーとして、クライアントさんとの実際の臨床を行いながら、並行して精神病理学におけるガイドラインの勉強をしていた頃のお話です。

クライアントさんは勿論、私の知人や友人には、精神疾患を患っている方も多く、今日はその中で、とある統合失調症の子とのエピソードを一つ…。

その子と出会ったのは、その子が大学三年生の頃で、心理学系の学科がある大学に通っていました。

私の大学でもそうなのですが、心理学科には、持病の向き合い方や、持病の解決策を探るために、精神疾患を患っている方がいて、彼女もその一人でした。

幻聴が聞こえる時は、不安で眠れないことも多く、夜間になれば、電話がかかってきました。

正直、こちらも気が滅入る思いをして、何度か怒ったことがあり、電話は解決したのですが、反対に、その子の手に傷ができるようになりました。

現実を紛らすために、また、生きていることを実感するために、自分を傷付けて慰めているのだと思い、私は居たたまれなくて、それを知った日から、電話ではなく、メールならば良いと伝え、真夜中になれば、その子とお話をすることにしました。

真夜中の相談窓口を始めるきっかけになったとも言えますね。

彼女から送られてくるメールには、不安なことや、自分が生きている意味、死ぬことへの恐怖、家族との距離や関係、友人関係など、その時に感じたことが書かれていて、直接のカウンセリングの場では、泣く時もあれば、笑い話の時もあり、日によって話すことは様々でしたが、『自分の話や側に誰かいる』、『自分を見てくれている人がいる』ことに安心していたのでしょうか、ある日、その子から告白をされました。

クリニック時代において、クライアントさんから告白されるということは、しばしばありましたが、その気持ちは受けとるけれど、応えることはありません。

何故なら、治療が目的である精神療法において、恋愛感情をいれてしまうと、客観的でなく、主観的な感情が膨れ上がり、もうまともなカウンセリングができなくなるからであり、治療者として、1ミリでもクライアントさんに恋愛意識ないしは、下心が出るようなら、この仕事は選んではいけないと、院長にも言われましたからね。

とはいえ、断ったその日から、彼女は別の先生と話をするようになりました。
ですが、そこでトラブルを起こして、また、行き場をなくし、自傷行為をするようになりました。

そんな彼女を見て、私は何かいい方法はないかなと思い、今度は同じような悩みを抱える人(自力グループ)や、彼女の学校の友人に協力してもらい、モラトリアムで守られた大学限定のコミュニティーを作り、色々とフィールドワーク活動をしたらどうかと思い、時間はかかりましたが、他者と何かすることや、他者との関係作りや共存、目的を達成することの意味など、毎回運営側でテーマを決め、回を重ねる毎に、参加者さんの意識が変わってくるのがわかりました。


「同じ悩みを抱える人がいる」

それがわかるだけでも、自分は一人じゃないんだと思えるのかもしれませんね。そして、共有することで、相乗効果となり、意識が変わって来るのかもしれないと、私は彼女の楽しそうな顔を見て、思ったものです。それから、彼女は無事に大学を卒業し、現在はとあるNPO法人で活躍されているのだと、真夜中の相談で教えてくれました。