そうだ あれは 森じゅうが 金色に かがやく 季節
おれは まだ ほんの 子どもだった
キノコとりにいった 森で つい 眠っていた
草のうえで ちいさな けもののように おれは ねていたのだ
すると
ピテ ピテ ピチュ
だれやら おれの耳を なめる やつが いて
目を あけると
そこに いっびきの 牝鹿が いた
そいつが 小鹿の おさない 耳を なめるように
ああ そのように おれの耳を なめていたのだ
ピテ ピテ ピチュ
その音は 金色の 森の 音となり
おれは 全身が 耳となり......とけていった
ピテ ピテ ピチュ チュ
セキレイが 小舟を かすめて とぶ
ピュ ピュ チュチュ チュ
ときおり 流木が ゆくてを さえぎり
おれは 流木を ひきずって 川へ おしながす
ディーブ ディーブ ドルドッドドルー
小舟は すすむ 魚が おれを みあげ
口を あけて あぶくを はく
プュ プュン プュン
鹿が とれるか と たずねている
川は まがりくねり
夕日は おれの よこから さすかと おもえば
せなかから 川面を 金に かがやかす
やがて 日が しずむ
水草が ゆれて もえたつ
鹿は この草が すきなのだ
水草を くいに 鹿は かならず ここへ くる
明日へ続く