木原誠二事件、露木康浩警察庁長官の「事件性なし」発言‼
「あのとき捜査に関わった30人以上のメンバーは誰しも、捜査を全うできなかったことで今でも悔しい思いをしている。文春の記事を読めば、現役の奴らが並々ならぬ覚悟で証言しているのがよく分かるよ」
そしてーー。
「俺は去年退職して、第一線を退いた。失うものなんてない。職務上知り得た秘密を話すことで地方公務員法に引っかかる可能性がある、だ? そんなことは十分承知の上だ。それより通すべき筋がある。現役の奴らの想いもある。もう腹は括った。俺が知っていること、全部話すよ」
こうして“伝説の取調官”は、ポロシャツにチノパン姿で小誌取材班の前に現れた。粗野な口調には時に温かさが滲み、穏やかな眼光は時に鋭さを見せる。そんな佐藤氏への取材は、5日間、計18時間にわたった。
仲間たちが作った捜査資料を必死の思いで読み込み、全身全霊でX子さんと向き合った佐藤氏の記憶は、約4年9カ月が経った今でも詳細で鮮明だった。そして、そこから浮かび上がったのは、驚くべき新事実の数々だった〉
佐藤氏が考えた記者会見の「勝算」とは?
俺には勝算があった。それは、俺が警視庁の元警部補として実名で記者会見を行い、事件に関する情報を喋れば、その行為について「地方公務員法違反の“秘密の漏洩”に当たる」という声が上がるだろう、ということだった。
「俺はこの事件は殺人事件だと考えている」
なぜ、地方公務員法違反が「勝算」になるのか?
それは、この事件に関する「秘密」とは何かという問題に関係しているからだ。
俺が地方公務員法違反に問われるケースとは、安田種雄さんの事件に関する「秘密」を喋った場合である。
改めて言うまでもないことだが、俺はこの事件は殺人事件だと考えている。その前提で「週刊文春」の取材にも応じているし、記者会見にも臨んだ。
一方の警察トップである露木長官は「事件性はない。適正に警視庁が捜査」したと語っている。
事件を巡って、俺と露木長官は、そもそもの前提が異なっているわけだ。
記者会見を行う前に恐れていたこと。
7月28日の記者会見で、俺は「この事件には事件性がある」ということを繰り返し述べた。その俺の話が警察の捜査情報=「秘密」であり、地方公務員法違反に当たるというのであれば、それはすなわちこの事件が「自殺」ではなく「殺人」だと認めることになる。俺を地公法違反で摘発する代わりに、露木長官は「事件性はない」という発言を撤回し、捜査を再開せざるを得なくなる。
2023年10月18日には、種雄さんの遺族が当初の捜査を担当した警視庁大塚警察署に「被疑者不詳の殺人」で告訴状を提出した ©文藝春秋
これが記者会見を行った目的の1つだった。
逆に恐れていたのは、記者会見で「なぜそんなでたらめを言うのか」と記者に質問されたり、警察庁から「長官が『事件性がない』と正式に発表しているのに、なぜ佐藤は噓の会見を開くのか」というコメントが発せられることだった。
その場合、露木長官が「真実」を言っていることになってしまい、俺は存在しないでっちあげの事件について語っていることになってしまう。
そんなことを考えながら、俺は記者会見の当日を迎えた。