自動車業界の護送船団方式、トヨタのデータ偽装‼
度重なる不祥事を陳謝
世界最大の自動車メーカー、トヨタ自動車の足元が揺らいでいる。
今年1月には、トヨタグループの源流で、トヨタ車のエンジンなどを受託生産する豊田自動織機で新たに不正が見つかったと特別調査委員会が発表した。昨年は100%子会社であるダイハツ工業で、安全性を確かめる検査をめぐって174個もの不正行為が発覚。'22年には子会社のトラック大手、日野自動車でも燃費試験などで不正があったことを発表している。
グループを束ねるトヨタ会長の豊田章男氏(67歳)は1月30日の会見で、
「認証(試験)で不正をしたわけで、販売してはいけない商品をお客様に届けたということが起こったと思う。絶対にやってはいけないことをやってしまった」「私自身が責任者としてグループの変革をリードしてまいりますので、皆さまのご支援をお願いいたします」
と弁明した。
日本を代表する鉄鋼メーカー、日本製鉄社長の橋本英二氏(68歳)は、「(トヨタグループの不祥事は)豊田氏個人の問題ではまったくない」としたうえで、日本の製造業の抱える構造的な問題点をこう指摘する。
「同じ製造業の仲間として、当然、ちゃんとやってもらわないと困るという話ではあるのですが、大きい製造業のトップで、うちの会社でこういう不正は絶対に起きないと断言できる人はいないのではないでしょうか。私もしばしば現場を回りますが、危なっかしい場面がないとは言い切れません。
若い人がすぐに辞めてしまう
トヨタの場合は、トヨタブランドで売る車やエンジンを傘下のダイハツや日野、豊田自動織機が作っている関係ですが、うちの場合も同じ製鉄所の中で日本製鉄本体が動かしている設備もあれば、サプライヤー(生産協力会社)に任せている部分もあります。本体とサプライヤーを含め、一言で言うと、日本の製造業全体のモノ作りの力が、以前と比べて落ちていると言わざるを得ない状況にあります」
かつて日本の製造業では、学校で基礎教育を受けた若手が現場に入り、先輩やベテラン技術者と師弟関係となって技術を磨いていった。その技術をさらに後進につなぐという技能伝承もきちんと行われてきた。しかし、もはやそんな時代ではないと橋本氏は言う。
「うちも協力会社もそうですが、今は若い人がすぐに辞めてしまう。製造現場では若い人が集まらず、高齢者や未熟練者が増えている。規模が小さい協力会社になるほど、よりシビアな状況です。製造業の現場は以前よりかなり弱っています。
トヨタやわれわれもそうですが、グローバルに事業を展開して国際競争をしていると、協力会社もそこについていかないと仕事がないということになります。トヨタはこの5年で世界一の自動車メーカーの地位を盤石なものにしました。世界一になる過程で、日野やダイハツに車を作ってもらっていた。
トヨタの世界戦略についていくために、日野もダイハツも必死だったでしょう。しかし、現場が弱っていることをそれぞれの会社の経営陣がどこまで認識していたかどうか」
安易に不正に手を染めてしまうほど、製造業の現場が弱っている。そこに処方箋はあるのか。このまま、日本の製造業は沈んでいくだけなのか。
かつてのソニーと似ている
橋本氏が続ける。
「やはり、社会環境の変化に対応していくことしかありません。これまでベテランの属人的な技術に頼っていた業務を、IT技術などを活用して、徹底して標準化することです。日本製鉄では、設備を日常点検する人員だけで2000人います。それでも人員の都合で、一人で点検している設備も少なくない。昔であれば見逃さないような点検ミスも起きる可能性がある。それで、点検用の専用端末や小型カメラ付きヘルメットなどを駆使して、標準化しています。
もちろん、トヨタグループでもやっているはずですが、自動車となると部品の点数が多く、精密化しているので、サプライヤーまで含めてすべてを徹底するのは簡単なことではないのでしょう」
ソニー出身で、グーグル日本法人社長も務めた辻野晃一郎氏(66歳)は、豊田氏がウォークマン全盛期のかつてのソニーと同じく、世界の潮流を見誤ったのではないかと危惧する。
「世界のエネルギーが化石燃料から自然由来のものにシフトし、自動車もガソリン車からEV(電気自動車)が主流になる。この流れは誰にも止められないでしょう。しかし、日本は世界のEV競争に大きく出遅れてしまいました。その一因にトヨタの責任があるのではないか。
もちろん、トヨタもハイブリッド車や水素自動車など、さまざまな種類の車を作ってはいます。しかし、プリウス以降、目立った成功はありません。とくにBEV(バッテリー式電気自動車)にはなかなか本気で取り組みませんでした。ガソリン車やハイブリッド車の分野で圧倒的な競争力を持ち、業績的には絶好調のトヨタは、一日でも長くガソリン車の時代が続いてほしいと願ってきたはずです。しかし、ここが問題なのです」
いったい何が問題なのか? 後編記事『このままではテスラに抜かれてしまう? 経済界の大御所たちがこぞって心配する「トヨタの行く末」』へ続く。
「週刊現代」2023年2月17日号より
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