今年もやってきたオレの季節。
目の前に広がるのはどこまでも続きそうな大きい青空と、負けないくらい広い鮮やかな水色をした海。
そして、空にはこの季節を満喫するには欠かせない、暑く、赤く、輝く星。
それは、うざいくらい人間を照らしているのに、砂浜には人が満員電車のような密度で、泳ぐ、ビーチバレーなど、十人十色の方法で夏を満喫している。
本当ならば、オレも今すぐにでも海に飛び込みたいとこだが、ライフセイバーのオレがそんなことをすれば海の規律が守られなくなってしまうから飛び込めない。
なんてちょっとカッコイイこと言ってみたが、実際飛び込んだら上司になにされるかわかったもんじゃない。
でも、例え飛び込めなくてもオレはこの季節が大好きだ。
カンカンに照りつける太陽は、オレの嫌なことなど吹っ飛ばし、広い空と海は、オレを素直にさせてくれる。
そして、何と言っても一番テンションが上がる季節。
その景色を座って眺めているだけでもう充分だ。
いや本当は飛び込みたいよ?飛び込みたいけど…
「おーう渚お疲れ。
なんか今日お前静かじゃね?」
「あ、永吉さんお疲れっす。
そりゃ目の前でこんなに夏を満喫されてたらねー…
今日はもうあがりっすか?」
この人はベテランの刀田永吉さん。(かたなだ えいきち)
かれこれもう三十年ほどこの仕事をしているらしい。
年齢は五十代らしいがそれを感じさせない若さと筋肉がある。
うちのグループで一番ブーメランパンツが似合う漢だ。
「これから家族で予定があってな。
今日はこれであがる。
娘に怒られちまうからな(笑)」
「あーなんかそういうのいいなー。」
「じゃあお前も早く結婚しな
じゃあ行くわ。」
「そんな簡単に言わないでくださいよ~。」
次にオレの耳に飛び込んできたのは、救助要請の声だった。
「さぁ、いっちょ行きますか!」
海はオレに語りかける。
「お前もこっちにこいよ。」
賑やかで愉快でどこか悲しげな夏の始まりの合図と同時に、オレは海にに飛びこむ。