私のセミナーに参加してくれた、30代の女性の話です。

 彼女は長い間、毎日のように続く下痢と吐き気、嘔吐に悩まされていました。
 もっとも困っていたのは、やる気の減退です。
集中力が薄れ、頭がボーッとし、何もする気が起きなくなってしまうのです。


「このつらい状態から抜け出す方法はないだろうか」

 彼女はいくつもの医療機関を受診しました。

 しかし、血液検査をしても、MRI(磁気共鳴画像)検査を受けても、結果は「異常なし」。
原因を突き止めることができません。
ついに、彼女は心療内科を受診しました。
そして、ようやくついた病名が「うつ病」。


 彼女は「これでやっとわけのわからない不調から解放される」と思い、毎日、きちんと薬を飲み続けました。

 ところがです。症状はいっこうに回復しません。

 それどころか、悪化していくようにさえ感じられました。
そんなとき、うつ病の薬について調べていた彼女は、専門家の記事に「抗うつ薬の副作用は自殺願望」という衝撃的な言葉を見つけたといいます。


「このままでは、本当におかしくなってしまう」

 彼女は病院めぐりを再開しました。
そして数軒の医療機関を回った挙句の診断が、「グルテン不耐症」だったのです。

「小麦」が腸に穴を空ける

 小麦には、「グルテン」というたんぱく質の混合物が含まれます。

 小麦粉は水を混ぜてこねるとネバネバし、粘着性と弾性が出ます。パンやピザ生地、麺類、焼き菓子がつくれるのは、その性質のおかげです。

 しかし、グルテンの、ネバネバとした粘着性が腸の表面に薄く付着することで、腸は十分にはたらけず、消化と吸収の作業が妨げられてしまいます。
こうなると、腸の表面についたグルテンの消化が進まなくなります。


 栄養素が非自己物質のまま存在し続ければ、そこに免疫システムが攻撃をしかけはじめます。

 すると、腸の粘膜で炎症が生じます。炎症が長引けば、粘膜細胞で構成される腸壁が傷つきます。
粘膜細胞どうしの結合もゆるみます。それによって、粘膜細胞間に隙間ができます。
これが、腸にあく小さな穴の正体です。


小麦を抜いても栄養が偏らない理由

 小麦の小さな実の中には、「皮部」「胚芽」「胚乳」と呼ばれる部位があります。

 「皮部」は、小麦の実を覆う皮の部分で、小麦の約15パーセントを占めます。
ここには食物繊維や鉄分、カルシウムが豊富に含まれます。
「胚芽」は、まさに生命の源であり、種子の内部が生長してやがて芽になる部分。
ここには良質なたんぱく質の他、ビタミンやミネラルが集中的に含まれます。
小麦の実の約2パーセントを占めます。


 そして「胚乳」が白い小麦粉となる部分です。
小麦の約83パーセントを占めます。


 主成分はブドウ糖ですが、グリアジンとグルテニンという2つのたんぱく質も含みます。
グリアジンとグルテニンは水を含むと、ネバネバとしたグルテンとなります。


 小麦粉とは、小麦の実から皮部も胚芽もとり除き、胚乳のみを製粉したものです。

 皮部や胚芽をはぎ取った時点で、小麦の良質な栄養素はほとんどが失われています。
小麦粉に残されているのは、糖尿病や肥満の原因となるブドウ糖と、心身の健康を害するグルテンばかり。
わずかなビタミンやミネラルも含まれますが、これらはバランスよく野菜類を食べていれば簡単に補えるものです。
つまり、小麦粉をやめることで栄養がかたよる心配はないのです。

グルテン不耐症は自覚がない

 現在、アメリカでは、133人に1人の割合でセリアック病の患者さんがいると推計されています。
グルテン不耐症の患者さんはさらに多く、20人中に1人です。
しかし、診断されている人はわずかです。ほとんどの人が、心身の不調に悩みながらも、何が原因かもわからず、日常を過ごしています。


 なぜ、症状とグルテンを結びつけるのが難しいのでしょう。

 理由は、遅発型のアレルギーであることです。

 アレルギーには、摂取後わずか数分のうちに症状が現れる「即時型」と、時間が経ってから症状が現れる「遅発型」があります。
摂取後、数日が経って、症状が現れることさえあります。
こうなってしまうと、何が原因で症状が起こっているのか、本人も医師もわかりにくいという事態が生じます。


パンの中毒性は14日で抜ける

「パンをやめよう!」

 そんなことをいわれても「想像できません!」と否定的な気持ちがわいてくるでしょう。
 安心してください。難しいことはありません。
 実践者の方が口を揃えていうのは、少しの間だけ我慢できれば、依存症が消えて、食べたいと思えなくなるということです。

 ここで大切なことがあります。
小麦抜きの生活を実践するには「小麦をやめる!」と大きな決断をするのではなく、1食1食、小麦を食べなくてすむメニューを考えていくようにすることです。
とにかく14日間、小麦を口にしない食事を積み重ねましょう。
そして14日後に、はじめる前と、今の体調や心の状態を観察してみてください。


 グルテン不耐症でない人であっても、14日間続けるうちに、

「体重が減る」
「肩こりが消える」
「体のむくみが解消される」
「疲労感が薄らぐ」
「肌が整う」

といった変化を感じられると思います。そうした体の声に耳を傾けてください。

 禁断症状が消えるまでの過ごし方は、禁煙と似ています。

 禁煙経験者の方は、よくわかると思います。
禁煙中、がまんしきれずに1本でも吸えば、再びスモーカーに戻ってしまいます。
しかしニコチン依存症がおさまれば、「なぜ、あんなものを......」と不思議に思うはずです。
グルテンフリーも同じです。
「パンを食べたい」という禁断症状があるうちは、小麦粉食品を口にしないようがんばってみてください。
脳が依存症から脱すれば、小麦粉食品への興味は失われ、「食べたい」と思わなくなります。


 そうなったら今度は、試しに一口、大好物だったパンを食べてみてください。
 どう感じるでしょうか。食べたあとの感覚を観察してみてください。

「なんでこんなものをおいしいと感じていたのだろう」

 禁断症状が消えたあとに、小麦粉食品を口にすると、多くの人はそんな感想を漏らします。
あなたも感じたならば、グリアジン依存症を脱した証拠です。


──◆◇◆

いかがでしょう。
グルテンフリーというと、大変な難業のように聞こえるかもしれませんが、『長生きしたけりゃパンは食べるな』の著者・フォーブス 弥生さんは、同書の中でズボラな人でも簡単にできる日本人向けのグルテンフリーレシピも紹介しており、「グルテンフリーは日本の食卓でも難しくない」と述べています。


(了)

フォーブス 弥生(ふぉーぶす やよい)
一般社団法人グルテンフリーライフ協会 代表理事
大妻女子大学短期大学部卒業、大手家電メーカーのデザイン部を経て、フラワーデザイナー講師として活動。その後、数カ国にて海外ウェディングに従事。身内のグルテン過敏症を機に、2013年12月、一般社団法人グルテンフリーライフ協会を設立。
「ジョコビッチの生まれ変わる食事」のレシピ本『2週間、小麦をやめてみませんか?』の、レシピを出版

長生きしたけりゃパンは食べるな
フォーブス 弥生 著/稲島 司 監修




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