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先日、恵比寿映像祭で作品を展示していた、ラファエル・ローゼンダールのトークイベントに参加してきました。
 
ローゼンダールはインターネットを出発点として、テキスタイル、レンチキュラー、俳句など様々な素材や媒体を使い作品を制作しています。
彼のアトリエはパソコンであり、WEBをキャンパスとして作品を製作し、完成した作品はネットで公開され、ドメイン付きで販売されています。
従来の枠に囚われることのないその発想と表現は、時代の最先端をいくポスト・インターネットのアーティストです。
 
今回のトークイベントはローゼンダールがこの5年間、いかに様々な素材を使い作品を作成してきたのか、そして、作品のイメージがどのようにして具象的なイメージから抽象的なもの変化していったのかについて話してくれました。
 
作品のアイディアについては、彼自身、抽象と具象の間に興味があり、ひとつの事に好奇心を持ち、それについて調べ、そこからアイディアの着想を得て、作品を制作しています。また、非常に『直感』を大事にしており、制作時は自分の直感を疑うことなく作成し続けています。
 
ローゼンダールはWEBサイトの作品で、画面をクリックすると画面が2分割される作品を見せてくれました。この作品は、ユーザーや鑑賞者が最終的な形を決めることができます。絵画の場合だと、最初に作品の大きさを把握した上で製作をしなければなりませんが、WEBブラウザーを使うと、最終的な作品の大きさや形は予測できないものになります。
絵画は形が定まりすぎて窮屈に感じるとローゼンダールは言っていました。
また、ローゼンダールは偶然性という、自分では制御できないものこそが大事なのだと繰り返し述べていました。

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次に、見る角度によって絵柄が変化する『レンチキュラー』について話をしてくれました。
レンチキュラーを取り入れるきっかけになったのは、グループ展での招待状を作成する時に、アイディアが浮かび上がってきたそうです。
初めはポストカードの大きさから始まり、そこからコレクターの協力を得て、作品は次第に大きくなり、今ではかなりの数の作品を作成しています。
新しい作品を作るときは、出来上がった作品を研究し、少しずつ変化をつけています。
製作を工場に依頼する時は、工場へ足を運び作品ができるたびに、どの色がどのように変化して、その結果、どのような効果が生み出されるのかまで研究しています。
ローゼンダールは言います、作品の仕上がりを確認する感覚は、画家が電気を消した状態で絵を描き、完成した時に電気をつけて、確認するような感覚に似ていると。
 
また、ローゼンダールは、インターネットは情報のハイウェイと言い換えることもでき、様々な情報が飛び交っていることを言及して、WEBサイトを使った作品を見せてくれました。
この作品は、ウェブサイトのテキストが全て消去されおり、画像のみが残っている状態でした。先程、ローゼンダールが言及したその逆の、情報なしのハイウェイが作品を通じて表現されていました。
 
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この作品がきっかけとなり、Abstract Browsingが生まれます。この作品はウェブサイトのコンテンツを全て色彩に置き換えてしまう作品です。
ローゼンダールは、作品を見ると、そのウェブサイトがどのような工数に従って組み立てられているのが良く分かり、ウェブサイトの種類が違えば、出来上がる色のコンポジションも多種多様である。シンプルなホームページで知られるグーグルも、この作品を通してみると、かなりの色彩で彩られている。と作品の説明をしてくれました。
 
彼は、WEBサイトを見ていく中で、閲覧履歴を記録し始め、一日の終わりに自分がその日に見たWEBサイトを振り返り、サイト毎に記録を収集していきました。そして作品製作の時に、過去の記録から画像を選んでいきます。
Abstract Browsingのようなデジタルな情報を、物理的な形に置き換えていく時、プリンターで出力するか、絵具を使って描くか、どのような形で変換しようかと考えたそうです。その時、トルコに行き、古くから伝統として受け継がれている織物と出会い、織物で作品を製作してみようと試みました。しかし、織物を使う場合は強度を保つために、形に制限があることが分かり、手作業での織物では困難なものになりました。

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ローゼンダールは織物にプリントする方法だけは避けようとしました。それは織物の織目がコンピューターのグリッド・格子模様のような性質をもっており、織物を構成している一つ一つの縫い目を、画像のピクセルに対応しているように表現したかったためです。
 
そこでローゼンダールは、オランダのテキスタイルミュージアムに連絡を取り、製作の協力を依頼しました。この美術館は工場としての側面も持っており、好きな図柄を織物で作成してくれます。最初はただ、この色の糸でお願いしますと頼めば良いのかと思ったそうですが、実際はかなり複雑だったようです。ある色を表現する場合は、一つの色ではなく、複数の糸を選んで織り合わせて色を作らなければならないことが分かりました。しかし複雑な工程を踏むことで色の濃度やコントラストがより増していきました。
それはまるで、古い初期のテレビゲームのようなもので、使える色はごく限られたものですが、その中から、組み合わせをもってして様々な色を作り出していく方法に似ているようです。
 
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作品や製作過程についての話が一段落して、質問を受け付けてくれたので、「作品を制作するうえで、影響を受けたアーティストがいるかどうか」を質問することができました。
ローゼンダールがインスピレーションを受けたものは、映画、漫画、ゲーム、音楽と色々なモノがありますが、とりわけ『アート』ということになると、作品もさることながら、アーティスト自身の生き方だと言っていました。
アーティストとしてどのように生活を立ち上げ、作品を作っていくのか。
その影響下で、どのような作品が出来上がるのかに興味があり、メディアをコントロールしていたダリや、文明から遠ざかった生き方をしたアグネス・マーティン、彼らの生活様式がいかに作品に影響を与えていたのかに興味があると答えてくれました。
 
今回の展覧会とトークショーにより、実際に形を持たないWEB上の作品がアートなり、ドメインと共に売買されていることに驚きました。当たり前のことかも知れませんが、技術が進化することで、アートもその概念や形を変えて表現されていくことを肌で感じることができました。
また、展示されていたレンチキュラーの作品は、規則的に色が変化していくことで、あたかも作品が呼吸をしているかのように感じました。また、しばらく観ているうちに、その動きは自分の呼吸と同調して、血液や細胞と共に、体を流れるような錯覚に陥り、動きがあるものの、どこか静かで、深淵へと誘うマーク・ロスコを彷彿するような作品に感じました。

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