私が小学生の頃に放送されたアニメ番組「銀河鉄道999」は3年近く放送され多くの名作エピソードがありましたが、その中の一つ第42話の「フィメールの思い出」は「銀河鉄道999」の名脇役で車掌のサイドストーリーとして描かれていました。普段は鉄道規則に忠実で初期の頃は無断で列車に乗り込んだ者を外へ放り出したり鉄郎がパスを盗まれた途端、規則に従って客ではないと判断し列車を降りるように命じるなど冷酷さも示す事もあり鉄郎からは「クソ真面目」とまで言われていたが作品が中盤以降は鉄郎とも乗務員・客という間から友達関係のような親交を深めるようになった。

鉄郎と親交を深めるようになりはじめた頃の第42話「フィメールの思い出」は車掌の過去が明らかになるストーリーで次の停車駅は「思い出の顔」と聞いて亡き母を思い出しそうで、どこか寂しそうな表情の鉄郎。別の車両にはフィメールと名乗る美人とは思えない中年の女性客が乗っており車掌に「思い出の顔」は自分の故郷だと言うと車掌も自分にも思い出があると語り、銀河鉄道に入社する半年前にマーベラスという恋人に銀河鉄道に入社し車掌になったら旅をしながらお金を貯めて迎えに行くと約束するとマーベラスも遠い星の機械人間の整備士になる学校に行くと将来を誓い合った仲だったと話すとフィメールは「それで車掌さん、旅をしながらお金を貯められて?」と聞くと車掌は「それがさっぱり・・・」と笑いながら答えると「ふん!彼女、失望するよ。ええ絶望だよ!!」とフィメールは冷たく言うと車掌は唖然としてしまう。フィメールの食事の準備をする車掌はフィメールの声はマーベラスに似ている事に気付く。鉄郎も興味本位でフィメールに近付くと車掌ばかりでなく鉄郎に対しても素っ気無い態度を取るフィメール。それでも車掌はフィメールにウキウキ気分でサービスする態度に鉄郎は理解出来なかった。

そして列車は「思い出の顔」の星に差し掛かった時、突然脱線事故が起きてしまう。フィメールは車掌を殴ったり蹴ったり罵倒している様子を見ていた鉄郎とメーテルはフィメールの腰にコントロール装置が付いているのを発見する。メーテルはフィメールにこの事故は列車内の誰かがわざと起こしたもので車掌に事故の原因は、もう気付いているはずだと聞くと何もいえない車掌。すっかり落ち込んで、その場を後にする車掌。メーテルは犯人はフィメールだと鉄郎に言うと鉄郎もフィメールの腰にコントロール装置が付いていたことを話すとメーテルはフィメールが何故こんな事をしたのかは知らなかった。

落ち込んで座り込む車掌に尚もフィメールは罵倒すると側で聞いていた鉄郎は車掌に罵倒されても何故黙っているのかと聞いても何も言えない車掌に苛立った鉄郎はフィメールの元に行きコーヒーを飲んで寛ぐフィメールに何故列車を脱線させたり車掌をバカにするのかを聞くとフィメールは「うるさい!子供には、わからないことだ!!」と怒鳴ると「何ィ~!!」と鉄郎の怒りは頂点に達しの銃を手にするとフィメールも売られた喧嘩は買ってやるとばかりに「やる気か?」と立ち上がる。

銃を構える鉄郎はフィメールに腰に付いているコントロール装置を渡せと命じるとフィメールは「見たのかい?これを」と不敵に笑う。鉄郎は自分の乗った列車を脱線させたり何故あそこまで車掌をバカにするのかと聞くと「あんな車掌くたばりゃいいんだ。無能力者だ。ロクデナシの出来損ないさ!!」と罵倒すると鉄郎は「やめろ!!」と叫び銃の引き金を引いたが銃のレーザーがフィメールのコントロール装置によってフィメールの身体を避けてしまうと高笑いするフィメール。尚も銃を発射しようとする鉄郎にメーテルは引き止める。メーテルはフィメールの腰のベルトに付いてある軌道妨害装置によって銃の威力は発揮出来ないと告げるとフィメールは「さすがメーテルさんはお見通しだね。あんたはお利口さんだ。ご褒美をあげなくちゃね」とメーテルに近付き強烈な張り手を食らわす。そして、もう一発張り手を見舞おうとした時「やめろフィメール!!」と叫ぶ車掌。フィメールは「ふん、利いた風な口を聞くな!!」と言うと車掌は「何!!」と近付き「引っ込んでな、このロクデナシ!!」とフィメールがバカにすると「うるさい!!」と車掌は鉄拳制裁を食らわす。驚く鉄郎とメーテル。

車掌はフィメールの腰のベルトの軌道妨害装置を外し「これは預からせてもらいます」と言うとフィメールは「返せ、それは、あたしの物だよ!!」と文句を言うと車掌は怒りを抑え震えながら「大人しくしていれば駅に着くまでそっとしておきます。さもない時は規則通り宇宙に放り投げます」と警告する。フィメールは「あんた・・・まさか、あたしを・・・?」と車掌は自分の正体に気付いているのか?と言わんばかりだが車掌は「あなたが誰だろうと私にも我慢の限界があります」と言って、その場を後にするとフィメールは無言となってしまった。

鉄郎もメーテルも自分達の席に戻ると鉄郎は「だけど車掌さんも怒ると凄いんだね」と言うと「車掌さん、あの人のことをよく知っているみたいだったわね」とメーテルの言葉に頷く鉄郎。ようやく列車も軌道に戻り発車すると「思い出の顔」の到着。車掌はフィメールに「思い出の顔ですフィメール様。ここでもう一度、昔を思い出してみるんですね」の言葉にフィメールは無言まま列車を出る。

 


食事をするフィメール。美人とは思えない中年女性だが、その素顔は・・・。

 

列車を出ると同時にフィメールはカツラを外し顔のマスク(パック)も外し振り向くとフィメールの素顔は美しい車掌の昔の恋人マーベラスで何処となくメーテルにも似ている。車掌も「やはりマーベラス・・・」の一言。するとマーベラスは車掌に「あなたは昔とちっとも変わらないのね。どうにも変わらない夢を追いかけてさ・・・。下らない男。銀河鉄道の車掌になる夢は実現した。でも、お金を貯める方はどうなったの?あれから何年も経ってるっていうのに具にも付かない夢を追い続けて下らない男のまま、のたれ死にするのよあなたはね。あたしは、もうお金持ちでなければ嫌になったのよ。」の言葉に何も言い返せない車掌。「やっぱり、あんたは無能力者のロクデナシよ」と言って去って行くマーベラス。

列車の陰から様子を見ていた鉄郎は怒り心頭で殴りかからんばかりにマーバラスを追いかけようとするが車掌が引き止めると「車掌さん、あんな奴どうして放っておくんだよ?列車妨害は死刑にだって出来るんだろ」と鉄郎が問い掛けると車掌は「いいんです、鉄郎さん。もう・・・いいんです・・・。」と力なく言うだけで鉄郎は涙を流しながらマーベラスに「バカヤロー!無能力者のロクデナシは、お前の方だ!お前なんか誰かにバラバラにされちまえーーー!!」と叫ぶ鉄郎。バラバラにされちまえって、鉄郎それはちょっと言いすぎだろ・・・。

数時間後、発車寸前の列車の出入り口で車掌は鉄郎に「フィメール・・・いやマーベラスは私が大金持ちになっていないんで苛立ったんでしょう。あの人は学校に行っている間にすっかり人が変わってしまいました・・・。彼女は夜空を見上げて共に未来を語り合った人です。私は・・・私の青春の全てをあの人に捧げました。私の青春は、あの人と共にありました。その事を決して後悔してはいません。それは、いまでも・・・これからも私の生きがいです。

私が夢をいっぱい持った体も心も若々しくて怖いものを知らなかった頃の思い出は、いつまでもこの胸の中にあります。それは誰も触る事は出来ません。いまのあの人(マーベラス)にも絶対に触らせはしません」という思いに鉄郎は複雑な気持ちで列車内のメーテルの元に戻る。子供の頃、何気なく見ていましたが車掌の言葉、思いは現在(いま)大人になって見ると本当にズシリと響きます。

鉄郎が複雑な心境で席に座るとメーテルが「どうしたの鉄郎?」と聞くと鉄郎は「僕には、わからないよ。車掌さん、あんな奴庇ったりしてさ・・・」と寂しげに言うとメーテルは「そうね・・・いまにわかるわ鉄郎にも」と言うメーテル。

列車が発車し夜空を見上げるマーベラスは「あの人(車掌)は何もかも昔のままだわ・・・夢と一緒に生きている人。でも・・・あたしには信じられない」と語る。一方、夜空に上昇した列車内から「思い出の顔」の風景を見下ろす車掌は「私は、いつまでもあの頃のあの人が好きだ。誰が何と言おうと・・・。私が死ぬまで私の青春の思い出と一緒にあの人はいる。共に星空に思いを掛けた頃のあの人が・・・。

いま別れたあの人はマーベラスじゃない!そうなんだ!!きっと・・・」と心に決めていた。

 

そしてラストでナレーターが「思い出は心の中にある、もう一つの宇宙だ。その宇宙は、その人が死んだ時その人と一緒にどこかに行ってしまう。誰も手を触れる事はおろか見る事すら出来ない。それは、その人だけの宇宙なのだから」と語られました。

 

それにしても原作者の松本零士先生は「宇宙戦艦ヤマト」といい「キャプテンハーロック」といい「銀河鉄道999」にしても視聴者や読者が心に響く言葉やセリフが出て来ます。「フィメールの思い出」も松本零士先生自身もしくは友人や身近な人が体験したことを漫画を通して書いたのかも知れません。そうでなければ車掌の思いのズシリと響くセリフは思い浮かばない気がします。

 




列車を降りて素顔をさらけ出したマーベラス。何処となくメーテルに似ています。