飛ぶことを追求するカモメを描いた小説「カモメのジョナサン」は1970年代のベストセラ-となりました。

その著者リチャ-ド・バック氏の「翼の贈り物」も大空を飛行する素晴らしさを描いた短編小説集です。

その一遍「ペカトニカの淑女」から飛翔を描いた部分を紹介します。

ある年の夏、イリノイ州ペカトニカで巡業飛行をやっています。

その日、日没までに三十人の客を乗せ、暗くて飛べなくなるまでに、あとひと飛び出来る時間があります。

観衆に向かって叫びます。

「あの夕日を見てごらんなさい、大空からごらんになったら、二倍も美しいですぞ!・・・・あのど真ん中にいけますよ!」

彼らの心を動かそうとしますが、あきらめエンジンを始動させ、自分と複葉機、二人だけで日没を見るべく飛び立ちます。

上り続け、約四千フィートの高度で上昇を中止、ここから眺めやるだけの飛行ですまなくなります。

「機首は上がり、右翼は下がる。動力停止の急上昇反転(ウイング・オーバ-)に入り、宙返り(ループ)して、連続横転(バレル・ロール)に移る。降下する際に、銀色のプロペラは真正面でゆっくり回転するただのファンにすぎぬ。

・・・・宙返りや横転の底に達したときに生ずるあの大氣の悲鳴の中で、澄んだ風がわれわれの周辺に渦巻く。そして、ほとんど停止状態にある無精な失速大旋回中の上を、風は軽やかに、やさしく流れ去って行く。」

やがて、二人だけの世界は終わります。

「翼を水平に戻し、海の底へと滑空して行った。黒ずんだ草地へ着陸するために。」

「スイッチを切る。プロペラは悲しげな音をたてながら、回転を中止する・・・・」

画はステアマンPT17です。