婦長とは関わらないように仕事した。
どうしても、の時は主任に報告し、
上申した。

私が、婦長を避けてるのは先輩も
すぐ気づく。

「ダメだよ。自分から懐に入らないと」
そうアドバイス受けても、出来ない。

私の学校は8月まるごと夏休みになる。
その8月に地元の彼氏に会いに
行きたくて飛行機のチケットも取った。

だけど8月は希望者が多いのだし、
新人なのだから先輩に譲れと
言われる。

地元に帰るのは諦めた。

電話で涼ちゃんに謝る。

「じゃ、俺が行くよ!」そう言ってくれた。

仕事で夜しか会えないけど彼氏が来る。
些細でも嬉しい。

東京の何処に連れて行こうか考え始める。

実際、東京に出てきても遊ぶ暇なく、
私も初心者なのだ。

少し元気出て仕事出来るようになった。

ある日、武内先生からメモを渡される。

今日20時、看護師寮の玄関にいてと。

学校も休み。でもなんで20時?

とりあえず玄関に行くともう武内先生は
そこにいた。

「いいもの見よう?」と。

すぐ近くに浄水場があった。

ホタルがたくさんいた。

初めて見るホタル。
光ってない間は只の虫なのに

儚いリズムで光り乱舞する。

「綺麗でしょ?」と先生が言う。

綺麗よりも初めて見た感動が大きい。
しばらく見つめる。

東京、しかもこんな近くに
感動するところがあるなんて。

「俺も去年見つけたんだ」と言う。

「先生……ありがとう」

また頭をなでてくれる。

「元気出してくれた?」

「はい……」

最後は少し泣きそうになったので
ぐっと堪えた。

先生は病院裏の庭に、連れていく。

羽田空港のランプが綺麗に見える。

こんなところ、初めて知った。

「屋上行くと飛行機も見えるんだよ」

確かに仕事中も飛行機の轟音は聞いた
事あったけど見に行こうなんて
思ったことも無かった。

夜に飛び立つ飛行機を見上げて
泣きそうになった。

私も飛行機に乗って彼氏に、会いに
行きたい。今すぐに。

そんな事考えていたら缶ジュースを
私に渡して、座り込む先生。

「ゆっくり見よう?」

「はい……」

私も座り込んで飛行機の行方を想像する。

「まだまだ悩む事なんて生きてる限り
ずっと出来てくる。どう立ち向かうかが
大事だって覚えていてね」


そう教えてくれた、東京で初めての

恩人だった。 



夏が近づいて生ぬるい匂いがした。







幼い微熱   10  ホタル






美優