そんな仕事の人間関係に
初めてぶつかり、相手は婦長。
私は新人ナース。何も言えず。

ごめんなさいも違うと思っていた。
後藤先生はまたご飯に誘ってくれた。

でも気乗りしない私は
ごめんなさい学校があるからと
断った。ご飯で、婦長の愚痴を言いたく
無かったから。

金曜日、学校が終わり仲間達と、
バスで帰る。夜22時。
アンニュイにバスの窓の外を眺めて、
あぁここは下町でも東京なんだ

そんな事を考えてたら
後ろの席から名前を呼ばれた。

振り替えると後藤先生より
一つ年上の研修医武内先生が
私を呼んでいた。

仕事では几帳面ながら
ピンセット1つ渡すだけでも
「ありがとうございます」と言う
謙虚な先生だった。

同じバスで、同じ場所に、降りる。

私はコンビニに用事があるので
菊地ちゃんと前原ちゃんと別れた。

でもコンビニでまた武内先生に会う。
コーヒーやら栄養ドリンクやら買ってた。

きっと勉強するんだなと思った。
店を出るとまた武内先生がいる。

「最近元気ないね」そう言う。

あ、わかってくれていたんだ。
見ててくれて気づいてる人がいる。

そう思ったら、一瞬堪えたのに、

幼い私は、すぐに泣き出していた。

誰も頼る人のいない東京。
初めての、都会暮らし。
彼氏もいない私。
昼は仕事で看護、夜も勉強で看護。
看護だけしか考えてない生活。

勉強疲れと、人間関係疲れ。

まだ二十歳の私には重かったのだ。

武内先生はルックスはさほどじゃないけど
「ありがとう」とナースに素直に
言える人柄。

「先生…… 」

「大丈夫?」

「私、何故か婦長に嫌われてて。
ずっと無視とかされてて。つらくて……」

嗚咽に変わって泣いていた。

武内先生はコンビニの後ろに、私を
連れていき頭をなで、抱き締めてくれた。

彼氏以外に抱き締められたの初めて。

でも私は胸を借りた。
というか、泣き止む事が出来ない。
気のすむまで、泣かせてもらった。

数分泣いただろうか。
えぐえぐバカみたいに泣いてて
子供より子供くさいと思って

「ごめんなさい」そう言って離れた。

「最近元気ないの、わかってたよ」

そう言って紙切れに電話番号と
ドクターマンションの、部屋番号を
書いて渡してくれた。


使うつもりは、なかったが

見方がいるよ、って言ってくれた。


みたいで嬉しかった。





幼い微熱   9   涙




美優