彼女は無事、風俗を辞められた。
安心したゆっくりした毎日を送っていく。

俺も実は、元カノからもあれから
数回連絡がまた来るようになっていた。

無事就職できてこれからの生活が
楽しみだとメールで報告してくれる。

これから社会にでて頑張ろうとする人。
明るい話題に俺も安堵する。

なのに隣を見れば明るい未来がいつ
やってくるか不安そうな俺の彼女もいる。

正直、その落差に俺も少しだけ凹む。

嫌いじゃない。とても大事だ。
むしろ好きだし、守りたいと思っている。

そう思ったけれど俺は比較せざるを
得なかったんだよ。

元カノ

この先明るい未来に期待が大きい。
今でも俺を慕ってくれる。
汚い過去はない。

若い。

ただし若いだけの幼さ。相手が 
どう思おうとも、自分を正当化して
しまうワガママなところがある。


俺も若いが故の頑固で怖いもの知らずで、
当然ぶつかり合い、すれ違った。

あの時俺達が別れたのも俺達の未熟さが
あったからこそ。

それに何処にでも居そうな平凡な子。
決して綺麗でもなく、華もない。


今の彼女

離婚暦あり。
風俗で働いていた。
無職。年上。

いつ治るか不安定な病気がある。

でも色んな男達から慕われるだけあって
汚点を補うくらいの魅力は溢れてる。

年上なりの人間性と繊細な配慮もあり、
彼女に学ぶ事も甘える事も知った。

過去を知るまでは凄く自慢の彼女が出来たと
本当に心から思っていた。

今までの中で一番素敵な人だ。
だから大事にしたいんだ。

そんな本音をぼんやりとメモに書いていた。

普通の男ならばどっちを選ぶ?

馬鹿正直に書いたメモは彼女の目に留る。
みるみる涙が溢れ出す。

「なんでこんなの見ちゃうんだよ」

「だってこんな所にあったら見ちゃうよ」

俺の甘いところ、若すぎる故の過ちだ。
不徳の致すところってやつだ。

「でもね、それでも前の彼女より 
大事なんだよ?俺の心の整理。ゴメン」

とは取り繕ってみたが、もう遅い。
彼女は無言で静かに怒っている。

こんな比較、しなきゃ良かった。
でも、比べちゃうのも仕方ないだろう?

俺は聖人君子じゃ無いんだから。

そんな事があっても俺達は一緒に居た。

実際 彼女と一緒にいるのは本当に
楽しかったから。

時々は喧嘩しても彼女はやっぱり可愛い。

一緒にくつろいだり、夫婦みたいに
夕食の買い物へ行ったり。

俺が抱く彼女はもっと魅力的だ。

年上の色気なのか、風俗の仕事のせい
だったなのかは判断つかないが

俺が離れられない術を知ってるように
素晴らしい感動を与えてくれる。

こんな快感もあるのかと知ることも多い。
だからもっと離れられない。

見上げる彼女は、切なそうに白く動く
浅く速く、深くゆっくり身体がしなり 

俺の腕の中で同じリズムで堕ちていく
妖しく囁く度吐息漏らしてくねり俺は潜る

身体の相性もあるとはこの事なのか?


色んな事を考えてみたがこんな比較
なんかしたって今の俺に正直なのも
俺を頼る姿が愛しいのも本当だ。

やっぱり彼女しかいない。

「ゴメンね」

急に言ったが、彼女もすぐに
言いたい事がわかったようだ。

「私には、岬しかいないんだよ?」

大事な人を傷つけていた。
何回も何回も謝って抱きしめた。

狂おしいほどに本当に愛おしいんだよ。

彼女がいない生活なんて考えられない
毎日だった。

比較した事も申し訳ない程に
どう考えても、彼女しかいない。
本当に、替わりなんか居ない。

彼女も俺以外なんて誰も考えられないと
可愛い事を言って抱きつく。

テレビを見ていても彼女を見つめる。

本を読んでいても彼女を膝に乗せる。
四六時中、傍に寄る。

ふざけて抱きついただけなのに
そのまま本気になる。

夜も昼も関係ない。
彼女の全てが欲しくて、のめり込む俺。  

どんなに抱いても俺のものにならない。
好き過ぎてツラいほど。


神様…神様……神様……このまま。
彼女となら……このまま……彼女となら。


病院へは時々行くが
やっぱり変わらないよ。大丈夫。
そう言っていた。

だけど、最近の彼女は憂鬱そうだった。

会話も減り、表情も暗い。
ある時を境に引きこもってしまった。

部屋から出てこない。

俺が行っても布団からでようとしない。

俺が布団に一緒に入り抱きしめても
全く反応がない。

それどころか泣き出してしまう。

薬はちゃんと飲んでいたのに。

鬱がちょっと強いから少し、しばらく
そっとして欲しい。
すぐに元気になるから、そう言う。

俺も言う通りにした。

だけど、引きこもるのは黙っていても、
何も食べようともしない。

時々トイレに行って帰りに水と薬を飲む。

次の診察ではやっぱり栄養状態の危惧を
言い渡される。
それでも彼女の拒食は続く。

そんな状態に苛々して無理に病院に
連れて行こうとした。

「今だけだから。すぐ元に戻るから」

そう言って泣いてしまう。

原因がわかったのは彼女がたくさん
隠し持っていた督促状。

以前の夫からその件で連絡が来たと言う。

その時、しばらく振りに置いてきた
子供の声を聞いてしまったと泣く。

デリケートで触れない話題だったが

彼女は決して可愛い自分の子供の事を
忘れてなんかはいなかったのだ。

子供がいない俺だってそんな母親の 
気持ちくらい何となくわかる。

今までどんなに苦しかっただろう。

そう思うと切なくて可哀想で彼女を
抱いて一緒に泣いていた。

「岬が泣く理由なんかないよ?」

そう言うけど、悲しむ彼女の切なさを
見るのがひどく辛かったんだ。

俺は彼女にある提案をした。
ずっと前から考えてはいたけど

このまま無職でいるのも身体の調子が
思わしくないのも切ないだろう。

彼女は風俗嬢だった。

それを逆手にとってこっちが商売を 
してみてはどうだろうか?

俺の先輩の知り合いに、風俗、水商売の
経営を何件も指導する人がいた。

そんな人がいると聞いたときは

「色んな商売もあるものだ」

そうとしか思わなかったけど、

必死にその人を探した。

先輩の知り合いを辿ると身近に
以外とあっさり会う事が出来た。

これまでの経緯とそんな商売ができるか
話を訊いてみた。

元手はかかるけれどちゃんと準備していけば
難しくはないという。

大手のチェーンの下に入り枝分かれ 
するように個別に店を経営するのだ。

そんな経営も可能だと。

もちろん売り上げの数パーセントは
搾取されるが、決して損は出ないように
してみせると言う。

俺もその人も本気でその方向について
話し合いをするようになった。

彼女は驚き過ぎて無理としか言わない。

でも、すべては彼女の為なんだよ。
お願いだから俺に付いてきてよ。



雪の華を一緒に眺めるためにも


星になって道を照らしたいんだよ。








雪の華   8



美優