風俗なんかを辞めてさえくれればいい。

彼女の生活の選択肢が風俗だった。
それだけだったとしても。

俺には耐えられないよ、そんな事。

彼女もやっと俺の傍に来て泣き出す。

「ホントは嫌だったの。でも、今の私には
他に出来る仕事がなかったから」

そう言って泣きだす。

俺にはとても理解できない話だけど
彼女の生活手段が、

風俗だった

それだけなのはぼんやりと理解したような
気がした。

世話になった加藤さんが今でも彼女の 
生活を心配してくれてお金を貸してた。

だから仕事で返せ。

考えようによっては彼女を利用した商売では
あるがお互いの利害が一致している。

彼女はやっと本当の自分を話せたと言う。

今までもこうやって生活をしていたと。

自分の体調に合わせて出来る仕事は
他になかったと。

色んなリスクを犯してでもほんの数時間
心と身体を無にすれば生活費用が
得られていたと。

そんな生活を送っていたなんて。

やっぱり俺には理解は出来ないけど
彼女の心が痛んでいたのは理解した。

ただの「仕事」をしていただけだと。

俺も彼女を困らせて居た事に反省した。
あまりに世間知らずで彼女に甘えていた。

ちゃんと生活を一緒にしていれば
こんな事にならなかったのだから。

でも続けさせる訳にはいかない。

彼女ももう辞めるとはっきり言う。 
脅されてもいい、訴えられてもいい。

もう、あんな仕事はしたくないと泣く。
もう、誰にも触られたくないと。

加藤さんにメールを打ち始める。
俺も一緒に文章を考える。


ごめんなさい、彼氏にばれたので
続けることは出来ません。
お世話になりました。

そんな短い文章だったが一緒に送信した。

そうしてやっとこんな仕事から
抜け出せたと安堵する彼女を
俺も許せた気がした。

そう、これはただの

「仕事」

だったのだ。行為に意味なんてない。

病院から帰ってきた彼女は疲れていた。
夜中に彼女を探した俺も疲れていた。

一緒に風呂にゆっくり入り
もう朝なのに布団に入って一緒に寝る。

全部正直に俺に何もかも話した彼女は
本当に安心したようだった。
穏やかな顔で目を閉じる。

俺も偽りの彼女を見なくて済むんだ。
俺達には もう嘘はないと信じる。

彼女の髪と背中を撫でながらゆっくりと
目を閉じた彼女に優しくキスする。
そして二人でゆっくり眠りに落ちる。

この眠りが覚めても彼女がいますように。


彼女は加藤さんに酷く怒られた。
せっかく助けてやったのに
また裏切ったと。どうするのだと。

冗談じゃない。

俺がいるのにそんなところで働かせる訳に
いかない。ましてや、風俗だなんて。

貸した金なんか誓約書もなければ 
ほんのわずかだった。

こんな事で脅すなら、こっちも考える。
そう、言ってきた。脅迫になるよと。

酒やけした声のババァが大声で叫ぶが
俺たちは荷物だけ取り込んで、もう、
絶対働かせないからと啖呵を切った。

当たり前の事をしただけだ。
そんな生活から抜け出せて本当によかったと。

そうだよね。ありがとう。

そう言うけど彼女の表情は暗い。

親にはもう呆れられていたが彼女の家に 
拠点をちゃんと移した。

食材は相変わらず母親が
色々差し入れしてくれたが

生活する費用はちゃんと俺も出す。

だけど、いくら無職でも彼女は
俺の扶養者じゃない。

このまま惰性で暮らすわけにも行かないし、
彼女ももっと引け目を感じるだろう。

彼女にも出来る換金を考えた。

生活レベルが以外と高かった彼女。

今は不要な持ち物も売れば彼女の収入になる。
オークションで売りさばく。
率先して俺が手伝った。
以外と金になるものだ。

無職でも考えれば収入は出来るものなのだ。

俺が全部面倒を見れば話は早い。

だけど、そうしなかったのは俺なりに 
彼女のプライドを守ったつもりだったから。

でも彼女は喜ばなかった。

「値段がつけられないものがあるのに」 

と、売りさばくのを渋ったものもある。

「思い出」や「執着」なんか、また
新しく出来るよ、今は忘れよう?と。

今、使ってないものは要らないだろう?
換金出来るならその方が得になる。


俺は自分の自由になる金は
自分で作るべきだと思っていたから。 
 

 彼女の「怖い」って呟く意味が俺には
まったくわからなかった。


少ない知恵絞って彼女の為にしたのに。



俺は物事を損得で考える癖がある。




だってそれは本当に合理的だと思うから。

 
間違ってなんかないだろう?







雪の華   7






美優