しばらく無言のままでファミレスに
いても仕方ない。

彼女の家に戻った。
俺に近づかない彼女は玄関に立ったまま。

それでも弁解も許しも請わない彼女。

「加藤さんに辞めるって電話してよ」

やっと俺がそう言うと

「ねぇ、許せないでいるんでしょ?
このまま出て行けばいいじゃん。
私、こんなだし、そしてもう別れよう?」

俺が別れの言葉を言う前に彼女から
鮮やかに切り出された。

ちゃんと話し合って理解してから
納得して決めたいのに。

でも彼女の言い分を聞いて驚いた。

「私は加藤さんにお金を借りてるから
働くしかないの。このままでは返せないし。 

でも週に、1回でもいいから顔を
出さないと訴えると脅されて。

岬だって私が収入もないって
絶対にわかっていたはずでしょ?

それなのにここで毎日ご飯食べて、
一日中暖かい部屋にいて。

生活費を出して欲しいの。
ここで生活してるようなものでしょ?

でも、言いにくかった。

言えないあたしも変だけど……。
気づいて欲しかったよ……?」

半同棲といえども俺は遊びに来ている
感覚が強かった。

自分の拠点は実家で彼女の家でしっかり
生活してるという感覚は正直なかった。

でも考えてみると毎日彼女の傍にいて
ほとんど泊まっている。

彼女が不安定だから心配で傍にはいたけど、
そこまで気がつかなかったのも事実だ。

余りの俺の幼い甘さと彼女の切り出した
本音の違いに気づかなかった。

生活費の出所なんて考えてみたら
彼女には本当に何処にもなかったのに。

どれだけ修正加えても美談にはならない。
信じられかった俺は泣いてもいいのか。

考えを整理したくてソファーに寝転んだ。
俺、本当に甘い。鈍すぎるんだよ。

あまりに考えが子供過ぎて甘えていた。

彼女はしゃがみこんで泣いていた。

「お金で揉めるなんて、元夫とも喧嘩
した。お金の事で揉めるの凄く嫌だった」

そう苦しそうに言っていた。

なんで気づいてあげられないのかと
自分がすごくバカで惨めに思えた。 

やっぱり俺、若すぎて世間知らずだ。

ソファーから起き上がり彼女を呼ぶ。
なのに返事も気配すらもない。

慌てて探すも気づいたら彼女は
何処にも居なかった。

車はあるが、鞄も携帯もない。
玄関で立っていた姿のまま消えていた。

携帯を鳴らしても留守電になるだけだ。
どうしようと慌てて探した。

近所のコンビニや色々、走って探した。

彼女が頼れるとすれば、トシさんか?

こんな遅い時間に何処に行ったのか。
寒い中、俺も必死だった。
コートすら忘れて着ていなかった。

何時間も寒い中探すけど宛は無い。

結局すれ違いになる方が時間の無駄だと
思い、彼女の家に戻るがやはり居ない。

まさかコウイチといるのか?

ケンスケさんだって彼女を助けるだろう。

パソコンなんか見なきゃ良かったよ
彼女の浮かない表情をもっと知るべきだった。 

色んな後悔がどんどん押し寄せる。

でもなんで寄りによって風俗なんだよ。

いくら考えても堂々巡りばかり。

苦悶で頭を抱えながら打ち付ける。

夜明けも近い頃、タクシーが家の前に
停まる音がして、彼女だと思った。

ふらつきながら彼女が部屋に入ってきた。
やっとやっと帰ってきてくれた。

「何処にいたんだよ!」と言うと

「どうしてまだ居るの?」と言う。

彼女は俺に訊くが俺は彼女が何処に
居たかだけかを知りたかった。

やっぱり心配だったから。

訊くと、俺がソファーで考えてる中、
また胃痙攣を起こしかけてタクシーで
救急病院にかかっていたと言う。

俺と揉めている間、痛みだしてきたので
また過呼吸になったらどうしようと
思っていたと。苦しかったと。

全然気付かなかった。なんてバカな俺。
病院の領収書を見せてくれた。 

コウイチやケンスケさんの所じゃなかった。

それよりも今度は俺が彼女を追い詰めていた。
守ると決めたのに苦しめていた。

なのに彼女は俺に帰ってと言う。

「ねぇ、もう関わりたくないでしょ。
こんな病気だし、まともな仕事さえ
出来ないし、借金はたくさんあるし。
別れたほうがいいよ。もういいよ。」

俺との生活を続ける為にした事だとは

頭の裏でぼんやりだけど充分理解した。

そう言う彼女に俺は何故か、

「風俗を辞めてくれるならいいんだ」

そう言っていた。

俺にも理解は出来なかったが
それは心底から本音だったから。

彼女がそんな仕事しなくて良いよう
俺が支えると決めたから。


愛はあるのに見つけられなかったんだ。

答えはないと知ったんだ。

ずっと触れていたいから。



永遠にキスするから。




お願い、俺だけのものになってよ。











雪の華6






美優