医者からの説明は

「過呼吸と胃痙攣を起こしてましたね。
何かパニックになることあったのかな? 

多分それで胃痙攣でたくさん吐いて
過呼吸を起こしてしまったみたいですね。

以前から、麗さんは鬱の治療をしてました
けど今回はパニックを起こした為に
胃痙攣と過呼吸も両方起こしたので
意識混濁と言って、意識無くなる事が
あるんですよ。多分痺れたり、 
痙攣とかもしてたと思いますよ。

苦しくて怖かったでしょう?

ちゃんとお薬飲んでますか?
彼氏さんもびっくりしたでしょ?」と。

死ぬかと本気で思っていたので凄く安心した。

でも、ちゃんと鬱を治さないと
何回も繰り返すかも知れないと言う。
随分脅かす医者だな。

でも彼女は特に胃痙攣になりやすいと言う。
彼女が体調が悪いと言っていたのは
そう言う事だったらしいと理解した。

鬱病と言う病気を調べる。

彼女が明るい時、思いもしなかったが
たくさん薬を飲んではいたらしい。

朝から昼過ぎまで動けないのも
何となく納得できた。

脱水が酷く入院した彼女にずっと付き添う。

「ゴメンね、岬。」

そう謝るけれど、こんな事になるまで
追い詰められた彼女が痛々しかった。

俺は彼女の傍にいると決めた。
彼女が繊細だとわかったから。
俺が守る。俺しか守れないだろう?

たくさん泣いた跡の目が浮腫んでいる。
あんなに綺麗な大きな瞼なのに。
ラベンダーのアイピローを買って冷す。

アイピローを押し付けながら
また泣き出す。大丈夫だからと擦る。

追い詰めた奴らに謝って欲しかった。

コウイチさんに連絡した。

結局はお前が振られた腹いせに
リンさん達をそそのかしただけだろう?

入院騒ぎにまでなった事を知った彼は
凄く驚いていた。

容態を聞こうとするが、お前なんかには
教えたくない。

「大丈夫なの?」とか訊くこの馬鹿。

「大丈夫な訳ないでしょう?
こんな事になるくらい、人を陥れて
楽しかったですか?
自分が振られた腹いせじゃないですか。

彼女だけが悪いならまだしも、みんなが
悪いじゃないですか。
図太い人なら入院するまで追い詰め
られませんよ?

おかげではっきりと彼女を選ぶことが
出来ました。満足ですか?
貴方達は墓穴を掘ったのですよ?」

あの時とは反対に無言のコウイチさん。

俺の怒りは収まらない。
追い討ちをかける。

「彼女は無職なのに、入院費だって
払わなきゃいけないんですよ?

彼女だけが悪いのですか?

ケンスケさんもズルいし貴方はもっと
嫌な男です。今回の騒ぎは一体、
誰のせいでしょうか?」

コウイチさんは何も言い返さず項垂れる。

彼女が退院したその日の掲示板に俺は
彼女の目の前で、書き込んだ。

「僕も脱退します。麗さんの傍にいますので。
リンさん、ナナさん、他人を陥れるのは
恥ずかしいですよ」と。

数日後、コウイチさんから連絡が来た。

些細だけれど、入院費の足しになればと 
金を渡された。こんな薄い封筒かよ。

こんな事じゃ気が済まないけど
何もないよりいい。

「ちゃんと渡しますよ。
全然足りないでしょうけどね」

そう言って俺はしっかりと受け取った。
こんな薄い金で許されるものかと。

それから、サークルは突然閉鎖してしまった。

トシさんから電話が来た。
騒ぎを聞いて驚いたと。麗は大丈夫かと。

彼女は泣いて謝るばかりでまた発作を 
起こしても困るので俺が出た。

「これからは僕が一緒にいます。
サークルのメンバーとは
もう会えないけど、彼女を守ります」

そう言った。もちろん本気で。

トシさんは彼女を心配し、時々2人の
様子を伝えて欲しい。そう言う。

彼女も信頼していたし、俺も大好きな
お兄さん的存在だったので
迷うことなく快諾した。

「これからも自分達の応援をして欲しい」
と。

トシさんは安心したと言ってくれた。
彼女にもまっすぐな目で言った。

「一緒にいようね。早く病気治そうね」と。

彼女は俺にしがみついたまま、
ありがとうと泣きながら何回も頷く。

こんな純粋な彼女を若くて頼りない
俺だけど、本当に守ろうと誓う。 

クリスマスになった。

彼女もようやく落ち着き始め、二人だけで
ゆっくりと 穏やかに過ごす。
誰も邪魔しない二人だけの時間。

もっと細くなった肩を抱き寄せ、
彼女の髪をなで、肩から腕もなでる。

俺が守る、そう言ったけど
どうしてあげたら彼女は幸せなのだろうか?

俺は以前、東京の大学の時の彼女も
幸せに来なかった事がある。

まだ若い俺達に子供なんて無理だった。
そのまま別れてしまった苦い過去。

今抱きしめている彼女は俺しかいないと
無垢な感情がはっきりわかる。

「ねぇ、苦しいよ?」

そう言われて強く抱き締め過ぎた事に気づく。

そのくらい大事だ。

彼女が退院し、家に帰る時。

ケンスケさんから連絡が来た。
あのケンスケさんが俺に頭を下げた。

「申し訳なかった。お前にも麗にも。
リンとは別れた。これくらいはさせてくれ」

そう言って費用を払おうとする。 

俺もかなり断ったがあのケンスケさんが
そこまでするくらい責任を感じてる。

費用自体はたいした額じゃなかったが

俺は、ケンスケさんのプライドもあるのだと
理解した。
多分、俺でもそうするかも知れない。

実際、コウイチからの金で彼女を
治療した事になんか使いたくなかった。

それにあのケンスケさんが俺みたいな
若い奴に頭を下げた。

そんな事もちょっとした優越感を感じた。
貸しを作ったと言うのかな。

それに彼女を任せられたという責任感も。

コウイチの金は彼女を苦しませた事の
見返しに使おうと思った。

それで二人っきりで過ごしたいと。

兄貴は今年の暮れも正月も帰って来ないが
俺には連絡は時々ある。

すぐに麗と言う彼女が出来たと話した時、 
来れたら来いと年末の時期の日付の
シルク・ドゥ・ソレイユの舞台の
チケットを贈ってくれていた。

元々誘うつもりだったが最近は本当に
色々有りすぎて言えずにいた。

彼女を旅行に連れて行こう。

ネットで東京行きのチケットを買った。
二人で旅行に行こうと。

計画を話すと嬉しそうな顔をする。 

が、体力が持つかな?
と、不安な顔もする。

無理はさせないから。そう言って説得した。

そして俺は彼女にクリスマスのプレゼント
として指輪を買った。

一緒に選んだ。

俺も第一印象で彼女にぴったりなイメージ
だった指輪を彼女が選んだので
喜んで迷うことなく贈った。

雪の華をイメージした物だと店員が言う。

細い彼女の指にはサイズを調節しなければ
ならない。くるくる回ってしまうほど。

年末なので、時間がかかると言う。

彼女は旅行には絶対していきたいと言う。
サイズ直しは後からにする、と。

嬉しそうに手をかざし、指輪を光らせている。
少しでも喜んでくれるなら何よりだ。

彼女からは俺の欲しかったブランドの
ネクタイと同じブランドのストラップ。

ストラップは彼女とお揃いだと言う。

クリスマスを過ぎて忙しい空気の中、
俺達は旅にでる。

たった数時間の距離なのに、ずっと手を
繋いだまま新幹線で移動する。

時々俺の肩に頭を寄せて眠るけどそんな
彼女の肩をなでながら俺は彼女の顔を
覗き込むフリをして額や頬に短く
キスをする。

気づいて起きるが照れて笑ってくれる。
周りなんか気にしなかった。

だって俺達だけの時間だから。
肩を抱き寄せ彼女と頭を寄せた。

窓を見ようとする彼女にキスする。
新幹線の中でも別に見られてもいい。

彼女が消えそうで心配で何回もキスした。

どうか正夢が続きますように。






雪の華   3




美優