俺の親父は不動産を経営している。

小さいけれどいくつかのホテルや、
マンションも持っている。

いわゆる資産家だと思う。
 

兄貴は建築家を目指し、東京にいる。

兄貴は頑固な親父とそりが合わないので
きっと帰って来ない。

だから俺に親父は期待をかけている。

高校からイギリスやアメリカに
短期留学を何回もさせられ、

イギリスの大学に2年、
残り2年は東京のW大で過ごした。

でも親父の跡の為田舎に戻った。
東京は住むには疲れる。

英会話は得意だと思う。
でもあのテンションはやはり苦手だ。

ハグやキスくらいするけど、
お辞儀でお互いを知る日本の文化が
やはり素晴らしいと思う。

大学を卒業した俺に親父は
小さな建築の会社を持たせて数年。

表向きは知人が社長だが
立ち上げたのは親父であり俺は専務。

親バカなのか、親父の言うとおりに
働けば毎月の収入もかなり良い。

わからない事はもちろん親父に任すが
若い専務と舐められないように
建築業が主だけど、何でもする。

別に嫌いじゃなかった。
親の言うと通りに進んでいけば間違いは
ないから。

頑固なのは親譲りだけれど
兄貴のように反抗するのも
馬鹿らしい。

黙ってこのままいけば親の不動産だって
何もかもいつか俺のものになるだろう。

いずれ法律の仕事も覚えて
資格を取ろうと考えていた。

勉強は嫌いじゃない。
株も少し始めた。


営業を覚え始めた俺は謙虚な姿勢が
俺のキャラに合ってるとわかってきた。

俺のスマートさと若い素直な仕事の顔は
かなり評判良く、親父にも褒められる。

サークルにはケンスケさんの
知人の勧めで入った。

彼の実家は地元では有名だから。

知り合いになって可愛がってもらえば
この先も損はない。

夏場は本当に忙しくて、あんまり
参加できなかったけど、

秋になり、あまりサークルもおろそかに
出来ないな。

そう思って仕事をあけて紅葉狩りのオフに
久しぶりに参加した。

久しぶりに見るメンバーにはケンスケさんと
新しい人がたくさんいた。

謙虚な姿勢は崩さない。
俺は最年少メンバーだから、尚更。

前からナナさんと言う年上メンバーが
俺に興味があるようで
色々話しかけてきてくれていた。

断るのは女性に失礼なので
アドレスだけ教えていた。

前回はナナさん幹事なので強引だった。
でも断った。

それにハイキングなんて興味無かったし。

でもそれだけ。
彼女には俺は、興味がないから。

そんな中、今回新しいメンバーが
トシさんと幹事をしていた。

気さくに雰囲気を和ませようと
盛り上げている彼女はトシさんならず、

ケンスケさんも可愛がっている。

確かに綺麗な人だ。
華があるというか。

明るいキャラでもナナさんと、違う。
なんて言えば伝わるかな。

まだ若くて子供な俺には上手い言葉が
見つからない。

単純に綺麗な人としか、言えない。

今まで同級生や年下の子としか
付き合ったことの無い俺だから。

彼女は俺より5歳も年上だった。
だけど人懐こく、綺麗な人より
可愛い方が似合うかなと思った。

でも話をしていくうちに年上なんて
あまり気にならない。

この県に来たばかりの余所者だと笑う。

「初めまして。麗といいます」

そう話しかけられた時、何かが
弾けるような甘酸っぱさを感じた。


彼女と二人きりになるチャンスを探す。
丁度、一盛り上がりした後で
彼女は1人で海を眺めていた。

スタイルいいな。脚長いな。
お尻が小さくてジーンズ似合うよ。

そっと近寄っていく。

「麗さんの地元の海ってどんな感じですか?」

「え?」

海は海だろう?

そんな表情だった。

やっぱり、

「こんな感じだけど…………?」

そういわれて、会話を間違ったと思った。
でも次の瞬間、彼女は

「海って、気持ちいいよね?

地元は自然だらけっていうか田舎なの。

最近は触れ合ってないなぁ」


「だから、楽しいの!」

くるりとこっちを向いてそう俺に
満面の笑みを浮かべた。

その瞬間、胸がギュッとなった。


多分、俺、落ちた。
そう思った。認めるしかない。

自然に俺達はベンチに腰掛け
色んな話をした。

年齢差のギャップはあまりない。

俺はそれでも敬語で話すが彼女は
屈託なく可愛く普通に話す。

トシさんが近寄ってきて何か彼女に囁く。
2人で幹事だから、忙しいのかな?

そう気遣っても

「ふふ。トシさんが写真撮ってくれるって。
岬くんも入ってくれる?」

俺達は何枚も写真に収まる。

時々ポースを変えながら楽しい雰囲気を
アピールする。

なんだこれ。楽しいぞ。

でも、ケンスケさんがちょっと
面白くない顔をしていたのが気になった。

帰りの車内も彼女を中心にして盛り上がる。
皆に気を遣ってるのがよくわかる。

ただ、ナナさんは毛布にくるまり
寝た振りでいっさい参加しない。

いつもは俺にうるさいくらい
話しかけてくるのに。

その夜、俺のサークルの掲示板に
トシさんからアルバムが届いた。

「岬くんには特別バージョンで送ります」

そう、トシさんの一言があった。

彼女と俺を中心としたアルバムだった。
マジマジと見ているとまた彼女に
会いたくなった。

次いつオフ会だっけ?
いや、2人で逢いたくなっていた。


次の日、早速彼女に個人宛ての
メールを送った。

営業先でもらった映画のチケットを理由に、
俺のアドレスも書いた。

年下なんか興味ないなんて言われたら
どうしよう。

送ってから少し不安になった。
ケンスケさんの表情も。

すぐには返事は来なかった。

落ち着かない。
携帯がなるたびに気になった。


そうして4日後、やっと返事がきた。

諦めかけていたので「yes!」と叫ぶ。
素直に本当に嬉しかった。

「映画、行きたいです。楽しみにしてます」

それだけの内容なのに携帯にキスする。


すぐに待ち合わせの場所、時間、
食事の約束も取り付けた。

約束の日、待ち合わせに現れた彼女は
オフの時よりも遥かに可愛い。

誰もが歳上なんて気づかないだろう。
綺麗に化粧し、お人形みたいな姿。


食事で向かい合わせになると
あまりに目がキラキラ
していて、まともに見られない。


「僕、5歳上の女性とこうして食事や
映画なんか初めてなんです」

そう言うと、

「あたしも初めて。新鮮だよね!
ねぇ、歳って気になる?」

「今は全然・・・」

そう言ってお互い笑った。

それでも俺は少し緊張していたようだ。
食事から映画館に移動中、少し早く
歩いたようだ。

白いブーツの彼女はちょっと歩きにくそう。

「待って」

そう言われてハッとした。

歩きにくそうなブーツもそうだがもう
こんな夜は寒い。

俺はためらいなく右手を出した。
彼女は可愛くはにかみながら俺の手を掴む。

手じゃなくて、手のひらを握りたい。
ぎゅっと握った。

今の俺の気持ちを精一杯表した。

彼女も照れながら握り返してくれる。


きっとすごく彼女を好きになった。
彼女はどうかな。

「俺の名前はね、岬って本名なんだ。

女の子みたいだと笑わないでね?」


そう言ったのに笑われた。

でも馬鹿にしてるんじゃなくて静かに
微笑んでいるような笑いだった。


繁華街の、灯りが揺れて
真っ白な彼女を囲んでいるように見えた。


映画に誘った日。次に会う日も約束をした。

毎日彼女にメールする。
今度はすぐに返事が返ってくる。

俺は舞い上がった。

「自然と触れ合ってない」

そう、オフ会の時彼女は言っていた。

俺の実家近くも田舎だ。

鴨や白鳥が飛来してる池が有名な
観光名所がある。渋いけどね。

2度目に会った時は真っ直ぐそこに
連れて行った。

俺には見慣れた光景でも彼女には
かなり新鮮みたいだ。

パンくずを買ってきて彼女に
まるごと渡して、餌付けさせた。

ちゃんと食べれない鳥にむきになって
エサを与えようとする。

可愛いな、本当にそう思った。

「ねぇ、モテるでしょ?」

率直に聞いてみた。失礼だったかな?

なのに、

「うーん、ちゃんと付き合える人しか
興味ないかもね」

そう言う。

濁すか、謙遜するか、または自慢するかと
思ったのに。

「素直なんだね」

そう言うと、

「年上をからかうの?」と

こんな時ばかり年上を気取る。

凄く楽しかった。

こんな人が付き合ってくれるなら
俺の決まった人生にも華やかさが増す。

そのまま実家に連れていった。

こんな時ばかり親父は不在で
ホッとしたけど、本当は
彼女を紹介したかった。

でもまだ時期が早いか。そう言うと

「まだ早いよ!岬くん!ふふ。
もう少しお互いを知ろうね?」

そう言われた。

考えなんてお見通しか?
若い俺は分かりやすいのか?

そのまま俺の実家の部屋に通した。

今は住んでないけど、来月には市内での
独り暮らしをやめてここに
戻って来る事を話した。

彼女がいるならもう少し独り暮らししても
よかったかな。


俺は色々探り会う事は嫌いだ。

はっきりと言った。

「俺と付き合ってもらえますか?」と。

嬉しそうに

「うん、もちろんOKです。ありがとう」

と両手を握って返事してくれた。

本当に彼女が俺だけの彼女になった!

どんどん仲良くなっていく俺達。

1ヶ月も経たないうちに
彼女の家に入り浸りになった。
 

でも、俺は緊張しすぎて
彼女と深くなるまで3日かかった。

初めてキスする。
彼女を壁に挟んでそっと。
それだけでその日は十分。

ハグだけずっと長くして彼女の
髪の匂いの良さに酔う。


次の日はキスを長く堪能して、
ソファーに押し倒し彼女の柔らかい
小さな胸を触り、鼻で首筋をくすぐる。

彼女も「好き……」と言い少し吐息漏らす。
甘い声を出させてしまっただけで俺が……。
抱き締めるだけで精一杯。


3日目、今日こそ!と
意気込んだら、彼女は明るく

「岬?お風呂入ろう!」と全裸になる。

「ちょっとそれはダメだよ!引くよ!」

そう言っても俺も脱がされ、
笑いあって風呂場に連れていく。

でもおかげで風呂上がりに
小さなキスを繰り返しながら 

時にはディープになる。

やっと自然に彼女とひとつになれた。
もうダメだよ。そう漏らすと、

「お願い。動かないで……このまま」

か細く甘い声で漏れるよう囁いて抱きつく。
 
少し鼓動が収まりもう少し奥までいく。 

彼女の漏らす吐息でゆっくり静かに深く。  
深く奥まで行くと俺の腰に手を伸ばして
押さえる。彼女の甘い声に合わせて
下から上にゆっくり滑らせ溝を。 

このリズムで彼女の声が少しずつ強く漏れる。
俺がもうムリそうだと言うがキスで閉じる。
更に奥深く探ると初めての感動に逢った。


年上のせいか
俺もリードしたいけど

彼女の方が俺のポイントを 早く掴む。
経験値が、桁違いなのかな。

でも彼女と抱き合うと心底から
愛おしくなる。切ないくらいに。
こんな感じ、初めてだった。

うなじや華奢なくびれにたくさんキスする。
可愛いと言うと身体全体がギュッと締まる。

「……好き、岬。凄く……」と妖艶に苦悶する。

もう、夢中だよ、こんなの。痺れてる。
溺れてしまうよ。めちゃくちゃ好きだよ。



俺の引越しも近づいて来てた。
荷物を整理するため実家に帰った時。

夜勤のはずの彼女から電話が来た。

「岬の家に行きたいのに夜の道じゃ 
わかんない。迷っちゃったよ」

ほとんど泣いている。

「仕事中じゃなかった?」

そう言うと、今日は替わってもらったので
時間が空いたと言う。

土地勘のない彼女。
夜は本当にわからない道だろう。

目印を言ってもらったが、俺もピンと
来ない。

でも、今すぐ彼女の所に行きたかった。

探した。

引越しするはずの俺の家から
かなり外れている。

方向音痴もあるのかな。

彼女の車をやっと見つけた時は 
不安いっぱいだったのだろう。

涙をいっぱい溜めていた。

今日は実家には帰らない。
大丈夫、一緒に居るから。

俺のアパートに連れて行き、冷たくなった 
彼女の身体を毛布でくるみ
風呂にお湯を溜める。

何か不安げだった彼女の気配を感じ、
ずっと朝まで抱いて寝た。

すごく愛おしかった。

11月も終わりになり、
彼女は職場をやめると言い出した。

体調が悪く、休みがちな自分は
少し体調を治すために辞めると言う。

でも、彼女も今月で職場のアパートを
引き払い、次の家を見つけなきゃと
言う。

俺が入り浸るのも当然だから
一緒に部屋を探した。

新婚カップルみたいに
あちこち探して歩いた。

でも、結局は親父の不動産を借りた方が
安いし、手間もかからない。

親父の力を使ってアパートを借りた。
彼女は俺の両親にお礼に来た。

頑固で偏屈な親父なのに
ニコニコしている。

母親もハワイから帰って来たばかりで、
初めて会う彼女なのに
お土産を渡している。

誰からも好かれる印象を
持つのは俺だって鼻が高いよ。

実家にもよく連れて行ったし、
彼女のそばにずっといた。

「今はちょっと身体の具合が悪いけど
来年になったらちゃんと就職したい」

そう彼女は言っていた。

何処が悪いんだろう?
訊いてもはっきりとはわからない。

彼女が離婚して小さな子供がいると
訊いたときは驚いたが

それでもここに彼女はいる。

別に過去なんかいいじゃないか
そう思った。

俺の素直な気持ちは、彼女と一緒に
なりたい。結婚するなら彼女だと。

迷いなんか無かった。






雪の華  1


  

美優