水曜日の夜。
仕事終わりに赤羽駅前でタクシーに乗った。
なんだか綿のように疲れた。
早く帰って泥のように眠りたい。

あ、僕もずっと誤用していましたが、
綿のように疲れて
泥のように眠る
のだそうで、、、

戻って、
ひどく疲れていたんで、
運転手さんに家までのルートを告げて
座席で少し眠らせてもらおうか、、、
と、思った矢先

助手席の前の乗務員証を何気なく見ると
見覚えのある名前。
それもかなり珍しい名字。

「この運転手さん、たしか、、、」

と思いつつ確信が持てないので黙っていることに
けれども、気になって眠れない。
しばらく窓の外を眺めながら脳みそをかき回していると

「失礼ですけど、伊集院光さんですよね」

と、あちらから話を振られた。
「は、はい」
「ラジオ聞かせてもらってますよ」
「ありがとうございます」

会話の糸口がつかめたので

「失礼ですけど、元プロ野球選手の◯◯さんですよね」
「え?僕のこと知ってるんですか?」

やっぱりそうだった。
運転手さんは、僕が一番熱心に野球を見て
それこそ選手名鑑の端から端まで穴が空くほど読み込んで
全球団の選手を背番号順に暗記していた時代の選手だった。

いわゆるスタープレイヤー、有名選手ではなかったけど
代打で結構見かけることもあった。
スポーツ新聞に「ドラフト外の小兵選手が一軍定着」
みたいな記事で取り上げられていた記憶もある。

プロ野球を辞めた後は苦労なさったこと、
その時期は野球が好きじゃなくなったこと
◯◯選手が同じ球団に入ってきた時は「やばい」と思ったこと
活躍しないですぐに帰国した外国人選手のこと
野球がやっぱり好きだって思い出したこと
お客さんに気づかれることはあまりないってこと

さながらインタビュー取材の様相で
すぐに家についた。
勿論、車中で眠ること無く
帰っても、かみさんに運転手さんのことを興奮気味に話す。

僕にとって「プロ野球選手」とはそういうものだ。