『SOUL LOVE ~コメディ~』

【登場人物】2名(男1・女1)

陽太:春華の結婚相手。秋奈は友達。
秋奈:陽太の友達。春華の親友。
春華:陽太の結婚相手。2年前、秋奈と階段から落ちて死亡(?)陽太:サトル:心臓と記憶を無くした男の子。


【ジャンル】ラブ&コメディ
【上演時間】20分

【あらすじ】
 目が覚めると結婚式で誓いのキスをしていた。
 そんな場面から始まるコメディ。

 同じシチュエーションから始まるもう一つの物語「SOUL LOVE ~サスペンス~」もあります。



【本編】



 教会・結婚式。

 秋奈が意識を取り戻すと陽太とキスをしていた。



秋奈:んんん!? うわあああ!! な、な、なにするの、陽太くん!

陽太:なにって・・・なにが?

秋奈:なんで私、陽太くんとキスしてるの!? え、あれ? ここどこ? なんで陽太くん、タキシード着てるの!?

陽太:誓いのキスだろ。いきなりどうしたんだよ。

秋奈:誓いのキス!? け、結婚式!? 私と陽太くんが!? ええっ、どゆこと!?

陽太:まさか・・・。

秋奈:陽太・・・くん・・・?

陽太:すいません、皆さん。少しお時間を頂けますか。二人で少し話をさせてください。秋奈、こっちへ。すいません。すぐに戻りますから。

秋奈:え、ちょ、ちょっと陽太くん、引っ張らないで。転んじゃう! 転んじゃうから!



 教会を出る二人。



陽太:(溜め息)秋奈・・・なんだよな?

秋奈:陽太くん、いったい何がどうなってるの?

陽太:落ち着けって。ちょっと俺も混乱してる。

秋奈:な、なんなのこれは。ちゃんと1から説明してよ。

陽太:どこまで覚えてる?

秋奈:どこまで?

陽太:記憶だよ。お前の記憶はどう繋がっているのか聞いてるんだ。

秋奈:えっと・・・。酔っ払ってた時に公園の階段で足を踏み外して、春華がとっさに助けてくれようとしたんだけど二人とも階段から落ちちゃって・・・。そして、気がついたら陽太くんとキスしてた。

陽太:そうか・・・。そうなるのか。その間のことは何も覚えてないのか?

秋奈:・・・うん。

陽太:秋奈が春華と階段から落ちたのは2年前だ。

秋奈:2年前!? 私、何も覚えてない。

陽太:・・・本当に?

秋奈:うん。

陽太:そうか・・・。

秋奈:うん。

陽太:・・・。

秋奈:なにがどうなってるの?

陽太:二人で階段から落ちて、春華は頭を打って亡くなった。

秋奈:え、嘘!?

陽太:本当だよ。こんな嘘はつかない。

秋奈:春華は私を守ってくれたの?

陽太:ああ。秋奈を抱きかかえるようにして階段から落ちたらしい。

秋奈:そんな・・・。

陽太:それで、秋奈が目を覚ましたら、中身が春華になってた。

秋奈:は? えええ!? わかんない、わかんない。どゆこと?

陽太:俺もよくわかんないけど、春華の魂は天国に行かずに秋奈の中に入ってしまったんだ。てっきり、秋奈の魂は天国に行ってしまって、抜け殻の体に春華が入ったんだと思ってた。

秋奈:私、死んでないし。

陽太:そうみたいだな。

秋奈:え、じゃあ今まで私の体を春華が動かしてたってこと?

陽太:そうそう。

秋奈:で、陽太くんは、私の体の春華とつきあってて。

陽太:そうそう。

秋奈:それで、今日は結婚式?

陽太:大正解。連続正解おめでとう。

秋奈:私の体で勝手になにやってんのよ!

陽太:ごめんなさあああい!

秋奈:謝ってすむ問題かああ!

陽太:だって仕方ないじゃん。秋奈は死んだと思ってたんだから。

秋奈:勝手に殺すな!

陽太:ホントにごめん。悪いことしたと思ってる。だから、ここはひとつ、このまま成仏してくれないか。

秋奈:「ここはひとつ」じゃねぇよ。

陽太:俺と春華へのご祝儀ってことで。

秋奈:メチャクチャ言うな!

陽太:友達だろ。

秋奈:そうだよ、ただの友達ですけど!

陽太:春華は秋奈の親友だろ。

秋奈:そうだよ、私の大親友!

陽太:だったら俺たちの結婚を祝福してくれてもいいだろ。

秋奈:おめでとーー! でも、それとこれとは話が別! この体は元々私の体なの。

陽太:(舌打ち)2年間も寝てたくせに、今さら所有権をアピールされても困るんだよな。

秋奈:今、舌打ちしたなコラ! こちとら好きでずっと寝てたわけじゃねぇんだよ。私の体、借りパクするつもりか。延滞料金払え!

陽太:無茶言うなよ。

秋奈:どっちが無茶言ってると思ってんの!

陽太:わかったわかった。とりあえず落ち着け。

秋奈:(荒い息)

陽太:えっと・・・ねぇ、秋奈さん。

秋奈:何よ?

陽太:俺の春華はどこに行ったの? もう2度と会えないってことはないよな?

秋奈:たぶん大丈夫。私と交代して頭の中で眠ってる気がする。なんとなくだけど。

陽太:そうか。よしわかった。どうしてもと言うならその体をお前に返してやってもいい。だから、春華の魂を返してくれ。

秋奈:返すもなにも、この体の所有権は私だって言ってるでしょ。もし仮によ。春華の魂を私の頭の中から取り出せるとして、今度はそれをどこに移すつもりなの?

陽太:俺が引き受ける。こんなこと、誰かに頼むわけにはいかない。

秋奈:えっと、そうなると陽太くんの体に陽太くんの魂と春華の魂が一緒に入るってこと?

陽太:そういうことだ。

秋奈:ホントにいいの?

陽太:もちろん。心の距離ゼロの、理想の夫婦関係だ。

秋奈:え、何言ってんの。

陽太:境界線みたいな体が邪魔じゃないんだぞ。

秋奈:いや、ホントに意味わかんない。

陽太:で、出来るのか?

秋奈:どうやったらいいのかわかんないよ。

陽太:つまりは春華の魂を移す方法がわかるまで、このままってことか。

秋奈:そうなるかな。

陽太:ああ、早く結婚式に戻らなきゃいけないのに。秋奈、とりあえず俺と結婚してくれ。

秋奈:とりあえず!? そんなテキトーなプロポーズがあるかああ!

陽太:みんなが待ってるんだ。頼むよ。

秋奈:いきなりそんなこと言われても困る。2年ぶりに目が覚めたら、友達といきなり結婚式やってた私の気持ちも考えてよ。

陽太:秋奈の父さんも親戚もいるんだ。それにもう神様の前で永遠の愛を誓っちゃったし。

秋奈:私は誓ってなーい!

陽太:秋奈、お前、彼氏いるのか?

秋奈:いないけど。

陽太:じゃあ、好きな人とか。

秋奈:それはその・・・なんて言うか・・・。

陽太:相手がいないんだったら頼むよ。俺に恥をかかせないでくれ。それに秋奈のお父さんもきっと悲しむ。

秋奈:お父さん?

陽太:そうだよ。幼い頃に母を亡くした秋奈を男手ひとつで大切に育ててくれた、お前のお父さんだ。

秋奈:ずるい。そんな言い方されたら断れないじゃん。

陽太:秋奈、頼む。

秋奈:じゃあ、ちゃんと言ってよ。

陽太:何を?

秋奈:プロポーズ。

陽太:ええぇ・・・。

秋奈:真剣に私にプロポーズしてくれたら、とりあえず結婚式は続けてあげる。

陽太:俺が愛してるのは春華だけだ。

秋奈:わかってる。それでもいいから。真剣なふりでいいから。

陽太:嘘でもいいのか?

秋奈:うん。

陽太:(真剣に)秋奈・・・。

秋奈:は、はい。

陽太:君を愛してる。一生幸せにするから、俺と結婚してください。

秋奈:・・・。

陽太:・・・秋奈?

秋奈:はい。不束者(ふつつかもの)ですが、よろしくお願いします。

陽太:よし、じゃあ戻ろう。

秋奈:うん。

陽太:ほら、腕に捕まって。

秋奈:え?

陽太:新郎新婦の入場って言ったらこれだろ。

秋奈:わかった。ほわあああ・・・。

陽太:どうした?

秋奈:展開が早すぎてついていけない。

陽太:頑張れ。

秋奈:頑張るけどさあああ。あの、陽太くん、戻る前に聞きたいことがあるんだけど。

陽太:なに?

秋奈:私の体を春華に貸してた間に、その・・・。

陽太:なんだよ?

秋奈:こ、婚前交渉というか、なんというか・・・。

陽太:え? あ、セックス? ああ。そりゃもちろん。そりゃもう、何度も。

秋奈:ふえええええ!?

陽太:秋奈の体のことなら秋奈より詳しいよ。

秋奈:なななにしてくれてるわけぇ!?

陽太:だってほら、普通、やるだろ。

秋奈:人から借りた物を傷つけちゃいけないって親から教わらなかったの!?

陽太:あぁ、そういえば、俺が初めて秋奈の体を・・・。

秋奈:んぎゃあああ、それ以上は言わないで!

陽太:わかったわかった。ほら行くぞ。

秋奈:くっそぉぉぉ。結婚式終わったら、絶対ぶっとばしてやる。



その日の夜。ホテルの一室。



秋奈:(上機嫌)ああぁ、やっと終わったね。

陽太:お疲れ様。

秋奈:結婚式の後、すぐに披露宴。それが終わったらすぐに二次会。ちっとも陽太くんと話せないんだもん。

陽太:仕方ないよ。

秋奈:私、うまく出来てたかな?

陽太:ああ。2年振りに春華と入れ替わったとは思えないくらい。

秋奈:春華だった頃の私と違和感なかった?

陽太:たぶんバレてないと思うよ。お父さんとは話した?

秋奈:うん。お父さんへの手紙を披露宴で読んだ時、号泣してるお父さんを見て、心の中でツッコんでた。これ書いたの私じゃないし! 春華だし! 2年間別人になってたのに全然気づいてなかったんかーい! って。私、本当にお父さんに愛されてたのかな。

陽太:その辺は、怪我で記憶が混乱してるとかなんとか言って春華がうまくやってたからな。

秋奈:ねえ、陽太くん。

陽太:なに? あ、一発、殴るんだっけ? いいよ。どんとこい。

秋奈:それはもういい。

陽太:いいの?

秋奈:なんだかんだ今日一日幸せだったし。あ、いや、陽太くんと結婚したことじゃなくて、素敵なドレス着て、みんなに祝福されたのが嬉しかったってことね。

陽太:わかってるよ。でもこれからどうするかな。

秋奈:それはこっちの台詞。ねぇ、新婚旅行どこ行くの?

陽太:オーストラリア。旅行から帰ったら、次の日から仕事だけど。

秋奈:おおお!

陽太:え、えええ、ちょっと待って。オーストラリア、秋奈と行くの?

秋奈:まあ、このままならそうなるよね。

陽太:マジかよ。秋奈、お前、春華の結婚式を横取りしておいて、春華があんなに楽しみにしていたオーストラリア旅行まで春華の代わりに行くつもりなのか!?

秋奈:不可抗力だから。私、悪くないよね!?

陽太:そうかもしれないけど、俺、なんて説明すればいいんだよ。

秋奈:知らないわよ。って言うか、なんでさっきから私が悪いみたいに言われなきゃいけないの!? むしろ、私、被害者だよね?

陽太:そりゃわかってるけどさ。春華の気持ちも考えてやれよ。

秋奈:仕方ないから写真いっぱい撮って、春華が目覚めたら見せてあげればいいよ。

陽太:あー、でもそれはそれで文句言われそうだなぁ。

秋奈:オーストラリアかぁ。楽しみだなぁ。

陽太:人の気も知らないで。

秋奈:まあ、こうなったら、なるようにしかならないよ。

陽太:そうだよなぁ。あ、そういえば秋奈?

秋奈:なに?

陽太:俺たち結婚したんだよな?

秋奈:そうだね。

陽太:あのさ。

秋奈:だからなに?

陽太:夫婦の営みってどうするの?

秋奈:はあ!?

陽太:いや、ほら、だって、せっかくこんないいホテルに泊まってるのに。

秋奈:ばっ、ばっかじゃないの! するわけないでしょ。私、キスだってまだなのに。

陽太:キスは教会でやったよ。

秋奈:うわー、そうだったああ!私の唇、返せ! それに、もっと色々返せ!

陽太:悪かったよ。だから責任は取る。

秋奈:どうやって?

陽太:(近づいて)こうやって。

秋奈:え、ちょっと近づかないで。待って待って。まだお風呂も入ってないし、心の準備が出来てないし。って、いやいや、そうじゃなくて、私と陽太くん、ただの友達だよね?

陽太:(迫る)お前の弱いところ、俺はいくつも知ってるよ。

秋奈:いや・・・だめ・・・。

陽太:秋奈・・・。

秋奈:陽太くん・・・。

陽太:(笑)冗談だよ。秋奈、顔真っ赤だな。

秋奈:えぇ?

陽太:何にもしないよ。秋奈を襲ったことが春華にバレたら、「絶対離婚する」って言われちゃう。

秋奈:そ、そうだよね。

陽太:あれ? 襲ってほしかったの?

秋奈:そんなわけないじゃない! 私、お風呂入ってくるから。絶対覗かないでね。

陽太:わかってるよ。もう秋奈の裸、見慣れてるけどな。

秋奈:そういう問題じゃない!

陽太:(笑)



 翌朝。

 秋奈→春華



春華:陽太。陽太、起きて。

陽太:えぇ、あぁ、おはよ。

春華:ゆうべはおたのしみでしたね。

陽太:は? 何もなかったよな? え、あれ?

春華:私よ。春華。

陽太:ホントに春華?

春華:うん。秋奈と入れ替わった。

陽太:(抱きしめて)春華!

春華:ちょ、ちょっと陽太、離して!

陽太:もう会えないかと思ってた。いや、絶対戻ってきてくれるって信じてた。春華、春華、春華ー!

春華:大袈裟よ、落ち着いて。

陽太:秋奈が生きていたんだ。

春華:うん。知ってる。

陽太:えっ、知ってるの?

春華:うん。だって私の意思で入れ替わったんだから。

陽太:わかんないわかんない。なんでそんなことしたの? 自由自在に入れ替われるってこと? って言うか、春華は秋奈が生きていること、前から知ってたの?

春華:落ち着いて。ちゃんと説明するから。秋奈の魂が生きているって気がついたのは結婚式が始まる直前。控室でウェディングドレスを着て鏡の前に立った時だった。うまく説明出来ないけど、私とは別の意識の存在を頭の中に感じたの。すぐに秋奈だってわかった。よかった。秋奈は死んでなかった。ただ眠っていただけなんだ。私は命をかけて秋奈を守ることが出来たんだって。

陽太:春華・・・。

春華:でも、秋奈が生きてるってわかったら、急に申し訳なくなっちゃって。だってほら、勝手に秋奈の体を使って陽太と結婚したことを知ったら、絶対怒るだろうなって。

陽太:ああ、確かに。すげぇ怒られた。

春華:だからお詫びに結婚式と披露宴は秋奈に譲ってあげようと思って。そんなことで2年間も体を借りてたことがチャラになるとは思えないけど。

陽太:よかったのかよ? ウェディングドレス、楽しみにしてたんじゃなかったのか?

春華:だからこそよ。それを私が独り占めなんてできない。

陽太:そっか、そういうことか。でも、結婚式の最中に入れ替わることなかっただろ。

春華:驚いた?

陽太:すげぇ焦った。

春華:秋奈も驚いてた?

陽太:ああ。階段から落ちたら次の瞬間に俺とキスしてるって、どゆこと〜って。

春華:(笑)サプライズ大成功。

陽太:サプライズだったのか!?

春華:一生忘れられない一日になったでしょ。

陽太:まあ確かに。

春華:でもオーストラリアにはどうしても行きたかったから、また出てきたの。

陽太:結婚式は譲ってもオーストラリアは譲れないってこと?

春華:結婚式は私だけのものじゃないでしょ。お父さんに、ホントの娘の結婚式を見せてあげたかったの。

陽太:まあ、そうだよな。

春華:どうだった? お父さん泣いてた?

陽太:泣いてたよ。春華の書いた手紙で。

春華:(笑)そこは頑張ったもん。秋奈から子供の頃の話は聞いたことあったから。

陽太:まあ、だいたい事情はわかったよ。でもそんな大事なことなら事前に教えてほしかった。秋奈が俺との結婚を嫌がったらどうするつもりだったんだ。

春華:ああ、それは大丈夫かなって思ってた。

陽太:なんで?

春華:うん、なんとなく。

陽太:ふぅん。まあなんとかなったからいいけどさ。これからどうするんだよ?

春華:これから?

陽太:旅行から帰った後。秋奈と交代しながら生きていくのか?

春華:一日ごとに交代するとか?

陽太:出来るの?

春華:うん。たぶん。スイッチみたいなイメージが頭の中にあるから。眠ってる秋奈を起こすスイッチ。

陽太:へぇぇ。いや、でもさ。その体は秋奈のなんだから、返さなきゃいけないんじゃないか?

春華:まあ、そうだよね。じゃあ私は成仏すればいいの?

陽太:するなよ! ずっと俺のそばにいてくれ!

春華:どうやって?

陽太:秋奈とも話してたんだけど、春華の魂を俺の体に移せばいいと思うんだ。

春華:秋奈の体から陽太の体に引っ越すってこと?

陽太:まあ、そういうこと。そんなことが出来ればの話だけどな。

春華:出来るよ。たぶん。

陽太:マジで!?

春華:やったことないけど、出来る気がする。

陽太:じゃあそうしようよ。これは俺たち夫婦の問題だ。秋奈に迷惑はかけられない。

春華:陽太はそれでいいの?

陽太:ああ。俺とひとつになろうぜ。

春華:言ってることわかってる?

陽太:ああ。

春華:ホントにいいの?

陽太:しつこいな。いいって言ってるだろ。これからは言葉は必要じゃなくなるんだよ。高鳴るこの鼓動が聞こえちゃうんだよ。

春華:ちょっと意味わかんないけど、そこまで言うなら、わかった。じゃあ秋奈を起こしてから、すぐにそっちに行くね。

陽太:おう。



 春華の魂が陽太に入る。



陽太:・・・うっ!



 数日後。

 春華→秋奈



秋奈:陽太くん、起きて。

陽太:んんぅ・・・。

秋奈:今日から仕事だよ。ほら早く。

陽太:えっ、ああ、おはよう秋奈。え、仕事? オーストラリアじゃないの?

秋奈:オーストラリアはもう行ってきたよ。

陽太:はあああああ!?

秋奈:旅行から帰った次の日から仕事って言ってたよね?

陽太:なんで!? 俺、何も覚えてないんだけど!

秋奈:春華と入れ替わってたんでしょ。陽太くんの体に入った春華から全部聞いた。オーストラリア楽しかったよ。最高の新婚旅行だった。

陽太:はあああああ!?

秋奈:とっても素敵だった。

陽太:俺、春華の魂を受けとめて・・・、次の瞬間が今なんだけど。入れ替わりって、こういう感じなのか!?

秋奈:写真見る? ほらほら、すっごいキレイ。これがオペラハウスで、こっちがグレートバリアリーフ。

陽太:春華と秋奈でオーストラリア満喫してる間、俺ずっと寝てたってこと!?

秋奈:うん。

陽太:うんって!

秋奈:仕事から帰ったらお土産話たっぷり聞かせてあげるね。

陽太:マジかよ! なんで代わってくれなかったんだよ!

秋奈:春華、旅行楽しみにしてたから。

陽太:そうだけど、えええええ!

秋奈:私も楽しかったし。

陽太:俺の新婚旅行は!? おい、春華、なんとか言えよ!

秋奈:呼んでも無駄よ。寝てるんじゃないの?

陽太:どうやって春華を起こせばいいんだ?

秋奈:スイッチがあるんでしょ?

陽太:どこに?

秋奈:頭の中に。って春華が言ってたけど。

陽太:わっかんねぇよ。

秋奈:そのスイッチって春華にしか使えないのかもね。

陽太:マジで!?

秋奈:春華が私の中にいた時、私もそんなスイッチがあるってわからなかったから。

陽太:ああああ! うわあああ!

秋奈:どうしたの?

陽太:大変なことに気づいてしまった。

秋奈:なに?

陽太:春華が俺の中にいて、どっちかしか出てこれないってことは・・・。俺、春華に会えないじゃん。

秋奈:今さら気づいたの?

陽太:わかってたのかよ!?

秋奈:当たり前じゃない。だから聞いたよね、「ホントにいいの?」って。

陽太:こんなことになるなんて思わなかったんだ。頼む秋奈。もう一度、春華の魂をお前に移させてくれ。

秋奈:ぜっっったい嫌!

陽太:なんでだよ!?

秋奈:そんなことしたら、今度は私が春華に会えなくなるじゃない。

陽太:そうだけど、頼むよ!

秋奈:私ね。陽太くんの顔と声、けっこう好きなんだよね。

陽太:なんだよ、突然。

秋奈:ちょっとドキドキしたこともあったりして。タキシードの陽太くんカッコよかったし。

陽太:え、マジで?

秋奈:でも中身が陽太くんだったじゃない? だから本気で好きにはならなかった。でもね。

陽太:でも、なに?

秋奈:外見が陽太くんで、中身が春華って、なんて言うか、もう最高なのよ。

陽太:は?

秋奈:春華は私の命の恩人。そして私の王子様。

陽太:なに言ってんだよ。

秋奈:オーストラリアの夜、とっても素敵だった。

陽太:え・・・?

秋奈:私の愛する旦那様に会えなくなるなんて耐えられない。だから、陽太くんのお願いは聞けない。

陽太:秋奈・・・お前、まさか春華と・・・。

秋奈:ほらほら、早く準備しないと会社に遅刻しちゃうよ。

陽太:こんなメンタルで仕事なんか出来ねぇよおおおお! 俺の新婚旅行は!? 俺の愛する春華は!?

秋奈:えへへ。陽太くんが帰ってきたら、陽太くんとチェンジして春華に出てきてもらうんだぁ。楽しみだなぁ。

陽太:仕事する時だけ俺が出てくるっこと? そんな結婚生活、あんまりだあああ!



 おしまい。