『赤鼻のサンタクロース』
【登場人物】2名(男性1・女性1)
聖也:中井聖也(なかいせいや)。幼稚園のクリスマス会で毎年星美(ほしみ)と一緒に劇をしている。
雪美:神田雪美(かんだゆきみ)。彼氏とデート中の姉の星美に代わってクリスマス会にやってきた。
【上演時間】30分
【あらすじ】
クリスマスイブ。毎年幼稚園のクリスマス会に参加している聖也は、一緒に参加するはずの星美が来ないことに焦って電話をかける。そこへ星美の代わりに妹の雪美がやってきて・・・。
初対面の2人の奇跡の劇が幕を開ける。
【本編】
聖也:(電話で)もしもし神田? やっと繋がった。今、どこにいるんだよ? は? 来れないってどういうこと!? いまさら何言ってんの、もうすぐクリスマス会始まるんだぞ。え、代わりの人間? もうすぐ着くって、ちょっと! おい! 神田! だめだ、切られた。
雪美:あの〜。
聖也:何考えてんだよ、アイツ。
雪美:あの〜。
聖也:俺一人でどうしろってんだよ。
雪美:あの、聞こえてます?
聖也:ごめんなさい。ちょっと黙っててくれますって、えっ、誰?
雪美:あなたが中井君でしょ? 神田星美の代わりで来ました神田雪美です。よろしくお願いします。
聖也:え? はぁ!?
雪美:お姉ちゃんにクリスマス会の劇の代役を頼まれてきました。
聖也:神田の妹?
雪美:はい。一つ年下です。
聖也:代わりって、どういうこと?
雪美:だから、お姉ちゃんに「急に予定が入っちゃったから、代わりに行ってくれる?」って言われて。
聖也:はあ?
雪美:きっと中井君が困ってるだろうからって。
聖也:困ってるけど、いきなり代わりって、そんな簡単に代われるもんじゃないだろ。
雪美:そうなの?
聖也:神田じゃなきゃ困るんだよ。
雪美:どうして? 幼稚園児に見せる劇の代役でしょ? 私、出来るよ。
聖也:そんな簡単に言うなよ。台本は読んできたのか?
雪美:読んでない。お姉ちゃんくれなかったし。
聖也:今から覚えるの!? 無理だよ。今、園児たちがやってるゲームが終わったら、すぐ出番なんだから。
雪美:そこはまあ、アドリブで。
聖也:いきなりそんなこと出来るわけないだろ。芝居の経験あるのか!?
雪美:ない。
聖也:それでどうしてそんなに自信満々なんだよ。
雪美:相手は幼稚園児でしょ? 適当にやるから大丈夫だよ。
聖也:バカ。毎年楽しみにしてくれてる保育士さんや、園児の親御さんも沢山見に来てくれてるんだ。そんないい加減なものじゃないんだよ。
雪美:初対面でバカってなによ、ひどくない!?
聖也:あ〜、まいったな。もうこうなったら俺一人でなんとかするから帰っていいよ。
雪美:嫌だ。
聖也:なんで?
雪美:お姉ちゃんに代役を任されたから。それに帰っちゃったらバイト代貰えないし。
聖也:バイト代?
雪美:うん。ちゃんとやったら一万円くれるって。
聖也:一万!? このクリスマス会の劇ってボランティアなのに?
雪美:あ、そうなんだ。
聖也:あのさ、神田の妹……。
雪美:雪美って呼んでいいよ。
聖也:じゃ、雪美。
雪美:はいはいなんでしょう?
聖也:神田は今日何やってんの?
雪美:お姉ちゃん?
聖也:うん。クリスマスイブに約束をドタキャンして、妹に一万円渡して、どこ行ったの?
雪美:……知りたいの?
聖也:うん。
雪美:聞いたら後悔するかもしれないよ。
聖也:教えてくれよ。
雪美:お姉ちゃんは彼氏とデートに行きました。
聖也:ああああ、やっぱりいいい! マジかよ、神田。お前、この前彼氏いないから大丈夫って言ってただろうが。いつの間に彼氏作ってんだよ、ふざけんな。
雪美:フラれちゃったね。
聖也:そんなんじゃねぇよ、こっちの予定をすっぽかされたから怒ってんだよ。
雪美:ホントに?
聖也:アイツは俺を裏切ったんじゃない。クリスマスの劇を楽しみにしてる園児たちの期待を裏切ったんだ。許せないだろ。
雪美:まあ、しょうがないよ。幼稚園児に見せる劇と彼氏とのクリスマスデートだったら私だってデートを優先するよ。
聖也:こっちの予定のほうが先だっただろ。
雪美:可愛い妹が代わりに来てあげたんだからそれでいいでしょ。
聖也:あのさ、神田はいつ彼氏できたの?
雪美:昨日。
聖也:昨日!?
雪美:写真見たんだけど超イケメンだった。あんなイケメンに告られたらさすがのお姉ちゃんもオッケーしちゃうよ。知ってる? クリスマス前に告白すると成功率上がるらしいよ。この時期、やっぱり一人じゃ寂しいもんね。
聖也:なんでだよ……。
雪美:中井君は彼女いないの?
聖也:いないよ。でももし彼女がいたとしても、俺はこのクリスマス会のほうが大事だね。
雪美:さっき毎年やってるって言ってたよね?
聖也:ああ。俺、年の離れた妹がいてさ。妹が幼稚園に通ってた頃、頼まれてサンタクロースをやったんだ。その頃、幼稚園で絵本の読み聞かせをやっていた神田と一緒に。それからなぜか毎年二人でクリスマス会の寸劇を頼まれるようになって。
雪美:お姉ちゃんそういうの好きだもんね。つまり中井君は毎年彼女がいないんだ。
聖也:さっきからなんなんだよ。モテないわけじゃねぇからな。俺だって、プレゼントくれる女子くらいいるよ。
雪美:あ、その袋、クリスマスプレゼント?
聖也:そうだよ。(袋を奪われて)あ、こら、ちょっと、返せ。
雪美:中身はお菓子かな? あ、メッセージカード。なになに……。
聖也:勝手に読むな。
雪美:『中井君、今年も頑張ってね』。なにこれ?
聖也:……保育士さんから貰ったんだよ。
雪美:その保育士さんって、美人なお姉さんだったりする?
聖也:ぽっちゃりなおばちゃんだよ。ちなみに俺と同い年の息子がいる。
雪美:(笑)あのね、これは違うよ。これは確かに女性からのプレゼントだけど、劇をやってくれるお礼みたいなもので、クリスマスプレゼントとは違うからね。
聖也:わかってるよ。
雪美:うんうんわかるよ。バレンタインに義理チョコでも貰えたら嬉しいっていうモテない男子の気持ち。
聖也:ほっとけ。
雪美:毎年、保育士さんから貰えるお菓子の袋を楽しみにしてたんだ?
聖也:そんなわけないだろ。
雪美:だってバイト代っていうか、お金貰えるわけでもないんでしょ?
聖也:頼まれたら断われないだけだ。
雪美:はいはーい。そういうことにしておきまーす。
聖也:あー、そんなことより。
雪美:どうしたの?
聖也:劇だよ、劇。台本読んで。すぐ覚えて。
雪美:え、これが台本? 無理だよ、こんなの覚えられるわけないじゃない。
聖也:いいから読め。
雪美:どんな話なの?
聖也:『赤鼻のトナカイ』って歌があるだろ? あの歌をお芝居にしたんだ。
雪美:(歌って)真っ赤なおっはっな〜の〜トナカイさ〜ん〜は〜♪ ってやつね。知ってるよ。
聖也:俺がサンタクロースをやって、神田がトナカイをやる予定だった。
雪美:この台本、中井君が書いたの?
聖也:そうだよ。
雪美:すごいねぇ。よく出来てる。
聖也:まぁな。
雪美:えっと、赤い鼻を笑われてるトナカイがサンタに励まされて頑張るって歌だよね?
聖也:ざっくり言えばそんな感じ。
雪美:まあ、なんとかなるんじゃない。
聖也:芝居の経験ないんだろ?
雪美:あるよ。小学校の時に村人Bをやった。
聖也:そんなの経験のうちに入るか。
雪美:中井君はどうなの?
聖也:俺は毎年やってるから。
雪美:それだってたいしたことなくない?
聖也:(保育士に呼ばれて)あ、はい。もうゲームが終わるんですか? 次ですよね、わかりました。すぐ準備します。
雪美:……今のがプレゼントくれた保育士のおばちゃん?
聖也:そうだよ。
雪美:そっかぁ。中井君はああいうのがタイプなのかぁ。
聖也:そんなわけないだろ。
雪美:(笑)
聖也:もういいよ。適当にやってくれれば俺がなんとかするから。くれぐれも余計なことして足引っ張るなよ。
雪美:おう。任せとけ。
聖也:大丈夫かなぁ。ほら、これに着替えて。
雪美:うわ、トナカイの衣装? そっちはサンタクロースだ。すごーい、本格的。
聖也:早く着替えろ。
雪美:服の上から着ていいよね?
聖也:ああ。大きめのサイズだから多分大丈夫。
雪美:(衣装を着て)よいしょっと。あ、記念に写真撮っとこ。
聖也:そんなのいいから。あ、おい、そういえば鼻はどうした? 持ってきた?
雪美:鼻? なにそれ?
聖也:東急ハンズで買ったピカピカ光る赤い鼻だよ。まさか忘れたのか?
雪美:そんなのお姉ちゃんから渡されなかったし。
聖也:マジかよ、何やってんだよ神田。
雪美:でもこのツノと衣装を見れば誰だってトナカイだと思ってくれるよ。
聖也:『赤鼻のトナカイ』をやるんだぞ。鼻が赤くないと困るんだよ。
雪美:あ、保育士さんがステージで挨拶してる。
聖也:雪美、これで鼻を赤く塗ってくれ。
雪美:赤のクレヨン? そんなの嫌に決まってんでしょ。恥ずかしい。
聖也:これしか方法はないんだよ。頼む。
雪美:絶対やだ。
聖也:赤鼻のトナカイの鼻が赤くなかったら劇が成り立たないだろ。
雪美:ほら、園児たちが「サンタクロースさーん」って呼んでるよ。早く行かなきゃ。
聖也:雪美、お願いだ。鼻を赤く塗ってくれ。
雪美:嫌だって言ってんでしょ。
聖也:(自分の鼻を赤く塗る)……!
雪美:え、何やってんの? なんで中井君が自分の鼻、赤く塗ってるわけ!?
聖也:俺もやったんだから、お前もやれ。
雪美:うわ、意味わかんない。もう知らない。私、先に行くわよ。
雪美がステージに飛び出す。
雪美:みんな、お待たせー! トナカイのお姉さんだよ〜。
聖也:あぁ、こらっ。
雪美:はいはーい、拍手ありがとー。え? 星美お姉ちゃんじゃないって? そうだよぉ。私はぁ、星美お姉ちゃんの妹の、雪美お姉ちゃんって言うんだよ。みんなよろしくねぇ。わー、ありがとう。みんな可愛いなぁ。え、何? お姉ちゃんも可愛い? じゃあ、星美お姉ちゃんと私、どっちが可愛い? (笑顔で)そっかー。全員一致で星美お姉ちゃんかー。みんなお世辞って言葉知ってるかなぁ? 後でぶっ飛ばすぞぉ♪
たまらず聖也もステージに出る。
聖也:おいこらトナカイ。
雪美:それと、星美お姉ちゃんは私のお姉ちゃんだからね。みんなのお姉ちゃんじゃないんだよ。そこ、ちゃんと覚えとけぇ。
聖也:トナカイ、お前はさっきから誰と喋ってるんだ?
雪美:え、誰って見ればわかるでしょ?
聖也:ここはいい子のお家の屋根の上だ。積もった雪ばかりでこんなところに誰もいないだろう。
雪美:あ、ここ屋根の上って設定だったの?
聖也:そうだよ。俺たちはクリスマスの夜、子供たちにプレゼントを配っている途中じゃないか。
雪美:ああ、そうだったね。思い出した。大丈夫、大丈夫。
聖也:ああ、そうかわかった。あそこの小さな雪ダルマに話しかけていたんだな。
雪美:そうなの。小さくて可愛い雪ダルマがいっぱいあって、それに話しかけていたの。雪ダルマだけじゃないよ。雪の妖精と雪女、雪男、ユキカブリ、ユキノオー、雪見だいふく。
聖也:そんなにいたのかよ。
雪美:それはそうとサンタさん?
聖也:なんだいトナカイ?
雪美:なんでサンタさんのお鼻が赤いの?
聖也:それを聞くか! これは……鼻をかみすぎて赤くなったんだよ!
雪美:変なの〜。みんな、サンタさんの鼻が赤いの変だよねぇ〜。ぷぷぷぷ。
聖也:だからお前はさっきからなんで雪ダルマに話しかけてるんだよ!
雪美:寒くて鼻水出ちゃうんだよね。それで鼻をかみすぎちゃうんだよね。わかる。そういう時はね、柔らかいティッシュを使えばいいんだよ。ちょっとセレブな高いやつ。
聖也:教えてくれてありがとう。それで、トナカイ。
雪美:(明るく)はーい、なになに?
聖也:何か悩みがあるんじゃないのか?
雪美:悩み?
聖也:そうだよ。だからプレゼントを配るのを中断して屋根でおしゃべりしてるんじゃないか。
雪美:えーっと、そう、そうなの。なんにも悩みがなさそうに見えるでしょ? ところがどっこい、私には深ぁい悩みがあるのよ。
聖也:うん。どんな悩みだい?
雪美:えーっと、それはね。
聖也:なんだい?
雪美:それは……。
聖也:うん。
雪美:……逆になんだと思う?
聖也:そ、そうだな。鼻は赤くないし、みんなの笑い者にもなってないからなぁ。うーん、想像もつかない。
雪美:えーっ、まさかの私任せ!? アドリブよわっ。
聖也:うるさい。いいから早く言え。どんな悩みでも俺がなんとかしてやるから。
雪美:マジで!? えっと、だから、私の悩みは……。
聖也:おう、なんだ、言ってみろ。
雪美:(ヤケクソで)この仕事辞めたいです!
聖也:ええええ!?
雪美:(キレて)だってこの仕事、メチャクチャブラックでしょ!? 一晩で何人の子供たちにプレゼント配ると思ってんの!? 百万人よ! サンタと沢山のプレゼントを乗せたソリを引っ張る私の気持ちを考えたことある!? こんな重労働を一日中やらされたら、そりゃ辞めたくもなるでしょ!
聖也:ちょ、ちょっと待てトナカイ。
雪美:間違いなく労働基準法違反よ。訴えてやるー!
聖也:あー、トナカイ、ちょっとこっちに来い!
聖也が雪美を引っ張る。
雪美:え、なに、ちょっと引っ張らないでよ。
雪美:やめて、なに、なんなの!?
二人はステージの横へ。
聖也:(小声で)お前、何言ってんだよ。
雪美:(小声で)とっさのアドリブにしては上手くなかった?
聖也:(小声で)上手くねぇよ。幼稚園児は労働基準法なんか知らないだろ。
雪美:(小声で)子供に労働の厳しさを教えてあげてるのよ。
聖也:(小声で)そんなことしなくていいから。それに、サンタクロースのイメージを悪くしてどうするんだよ。園児たちの夢を壊すな。
雪美:(小声で)だって悩み事って言うから。
聖也:(小声で)この後、どうするんだよ?
雪美:(小声で)知らないわよ。どんな悩みでもサンタがなんとかしてくれるんでしょ?
聖也:(小声で)くっそ。どうすりゃいいんだ……。
雪美:(小声で)ほら、ステージに戻らないと。客席がざわざわしてるよ。
雪美がステージに戻る。
雪美:もー、なんにも落ちてないじゃない。
聖也が後に続く。
聖也:あーごめんごめん。子供たちへのプレゼントを落としてしまった気がしてね。
雪美:こんな雪の中に落としてしまったら、なかなか見つけられないから気をつけてね。
聖也:わかった。気をつけるよ。わっはっは。
雪美:あっはっは。
聖也:(ため息)それで、えっと、この仕事を辞めたいんだっけ?
雪美:うん。そうなの。
聖也:困るよ。トナカイがいなくなったら子供たちにプレゼントを届けられなくなるだろ。
雪美:誰か代わりのトナカイを雇えばいいでしょ。
聖也:(真顔で)……代わり?
雪美:そうよ。別に私じゃなくっても。
聖也:代わりなんていらない。
雪美:え?
聖也:お前じゃなきゃダメなんだよ。
雪美:どうして?
聖也:毎年一緒にやってきただろ。俺はクリスマスはお前と一緒じゃなきゃ嫌なんだ。
雪美:……。
聖也:俺は毎年サンタをやるの楽しみにしてた。お前も同じ気持ちだって思ってた。去年だって、その前だって、すげぇ楽しかっただろ。それなのに……。
雪美:あの、サンタさん?
聖也:(ブチギレ)それなのにドタキャンってなんだよ、ふざけんなよ!
雪美:サンタさん、何言ってるの? 私、ドタキャンなんてしてないよ。この仕事辞めたいって言っただけだよ。
聖也:うるせぇ!
雪美:ちゃんとやってよ! お姉ちゃんから一万円貰えなくなるでしょ!?
聖也:(荒い息)
雪美:サンタさん、落ち着いて!
聖也:(興奮状態から次第に冷静に)……あ、悪い。ちょっと感情的になった。
雪美:大丈夫?
聖也:ああ。
雪美:なんなのよ。逆ギレされるとは思わなかった。サンタのイメージ悪くしてるのはどっちなのよ。
聖也:(落ち着いて)なぁ、トナカイ……。
雪美:なに?
聖也:この仕事も悪くないと思うぞ。俺たちが届けたクリスマスプレゼントで子供たちが笑顔になる。喜んでくれる。それだけで十分じゃないか。
雪美:そういうのを「やりがい搾取(さくしゅ)」っていうの知ってる? やりがいを押し付けて低賃金と長時間労働の言い訳にしないで。
聖也:お前、難しい言葉知ってるな。
雪美:それに感謝されるのはいつもサンタさんだけ。ベッドの横に置かれたミルクやクッキーはサンタさんへのプレゼント。トナカイの私は何も貰えない。
聖也:(何かを思いついて)……そんなことないよ。
雪美:そんなことある!
聖也:トナカイ……。
雪美:何よ?
聖也:(ステージの横を指差し)あそこにあるの、見えるか?
雪美:え、何?
聖也:雪に埋もれてるから見つけにくいかもしれないけど。
雪美:え、なに、なんのこと?
聖也:ちょっとここで待ってろ。取ってきてやる。
聖也、ステージから控室に走る。
雪美:あ、サンタさーん。(困って)あー、サンタさんがどこかに行っちゃったなー。どーしよーかなー。
聖也がプレゼントの袋を手に取る。
聖也:あった。(クレヨンを掴んで)これにクレヨンで一文字書きくわえて……。
ステージの雪美はどうしていいかわからない。
雪美:困ったなー。みんな、サンタさん、どうしたんだろーねー。困ったなー。
聖也がプレゼントの袋を持ってステージに戻る。
聖也:待たせたな、トナカイ。雪の中に埋まっていて、掘り出すのに時間がかかってしまったよ。
雪美:それは?
聖也:子供たちからトナカイへのプレゼントさ。
雪美:そのお菓子の袋が? だってそれ、さっき保育士さんから貰ったって言ってた……。
聖也:(台詞にかぶせて)いいから、受け取れ。
雪美:うん。ありがと。
聖也:メッセージカードがあるだろ。読んでみろ。
雪美:え? (読んで)えっと……『ト、中井君、今年も頑張ってね』
聖也:『トナカイ君、今年も頑張ってね』。ほら、トナカイ、毎年お前が頑張ってること、子供たちはちゃんとわかってるんだ。
雪美:(驚いた後、少し溜めてから大きく頷く)……うん!
聖也:サンタクロースだけじゃない。トナカイだって子供たちに感謝されてるんだ。
雪美:うん。ホントだ。私が頑張ってること、ちゃんと伝わってた。
聖也:だろ?
雪美:うん。すっごく嬉しい。
聖也:だから辞めるなんて言うなよ。一緒に頑張ろう。
雪美:うん。私、頑張る。サンタさんと一緒にプレゼントを子供たちに届ける。
聖也:よし。じゃあ出発しよう。
雪美:うん。あと何人にプレゼント届けるの?
聖也:あと99万9999人だ。
雪美:うわー、大変だ。サンタさん、急がなきゃ。
聖也:よし、大急ぎで行くぞ。
雪美:飛行機よりも速く走るから気をつけてね。
聖也:よーし、わかった。
雪美:いっくよー!
聖也:走れ、トナカーイ!
雪美:うおおおおお!
二人が走ってステージを降りる。
客席から拍手の嵐。
聖也:(大きなため息)……。
雪美:うわ、すごい拍手。聞こえる?
聖也:聞こえてるよ。
雪美:大成功だね。
聖也:そうかな?
雪美:大成功だよ。子供たち大喜びしてる。拍手が鳴り止まないもん。
聖也:うん、ホントだ……。
拍手が鳴りやむまで余韻に浸る。
雪美:あれ? 中井君、泣きそうになってる?
聖也:なってないよ。あー、緊張した。どうなるかと思った。
雪美:すごいアイディアだったね。まさかクレヨンで「ト」を付け足してトナカイにするなんて。
聖也:とっさによく思いついたよ。俺すごくない?
雪美:私もすごくない? アドリブにうまく合わせてたでしょ?
聖也:うん。すげぇ。なんかいろいろミラクルだった。
雪美:でも鼻が赤いサンタはないわー。
聖也:それはお前のせいだろ。
雪美:(笑)
聖也:(笑)
雪美:私たち、いいコンビだと思わない?
聖也:うん。初めてにしては上出来。っていうか出来すぎ。
雪美:来年から私が一緒にやってあげようか?
聖也:え?
雪美:すっごく楽しかったから。
聖也:……だろ?
雪美:始まる前はさ、保育士さんからのお菓子のプレゼントが目当てなんじゃないかって思ってたけど、そうじゃなかったんだね。
聖也:ん?
雪美:子供たちの笑顔と拍手はプライスレス。
聖也:ああ。ホント、お金にはかえられないよ。
雪美:楽しかったぁ。
聖也:(笑)
雪美:でも途中、危なかったんだからね。
聖也:何が?
雪美:何がじゃないよ。突然キレてたでしょ。「ドタキャンってなんだよ、ふざけんな」って。
聖也:あ、それな。悪かったよ。
雪美:中井君ってさ……。
聖也:……。
雪美:お姉ちゃんのこと好きだったんでしょ?
聖也:……ああ。ずっと好きだった。
雪美:やっぱりね。
聖也:あーあ。最悪のクリスマス。
雪美:残念だったね。どうして告白しなかったの?
聖也:この劇が終わったら今年こそ告白するつもりだった。
雪美:なんでもっと早く告白しなかったの?
聖也:もし告白してダメだったら、この劇を一緒にやる時に気まずくなるだろ。だから劇が終わるまではって我慢してた。それに、先に告白してても成功してたかどうか。
雪美:クリスマス前に告白したら成功率が高いらしいし。可能性はあったかもよ。
聖也:もう遅いよ。
雪美:今頃、イケメンの彼氏と楽しく遊んでるんだろうな。
聖也:くっそぉ。
雪美:でも私たちの劇ほうが楽しかった。
聖也:そうだな。それは間違いない。
雪美:絶対楽しかった。
聖也:(笑)
雪美:この後はどうするの?
聖也:今、園児たちがやってるクリスマスのクイズ大会が終わったら、みんなでクリスマスの歌を歌って、園長先生のお話の後に解散。
雪美:その後は?
聖也:帰る。
雪美:クリスマスイブなのに?
聖也:特に予定もないし。あ、そうだ。これ、今日のお礼。
聖也がポケットからプレゼントを取り出す。
雪美:なに?
聖也:クリスマスプレゼント。
雪美:……お姉ちゃんにあげる予定だったやつ?
聖也:もう必要なくなったから。
雪美:私が貰っていいの?
聖也:いいよ。感謝の気持ち。
雪美:ありがと。嬉しい。私、何も用意してないけど。
聖也:いいよ別に。
雪美:あのさ。
聖也:なに?
雪美:これ終わったらデートしない?
聖也:は?
雪美:ほら、私、お姉ちゃんの代役だし。もしお姉ちゃんが中井君の告白オッケーしてたら、この後どこかに行ってたんでしょ?
聖也:まぁ、そうだな。
雪美:その代役ってことで。
聖也:……雪美は彼氏いないの?
雪美:いたら今日ここにいないよ。
聖也:そっか。そりゃそうだよな。
雪美:うん。
聖也:じゃあ劇の成功を祝って二人で打ち上げするか。
雪美:うん。
聖也:正直に言うとさ。
雪美:なに?
聖也:雪美の姉ちゃんってアドリブ苦手だし、芝居もへたくそだし。雪美の姉ちゃんと一緒に劇してたら、こんなに楽しくなかったって思ってる。
雪美:えへへ。私に告白してくれてもいいんだよ?
聖也:バカ、そんなんじゃねぇよ。雪美との劇が楽しかったって言ってるの。
雪美:またバカって言った。
聖也:あ、ごめん。
雪美:知ってる? クリスマス前は告白の成功率が上がるらしいよ?
聖也:(聞き流して)あー、クイズ大会が終わったみたいだな。ステージに戻るぞ。
雪美:え、なんで?
聖也:みんなでクリスマスの歌を歌うって言っただろ。ほら、早く。
雪美:私も? あ、ちょっと待って。
聖也:なに?
雪美:中井君……。
聖也:なんだよ?
雪美:メリークリスマス。
聖也:(笑)メリークリスマス。
雪美:(笑)
雪美が聖也の手を取ってステージに向かう。
再び拍手の嵐。
二人が笑顔で客席に手を振る。
音楽盛り上がって、終演。