『ぱすたやぱにっく3』

【登場人物】5名(男性3・女性2)

淳一:近江谷(おうみや)淳一。大学生。パスタ屋のアルバイト。今回の主役。

和也:大宮(おおみや)和也。淳一の親友。バカップルの彼氏。

さくら:川口さくら。バカップルの彼女。

あかね:川口あかね。さくらの姉。

神田:近江谷のサバゲ―仲間。あかねの同僚。

【上演時間】50~60分

【あらすじ】

 とあるパスタ屋さんを舞台に、勘違いが連鎖していくシチュエーションコメディ第三話。
 一話、二話を未読でも大丈夫。
 今回は淳一が主役。

【本編】

■川口家

さくら:お姉ちゃん、お姉ちゃん。店長のことなんだけど、何か聞いてる?

あかね:(思い当って)あ〜、うん。どうしたの?

さくら:昨日から体調不良でお店休んでて、和也くんと淳一くんは理由を知ってるみたいなんだけど教えてくれなくて。お姉ちゃんなら何か知ってるかなって。

あかね:2週間前にぶん殴ってフッてやったクズ野郎がお店休んでる理由を、私が知ってると思う?

さくら:お姉ちゃん、淳一くんのお姉さんと二股かけられてた恨みで店長を半殺しにしたりしてないよね。

あかね:私はしてないわよ。

さくら:じゃあ美咲さんが店長を殺(や)ったのか。美咲さんは店長と結婚の約束までしてたんだもんね。

あかね:あのクズ野郎は今、股間に深刻なダメージを受けて入院してるそうよ。

さくら:深刻なダメージ?

あかね:デリケートな問題だから、さくらには言いにくかったんじゃない? このまま使い物にならなくなればいいのにね。

さくら:怖い。お姉ちゃんが怖い。

あかね:しばらくは立ち上がるのも無理なんじゃないかな。

さくら:いつまで休むのか知らないけど、こっちは大変だよ。

あかね:でも和也くんとバイト中にイチャイチャしてるんでしょ。

さくら:それがね、最近そうでもなくて。なんだか前よりイチャイチャが減ってる気がする。

あかね:そういう時期なんじゃない?

さくら:そういうもん?

あかね:私に聞かれても困るけど。和也くんは浮気しないでしょ。

さくら:うん。浮気はしてないよ。でも和也くんってモテるし。

あかね:刺激が足りないんじゃない。ヤキモチやかせてみたら?

さくら:和也くんに?

あかね:そう。さくらが他の男子と仲良くしてる所を見たら、和也くんが嫉妬して、イチャイチャが復活するかもよ。

さくら:私にできるかな。

あかね:試しにやってみなさいよ。

さくら:うん。わかった。お姉ちゃんはどうなの? あれから気になる人とかいないの?

あかね:それがね、聞いてよ、さくら。

さくら:なになに。

あかね:この前、仕事先に背が高くて超イケメンの人が異動してきたの。それで仕事でなんやかんやあって、その人と仲良くなったんだけど。

さくら:よかったじゃん。

あかね:今度こそ運命の相手に巡り会えたって思ったのよ。でもね。

さくら:でもなに?

あかね:その人、男にしか興味ないんだってええええええ!

さくら:あぁ、そうだったんだ。でもお姉ちゃんBL好きだったよね?

あかね:大好きだけど、大好物だけど、それはそれ!あぁぁぁ、どうして私には男運がないの。私も和也くんみたいな彼氏が欲しい。

さくら:和也くんは誰にもあげないよ。

あかね:(泣く)

さくら:元気出して、お姉ちゃん。そのうちきっといい人が見つかるから。

■神田と大宮の電話

和也:はい、もしもし。

神田:和也? 突然電話してごめんね。

和也:神田さん、この前はありがとうございました。サバゲー、超楽しかったです。

神田:あぁ、うんうん。それはよかった。和也、初心者って言ってたのに動きに無駄がなくて驚いたよ。

和也:淳一からたっぷりレクチャーされてたんで。

神田:淳一に? いつも無駄に動きまわって格好のマトになってる淳一から何を教わったらあんな動きが出来るんだよ。

和也:性格出ますよねぇ。

神田:和也は淳一と違ってセンスあるよ。

和也:ありがとうございます。で、今日はどうしたんですか?

神田:あのさ、今度一緒にガンショップ行かない?

和也:ガンショップですか?

神田:ほら。この前、自分のエアガンが欲しいって言ってたろ。俺が選んでやるから。

和也:ホントですか。ぜひお願いします。あ、淳一も誘っていいですか?

神田:アイツは自分の持ってるからいいよ。二人だけで行こう。試し打ち出来るところ知ってるから。楽しいよ。

和也:(迷って)あぁ、はい。

神田:いつ空いてる? 和也のためならいつでもスケジュール空けるけど。

和也:バイトのシフト確認しておきますね。

神田:うん。わかったら教えて。

和也:はい。わかりました。

■大宮と近江谷の電話

和也:なんて電話がさっきあったんだけどさ。

淳一:へぇぇ。

和也:とりあえず淳一に電話してみた。

淳一:とりあえずってなんだよ。

和也:いや、俺、神田さんのことよく知らないから、どうしようかなって思って。

淳一:そう言えばあの人、ビギナーにオススメのエアガン紹介するの好きだって言ってたな。

和也:エアガンって高くないの?

淳一:安いのもあるよ。ってか、神田さん社会人だし買ってくれるんじゃないの?

和也:ええぇ、そうなのかなぁ。あの人、けっこう年上なのに距離感が近いっていうか、妙にフレンドリーだよな。俺のこと、いきなり和也って呼んでくるし。

淳一:俺も会ってその日に淳一って呼ばれた。

和也:サバゲー終わった後、いきなり肩組んでくるし。ビックリした。

淳一:気に入られたんだよ。よかったじゃん。

和也:まぁな。神田さんって、どんな人?

淳一:見たまんまだけど。背が高くて、イケメンで、優しくて、サバゲーが上手い。最近、仕事で異動したって言ってたな。

和也:へぇぇ。

淳一:悪い人じゃないよ。ホルスターとか保護メガネとか、装備一式おねだりしちゃえ。

和也:さすがにそこまでは出してくれないだろ。

■翌日のパスタ屋

さくら:あ、淳一くん、おはよ。

淳一:川口さん、おはよ。

さくら:まだ和也くんは来てないの?

淳一:まだ来てない。

さくら:ちょうどよかった。淳一くんにお願いがあるんだけど。

淳一:俺に? なに?

さくら:私と仲良くして。

淳一:え?

さくら:だから、もっと私と仲良くなってほしいの。

淳一:あの、俺、川口さんとけっこう仲良しなつもりだったんだけど、違ったのか。ちょっとショック。

さくら:そうじゃなくて。最近、和也くんとイチャイチャが減ってるっていうか・・・。

淳一:は?

さくら:キュンが足りてない気がするの。

淳一:キュン?

さくら:前は会うたびに「今日も可愛いね」って言ってくれたのに。

淳一:和也、そんなこと言ってたの!?

さくら:バイト中に何度も「好きだよ」って言ってくれたのに。

淳一:そんなにイチャイチャしながらバイトしてたの!?

さくら:最近は言ってくれる回数が減ってる気がする。

淳一:バイト中は自重しようよ。で、そのことと、俺と川口さんが仲良くするのは関係あるの?

さくら:和也くんに嫉妬させたいから、もっと仲良くなりたいの。

淳一:今までも和也の前で割と仲良く話してたつもりなんだけどな。川口さんはそうでもなかったってことか。やっぱりちょっとショック。

さくら:ダメ?

淳一:ダメじゃないけど、なんで俺?

さくら:なんでって?

淳一:いや、だってさ、俺は川口さんのこと・・・。

さくら:和也くんが1番嫉妬するのは淳一くんだって思ったから。

淳一:あえての俺?

さくら:うん。あえての淳一くん。

淳一:・・・川口さんって、そういうところあるよね。(諦めて)わかった。協力するよ。

さくら:じゃあとりあえず、私のことは名前で呼んで。

淳一:名前で?

さくら:うん。さくらって呼んで欲しい。

淳一:それはダメだよ。川口さんのことを「さくら」って呼んでいい男は、彼氏の和也だけだから。

さくら:もう。変なところで頑固なんだから。じゃあ、内緒話をしようよ。和也くんに聴こえないように耳元で囁きあうの。

淳一:それぐらいならやってもいいけど、そんなんでうまくいくかな?

さくら:試しにやってみよ。お願い。

■大宮が来る。

和也:おはよー。

さくら:和也くん、おはよ。

淳一:おーす。

和也:店長、やっぱり来てないの?

淳一:しばらくは来ないんじゃない?

和也:だよな。色々めんどくさいな。

淳一:頑張ってね、店長代理。

和也:そんな役職についた覚えはない。

さくら:頑張ってね、バイトリーダー。

和也:そんな肩書もないから。時給みんな一緒だろ。

さくら:でも和也くんに任せるって店長が遺言を残したんでしょ?

和也:まだ死んでないからね。

淳一:姉ちゃんが殺してなければね。

和也:そこまではやらないだろ。

さくら:(下手な演技)あ、淳一くん、淳一くん、ちょっと耳貸して。

淳一:(下手な演技)なになに?

さくら:(耳元で意味のないアドリブ)どっちかっていうと、私は「きのこの山」のほうが好き。

淳一:(おおげさに笑う)マジで!ウケる! 川口さん、川口さん、ちょっと耳貸して。

さくら:なになに?

淳一:(耳元で意味のないアドリブ)俺、夜にコーヒー飲んでも熟睡出来るタイプ。

さくら:(おおげさに笑う)ホントに!? それおもしろ〜い。

和也:なんの話?

さくら:和也くんには内緒。

和也:ふ〜ん。まあいいけど。俺、先に着替えるからな。

淳一:あ、うん。

 和也が去る。

さくら:行っちゃった。

淳一:行っちゃったね。

さくら:ほら。「今日も可愛いね」って言ってくれなかった。

淳一:それは俺がいたから。

さくら:まだ足りなかったのかなぁ。

淳一:これぐらいじゃ和也は嫉妬しないってこと?

さくら:うん。もっと仲良くしてるところを和也くんに見せつけなきゃ。

淳一:いや、もうバイト始まるから。

さくら:お店の中でもできるでしょ。

淳一:マジで!? バイト中に!?

さくら:絶対に和也くんに嫉妬させてやる。淳一くん、よろしくね。

淳一:あー、もう。このバカップルは・・・。

■店内

和也:おはようございます。よろしくお願いします。

さくら:おはようございます。よろしくお願いします。

淳一:おいざーす。よろっしゃーす。

和也:淳一、入口お願い。

淳一:ほーい。

 神田が来店。

淳一:いらっしゃいませ。お客様は1名様で・・・あっ、神田さん!

神田:よっ、久しぶり。

淳一:この前のサバゲ―以来っすね。まさか店に来てくれるとは思いませんでした。

神田:近くまで用事で来てたからさ。淳一がバイトしてる店がこの辺にあるって思い出して。まさか店に入ってすぐにエンカウントするとは思わなかったよ。

淳一:遭遇戦ってヤツですか。神田さん、不意打ち得意ですもんね。

神田:(笑)今日はエアガン持ってないから大丈夫だよ。

淳一:案内します。こちらへどうぞ。

神田:おう。なあ、淳一。

淳一:なんですか?

神田:和也もここでバイトしてるんだよな?

淳一:あ、いますよ。神田さん、俺じゃなくて和也に会いに来たんですか。もう嫉妬しちゃうなー。

神田:(嬉しい)そうか。嫉妬するのか。そうかそうか。

 あかねが来店。

和也:いらっしゃいませ。

あかね:和也くん、こんにちは。

和也:あかねさん! またお店に来てくれるとは思いませんでした。

あかね:あのクズ野郎がいないって聞いたから。

和也:ああ、店長しばらく休むらしいですよ。ご案内します。こちらへどうぞ。

あかね:はーい。

さくら:お姉ちゃんまた来たの!?

あかね:あ、さくら。来ちゃった♪

さくら:「来ちゃった♪」じゃないよ。何しに来たの?

あかね:パスタ食べにきた。

さくら:家で自分で作ればいいでしょ。

あかね:妹が冷たい。今日、お父さんが家にいるから居心地悪いのよ。「休みなのに出掛ける用事もないのか」っていう無言のプレッシャーに耐えられないの。

さくら:だからってお店に来ないでよ。どこかで暇潰せばいいでしょ。

淳一:あかねさん、いらっしゃいませ。

あかね:淳一くん、こんにちは。昨日はありがとね。

さくら:昨日?

淳一:大丈夫です。俺でよければいつでも呼んでください。

さくら:え、なに?

あかね:ありがと。淳一くんは優しいね。

淳一:(照れ笑い)

さくら:ちょっと待って。いつの間に淳一くんとお姉ちゃん、仲良くなってるわけ?

あかね:あぁ、ほら。最近、私、淳一くんのお姉さんの美咲と仲良くなったって言ったでしょ。

さくら:あぁ。店長のことで意気投合したって言ってたね。

あかね:そうそう。私達、二股かけてたクズ野郎をぶん殴った仲だから。それで美咲の家で飲んでた時に淳一くんに色々迷惑かけちゃって。

淳一:迷惑だなんて、そんなことないです。

あかね:昨日は買い物にも付き合わせちゃって。

さくら:デートしてたの?

あかね:違う違う。ストレス解消に色々ヤケ買いしてたら両手で持ちきれなくなっちゃって。

淳一:あかねさんに「今すぐ来て」って言われて、荷物持ちしてたんだよ。

さくら:私、聞いてない。

あかね:別に隠してるつもりはなかったんだけど。私が淳一くんと仲良くしたら嫌だった?

さくら:そんなことないけどさ。なんで私は「川口さん」なのに、お姉ちゃんは「あかねさん」なの? おかしくない?

淳一:そういえばそうだね。

あかね:どっちも「川口さん」じゃ、ややこしいでしょ。

さくら:そうだけど、なんか悔しい。


和也:神田さん、いらっしゃいませ。よくこの店、わかりましたね。

神田:ちょっと探したよ。和也に会いたくてさ。

和也:ああ、ガンショップ行くって話ですよね?

神田:バイト終わるの何時? その後でもいいけど。

和也:すいません。今日はちょっと・・・。

神田:そっか。まあ、今度でもいいから考えといて。

和也:はい。ありがとうございます。

神田:和也の彼女もここでバイトしてるんだよね?

和也:あ、はい。淳一に聞いたんですか?

神田:まあね。どの子?

和也:(指差して)ああ、あそこにいます。

神田:へぇぇ、可愛い子だね。ラブラブなの?

和也:はい。


さくら:おまたせしました。ツナのトマトソースでございます。ごゆっくりお召し上がりください。


淳一:日替わりランチAセットですね。かしこまりました。

神田:なぁ、淳一。

淳一:はい。なんですか?

神田:和也の彼女、可愛いね。

淳一:可愛いですよねぇ。でもあの二人、バカップルなんですよ。

神田:みたいだね。俺にもワンチャンあるかなって思ったんだけどな。

淳一:ありませんよ。(川口さんに)手出したら俺が許しませんよ。

神田:淳一が許さないの? なんで?

淳一:和也は親友なんで。いや、親友以上ですかね。なんせ俺たち「近江谷・大宮コンビ」なんで。和也を泣かせる奴は俺が許しません。

神田:ん、ちょっと待って。和也はあの子とつきあいながら、淳一とも、その、仲がいいってこと?(深い意味で)

淳一:そうです。彼女がいてもそこは関係ありませんよ。

神田:あー、そうなんだ。そういうことだったんだ。

淳一:和也に彼女が出来た時に、和也の部屋に行くのは控えようかなって思ったんですけど、和也が「遠慮するな」って(部屋の)中に入れてくれるんで、我慢出来ずに行っちゃうんですよね。

神田:和也が中に入れるから、いっちゃうのかぁ。じゃあ、やっぱり俺にもワンチャンあるんじゃ・・・。

淳一:だからないですって。なんでそうなるんですか。


あかね:和也くん、ちょっとこっちに来なさい。

和也:はい。なんですか。

あかね:さくらがね、最近和也くんがデレてくれないって寂しがってたよ。

和也:マジですか? さくらがそんなこと言ってたんですか?

あかね:もっとイチャイチャしてほしいんだって。

和也:さすがに他のバイトやお客さんに迷惑かなって。バイト中は少し控えようと思ってたんですけど。

あかね:気にしないでラブラブなところを見せつけてやればいいのよ。

和也:はい。わかりました。


淳一:(下手な演技)あ、川口さん、肩にミントが乗ってるよ。

さくら:(下手な演技)え〜。淳一くん、取って取って。

淳一:仕方ないなぁ。はい。取れた。

さくら:ありがとう。あ、淳一くんの頭にフライドポテトが刺さってる。

淳一:え〜。川口さん、取って取って。

さくら:仕方ないなぁ。はい。取れたよ。

 大宮が来る。

和也:真面目に仕事しろ。

さくら:え、それだけ?

和也:なにが?

さくら:私たち、こんなに仲いいんだよ。なんとも思わないの?

和也:(ため息)仲良しでよかったな。ほら、料理出てる。

さくら:はーい。

和也:淳一はレジお願い。

淳一:ほーい。和也、ちょっと怒ってる?

和也:怒ってねぇよ。呆れてるんだよ。


神田:あれ? 川口さん。

あかね:げっ、神田。あんたなんでここにいるの?

神田:パスタ食べにきたんだよ。

あかね:神田の家、この近くだっけ?

神田:このお店に気になる子がいてね。会いに来たんだ♪

あかね:このお店の男の子?

神田:そう。

あかね:若い子ばっかりだよね?

神田:だからいいんだよ。何も知らない男の子を無理矢理ってのが興奮するんだ。

あかね:おほおぉぉ・・・。くっ、しまった。最低の台詞なのに喜んでしまった。

神田:俺、男の子を満足させるテクニックには自信あるから。

あかね:うほおぉぉ・・・。やめろ神田。それ以上、私を喜ばせるな。

神田:川口さんってホント面白い人だね。そんなにBL好きなの?

あかね:好きよ。あんたのことは嫌いだけどね。

神田:えー、ひどいな。

 近江谷が来る。


淳一:あれ? あかねさんと神田さん、お知り合いなんですか?

神田:会社の同僚なんだ。最近、仲良くなったんだよね。

淳一:へぇ。そうなんですね。

あかね:全然仲良くないから。

神田:せっかくだから一緒に食べる?

あかね:お断りします。

神田:それは残念。川口さん、最近、俺に冷たくない?

あかね:気のせいじゃないかな。最初からそんなもんでしょ。

神田:せっかく仲良くなれたと思ったのに。

あかね:私は別にあんたと仲良くなりたいと思ってないから。

神田:ほら、塩対応。そんな顔してたら美人が台無しだよ。

あかね:ほっといて。

淳一:(不機嫌)仲良しじゃないですか。

あかね:ん? どうしたの淳一くん?

淳一:別になんでもありませんよ。

神田:なんか怒ってる?

淳一:怒ってません。普通です。


和也:さっきはなんであんなことしてたの?

さくら:さっきって?

和也:普通、頭にフライドポテト刺さらないから。

さくら:あ、やっぱり?

和也:淳一と仲良くして、俺に嫉妬してほしかったの?

さくら:うん。ごめん。

和也:やっぱりそうか。

さくら:嫉妬しないの?

和也:するわけないだろ。相手は淳一だぞ。

さくら:でも淳一くんは私が好きだったんだよ?

和也:何ヶ月も前の話だろ。それに・・・。

さくら:なに?

和也:それに、さくらは俺のことが大好きなの、わかってるから。

さくら:和也くん・・・。


あかね:淳一くん、ちょっとこっちおいで。

淳一:はいはい。

あかね:淳一くんはなんで神田のこと知ってるの?

淳一:神田さんとは、なんて言うか、その、仲間なんですよ。(サバゲーの)

あかね:(ゲイの)仲間!? それはつまりその、同じ嗜好っていうか、同じ趣味の仲間ってこと?

淳一:あ、神田さんから聞いてます?

あかね:うん。聞いてる。淳一くんもなの?

淳一:そうなんですよ。俺も神田さんもドハマリしてて。神田さん、めちゃくちゃ上手いんです。

あかね:上手い!?

淳一:すごいテクニシャンで。この前も俺、すぐにやられちゃって。

あかね:やられっちゃった!?

淳一:不意をつくのが上手いんですよ。ガンガンに攻められて、この前も一発で撃沈です。

あかね:もうすでにそんな関係!? (小声で興奮)さっき不機嫌だったのはそういうことだったのね。つまり神田・近江谷でカンオウってことか。うほお!

淳一:カンオウ?

あかね:やられたらやりかえしたりはしないの?

淳一:ダメですよ。ゾンビ行為はマナー違反です。

あかね:ゾンビ? (小声)噛みついたり噛みつかれたりするプレイのことね。くっはー!

淳一:やられたら潔く手をあげて、「ヒット」って言うんです。

あかね:すぐに手を上げて降参するの!? 諦めるのが早すぎる!

淳一:それがルールですから。今度、あかねさんも一緒にやりますか?

あかね:一緒に!? 待って待って。そういうのもアリなの?

淳一:やる時は十人以上ですかね。もっと多い時もありますけど。

あかね:酒池肉林! でも、淳一くんはさくらが好きなんじゃなかったの?

淳一:え? あ、それは何ヶ月も前の話です。今は気になっている人が別にいますから。

あかね:(小声)それって、もしかしなくても神田のことだよね・・・。


さくら:お皿お下げしてもよろしいですか?

神田:あ、お願いします。

さくら:失礼いたします。

神田:君が和也の彼女?

さくら:え?

神田:俺、和也の友達なんだ。さっき聞いた。ラブラブだって。

さくら:えっ、和也くんがそう言ってたんですか?

神田:うん。言ってたよ。

さくら:そうなんですね。(気持ち悪い笑い)えへへへぇ。

神田:君も和也のことが大好きなんだね。

さくら:はい。そうなんです。えへへへぇ。


淳一:なあ、和也。

和也:どうした?

淳一:神田さんには気をつけろ。

和也:なにそれ?

淳一:さっき川口さんのこと可愛いって言ってた。

和也:さくらは可愛いよ。当たり前だろ。

淳一:そうなんだけど、そうじゃなくて。神田さん、川口さんを狙ってるぞ。

和也:マジで?

淳一:俺にもワンチャンあるかなって言ってた。

和也:神田さんが・・・。

淳一:あ、川口さんが神田さんと楽しそうに何か話してる。

和也:えっ!?


さくら:それで和也くん、「さくらは俺のことが大好きなの、わかってるから」って言ったんです〜。えへへへぇ。

神田:あいつ、そんなこと言ってたのか。あれ? 髪に何かついてるよ。

さくら:え? どこですか?

神田:取ってあげる。・・・はい、取れた。

さくら:ありがとうございます。

 大宮が来る。

和也:やめてください!

神田:ん? どうした和也?

和也:さくらは俺のなんで、ちょっかい出さないでくれますか。

さくら:和也くん、なに言ってるの?

和也:さくらもデレデレしすぎだよ。

さくら:デレデレなんてしてないよ。

神田:え? 和也は、俺が彼女を口説いてると思ったの?

和也:違うんですか。

神田:(呆れて笑い出す)違うよ。そんな気はない。

和也:いや、だってさっき!

神田:違う。和也の勘違いだ。

和也:ホントに?

さくら:そうだよ。和也くん何言ってるの。私、口説かれてなんてないからね。

和也:そう・・・なんですか?

神田:うん。俺はこの子に1ミリも興味はないよ。

和也:あ・・・すいません。俺、淳一から神田さんがさくらを狙ってるって聞いて・・・。

神田:何を勘違いしたのか知らないけど、俺が興味あるのは、和也だから。

和也:は?

神田:和也ともっと深い関係になりたいんだ。勘違いしたお詫びに、今度一緒にガンショップ行こうね。んで、その後も色々つきあって。

和也:ええっ!?

神田:サバゲーのことも、もっと楽しいことも、俺が色々教えてあげるから。

和也:色々ってなんですか?

神田:和也が淳一とやってることだよ。俺、淳一よりも和也を満足させる自信あるよ。

和也:は?

神田:和也の部屋でいつもやってるんだろ? ベッドの上で気持ちいいこと。

さくら:えええええ!

和也:(神田に)やってませんよ。(さくらに)やってないからな。いつもゲームしてるだけだ。

さくら:ホントに?

和也:当たり前だろ。(神田に)神田さん、俺、淳一とそういう関係じゃありません。

神田:さっき淳一がそう言ってたけど。

和也:マジですか!?

さくら:えええっ! 淳一くんは和也くんと・・・エロいことしたいってこと!?

神田:ああ。彼女がいても関係ないって。

さくら:そんなこと言ってたんですか!?

神田:だから、二人が既にそういう関係なら、俺とも仲良くしてほしいなって思ったんだけど。

和也:だから違うって言ってるでしょう。

さくら:ホントに?

和也:なんでさくらまで疑うんだよ!?

さくら:だって二人とも仲良すぎるんだもん。前から怪しいなって思ってた。

和也:違うよ。そんなわけないだろ。

さくら:和也くんが浮気するなら淳一くんしかいないって思ってた。

和也:そんな風に思ってたのかよ。

さくら:淳一くんとは本当に何もないの?

和也:ない。

さくら:私のこと好き?

和也:・・・えっと・・・。

さくら:なんで言ってくれないの?

和也:いや、だって今バイト中だし、神田さんも聞いてるし。

さくら:そんなの関係ない。

和也:・・・そうだよな。気にしちゃダメだよな。(真剣に)さくら、好きだよ。

さくら:和也くん・・・。

和也:そういうわけなんで、神田さん、すいません。

さくら:和也くんは私のなんで、ちょっかい出さないでくださいね。

神田:わかったよ。残念だけど諦める。君たち、ホントお似合いだね。

和也:(笑)

さくら:(笑)


淳一:あっ、あの二人、笑ってるよ。(ため息)これでまたバイト中のイチャイチャが復活するのかなぁ。(客に呼ばれて)あ、はーい、お伺いしまーす。


あかね:神田、ちょっといい?

神田:なに? どうしたの?

あかね:淳一くんにはもう手を出さないで。

神田:え、なんのこと?

あかね:しらばっくれないで。あんたが無理矢理淳一くんを襲ったことは知ってるんだから!

神田:俺が・・・淳一を?

あかね:なんてことしてくれたのよ、可哀想に。あの子にはそっちの世界に足を踏み入れてほしくなかった。でもまだ引き返せるかもしれない。私は淳一くんに戻ってきてほしい。

神田:あの、川口さん?

あかね:だからお願い。淳一くんにはもう手を出さないで。

神田:えーっと。俺が淳一を好きだって思ってる?

あかね:好きでもないのにあんなことしたの!? 遊びだったってこと!?

神田:ん〜、なるほど。よくわからないけど、そういうことね。あのさ。

あかね:なに?

神田:俺が誰とつきあおうが、淳一とそういう関係になろうが、川口さんには関係ないよね?

あかね:それは・・・そうかもしれないけど。

神田:誰かに何を言われても、好きな気持ちは止められない。恋ってそういうもんだろ。川口さんもそういう恋をしたことあるだろ?

あかね:・・・。

神田:まあでも、淳一は俺の体を忘れられないかもしれないけどね。あははは。

あかね:神田ー!

神田:なんでそんなに怒ってるんだよ。こういうの好きなんじゃないの?

あかね:好きよ。でもね、神田に出会ってからBLは空想の中だけで十分だって気がついたの。イケメンの損失だってことに気がついたの。

神田:なにそれ?

あかね:世の中のイケメンとイケメンがくっついたら、その二人の遺伝子は後世に残らない。イケメンの遺伝子が絶えてしまうのは人類にとっての損失だとは思わない?

神田:すごいこと考えるね。

あかね:そりゃ私もイケメンが他の女に取られるくらいなら、男に取られたほうがマシって思ったこともあったけどさ。

神田:そのイケメンって俺のことかな?

あかね:違うわよ。

神田:そういうふうに聞こえたよ。

あかね:違うって言ってるでしょ。とにかく私の周りでBLしないで!

神田:むちゃくちゃだなぁ。


淳一:なあ、和也。

和也:なに?

淳一:さっき思いっきり神田さんに嫉妬してたよな。

和也:まあな。

淳一:なんで俺の時はヤキモチやかなかったの? あんなに俺と川口さん、イチャイチャしてたのに。

和也:ホントはムカついてた。

淳一:やっぱり?

和也:でも、お前はそんな奴じゃないってわかってたから。2人で俺のこと試してるんだろうなって、すぐにわかったよ。

淳一:バレバレだったか。

和也:2人ともヘタクソなんだよ。

淳一:和也。

和也:なに?

淳一:俺さ、さっき気がついた。っていうかハッキリわかった。俺が今イチャイチャしたいのは、別の人なんだって。

和也:え?

淳一:(真剣に)俺、好きな人がいるんだ。

和也:・・・マジで?

 

淳一:ああ。

 

和也:(困る)ええええ。そんなことあるわけないって思ってたけど、やっぱりそうなのか?

 

淳一:あ、俺が誰を好きなのか、もう和也にはわかってたってこと?

 

和也:わかるよ。わかるけど。俺にはさくらがいるからお前の気持ちには応えられない。だからごめん。

 

淳一:は?

 

和也:え?

 

淳一:お前じゃねーよ!

 

和也:え、俺のことが好きなんじゃないの?


淳一:当たり前だろ。何言ってんだ。

和也:よかったあぁぁぁ。ホッとした。

淳一:マジで安心してる意味がわかんねぇよ。

和也:気にしなくていいから。じゃあ、お前の好きな人って誰?

淳一:それは・・・。

和也:うん。

淳一:この前、あのクソ店長のことで色々あった時に、あかねさんが家に来て、姉ちゃんと2人でベロンベロンに酔っ払って、俺が介抱してたんだけどさ。泣いてるあかねさんをずーっと慰めてて。その時、俺がこの人を守ってあげたいなって。幸せにしてあげたいなぁって、思ったんだ。

和也:淳一・・・。

淳一:年下の俺がそんなこと考えるのはおこがましいって思うんだけどさ。俺、あかねさんが好きだ。

和也:(真剣に)応援する! お前とあかねさん、絶対に相性いいよ。お似合いだと思う。

淳一:マジで?

和也:うん。俺はお前の味方だから。頑張れよ。

淳一:ありがと。

和也:あ、それはそうとさ。

淳一:なに?

和也:神田さん、ゲイなんだって。

淳一:マジで!?


あかね:どうしよう、さくら〜!

さくら:どうしたの、お姉ちゃん?

あかね:元はと言えばさくらのせいだからね。さくらが淳一くんの告白を断ったから。

さくら:なんの話?

あかね:だからショックで淳一くんは神田の毒牙にかかってしまったのよ。傷ついた心の隙につけこまれたのよ。

さくら:淳一くんがどうかしたの?

あかね:ほら、あそこにいる男、アイツが昨日話してた男にしか興味がないイケメン!

さくら:あ、さっきの人。

あかね:淳一くんがアイツにやられちゃったのは、さくらのせいだからね!

さくら:えええ!? あの人、和也くんだけじゃなくて、淳一くんにも手を出してたの!?

あかね:そうよ。『や、やめてください神田さん』『淳一だって興奮してるんだろ。ほら、ここはもうこんなに』『だってそれは神田さんが…』『力抜けよ』『神田さん…』『淳一…』みたいなことになってるの! 一発やられちゃったって、さっき淳一くんが言ってた。

さくら:ホントに!?

あかね:テクニックにメロメロだって。ガンガン攻められたって。あの味が忘れられないって。神田のことが気になって夜も眠れないって言ってた〜。

さくら:そんなことになってたの!?


淳一:神田さん。

神田:ん、どうした?

淳一:(小声)神田さんがゲイって本当ですか。

神田:そうだよ。さっき淳一が和也とエロい関係だって言ってたから、俺もお仲間に入れてほしいなって思ったんだけど。

淳一:え、そんなこと言ってませんよ。

神田:淳一が紛らわしい言い方するから勘違いしたんだよ。

淳一:そんな言い方してました?

神田:してたよ。淳一は和也が大好きだって。

淳一:和也のことは好きですけど親友としてで、神田さんが思うような関係じゃないですからね。俺が好きなのは・・・。

 さくらが来る。

さくら:ストーーップ! それ以上は言っちゃダメ!!

淳一:川口さん?

さくら:淳一くん、ちょっとこっちに来て。早く。(引っ張る)

淳一:あ、ちょ、ちょっと、川口さん引っ張らないで。危ない、危ないって!


さくら:淳一くん・・・。

淳一:そんなに慌ててどうしたの?

さくら:淳一くん・・・。

淳一:なに?

さくら:淳一くんに好きな人がいるって、さっき聞いた。(あかねから)

淳一:あ、聞いちゃったんだ。(和也から)

さくら:お願いだから考えなおして。

淳一:あ・・・。そっか。川口さんはやっぱり嫌だよね。

さくら:当たり前でしょ。

淳一:そりゃ反対するよな。俺、まだ大学生だし、あっちは社会人なんだから。

さくら:そういう問題じゃなくて。

淳一:でも川口さんに反対されるのはショックだな。そんなに俺じゃダメ?

さくら:本気なの?

淳一:うん。本気だよ。

さくら:あの人のどこがそんなにいいの!?

淳一:あの人って、そんな他人みたいに。

さくら:他人だよ。

淳一:そんな言い方したら悲しむんじゃないかな。

さくら:淳一くんにはもっといい人が見つかると思う。

淳一:そりゃちょっと年は離れてるけど。

さくら:年の話だけじゃないでしょ!

淳一:川口さん。

さくら:なに?

淳一:ごめんね。川口さんに何て言われようと、好きな気持ちは止められないよ。

さくら:そんなぁ・・・。


さくら:和也くん!

和也:どうしたの、さくら?

さくら:和也くんは知ってるの?

和也:なにを?

さくら:淳一くんに好きな人がいるって。

和也:ああ、知ってるよ。さくらも聞いたんだ?

さくら:なんでそんな平然としてられるの!?

和也:そりゃちょっとは驚いたけど。

さくら:ちょっとだけ!?

和也:俺は淳一を応援する。

さくら:えええええええ!!

和也:だからさくらも、あの2人のこと応援してやってよ。

さくら:絶対いやだーー!

和也:そんなにショックなの?

さくら:ショックだよ。ショックに決まってる!

和也:まあ確かに年は離れてるもんな。

さくら:年の話じゃなーい!

和也:じゃあ何がそんなに嫌なの?

さくら:何がって・・・淳一くんが男に目覚めても和也くんは平気なの!?

和也:・・・は? なに言ってるの?

さくら:だから、淳一くんとさっきのお客さんが、『淳一、力抜けよ』『あっ、神田さん、好き』みたいなことになってるってお姉ちゃんが!

和也:(笑)そんなことあるわけないだろ。違うよ。またあかねさんに変なこと吹き込まれたのか?

さくら:・・・違うの?

和也:違うよ。淳一が神田さんのことを好きだと思ってたの?

さくら:・・・ホントに違うの?

和也:淳一はあの人のことなんとも思ってないし、男に目覚めてもいないよ。

さくら:あぁぁよかったあぁぁぁ。

和也:(笑)

さくら:じゃあ・・・淳一くんの好きな人って誰?

和也:それは・・・俺の口からは言えないよ。


あかね:(真剣に)淳一くん、ちょっといい?

淳一:はい。

あかね:神田のことなんだけど・・・。

淳一:神田さん? 神田さんがどうかしたんですか?

あかね:彼との関係を続けても淳一くんは不幸になるだけだと思う。

淳一:え、なんの話ですか?

あかね:私も恋愛には色んな形があるって理解してる・・・つもり。でも神田にとって淳一くんはただの遊びなの。

淳一:そりゃ一緒に遊んでますけど・・・そんなに深刻な話なんですか?

あかね:もう二度と神田に体を許さないで。

淳一:うえええええ!? 許してませんよ! 俺は神田さんに抱かれてないし、そういう関係じゃありません!

あかね:だってさっき言ってたじゃない!

淳一:なにを!?

あかね:ガンガンに攻められて一発やられちゃったんでしょ! アイツのテクニックでメロメロにされちゃったんでしょ!

淳一:されてませんよ! あー! それ違います! サバゲーの話ですからね!

あかね:サバゲイ?

淳一:はい。神田さんとはサバゲー仲間なんです。

あかね:サバゲイ仲間は・・・ゲイ仲間とは違うの?

淳一:違います。全然違います。

あかね:だって、気になる人がいるって。

淳一:言いました。でも神田さんじゃありません。

あかね:じゃあ誰のこと?

淳一:(ため息)なんでわかんないかなぁ。

あかね:淳一くん?

淳一:(真剣に)あかねさん。

あかね:はい。

淳一:今日、俺がバイト終わるまで待っててくれませんか。そうしたら教えてあげます。

あかね:え?

淳一:待っててください。お願いします。

あかね:(戸惑う)はい。わかりました。


神田:じゃあ、俺はそろそろ帰るよ。川口さん、またね。

あかね:あー、うん。お疲れ様。あ、ちょっと待って。

神田:なに?

あかね:(ため息)さっきは勘違いして変なこと言った。ごめん。

神田:あー、そのことね。気にしなくていいよ。俺もイジワルしてごめんね。

あかね:イジワル?

神田:さっきの話、冗談だから。俺が淳一を抱いたことは一度もないよ。

あかね:なんでそんな嘘ついたの。

神田:それは・・・。

あかね:まあ、いいけど。悪いのは勘違いした私のほうだし。あんたがそんな歪んだ性格になったのも理由があるんでしょ。

神田:理由?

あかね:そう。何かきっと深い理由があるのよね?

神田:・・・あー、実はそうなんだ。

あかね:やっぱりね。言ってみなさいよ。何があったの?

神田:俺が今の淳一と同じ年の頃、俺には彼女がいたんだ。その頃の俺はまだノーマルだった。でもある日、彼女の部屋に遊びに行くと、彼女が俺の友達とベッドで抱き合っていた。その事がきっかけで俺は人を信じられなくなった。それで自暴自棄になっている時に、一人の男性に出会ったんだ。大人で、優しくて、俺の話を聞いてくれて。それで俺は流されるまま、その人に体を許してしまった。俺はその人に夢中になった。その人だけが俺の心を癒してくれた。でもその人にとって、俺は遊び相手の一人に過ぎなかった。別れてしまってからも、俺はその人を忘れられなかった。だからなのかな。年下の男子に声をかけるようになったのは。気がついたら、あの人と同じことをしていたんだ。

あかね:そうだったのね・・・。

神田:ああ。

あかね:でも神田、私にはわかるよ。あんたは心の奥底で、もう一度誰かを信じたいと思ってる。本当の愛を求めてるのよ。

神田:なあんてね。そんなことあるないじゃん。

あかね:は?

神田:川口さん、こういうの好きかなぁと思って。

あかね:今の全部嘘なの?

神田:嘘だよ。作り話。俺は物心ついた時から男にしか興味がない。

あかね:また私をからかったの?

神田:そう。川口さんってホント面白い人だね。

あかね:じゃあ神田には辛い過去とか人に言えないアレコレとか何もないの?

神田:それは内緒。もう少し仲良くなったら教えてあげる。

あかね:私と仲良くなりたいの?

神田:うん。友達としてね。

あかね:じゃあ、なんでそんなにイジワルするのよ。さっきだって・・・。

神田:川口さんってさ、淳一のこと好きなの?

あかね:私が? 淳一くんを?

神田:さっきはあんな真剣な川口さん初めて見たから、からかいたくなったんだ。

あかね:私が・・・淳一くんを?

神田:うん。

あかね:そうなの?

神田:俺に聞かないでよ。自分の気持ちでしょ。胸に手を当てて考えてみたら。それじゃあね。

 神田が去る。

あかね:胸に・・・手を当てて・・・。(戸惑う)あれ?

■バイト終わり。

さくら:お疲れ様〜。

和也:お疲れ様。やっと終わったね。今日はどうする?

さくら:どうしよっか。

和也:何か希望は?

さくら:和也くんとだったらどこでもいい。

和也:(笑)さくら。

さくら:なに?

和也:今日も可愛いね。

さくら:えへへへぇ。和也くんもカッコいいよ。

和也:(見つめて)さくら・・・。

さくら:(見つめて)和也くん・・・。

 淳一がやってくる。

淳一:お疲れさーん。んじゃお先!

和也:うおっ! 早いな。もう着替えたのかよ。

淳一:あかねさん待たせてるから。

和也:あ、そっか。

あかね:(少し遠くから)淳一くん、ほら、早く行くよ。

淳一:はーい。今、行きまーす。

さくら:え? 淳一くんの好きな人って、まさか・・・。

淳一:川口さん、川口さん、ちょっと耳貸して。

さくら:なに?

淳一:(耳元で)いつか俺のこと、お義兄さんって呼んでくれよ。

さくら:えぇ!?

淳一:(微笑して和也に)それじゃ、お疲れさん。

和也:おう、頑張れよ。

淳一:おう。(あかねに)すいません。お待たせしました。

あかね:ホント、待ちくたびれた。

淳一:じゃあ行きましょうか。

あかね:うん。

 淳一とあかねが去る。

さくら:淳一くんが、私のお義兄さん・・・。(微笑)いいよ。いつかお義兄さんって呼んであげるから。だから、お姉ちゃんのこと、よろしくね。


 おしまい。