『SATORU』
【登場人物】5名(不問5)
サトル:心臓と記憶を無くした男の子。
エト:勇気の白猫。
フェン:知恵の青猫
プロックス:力の黒猫。
ウロタス:ウロ(黒い煙)を操り世界を消そうとする謎の存在。
【ジャンル】熱血王道ファンタジー
【上演時間】30分~40分
【あらすじ】
サトルが目覚めると、心臓と記憶を失っていた。見知らぬ世界はウロと呼ばれる黒い煙に全てを消されようとしていた。「世界を救ってほしい」と三匹の猫に頼まれたサトルは・・・。
【本編】
■ウロタスの呟き
ウロタス:僕は僕を変えられない。だから世界に僕を合わせるなんてできない。世界が僕に合わせればいいんだ。それが出来ないなら世界なんかいらない。消えてしまえばいい。世界が消えないなら、僕が・・・消してやる。消してやるんだ。
■フェンの家
エトが激しく扉をノックする。
エト:フェン! フェン、俺だ。エトだ。早く開けろ!
フェンが扉を開ける。
フェン:こんな朝早くにどうしたんですか、エト?
エト:中に入れてくれ! 早く!
フェン:騒々しいですね。おおっと。
エトが強引に中に入って扉を閉める。
エト:(安堵のため息)フェン、時計が・・・トライフの大時計が止まってるんだ!
フェン:なんですって!? いつから!?
エト:1時間くらい前か。
フェン:ごめんなさい。本を読んでいて気がつきませんでした。
エト:フェンが本を読んでる時は何を言っても聴こえないからな。仕方ねぇよ。
フェン:こんな大変な時に。本当にごめんなさい。
エト:それはもういい。フェンがこの前、俺に教えてくれた通りだった。時計が止まった途端に真っ黒な化け物がいきなり現れて・・・みんなが襲われたんだ。
フェン:黒い化け物・・・ウロが現れたんですか?
エト:そうだ。そのウロってやつが、色んな所から湧いて出てきて、それで森のみんなを消しちまったんだ。俺とプロックスは必死に山を登って逃げてきた。
フェン:プロックスはどこに?
エト:先にハツの丘に向かわせた。そこに行けばカミサマに出会えるって、フェンがこのまえ教えてくれたろ?
フェン:よく覚えてましたね。すぐに私たちもハツの丘に行きましょう。
エト:よし。わかった。
フェン:(M)永遠に時を刻むトライフの大時計。私たちが産まれるずっと前。この世界が出来た時からその時計は動いている。いったい誰が、なんのために。その謎を解くために、私は時計のことを長い間調べていた。そしてある日、古い書物の中から時計についての記述を見つけた。トライフの大時計は、ウロと呼ばれる黒い化け物から世界を守っている。時計が止まると、ウロがこの世界を飲み込んでしまう。つまり、時計が止まった時が、この世界の終わりなのだと。それを止める唯一の方法は、ハツの丘に現れるカミサマに時計をもう一度動かしてもらうこと。時計を再び動かすのはカミサマにしかできない。でも、カミサマはそのあと・・・。
■ハツの丘
サトルが歩いてくる。心臓の部分が黒い服を着ている。
サトル:ここはどこなんだろう・・・。僕はどうしてこんなところに・・・。
プロックスが息を切らせて走ってくる。
プロックス:カミサマー!
サトル:え!?
プロックス:見つけた! カミサマ、見つけた!
サトル:黒猫が喋ってる!?
プロックス:オイラはプロックスだ。
サトル:プロックス? それが君の名前なの?
プロックス:うん。カミサマ、オイラたちを助けて!
サトル:僕は神様じゃないよ。僕はサトル。
プロックス:カミサマなんだろ!じゃなきゃ、体の真ん中に穴が開いてるのに生きてるわけない。
サトル:え? うわっ! なんだこれ!? 胸に穴が・・・僕の心臓がなくなってる。そうか。これは夢か。だから猫が喋ったり、胸に穴が開いたりしてるんだ・・・。
プロックス:夢じゃないよ! ほら、もうウロが追ってきた!
黒い煙が現れる。
サトル:うわっ! なんだ、あの真っ黒な化け物!?
プロックス:カミサマ、早くやっつけて!
サトル:僕が!? 無理だよ! 僕があんなのと戦えるわけない! 早く逃げよう!
プロックス:ええぇ。どっちに!?
サトル:そんなの僕にわかるわけないだろ!
黒い煙が二人を囲む。
プロックス:ああっ、囲まれた。一斉に襲ってくる!(悲鳴)ニャアアアア!
サトル:うわああ、あっちいけ、この!
サトルがウロを手で払い除けると、ウロが消滅する。
プロックス:あっ、ウロが消えた!
サトル:なにこれ!? 黒い煙の塊!? (振り払う)ええい!
プロックス:凄い。凄いよカミサマ!
サトル:それっ! なくなれ! あっちいけ!
プロックス:あと一つ!
サトル:おりゃあああ!
プロックス:やったぁ! ウロをやっつけた!
サトル:あんなのただの煙だよ。プロックスは煙が怖いの?
プロックス:ウロは森のみんなを飲み込んで消しちゃったんだ。オイラは必死に逃げてきた。カミサマがウロを退治してくれなかったら、オイラもきっとやられてたよ。
サトル:だから神様じゃないって言ってるのに。
プロックス:カミサマじゃなきゃ、ウロをやっつけるなんてできるわけない。だからサトルはカミサマだよ!
サトル:違うよ。僕はニンゲ・・・あれ? 僕はサトル。それから・・・。思い出せない。けど、ここは僕がいた世界とは違う気がする。
プロックス:カミサマ?
サトル:プロックス、教えて。ここはどういう世界なの?
ウロタスが現れる。
ウロタス:どうして僕の邪魔をする。
プロックス:誰だ!?
ウロタス:僕はウロタス。この世界の終わりを望む者さ。
プロックス:世界の終わり? まさか、お前がトライフの大時計を止めたのか?
ウロタス:その通り。サトル、お前は僕の邪魔をするのか。
サトル:僕を知ってるの?
ウロタス:ああ。お前のことは僕が一番よく知っている。
サトル:だったら教えてくれない? 何も思い出せないんだ。ここはどこで、どうして僕はここにいるの?
ウロタス:なんだって? ハハハハハ。そういうことか。何も思い出せないとは幸せなことだな。まあいいさ。そのまま何も思い出さずに闇に飲まれるがいい。ウロよ、サトルを飲み込んでしまえ!
ウロがサトルに襲いかかる。
サトル:プロックス、後ろに隠れて!
プロックス:うん!
サトル:こんな煙に負けるもんか! ええええい! たあ! おりゃああ!
プロックス:助けてカミサマ、アイツ怖いよ。
サトル:任せて。僕が君を守る。
ウロタス:無駄だ。いくら抗ったところで、世界の終わりは確定している。
サトル:ウロタス、君はどうしてこんなひどいことをするの?
ウロタス:こんな世界、消えてしまえばいいからさ。
サトル:どうして!
ウロタス:何も覚えていないサトルは僕のすることを黙って見ていればいいんだ。
サトル:そんなわけにはいかないよ。だって可哀想だろ!
ウロタス:可哀想だって!? 何を言ってるんだ!
サトル:ウロタス、お前がひどいことをするなら、僕がみんなを守ってやる。この世界は僕が守る!
ウロタス:そうか。それが今のサトルの望みだって言うのか。笑わせてくれる。この世界を救う勇者にでもなったつもりか。だとしたら僕は魔王だな。いいだろう。最後のゲームにつきあってやるよ。
サトル:何を言ってるんだ。
ウロタス:勇者サトル、この僕がお前もろともこの世界を消してやる。
サトル:そうはさせない!
エトとフェンが走ってくる。
フェン:プロックスー!
エト:プロックス、無事か?
プロックス:エト、フェン、無事だったんだね。
ウロタス:(舌打ち)まだ生き残りがいたのか。まあいい。トライフの大時計は既に針を止めている。お前らがいくら足掻こうが、ウロが世界を消しさるのは時間の問題だ。その顔が絶望に染まるのが楽しみだよ。ハハハハハ!
ウロタスとウロが消える。
サトル:消えた・・・。
プロックス:近くにいたウロもいなくなってる・・・。怖かった。アイツ、ウロタスって名乗ってた。あんな奴、初めて見た。何者なんだろう。
サトル:それよりも、こちらの白猫さんと青猫さんはプロックスの仲間なの?
プロックス:そうだよ。白いのがエトで、青いのがフェン。オイラの大切な友達さ。
エト:あんたがカミサマ?
フェン:カミサマは体の真ん中に穴があいてるんですね。知りませんでした。
サトル:だから違うって言ってるのに・・・。まあいいや。神様でも勇者でもいいから、僕のことはサトルって呼んでよ。
フェン:サトル。それがあなたの名前なんですね。
サトル:たぶんね。何も覚えてないけど、自分の名前は間違えてない気がする。
フェン:よろしく、サトル。
プロックス:サトルはこの世界を守ってくれるんだろ?
サトル:えっと・・・。さっきは勢いでああ言っちゃったけど、僕はどうすればいいの?あのウロっていう黒い煙を全部消して、ウロタスをやっつければいいのかな?
エト:ウロを消すだって!? サトルはウロを消すことができるのか!?
プロックス:そうだよ。さっきは凄かったんだぜ。「えーい」って手を振ったらウロが2つに割れて、「おりゃああ」って足を払ったらウロが4つに割れたんだ。
エト:凄ぇ。ウロに勝てるなんて。
プロックス:オイラを守ってくれたサトル、とってもカッコよかった。
エト:サトルはやっぱりカミサマなんだな。
サトル:えへへへ。
フェン:カミサマ。いや、サトル。このままじゃ世界は消えてなくなってしまいます。だから私たちを助けてください。
サトル:僕にできることなら、なんだってやるよ。
フェン:ありがとうございます。サトルには止まってしまったトライフの大時計をもう一度動かしてほしいんです。
サトル:トライフの大時計?
フェン:時計がまた動きだせば、きっと世界は元通りになります。それができるのはサトルだけなんです。
サトル:壊れた時計の修理なんて、僕、どうやったらいいかわかんないよ。
フェン:具体的な方法は私にもわかりません。でも、サトルが時計の前に立てば、きっと動かし方がわかるはずです。それがサトルの役割で、そのためにサトルはこの世界に呼ばれたんですから。
サトル:そうだね。自信ないけど、やれるだけやってみるよ。
フェン:トライフの大時計はこの世界で一番高い、あの山のてっぺんにあります。そこまで私たちが案内します。
エト:途中でウロがまた襲ってくるかもしれねぇぞ。
プロックス:その時はサトルが追い払ってくれるさ。ね、サトル?
サトル:任せといて。僕が君たちを守る。
フェン:それでは出発しましょう。
サトル:うん。
エト:よぉし、気合いを入れるためにいつものやつやるぞ。元気があればなんでもできる! イチ、ニイ、サン!
エト・フェン・プロックス:ニャアアアアアアア!
サトル:なに? なんなのこれ?
プロックス:サトルも一緒にやろうよ!
エト:よし、もう1回だ。いくぞ! イチ、ニイ、サン!
エト・フェン・プロックス・サトル:ニャアアアアアアア!
■道中
サトル:(ため息)随分と登ってきたね。
フェン:半分は過ぎた頃でしょうか。私もこの高さまで登ってきたのは初めてです。
プロックス:見て! ここから景色が一望できるよ!
エト:世界が・・・どんどん真っ黒に染まっていく。
プロックス:この山の麓までウロが迫ってきてる。
フェン:残された時は少ない。先を急ぎましょう。
プロックス:サトル、疲れてない?
サトル:平気だよ。結構歩いたはずなのに、ちっとも疲れてない。
エト:ウロタスはまた襲ってくるかな。
フェン:サトルがトライフの大時計に向かうことはウロタスもわかっていると思います。だからおそらく山頂で待ち構えているはず。
サトル:ウロタス・・・。
エト:時計が止まる前は、あんな奴はどこにもいなかった。ウロタスはウロを使ってこの世界を壊そうとしてるんだ。許せねぇ。
フェン:私が読んだ本には、ウロタスのことは何も書かれていませんでした。ウロタスは一体何者なんでしょうか。
サトル:アイツは僕のことを知ってるみたいだった。僕とウロタスは別の世界からこの世界に一緒に呼ばれたのかな?
プロックス:ウロタスは自分が時計を止めたって言ってたよ?
フェン:サトルより先にこの世界に現れたウロタスが時計を止めた。そして時計を再び動かすためにカミサマのサトルが現れた。でもどうしてウロタスはこの世界を消そうとしてるんでしょう・・・。
サトル:もう一度ウロタスに会えばわかるよ。きっと。エト、フェン、プロックス、先を急ごう。
■ウロタスの呟き
ウロタス:(M)もうすぐだ。もうすぐ全てが消える。望みが叶うまで、あと少し。
■山頂近く
プロックス:あっ、地面がヒビ割れてる。飛び越えるよ!(ジャンプ)ニャアアアア!
エト:(ジャンプ)ニャアアアア!
フェン:(ジャンプ)ニャアアアア!
プロックス:さあ、サトルもジャンプして飛び越えて!
サトル:(怖い)これ、落ちたら死んじゃうよね。
フェン:大丈夫です。サトルならできます。
エト:勇気だ。根性だ。気合いだ。飛べ、サトル!
サトル:無理だよ。そんなに遠くまでジャンプできない。
エト:できる! 自分で自分の限界を決めるな!
プロックス:落ちたらまた這い上がってくればいいんだ!
フェン:飛ぶ前に落ちることを考えてはダメです。
エト:自分を信じろ。踏み出すんだ!
サトル:みんな・・・。わかった。ようしいくぞ。
サトルが助走してジャンプする。
サトル:うおおおおお・・・。(ジャンプ)おりゃあああ!
ギリギリ届かないが、その手をプロックスが掴む。
サトル:う、うわああああ!
プロックス:よし、掴んだ。持ち上げるよ。(引っ張り投げる)ニャアアアア!
サトル:(投げられて)うわあああ! ぐあっ! ああ、助かった。ありがとうプロックス。君って力持ちなんだね。
プロックス:まあね。サトルを持ち上げるくらい簡単さ。
エト:サトル、よく頑張ったな。
サトル:うん。すっごく怖かったけど、僕、ちゃんとこっちまでこれたよ。
エト:そうだ忘れるな。踏み出せば、その一足(ひとあし)が道になるんだ。
サトル:うん!
プロックス:さあ、あと少し。もうすぐ山頂だよ。サトル、頑張って!
サトル:わかった。
エト:フェン、疲れてないか。
フェン:もうとっくに限界です。でもそんなことは言ってられません。
エト:ああ。凄ぇ数のウロが山を登ってきてる。急がないとトライフの大時計までウロに飲み込まれてしまうぞ。
フェン:そうですね。
■山頂
プロックス:あっ! 見えた! みんな、早くこっちに!
山頂の台座に赤黒い何かが置かれている。
エト:あれが・・・トライフの大時計・・・。
プロックス:初めて見た。
フェン:本で見たとおりです。こんなに大きいとは思いませんでした。
エト:ピクリとも動いてねぇな。
プロックス:あの時計を動かせば、ウロは消えて、世界が元に戻るんだよね?
フェン:ええ。間違いありません。
サトル:(震えて)みんな、ちょっと待って・・・。あの台座に乗ってる、あれが時計だっていうの?
フェン:そうです。あれがトライフの大時計です。
台座に乗っていたのは大きな心臓。
サトル:あれを君たちは時計と呼んでるの? あれは時計なんかじゃない・・・。
エト:サトル?
プロックス:どうしたの?
サトル:あれは・・・心臓だ。
フェン:心臓?
サトル:そうか。全部思い出した・・・。あれは僕の心臓だ・・・。だから僕には心臓がなかったんだ。
ウロタス:遅かったな。待ちくたびれたぞ。
サトル:ウロタス・・・!
ウロタス:さあ、勇者サトルよ。最終決戦といこうじゃないか。この世界が消えるのを止めたければ、僕を倒してその時計を動かし、世界を救ってみせろ!
サトル:待って!
ウロタス:どうした? 急がなければウロが世界を喰らい尽くすぞ。
サトル:ウロタス・・・君は・・・僕なんだね?
ウロタス:・・・!
サトル:君は、僕が生み出した、もう一人の僕だ。
ウロタス:思い出したのか。
サトル:元の世界で・・・僕はいじめられてたんだ。誰にも僕の言葉は届かなかった。父さんも母さんも学校の先生も誰も助けてくれなかった。独りぼっちの透明人間。まるで水槽の中の魚だよ。僕も魚みたいに何も考えずぐるぐると狭い水槽を泳いでいたかった。僕は水槽の魚がそうするように鏡に写った自分に話しかけた。そうして僕は、もう一人の僕を創りだして、色んな話をして、ゲームをして遊んでいたんだ。
ウロタス:そうだ。
サトル:そして君は、生きることに絶望し、全てを投げ出してしまった僕の代わりに・・・。そうか。ここは僕の『世界』だ。
フェン:サトル、何を言ってるんですか?
サトル:神様ってそういう意味だったのか。確かに僕はこの『世界』にとって神様のような存在だ。
ウロタス:そうだ。サトルは世界に合わせることができなかった。だからサトルの中に僕が生まれた。どうして世界はサトルを拒絶する。世界がサトルに合わせればいい。それが出来ないなら世界なんかいらない。消えてしまえばいい。でも、世界を丸ごと消すなんてことできない。世界が消えないなら・・・僕がサトルを消してやる。サトルの『世界』を消してやる。そうすれば何もかも終わる。僕が消してやるんだ!
サトル:この『世界』の終わりを望んでいたのは・・・僕・・・。
ウロタス:そうだ。思い出したのなら、このゲームは終わりだ。一緒にサトルの『世界』が終わるのを見届けようじゃないか。
サトル:全てが消えたらどうなるの?
ウロタス:何も残らない。サトルも、僕も、そこの3匹の猫も。それが僕たちの望みだろ。
サトル:僕たちの望み・・・。僕は・・・。
プロックス:サトル、何を迷ってるの?
サトル:プロックス・・・。
エト:そんな奴、早くぶっ飛ばしちまえ!
サトル:エト・・・。
フェン:サトル、私たちを助けてくれないのですか!?
サトル:フェン・・・。
プロックス:サトル、オイラは消えたくない。このままウロに飲み込まれるなんて絶対嫌だ!
エト:俺も嫌だ! この世界が大事なんだ! フェンも、プロックスも、ウロに飲み込まれしまった森のみんなも、いなくなるのは嫌なんだ!
プロックス:お願いだ、サトル! サトルはカミサマなんだろ! ウロタスの言葉に耳を傾けないで!
フェン:本に書いてありました。カミサマが再び時計を動かせば、カミサマに大きな苦難が襲いかかると。この世界を救った後、サトルが辛い思いをするのは知っていました。でも、お願いです。サトル、時計を動かして! 私たちを消さないでください!
ウロタス:ウロよ。あのうるさい3匹の猫を消してしまえ!
プロックス:うわぁ!
フェン:ウロがこっちに来ます!
サトル:(ウロと戦う)このぉ! 消えろ! ええい!
エト:助かった・・・。
サトル:エト、フェン、プロックス、僕の後ろに隠れてて。
プロックス:うん!
ウロタス:サトル、邪魔をするな!
サトル:ウロタス、もういいんだ!
ウロタス:・・・何を言ってる。
サトル:僕は消えたくない。元の世界に戻りたい。
ウロタス:元の世界はサトルを拒絶したんだぞ。戻ったところで、いいことなんて何もない!
サトル:それでも僕は戻る。自分で自分の『世界』を壊すのは間違ってるよ。
ウロタス:俺はお前のためを思って言ってるんだ! あんな世界に戻ったってまた絶望するに決まってる。誰も助けてくれない。救いなんてどこにもない。苦しいだけだったじゃないか。そんな世界から逃れることがサトルの望みだったんじゃないのか!
サトル:そうだよ。逃げだしたいってずっと思ってた。
ウロタス:僕はそのサトルの願いを叶えるために・・・。
サトル:僕自身の『世界』を、『命』を終わらせようとしたの?この『世界』が消えてしまったら、ウロタスも消えてしまうんだろ。それでもいいの?
ウロタス:それが僕の・・・僕たちの望みなんじゃないのか!
サトル:そんなこと僕は望んでない! 勝手なことするな!
ウロタス:どうしてわかってくれないんだ。サトルの『世界』を終わらせることが、唯一の救いになるんだ。ウロよ! わからず屋のサトルを飲み込んでしまえ!
サトル:もうやめるんだ、ウロタス! (ウロを手で払い除けて)たああぁ!
ウロタス:サトル・・・どうしても時計を動かすつもりなのか。
サトル:うん。
ウロタス:どうなっても知らないぞ。
サトル:うん。
ウロタス:もう僕はサトルを助けないぞ。
サトル:わかってる。僕一人でなんとかしてみせる。
ウロタス:僕はもう必要ないのかよ・・・。だったら・・・好きにすればいい。
サトル:ウロタス・・・。
ウロタス:やるなら急げ。増殖した大量のウロを制御することは僕にも不可能だ。ウロが全てを飲み込むまでもう時間がないぞ。
サトル:早く時計を・・・心臓を動かさなきゃ。
フェン:サトル、どうするんですか?
サトル:わからない。
プロックス:わからないって・・・そんな!
サトル:わからないんだよ!
エト:そんなもん叩けばなおる!
サトル:エト!
エト:おりゃあああ! (時計がエトを跳ね返す)うわっ!
フェン:エト、そんなことで動くわけないでしょう!
サトル:(時計を叩く)動け! 動けよ! このー!
フェン:あっ、サトルが叩いた時、時計が微かに反応しました! サトル、その調子です!
サトル:うん!
プロックス:みんなで叩こう!
エト:よし、やってやるぜ!
フェン:わかりました!
サトル:動け!
エト:動け!
フェン:動け!
プロックス:動け!
エト:元気があればなんでもできる! イチ、ニイ、サン!
エト・フェン・プロックス・サトル:ニャアアアア!
サトル:もう一回!
エト:イチ、ニイ、サン!
エト・フェン・プロックス・サトル:ニャアアアアアアア!
サトル:(荒い息)・・・ダメだ。
フェン:サトルはカミサマなのに。
エト:どうして動かないんだ!
プロックス:ああっ、ウロが迫ってくる。
エト:ちくしょう!
ウロタス:お前たちだけでは無理だ。
サトル:ウロタス・・・。
ウロタス:僕はもう一人のサトルだ。この僕が力を貸さなければ、時計は動かない。
サトル:ウロタス! お願いだ、僕を助けてくれ!
ウロタス:サトル、僕に協力してほしければ、僕と約束しろ。
サトル:約束?
ウロタス:この先なにがあっても、絶対に諦めるな。お前の中には、そこにいる猫と、この僕がいることを忘れるな。
サトル:わかった。約束する。
ウロタス:これがラストチャンスだ。おい、猫! さっきの掛け声、もう一発頼む。
エト:よぉし、全力でいくぞ! イチ、ニイ、サン!
全員:ニャアアアアアアア!
ドクン、ドクンと心臓が脈動する。
サトル:動いた!
エト:やった!
プロックス:時計が元に戻った!
フェン:見てください! ウロが消えていきます!
プロックス:世界が・・・明るくなっていく。ほらあそこ! 僕たちの森も元通りになってる!
フェン:森のみんなは無事でしょうか。
プロックス:そうに決まってるよ!
エト:助かった。俺たち、消えなかった。消えなかったぞ!
プロックス:やったー!
フェン:サトル、ありがとう。
サトル:(胸に手を当てて)僕の心臓が戻った。鼓動を感じる。心臓の音だ。僕は・・・生きてるんだ。
ウロタス:サトル・・・これでお別れだ。さっきの約束、忘れるなよ。
サトル:うん。ウロタス、ありがとう。
ウロタス:夢を持て、サトル。夢を持てばどんなことにも耐えられる。夢を・・・持つんだ。
プロックス:あ、ウロタスが消えちゃった。
エト:サトルの体も消えかかってる!
サトル:エト、フェン、プロックス、君たちもありがとう。君たちがいたから、僕はもう一度生きようって思えたんだ。
フェン:サトル、元の世界に戻るんですね。
サトル:うん。
プロックス:頑張ってね。応援してる。
エト:大丈夫だ。しっかりやれよ。
サトル:任せて。じゃあ、みんなさよなら。僕、頑張るから。元気があればなんでもできる。そうだろ?
エト:その通りだ!
サトル:イチ、ニイ、サン!
エト・フェン・プロックス・サトル:ニャアアアア!
ウロタス:(M)人はいつか必ず死ぬ。それでも人は、死へ向かって生きているわけじゃない。生きようとするのが人の本質のはずだ。だって、生きたいと願うからこそ、夜ごとに訪れる「眠り」という死から目覚めて、朝を迎えるのだから。たとえ世界から拒絶されても。サトルはもう逃げない。諦めない。今日を生きて、明日を生きる。
音楽盛り上がって。
おしまい。