『はやく春がこないかにゃあ』

【ジャンル】童話

【上演時間】10分

【あらすじ】

 お昼寝が大好きな猫のソラは、春にするには桜を咲かせなければいけないと聞いて旅に出ました。 

 ★幼児が喜ぶ仕掛けいっぱいの童話です。子供と一緒に楽しんで読んでください。


【本編】

 青い青い海の中に浮かぶ小さな島に、お昼寝が大好きな猫がいました。

 名前は「ソラ」。

 ソラは何より、暖かい太陽の下でするお昼寝が大好きでした。

 だから寒い冬は大嫌いで、早く春にならないかなあと、いつも思っていました。

「どうして早く春が来にゃいの?」

 ソラは、島のことならなんでも知っている猫のお爺さんにたずねました。

「桜が咲いたら春になるんじゃが、桜が咲くには、春一番という風が桜に挨拶しなきゃいけないんじゃ」

「じゃあ、僕が春一番さんに頼んでみるにゃ」

 ソラは春一番に会いに行くことにしました。


 春一番は、大きな山の上に住んでいました。

「こんにちはー」

「んん? お客さんかい? おや、猫さんじゃないか。こんな所になにしに来たんだ?」

「春一番さんにお願いがあって来たんだ。早く春が来るように、桜に挨拶に行ってくれにゃい?」

「ああ、今年はめんどくさいから挨拶に行くのはやめようかなって思ってたんだ」

「ダメにゃ! そしたらいつまで経っても春が来にゃいにゃ!」

「じゃあ、猫さんが代わりに行ってよ」

「僕が行くの? 僕でも出来るかにゃ?」

「出来るよ、たぶん。島で一番大きな桜一番さんに、花を咲かせてってお願いすればいいんだ」

「わかったにゃ。やってみるにゃ」

「桜一番さんは、ピンクが大好きだから、ピンクの服を着て行くといい」

 春一番は、ピンクの服をソラにプレゼントしました。
 

 ピンクの服を着たソラは、桜一番に会いに出発しました。

 途中、森の中で、クマさんに会いました。

 クマさんは眠そうな顔で、木の実をポリポリ食べていました。

「ああ、早く春が来ないかなぁ」

「どうしたの、クマさん?」

「早く春が来ないと、食べ物が無くなっちゃうんだよ」

「へー、そうにゃんだ」

「それに冬は眠くて、なにも動きたくないんだ。ふあああ」

「僕はこれから桜一番さんに春が来るようにお願いに行くにゃ」

「本当かい? じゃあ、このピンクのズボンを持っていきなよ。桜一番さんはピンクが大好きだからね」

「ありがとにゃあ」


 ピンクの服と、ピンクのズボンを着たソラは、また歩きだしました。

 途中、花畑を歩いている時に声が聞こえました。

「ああ、早く春が来ないかしら」

 見ると、バラのつぼみがため息をついていました。

「どうしたの、バラさん?」

「桜が咲いてくれないと、私が咲けないのよ。桜の後にバラが咲くって順番で決まっているのよ」

「へー、そうにゃんだ」

「バラの後にアジサイが咲くって順番で決まっていてね、そのアジサイから、早く咲いてよって言われてるのよ。でも、バラが桜の前に咲くわけにもいかないし、困っているの」

「僕はこれから桜一番さんに春が来るようにお願いに行くにゃ」

「本当? じゃあ、このピンクの靴を持っていって。桜一番さんはピンクが大好きなのよ」

「ありがとにゃあ」


 ピンクの服と、ピンクのズボンと、ピンクの靴を身に着けたソラは、また歩きだしました。

 途中、ツバメが飛んでいるのが見えました。

「ああ、はよう春がけぇーへんかな」

「どうしたの、ツバメさん?」

「春になってくれへんと、巣作て卵を産めへんねん」

「へー、そうにゃんだ」

「せっかく遠くの島から飛んできたのに、これじゃいつまで経ったかて卵が産めへんわ」

「僕はこれから桜一番さんに春が来るようにお願いに行くんにゃ」

「ホンマに? ほな、このピンクの帽子持ってって。桜一番はんはピンクがめっちゃ好きやねん」

「ありがとにゃあ」


 ピンクの服と、ピンクのズボンと、ピンクの靴と、ピンクの帽子を身に着けたソラは、また歩きだしました。

 途中、そら豆の兄弟に会いました。

「ああ、早く春が来ないかなー」「来ないかなー」

「どうしたの、そら豆さん?」

「春になったら、ポカポカの太陽の光を浴びて、僕はもっと大きくなれるのにな」「なれるのにな」

「へー、そうにゃんだ」

「大きくなって、早くこのサヤから飛び出したいのに、こんなに寒くちゃ大きくなれないよ」「なれないよ」

「僕はこれから桜一番さんに春が来るようにお願いに行くんにゃ」

「本当に? じゃあ、このピンクの手袋も持っていって。桜一番さんはピンクが大好きらしいから」「らしいから」

「ありがとにゃあ」


 ピンクの服と、ピンクのズボンと、ピンクの靴と、ピンクの帽子と、ピンクの手袋を身に着けたソラは、また歩きだしました。

 途中、リスに会いました。

「ああ、早く春が来ねぇかなぁ」

「どうしたの、リスさん?」

「春になったら、美味しいもんが沢山食えるのになぁ」

「へー、そうにゃんだ」

「海を渡ってきたツバメが産んだ卵とか、ポカポカの太陽の光を浴びて大きくなったそら豆とか、とっても美味しいんだぜ」

「ええええっ! 食べちゃうのー!」

「こんなに寒くちゃ、餌を見つける元気もなくなっちまう」

「僕はこれから桜一番さんに春が来るようにお願いに行くんにゃ」

「本当か? じゃあ、このピンクの風船も持っていけ。桜一番さんはピンクが大好きだからな」

「ありがとにゃあ」


 ピンクの服と、ピンクのズボンと、ピンクの靴と、ピンクの帽子と、ピンクの手袋と、ピンクの風船を身に着けたソラは、また歩きだしました。

 ようやく、桜一番を見つけました。

「こんにちは、桜一番さん」

 桜一番は、ピンクばっかりのソラを見てビックリしました。

「うわー、ピンクばっかりだー」

「僕、春一番さんの代わりに、桜を咲かせてもらえるようにお願いに来たにゃ」

「猫さんは、そんなに春になって欲しいのかい?」

「うん。だって、桜が咲いて春ににゃったら、僕は日向ぼっこしにゃがらお昼寝出来るし、クマさんは眠くにゃらにゃいし、バラさんはその後に咲くことができるし、ツバメさんは巣を作って卵を産めるし、そら豆さんは大きくにゃれるし、リスさんは卵とか豆を沢山食べられるし、それに、僕は日向ぼっこしにゃがらお昼寝出来るにゃ」

「そうか。みんなが私を待っているのか」

「あ、それに、僕がお昼寝出来るって言ったかにゃ?」

「ああ、これで3回目だ」

「だから、お願いにゃ」

「困ったな。いつも春一番の風には私が元気になれる歌を歌ってもらっていたんだが。そうだ猫さん、代わりに歌ってくれないか?」

「僕が歌うの?」

「ああ、私が元気になれる歌なら、どんな歌でもいいぞ」

「わかったにゃあ」

 ソラは桜一番が元気になれるように歌い出しました。

 春よ来い来いニャンニャンニニャニャン♪

 春よ来い来いニャニャニャンニャン♪

 そーろそーろ春になるよー♪

 そーろそーろ春になるよーニャン♪

 桜一番はソラの歌を聴いて、元気が出てきました。

「うおおおお、変な歌だけど、元気が出てきたぞー」

 桜一番の大きな幹がブルブルと震えだしました。

「むむむむむむ……」

 ボンッ!
 
 桜一番の花が一気に満開になりました。

「やったー、桜が咲いたにゃ!」

 ソラは大喜びです。すると、それを見ていた桜二番も、
 
 ボンッ!
 
 と桜を咲かせました。

 それから周りの桜の木がどんどんと咲いていきました。
 
 ボンボンボンッ! ボンボンボンッ! ボンボンボンボンボンボンボンッ!
 
「うわー、桜が満開だにゃー!」

 ソラはピンクの服を着て、桜の下で嬉しそうにクルクルと回りました。

 島に春がやってきました。

 島の動物たちや、草や、花が、春をお祝いしています。

「ふああああ」

 ポカポカの太陽の下でソラは大きくあくびをしました。
 
「やっと春ににゃったにゃ。これでゆっくりお昼寝できるにゃ。」
  
 今日はとってもいい天気。



 おしまい。