『うさぎさんときつねさん』

【ジャンル】童話

【上演時間】10分

【あらすじ】

 満月の夜。丘の上で月を捕まえようとするうさぎに、「僕にまかせて」ときつねが言いました。

【本編】

 ある丘のてっぺんで、うさぎが空に手を伸ばしてピョンピョンと飛び跳ねていました。

 雲一つない夜空には、大きな丸い月が浮かんでいます。

「もうすこしっ! えいっ!」

 何度ジャンプしても、月には手が届きませんでした。

「えいっ! えいっ!」

 その時、それを見ていたきつねがうさぎのそばにやってきて、こう言いました。

「うさぎさん、うさぎさん、君はいったい何をやっているんだい?」

「あ、きつねさん、こんばんは。実はね、空に浮かんでる月を捕まえようと思ったんだ」

 きつねはそれを聞いて、ニッコリと笑いました。

「そんなに月が欲しいなら、僕が捕まえてやるよ」

「ホント? きつねさんは月を捕まえられるの?」

「当然さ。この森で月を捕まえられるのは僕だけさ。だから僕にまかせておくれよ」

「やったー!」

「そのかわり、この森の木の実をたくさん取ってきてくれないか?」

「わかった!」

 うさぎは大喜びで森を駆け回って、大きな袋の中に木の実を集めました。 

 そして、木の実がいっぱいに入った袋を引きずって、うさぎは丘のてっぺんに戻ってきました。

「うさぎさん、待ってたよ」

「きつねさん。いっぱい木の実を集めてきたよ」

「ありがとう。じゃあ、これから月を捕まえるね」

 きつねが「しーっ」と指を口元に当てたので、うさぎは声を潜めました。

「どうやるの?」

「目を離さないでね」

 きつねの足元には何かが置かれていて、それを隠すように大きな布がかけられていました。

 布に隠れて、その下に何かが置かれているみたいです。

 きつねが布に手をやると、うさぎはドキドキしながらそれをみつめました。

「それっ!」

 きつねがサッと布を引くと、その下に水の入った桶が置かれていました。

「あっ、月だ!」

 桶の中に満月が浮かんでいました。

「言ったろ。僕は月を捕まえるのが得意だって」

「月があくびをした隙をついて、すばやく桶の中に閉じこめたんだ」

「すごい・・・」

「ああっ! 月から目を離しちゃいけないよ。月はすばしっこいからね。目を離すとすぐに逃げてしまうんだ」

「ええっ、逃げちゃうの!?」

「そう。気をつけてね。くれぐれも空を見上げちゃいけないよ」

「それと、桶の中の水は絶対にこぼさないでね」

「わかった。きつねさん、ありがとう!」

 きつねから月の入った桶を受け取って、うさぎは丘を降りました。

「ゆっくり、ゆっくり」

 水を零さないように。

「慎重に。慎重に」

 桶の中の月をじっと見つめながら。

「もう少し、もう少し」

 しかし、もう少しで家に着くという時、うさぎは木の根元に足を引っかけてしまいました。

「おっとっと。うわぁぁ!」

 ばっしゃーん!

 バランスを崩して倒れてしまった拍子に、手にもっていた桶をひっくり返してしまいました。

「ああ、しまった!」

 急いで桶の中を覗きましたが、月はもうありませんでした。

「あぁあ…」

 うさぎはがっかりして、夜空を見上げて、それから「あっ」と声を上げました。

「もうあんなところまで逃げちゃった・・・」

 うさぎは、水の中に閉じこめた月よりも空に浮かんだ月のほうがキレイだと思いました。

「まあ、いっか」

 うさぎは嬉しそうに、いつまでも月を眺めました。



 おしまい。