『告白』



【登場人物】2名(男性1・女性1)
市原:後輩男子。
加藤:先輩女子。

【ジャンル】ラブストーリー

【上演時間】15分

【あらすじ】
 先輩女子に告白する後輩男子。胸キュンストーリー。

【本編】
 会社の飲み会の帰り道。先を歩く加藤に市原が後ろから声をかける。

市原:お疲れ様です。

加藤:あ、お疲れ様。あれ? 市原君こっち方向だっけ?

市原:違います。加藤さんと話したくて追いかけてきました。

加藤:さっきお店で飲みながら話してたじゃない。

市原:さっきは課長が隣にいたし。他にもいっぱいいたから。

加藤:内緒の話?

市原:そういうわけでもないんですけど。

加藤:仕事の悩みとか。

市原:そういう話でもないんですけど。

加藤:仕事の相談なら私にしないか。いいよ。先輩が悩める後輩の相談に乗ってあげよう。そこの公園でいい?

市原:はい、ありがとうございます。

加藤:なんか飲み物買ってく?

市原:いえ、大丈夫です。

加藤:私が欲しいのよ。喉乾いちゃって。

市原:あ、すいません。おごりますよ。

加藤:ありがと。じゃあおごらせてあげる。

市原:(自販機にお金を入れて)どうぞ。なんでも好きなボタン押してください。

加藤:おお、太っ腹。って、お茶くらいでなにカッコつけてんの。

市原:いつもおごってもらってるんで、たまには。

加藤:(ボタンを押して)はい、ご馳走様。

市原:俺はコーヒーで。

加藤:いつも飲んでるやつだ。

市原:コーヒーの味はわかんないんですけどね。これだけは美味しいって思うんです。

加藤:そういうのあるよねぇ。

市原:はい、かんぱーい。

加藤:はーい。市原君、酔ってる?

市原:酔ってませんよ。酔ってるのは加藤さんのほうじゃないですか。

加藤:そう? 足はしっかりしてるよ。あそこのベンチでいい?

市原:はい。今日の加藤さん、いつもよりテンション高かったから。

加藤:(座って)よいしょと。そっか。楽しそうに見えたのか。

市原:何かいいことありました?

加藤:ん~。

市原:それとも、何か嫌なことありました?

加藤:……よく見てるねぇ。

市原:なんか気になって。

加藤:座らないの?

市原:このままでいいです。

加藤:そっか。え、あれ? 話したいことって、それ? 私のこと?

市原:はい。このままじゃ気になって夜も8時間しか眠れません。

加藤:ぐっすり寝とるやないかーい。

市原:ほら、いつも俺がボケてもスルーしてるのに、今日はツッコミ入れてくれるし。

加藤:何があったか聞きたいの?

市原:いや、話したくなかったら別にいいですけど……。

加藤:昨日、彼氏に「別れよう」って言われた。

市原:……。

加藤:以上。

市原:そうっすか。

加藤:うん。

市原:なんか意外です。

加藤:そう? まあ、なんとなく予感はしてたんだけどね。そろそろかなぁって。

市原:そうじゃなくて、加藤さんがダメージ受けてるのが意外っていうか…。

加藤:ダメージ? ああ、確かに。ダメージ受けてるねぇ。市原君にバレちゃうくらいは。

市原:この前、彼氏のこと飽きたって言ってましたよね?

加藤:そんなこと言った?

市原:言いました。彼氏に熱中するのに飽きちゃったから、他に何か熱中することを見つけたいって。

加藤:言ったわ。よく覚えてるね。まあ、私がそんなだから、浮気されちゃったんだろうな。

市原:とっくに冷めてるのかと思ってました。その元カレのこと、まだ好きなんですか?

加藤:まだ正式には別れてないから、元カレではないんだけどね。

市原:え、今、どういう状況なんですか?

加藤:だから、「別れてほしい」って言うから、「嫌だ」って答えて、「どうしても別れてほしい」って言うから、「絶対嫌だ」って答えて。で、結論が出ないまま。

市原:彼氏さんは加藤さんのOKが貰えないと別れないつもりなんですかね。

加藤:一方的に「さよなら」って言えばいいだけなのにね。よくわからないけど、そこはちゃんとしたいみたいよ。

市原:ちゃんとした男なら浮気しません。

加藤:だから、ちゃんと私と別れて、ハッキリ区切りをつけてから、新しい彼女とつきあいたいみたい。

市原:それ、あれですね。新しい彼女に言われてますよ、きっと。「ちゃんと別れてきて。じゃなきゃ、あなたとつきあわない」って。

加藤:なるほどー、そういうことか。市原君、よくわかったね。

市原:予想ですけどね。まあ、でも、彼氏さんが加藤さんの気持ちをなんにも考えてないってことはわかりました。

加藤:そうなんだよね。ビックリしたよ。だって、私に向かってその新しい女がどんなにいい女かって力説するんだよ。お前とはここが違う、あそこが違うって。もう意味わかんなくない? 私はあなたの彼女じゃないのかよって泣きそうになったわ。つーか泣いたわ。

市原:で、どうするんですか?

加藤:このままずっと「別れない」ってダダをこねるのもいいかなーって思ったり、思わなかったり。

市原:……まだ好きなんですね。元カレ……じゃなくて、その、彼氏さんのこと。

加藤:わかんない。私が別れたくないっていうのは、ただ意地になってるだけで、好きって気持ちじゃないのかなって。二人で一緒にいた時間が全部なくなっちゃうのがもったいないなぁとか。私のものだって思ってた人を他の女に取られたくないなぁとか。そういうのって、好きとかじゃなくて、ただの執着心なんじゃないかって。

市原:別れたほうがいいですよ。

加藤:そうだよね。やっぱりそう思うよね。

市原:話を聞いてるかぎり、もうどうやったって彼氏さんは加藤さんの元に戻ってきませんよ。加藤さんがいくら「別れない」ってダダをこねても無駄です。

加藤:やっぱりそうだよねぇ。

市原:まだ彼氏さんのこと好きなのに、「頑張れ」って言わなくてすいません。

加藤:いや、だから……。

市原:「わかんない」って言うのは、まだ好きってことです。ちゃんと頭では別れたほうがいいってわかってるのに、それが出来ないのは本心に好きが残ってるからですよ。

加藤:うわ、グサッときた。

市原:刺さりましたか。

加藤:ん~、胸が痛くて涙出そう。女心がわかる男ってなんなの。

市原:加藤さんがわかりやすいだけです。

加藤:市原君、モテそうだよね。そこそこイケメンだし。身長高いし。

市原:そんなことないです。すぐに火の玉ストレート投げちゃうんで、相手は疲れちゃうみたいですよ。

加藤:ああぁ、わかる気がする。年下の彼女とはうまくいってるの?

市原:誰に聞いたんですか、それ?

加藤:誰だったかな。覚えてないけど。

市原:年下の彼女なんていません。それ嘘です。

加藤:そうなの?

市原:少し前に高宮さんに告白されたんです。で、断る口実に妹の写真見せて、彼女だって嘘ついて。

加藤:そっか。そうだったんだ。なんで嘘ついたの?

市原:他に好きな人がいたんで。

加藤:へぇぇ、好きな人いるんだ。

市原:はい。います。

加藤:告白しないの?

市原:タイミングが掴めなくて。

加藤:市原君ならきっとうまくいくよ。

市原:そうですかね。

加藤:絶対うまくいくって。告白しちゃいなよ。

市原:なんでそう思うんですか?

加藤:だって、そこそこイケメンだし、身長高いし、女心わかるし。

市原:さっきも「そこそこ」って言ってましたよね?

加藤:超イケメンではないよね?

市原:そうですね。そこそこって言ってもらえただけでも嬉しいです。

加藤:どんな人?

市原:……ちっちゃい人です。

加藤:市原君から見たら、だいたいみんなちっちゃいよ。

市原:小さいのに……いつも背伸びしてる人です。

加藤:背伸び? 疲れるでしょ。そんな人いる?

市原:みんなが普通に届く所も小さいから届かなくて。だからいつも背伸びして頑張ってて。小さいのに頑張ってる姿が周りにいい影響を与えてる。見てるだけで「自分も頑張ろう」って元気を貰える。そんな人です。

加藤:なんかカッコいいね。

市原:すげぇカッコいいんです。でも無理してるのがわかっちゃうから、ほっとけないんです。だけど、彼氏に別れ話されてヘコんでる時に、「大丈夫。きっと戻ってきますよ」なんて気安く言ってあげられなくて。そんな事も言えなくて。

加藤:……。

市原:だってムカつくじゃないですか。こんないい女ほったらかして浮気するような男と一緒にいてもいいことなんか絶対にない。早く別れたほうがいいに決まってる。

加藤:……。

市原:でもまだ好きなんだから仕方ない。その気持ちは他人に何を言われたって、どうこう出来るもんじゃないし。徹底的に彼氏に傷つけられたら、その男を好きじゃなくなるのかもって思うけど、でも傷つけられるの黙って見てる男にはなりたくないし。

加藤:……。

市原:だから、つまり……。俺、加藤さんが好きです。

加藤:うん。ありがと。……それと、ごめん。

市原:……うまくいくって言ったのに。

加藤:そうじゃなくて。「ごめん」って言ったのは、市原君にこのタイミングで告白させたこと。なんとなくわかってたのよ。市原君は私に気があるんだろうなって。でも彼女いるって聞いてたし、どうなのかなって思ってた。

市原:まあ、最近は隠してなかったと思います。他の奴らにもわかるようにアピールしてましたし。

加藤:だよね。私、今、心が弱ってるからさ。だから、市原君に告白されたいなぁって思って。「好き」って言われたいなぁって思って。催促したみたいで、ズルかったよね。

市原:その作戦を正直にバラしてるから、ズルくないです。

加藤:昨日からずっと冷たかった心臓がジワーって温かくなった。

市原:そうですか。役に立ててよかったです。

加藤:うん。市原君がいてくれてよかった。

市原:もし俺が他の誰かを好きだって言ってたらどうなってました?

加藤:それはヘコんだねぇ。大ダメージで泣いてたかも。

市原:今も泣きそうな顔してますよ。

加藤:嬉しかったから。

市原:そっか。

加藤:うん。嬉しかった。

市原:まあ、まだ別れてないそうなんで、とりあえず気持ちだけ伝えました。返事は彼氏とハッキリ区切りをつけてからでいいですよ。

加藤:ハッキリ区切りか……。……凄いね、市原君。

市原:そうですか?

加藤:うん。なんでこんないい男が私を好きなんだろうって不思議だよ。

市原:加藤さんも凄いんです。憧れです。尊敬してます。大好きです。

加藤:ホントに泣くからやめて。

市原:ああああ、今の加藤さん、すげぇ抱きしめたい。でも我慢します。

加藤:ああああ、私も抱きしめられたい。でも我慢する。

市原:あああああああ。

加藤:あああああああ。

 身悶える二人。

 おしまい。