男子の本懐 | 10go9

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 斬首。

 最年少は十六歳。

 二十三人もの若い命が散っている。その刑場跡地、奈半利川河畔に碑が立っている。

『二十三士殉節之地』

 碑面にそう書いてある。

 この字を書いた男。彼もまたこの地出身の傑出した大物政治家である。

 

 

 それを書いた男。

 彼もまた時局混迷、瀕死の日本、その再生を任され、大儀に殉じた男である。

 

 

 その男。

 責任感が強く、勤勉実直、そして清貧にして、愚直に初志貫徹、その風貌と相まって、強烈な存在感を発揮し、

『ライオン宰相』

 と呼ばれた男である。

 

 

 その男。

 明治以来、軍備拡張が当たり前、その風潮、世論に抗して、

 未来の国家、国民生活の安定、国家財政の立て直しを模索して、戦争から平和へ、積極財政から緊縮財政へ、時局困難な国家の舵取りを任された男である。

 

 

 東京駅で、一発の銃弾が彼を貫いた瞬間、

 欧米列強との軍縮の信頼が、揺らぎ、

 軍部の台頭を許し、歴史に暗雲が立ち込め、昭和動乱の時代へと突入していくことになる。

 

 

 弾丸に倒れ、駅長室に運ばれ、薄れゆく意識のなかで、彼が呟いた言葉が、

 あの城山文学の頂点をなす名作のタイトル、

『男子の本懐』

 つまり男と生まれて、大儀に殉じ本望である。

 その生き方に悔いはない、という意味である。

 

 

 彼の名は、濱口雄幸。土佐安芸の人。

 彼の旧邸は、この奈半利川河畔から近い。

 

 

 土地柄か、面映ゆい。

 落ち武者の手負い獅子、乞食遍路と言えど、

 もう少し、心して歩け、という意味か。