遍路道の新婚クン (2) | 10go9

10go9

ブログの説明を入力します。






夕刻が迫ってる遍路道。まだ止む気配もない雨。

遍路道に常はない。だから無常。

タイムリミットが迫ってる。

雨の中をバス停探して、掛けだしていく新婚クン。

自分もすぐ雨具を羽織り、小走りで後を追う。

 

 

下に深い川が流れていて、坂道の途中。

バス停があって、小降りの雨の中で新婚クンが突っ立っていた。

雨降りで、辺りにはもう濃い暮色が立ち込めていた。

「小父さん、ありがとうね! この後、小父さんはどうする?」

「何とかなるよ!」

「今日のこと、忘れないからね」

「たぶん、爺々も、君のこと、絶対忘れないと思う」

「時間取れなくて、区切り打ちしか出来ないけど、旨く行けば正月、またここから始めます」

そして、

「僕も、生涯絶対に、小父さんのこと忘れないから!」

バス停表示は、土佐清水、『下ノ加江』となっていた。

 

 

やがて高知行きのバスが来て、

新婚クンはすぐ車中の人となり、バスの中を後部座席へ移動するのが見えた。

そして金剛杖を脇に挟み直立不動で、

リアガラス越しに自分に向かって、深々と頭を下げた。

それは何か、札所山門を退出する時の作法に似てた。

やがてバスは去り、

一人取り残された人的温もりの喪失と、雨が奪った体温の温もりが、

暮れゆく濃い暮色を一層深めた。

 

 

     雨降る 会えば別れの 雨降る        ・・かぁ~。

 

 

もう自分には野宿する元気が残ってなかった。

少し遅れた遍路宿。

食事前だったけど、

宿の息子さんだろう。風呂場に案内してくれた。

「今日は何処から、歩きました?」

「土佐東寺大師堂と言ったかな? 堂守さんの居るお堂から」

と、答えると、

「25キロは・・、歩いていますね」

「ええッ! このノロマが、そんなに?」 

 

 

一人湯船に浸かってると、急に今しがた彼と別れた寂しさが込み上げてきた。

  あああ、   雨降る 会えば別れの 雨降る

遍路道には常がない。だから無常。

そんなことを考えてたら、突然平気でガラス戸が開いて、

「お遍路さん、御飯ですよ! 皆さん、待ってらっしゃいますから・・」

と、先ほどの宿の息子さん。呼びに来たのか、そのまま平気で動かない。

仕方なく脱衣所に上がると、まだ動かないで、丸い目して見てる。

(見せ物じゃないン!)

と、思ってるのに、まだ平気で動かない。(笑)

「お遍路さん! いい体してますね。胸板厚くて・・、何かスポーツやってたンですか?」

そんなもンじゃない。下積み暗黒重労働。(笑) 今年還暦、もういい年寄りを掴まえて・・。(笑)

でもな、まてよ・・? これって、もしかして・・?

遍路道の過酷さが、身の贅肉を削いで、外見的にはもういい遍路が出来上がっていたのかもしれない。

こもまで歩いてきたのだから、本人が気付いていないだけで、

辛酸を経た歩き遍路特有の、すごいオーラだって出てたかもしれない。

 

 

「僕30にもなって、まだ軟弱で・・」

それどころか! はやく着替えをしなければと思っているのに、

「ここ何か、お遍路さんみたいに肉、付いてなくて・・」

スッポンポンの素っ裸。無防衛もいいところ。でも褒められてわるい気はしない。(笑)

この子、どこか稚気、可愛い。

「そんなことないよ。童顔可愛いよ!」

と、言ってやると、

「本当ですか?」

と、素直で、人の温もりがあって、その笑顔がよかった。

別離の後で、これかぁ。

遍路道も中々味な芸当をする。(笑)♪♪♪

遍路道、手負い獅子、落ち武者、乞食遍路、

その憂さ、晴れた。

 

 

「あなた、歩き遍路さんなの?」

食堂では知らないお遍路さんが、

夕食を待っていてくれた。