岩に腰を掛け、谷川の水を飲み、
自然、秋の風光に紛れて、細く長い遍路道を、
ただ一人、点となって辿り着いてみたら、
岩本寺に岡山・倉敷の稲さんが、托鉢の若い雲水さんと談笑してた。
稲さんは、足の治療をしてくれた恩人である。
岩本寺本堂の天井絵を見学し、参拝、納経をすまして、目礼したら、
「こっち、こっち・・」
と、呼んでいる。
駆け寄ると
「今日の宿、決まってるの?」
と、稲さん。
「いや、まだです。行き当たりバッタリなんで・・」
「じゃ、岩本寺門前の伊予屋、どう? 和尚も泊まるから。ついでに和尚に、足の治療のアドバイスをしてもらうといいよ!」
どうやら稲さんは、托鉢の雲水さんを宿に接待したようだ。
まだ午後の4時前。もう少し足を伸ばしたい所だけど、恩義のある稲さんの申し出である。
どうしたものか、と・・。
そこへ札幌の大学生、例の根室本線、エドシカ君が登場。
またそのすぐ後、今度はまだ新婚ほやほや、新妻一人東京に置いて遍路してる新婚クン登場。
そうこうしてると、無愛想、早い朝立ち、古希、無言の鉄仮面さん登場。
雲水さんは永平寺傘下の寺の師匠について、只今一人四国托鉢遍路、修行の身。
「これですか? 遍路する内弟子たちに、受け継がれた師匠譲りの錫杖です」
3メートルはあるかと思われる細い樫の木、その長い杖を興味深げに握らせてもたらっていると、
「写真撮らせてもらっていいですか?」
と、社内広報課配属だという新婚クンが、
「ついでに、皆さんも・・」
その夜の伊予屋旅館。
若者二人は先を行く、と言い、
稲さん、雲水さん、鉄仮面さんに、自分は伊予屋旅館に。
まだ外が明るい暮れ泥む頃、小さなお風呂で偶然雲水さんと一緒になった。
僧形とはちがって、ずいぶん若い印象を受けた。
自分にあてがわれた部屋はフスマをぶち抜いた大広間。
もともとは団体お遍路さん用だったかも・・。
広い空間、独り占め。腹這いになってメモしてると、部屋を訪ねて来られた雲水さんが引き返そうとされるのが見えた。慌てたお引き留めすると、
丁寧に足の治療をして下さって、その後不思議な御縁で、よもや話に夜が更けた。
駒沢大出の38才、前歴はとお伺いすると、一寸言いよどんで、
「元は外務関係・・・。それが今、坊主に・・」
と、静かに笑われる。
「深い眼差しですね。お坊さんに、ピッタリですよ」
と、率直に感想を言うと、
「・・・本職ですから・・」
と、また深い眼差しの、その笑顔がよかった。