うす暗い月明かりの部屋でその人は静かに眠っていた。


綺麗な鼻筋。小さい顔。きれいな肌。柔らかそうな唇。


何時間か前までこの唇が囁いた言葉が今でも耳に残っている。


そしてこの唇が何度も触れた事も・・・


そして彼女は顔にあるその印象的な小さなホクロを指でなぞった。





綺麗・・・




このまま眼を覚まさなければいいのに・・・




このまま何も思い出さなければ・・・・






一か月前


彼女は憂鬱な気持ちで田舎道を車で走らせていた。


離婚届を提出したばかりの彼女はひとりで生きて行こうと、


日本から遠く離れた見知らぬ地で暮らそうとやって来たばかりだった。


もうすっかり辺りは暗くなり、誰一人歩いてはいなかった。


知らない道を散々迷いこんでしまったのだ。


憂鬱な気持ちと不安な気持ちで地図を片手に車を走らせていると


急に人のような影がヘッドライトに映し出された。


全身黒い服装で黒の髪。


小さい少年に見えて思わず車を止めてしまった。


眩しそうに振り向いた顔は日本人に見えた。


その顔に血の気は無く、よく見たら服は泥だらけで、手や顔は傷だらけだった。


その瞬間その人はバタっと倒れてしまったのだ。




え?やだ!どうしよう




彼はひどく痩せており、抱えて車に乗せるのにそう大変ではなかった。


どうしよう・・・・そう思ったがこのまま置いて行くわけにもいかない。


結局病院や警察の場所も分からず、家に連れてきてしまった。


日本人に見えたその顔に安堵も気持ちがあったのだろう。


彼女は少し躊躇しながらボロボロの服を脱がせ、顔や体を拭いてやり、


ソファーに寝かせ、シーツを掛けた。


そしてまじまじとその少年を見つめた。


体には無数の傷の他にたくさんのTattooが刻まれていた。



年はいくつだろう?少年のようにも大人のようにも見える。



本当に日本人だろうか?他のアジア系?



それにしても良く見るとハンサム。



睫毛も長い。指も長い。



そして何故だかとても美しいと思った。


彼は何者なんだろう?何故あそこにいたのかしら?


彼女はベッドに入っても一睡もできず考えていた。




朝になって聞いてみればいい。




そう思って眠りに就いたのはもう薄っすらと明るくなった頃だった。




太陽の光がまぶしくて眼が覚めたのがもうお昼近かった。


一瞬昨夜の事が思い出せずしばらくボーっとしていたが


すぐにベッドから飛び出し、隣の部屋のソファへ向かった。




あれ?いない・・・




そこにはシーツが置かれてるだけだった。




夢?




そう思い外の庭を見ると彼が立っていた。


そして彼女に気づき、こちらを見つめ、ぺこりと頭を下げた。