小さな縁側があった。
茹だる暑さを裸になって、そこに座りながらオカンと西瓜を食う。
キャンキャン…
飼っていた馬鹿犬が、俺が口から飛ばす西瓜の種になぜか喜んで、ハシャギ回って食うのだった。
「そんなもの食べたら、お腹壊すだろうに困った子だねぇテツは」
プププ〜っ!また飛ばしてやる。
〜大丈夫だよ、犬だもん。テツは何でも食べちゃうんだからー
散歩は俺の仕事だったが、目を離すと辺りの草だろうが土だろうが食ってしまうのを知ってたからだ。
「それにしても暑いねぇ」
オカンは汗を拭き拭き溜息をつく…
「夕方になったらお風呂に行こうか…」
〜うん、行く行く!
嬉しくて仕方がなかった。
あの大昔の夏の日のいつもの光景…
あの時間のあの幸福感が懐かしい。
オカンもバカ犬にももう会えないー
縁側も美味しい西瓜も今の俺の生活の中には無い
そう言えば西瓜も滅多に食べなくなった。スーパーでカットしたのを買ってくる時があるが、タネなど邪魔にならない様に加工してある代物だ。
西瓜割りなど見る事もなくなったねえ。
そうそうスイカなんて、今じゃスロットのリーチ目で馴染みがあるぐらいじゃないか。
縁側からは樹木の囲いはあったが、見通しは良くて青空も白い雲も、すべてが僕らを見てるように思えた。
オカンはたまに無言のまんま、そんな空を見上げてボーッとしてたなぁ。
オカンもきっとあの時間が至福だった
のかもしれないー。