不意をつかれた僕はその勢いに一瞬ポカンとしてしまったが、ぶつかってきた当人はこちらを振り返ることなくそのまま何も無かったかのように立ち去ってしまった。
後ろ姿を見る限りは僕の父と同じくらいの年齢の男性だった。
ふと我に返ると、イライラとした感情が僕を襲ってきた。
「いい年した大人が、振り返って謝ることもせずに立ち去るの?おかしくない?そんな大人に育てられた子供はどんな子に育つの?」
はい・・・。余計なお世話ですね。
僕はすぐに考えを改めた。
そう。今日しか生きることが出来ない僕の今日を、顔も名前もわからない、もう会わないかもしれない方にイライラすることで無駄にするのが一番もったいないことだとわかっているから。
きっと、何かステキな発明をしてて、ぶつかったことに気づかなかったのかな?ぜひ、みんなが喜ぶ発明をしてほしいなぁ。
きっと、とてもシャイな人で謝りたくても振り向く勇気が出なくて今になって自己嫌悪に陥ってるのかな?全然気にしなくていいのに。
きっと今日は仕事で大成功して、浮かれ気分で帰ってたから今は何も見えてないのかもな。事故にだけは合わないように、おいしいご飯が食べれたらいいですねー。
まぁ、こんな感じだ。
僕はエスパーでもなんでもないので、相手の気持ちも考えも価値観もわからない。
わからないのに、僕に人を裁く権利はない。わからないのに、ネガティブな仮説を立てて自分が不幸になる選択をわざわざする必要もない。
そうやって自分の気持ちと向き合っていると、あるすごいことに気がついた!
「そういえば、今までぶつかられた時にはだいたいの人が謝ってくれた!きっとその人たちも事情があってたまたまぶつかってしまっただけなのに、ちゃんと謝ってくれていた!僕は今までとても素晴らしい環境で育ってきたんだなぁ」と。
そう考えたら、今回ぶつかってもらったおかげで僕はなんだか普段出来ない感謝の気持ちが湧いてきて結局は得した気分で家路を辿ることが出来た。
ちなみに江戸時代は、「江戸しぐさ」という江戸っ子ならではの風習が幾つかあって、そのひとつに、足を踏まれたら踏んだ側も謝るけど、踏まれた側も謝るという風習があったそうです。
「踏まれるようなところに足を置いててすいません。」と。
そんな大人、かっこいいですね!
そして、その「江戸しぐさ」が出来ていない(相手を思いやることが出来ない)人を『井の中の者(世間知らず)』という意味で「いなか者」と呼んでいたそうですよ。
出身地じゃないんですねー!
あなたは粋な大人ですか?
いなか者ですか?
相手も過去も変えれないけど、自分の考え方や感じ方なら3秒あれば変わりますよね。
そんな大人がたくさんの日本にしていきたいなー。