『センセイの鞄』
            川上弘美
            文春文庫

人によるとは思うけれど、年齢や経験を重ねれば重ねるほど、気持ちだけで突っ走れるような恋愛はし難くなっていくような気がしています。

自分の暮らしのこと、お金のこと、互いの年齢のこと…。
そんなあれやこれやが一歩前に踏み出すことをおしとどめてしまうような。

駅前の一杯飲み屋で偶然再会した高校時代のセンセイと教え子のツキコさんの恋模様はあるのかないのかわからないくらいゆっくり。

それはまるで線香花火のようです。

ふるふると小さく震える小さな火球が、始めは小さく、だんだんと大きく四方八方に爆ぜ、また小さな火花になって、最後はポトリと火球が落ちる。

打ち上げ花火のような激しさや華やかさはないけれど、深い余韻が残る静かな美しさ。

そんな恋愛もいい。
そう思えるような年齢になったのだろうと思います。