祐希学、ミユキ、安倍千夏、星崎ヒロミ、天川アキト、ジーンファーレン。全てを繋ぐ戦いが明日、始まる。正確にはそれぞれの決意が決まった時点でゴングは鳴っていた。人間とプログラム合同のコンピューターウイルス殲滅作戦。その先の人類の未来を信じて明日、戦う。それぞれのきっかけは違えど最終目標は同じなのだ。たとえ違う空を見ていても、そこから飛び降りてたどり着く場所は似ている。




ジーンファーレンはまだ会社にいた。



[社長。帰らないんですか?コーヒー置いときますね][ありがとう。ところでどうだ?明日の具案は?][実は変化がありまして。感染率は変わらないんですがね、密度が増してるんですよ][密度?つまり飽和状態なのか?][そこまではわかりません。どこまでもつのか。うちのセキュリティーが。危険な状態なのは代わりないのですが][乗り込んでみないとわからないか?…………こんな危険な賭けに高校生を巻き込んでいいんだろうか?君は子供がいるんだろ?][もしかして、大人の都合云々と言われたり?彼は覚悟を決めてるので良いんじゃないですかね?逆に出る杭を打ったら、怪我する事もあるんですよ。お互いに傷つく事も。好きにやらせたらどうです?][そうか。彼には未来がある。我々はその橋渡しをする。それで構わないな?][未来?たった一回のアクションでは見れないですよ。霞んで。未来はそんな重要じゃない。重要なのはアクションを起こす気持ち。勇気][心意気が人間の器になるか。確かにな。我々は勇気のエンジンを入れただけ。それだけでは何も変わらない][…………まるで保護者ですね。終わったらどうです?再婚とか。家族がいとおしいでしょ?][ハー………再婚か。一度手に入れた幸せをまた手に入れるのは難しいんだぞ。どうしても今回はと力が入る。無駄にな。もう遅い。帰りなさい][…………社長。貴方の幸せは我々の希望なんです。頑張ってれば幸せは手に入る。愛と幸せは交換出来ない。何故なら、愛に努力は必要無いから。だから愛に満ちていても幸せを欲しがる][…………覚えておこう。また明日な][それでは失礼します]




うちの社員は優秀だ。だから幸せを手に入れる人間が多い。それが理想主義者の考えなのだ。果して私の理想は何処にあるのだろう?今回の作戦か?イヤ。通過地点でしかない。マラソンの中継点のように





次の日。ついに決戦の日を迎えた。マナブ、ミユキ、チナツは揃って会社に向かう。薄明かりのコンクリートの摩天楼に虹のようなガラス窓。三人は霞の彼方から現れた。霞の先には太陽が照らしていた。ジーンファーレンは屋上から彼らの登場を待っていた。[いよいよだな。少年達よ。踏み出した一歩は小さい。だが積み重ねるとそれが道となる。その道を歩むといい]




一方、星崎ヒロミ率いる、プログラム軍も準備を整えていた。それぞれがマシンの整備や自分の胸のうちを語っていた。こんなプログラムに成りたい。こうあるべきだと。リーダーが前面に出る。[野郎ども!いよいよクライマックスだ!盃の支度をしろ!今日はパーティだ!宴の支度をしろ!最後に生きて帰れ!以上だ!待機ー!]歓声がこだまする。



星崎ヒロミも高揚していた。……………アキト君。聞こえる?この歓声。これが我々の答えだわ。貴方にも見せたかった。貴方は今、どこでこの空を見てるの?心配無いわ。彼は来る!必ず!戦う宿命を背負った孤高の戦士よ。






役者は揃った。それぞれの想いを乗せて今、時代は彼らに試練を与える。試練に模試や追試など無いのだ。針の糸を通す位の小さな戦いかもしれない。だが今の彼らにはそれが全てだった。






続く