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「・・・・・くっ」
不覚をとった・・・・・・王妃が襲われた宿屋で負傷した俺は、些細な傷と放っておいた。
内功の使い手である俺は、少々の傷なら自分で治すことができる。
気を身体の中に巡らせ、傷を塞いでいくのだが・・・・・・それすらしなくとも良いと構わなかった。
まさか、その傷がじくじくと疼き、その場所が膿んでくるとは・・・・・・不覚だった。
日が経つにつれ、一日、一日、まるでその場所から腐り果てるように赤黒く変色していく。
赤黒く、広がっていく傷が、熱をもち・・・・・俺を侵食していく。
王を開京に無事につれてきた。
その頃には身体中が熱く、自分でも隠しておけなくなったと感じていた。
皇宮に王がお入りになった・・・・・・伯母であるチェ尚宮が出迎え王と言葉を交わしている。
そのとき、不意に俺の手に何かが触れた。
触れた途端、柔らかなものに、手が包まれた・・・・・・
「・・・・・あなたの手、すごく熱いわ! 熱があるんじゃないの?」
「なんでもありません」
俺は手を引き抜き、顔を背ける。
だが医仙は・・・・・天界の女人は俺の前に回り込み、背伸びして白くたおやかな手を俺の額に当てた。
すぐにその手を頭を振り、避けるが・・・・・・時すでに遅し、だった。
「やっぱりあなたスゴイ熱よ!!!」
「・・・・・・騒ぐな」
「騒ぐなって何よ! ・・・それより何で熱が? 風邪から? それとも何処か怪我でもしてるの?」
「・・・・・・平気だ、これくらい何でもない」
「平気じゃないわよっっ!!!」
再び、真白き繊手が伸びたとき、思わず医仙の手を取り・・・・・・・背中に捻り上げていた。
「痛いっ!」
医仙の声が上がった、瞬間だった。
(( びりりっっ!!! ))
医仙の手首を捻り上げた腕の肘から、痛みと痺れが四方に伸びた。
肘から手首へ、その上の腕や肩までに走る痛み・・・・・・これは何だ?
意思とは関係なく俺は、医仙の手を離していた。
・・・・・・掴んではいられなくなったのだ。
俺が見たのは、俺の肘を指二本で掴んだオ医師の手だった。
「・・・・・・これは? どんな技だ?」
慌ててオ医師を見ると、大きな目に怒りが湧いていた。
・・・・・・・・この方は、医仙よりも不思議な方だ。
医仙は感情をそのままに表す素直な方だが、この方は常に冷静で静かに佇んでいる。
だが、その中身は・・・・・・熱い気が巡っている。
そして何か武芸を身につけているはずだ、今の所作で分かる。
女人の身で武芸を?
確かに俺のいた赤月隊にもメヒのように女人がいたが、医仙の話では天界には争いはないと言われていたはず。
だが・・・・・ああ、頭がぼうとして・・・・・考えがまとまらぬ!
俺は、逃げるようにその場から離れた。
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「診せて下さい」
「侍医」
チャン侍医が典医寺にきた俺を待ち構えていた。
「・・・・・たいしたことではない。それより御二人方は如何だ」
「診せて下さい、隊長」
俺はチャン侍医から離れるように中庭の薬草園に行こうとした。
「お待ちください、隊長!」
「・・・やっぱり素直には診せないですね」
チャン侍医の声のあと、オ医仙の声が聞こえた・・・・・・そこで俺の意思は、途切れてしまった。
床に倒れた隊長を見下ろして、チャン侍医とリオンが顔を見合わせた。
リオンの手には、ある物が握られていたのだった。
その少し前の刻、典医寺ではウンスが隊長の事を心配していた。
「あれはスゴイ熱だったわ! 原因は何だろう? 風邪? ・・・・・もしかして怪我を?」
「・・・そういえば王妃が負傷した襲撃で、隊長は敵に斬られていました」
「どうして放っていた?」
「隊長は内功の使い手です。少々の怪我は御自分で治してしまわれます。お聞きしましたが治療は要らぬと言われたのです」
「・・・・・・もしかして敵の剣に毒でも塗ってあったか? いや、破傷風かもしれない・・・とにかく診てみないと何もいえない」
「しかし、素直に診せてくれるでしょうか?」
「そうよ、リオン! あのサイコが『傷を見せて?』 『いいよ、分かったよ!』なんて言うわけないじゃないの〜〜」
「気絶させればいい」
「「え?」」
ウンスとチャン侍医の驚いた顔に、ニンマリと笑ったリオンの手には、黒くて四角い物が握られていたのだった。
「そうだ、助けがいるな・・・ 近衛隊の副隊長! 彼を呼んでくれないか? 迅速にコッソリと・・・密やかにな」
「分かりました」
「素直じゃない患者に、苦労させられるな・・・・・くっくっくっ」
「リオン、あなた・・・・・楽しそうよ?」
「屈強な男をどうにかするのは、楽しい♡」
「まあ、リオンったら! ・・・私は何すればいい? 混ぜてくれるわよね?」
「そうだなぁ・・・・・じゃあ(こそこそ)」
「え〜〜・・・・・・分かった、頑張る!」
愉しげに相談しあう二人の医仙を見ながら、チャン侍医は思った。
・・・・・・・・この方達を怒らせないようにしよう、と。
「うふふ・・・」
「くすくす・・・・・」
典医寺に、彼女達の楽しそうな笑い声が密やかに流れていった。
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リオンが、持ってきたカバンの中には色々と仕掛けがあるのでお楽しみに♡