今日は外には出ず、午前は裏庭の草むしりに勤しんだしどーかん。
防草シートを敷いてはいるものの、建物との境目やコーナーは隙間から雑草が生え、知らないうちに草丈が高くなるため、それを取り除くのに必死でした。




午後になって、アディリアとヴェルフィエッタが【SGAブログ会館】を訪れたため、フィーリアも加わって4人で食堂にてお茶会に。
それぞれの近況報告をした際、しどーかんは先日訪れた【エルグラディス魔法学校】の気になる生徒として、イルジア=アントワネットの名前を出したのですが──





何!?イルジア=アントワネットだと?
そうか、あの娘、マジェアティアの道を選んだのか・・・


えっ?知ってるんですか?


実はあの娘、かつてヴェゼリアで有名だった大富豪の孫にあたるのだけど、
彼女の母親である娘が起こしたトラブルのせいで、家が事実上つぶれてしまい、それが理由で肩書きを封印しているの


母親がトラブルを?それで家がつぶれるなんて、よほどひどいことをしたのかしら?


今後しどーかんもイルジアと接する機会が多くなるだろうけれど、
彼女のためにも、これから話すことは私たちの秘密ということでお願いするわ


承知しました。では聞きましょう


かつてヴェゼリアに、レイジャック=クレデロアという大富豪がいた。
そもそもは特にこれといった強みもない一般庶民だったが、ある時、働いて貯めたお金で購入した原野を掘削していたところ、石油が吹き出し、そこが未開発の油田だったことがわかり、彼は巨額の富を得たの


一躍、大富豪になったレイジャックだけど、彼はそれにうぬぼれず、ヴェゼリアやその周辺に学校や病院を建設したり、貧困家庭向けに食事を提供したりと、ボランティア活動に積極的に取り組んだ。やがて彼は“ヴェゼリアの恵みの手”と呼ばれるようになり、上級貴族アントワネット家のご令嬢・フィリアと結婚した後、エルヴェルとルキアという2人の娘を授かった。
と、ここまでは問題なかったのだが・・・


16年前、レイジャックとフィリアは当時は治療不可能だった伝染病で揃って亡くなり、クレデロア家の遺産は娘2人が相続することになったんだけど
その際、レイジャックは遺言状で、エルヴェルに邸宅と9割の財産を与えたのに対して、ルキアには1割の財産しか与えなかった
当然、ルキアはこの差別待遇に納得いかず抗議したものの、エルヴェルはそれを聞かず、一方的に邸宅を追い出したの


2人の娘に、親がそんな差別を?まったくもって不可解ね


娘さんが起こしたトラブルが関係あるみたいですね。続けてください


クレデロア家の富をほとんど自分が手にしたことに、エルヴェルは高笑いしていたけれど、彼女はすぐさま天国から地獄に落ちることになった。
遺産を相続した数日後、彼女のもとに貸金業者が訪れて、借金の返済を請求してきたの


借金?レイジャックさんは富豪なのに、おかしくない?


ええ、本来ならね。
でも実はこの頃、エルヴェルは上級貴族ラングレス家の次男・テイジェルと結婚を前提に交際していて、両親に気づかれないよう、家のお金を持ち出しては2人で派手に遊んでいたの


ということはアレですか?
レイジャックさんはそれに気づいていたものの、すぐには怒らず、減った財産を自ら借金して穴埋めし、その返済をエルヴェルさんに押しつける形で戒めようとした
とでも?


結論からいえばそうなるわ。
レイジャックはこの借金について、ルキア宛の遺言状にだけ書いたうえで
1️⃣ 自らの借金は全額エルヴェルに相続させる
2️⃣ エルヴェルの相続する財産は、借金と利息の合計より少なくした
3️⃣ エルヴェルに借金の存在は話すな
と、3つの取り決めをその遺言状でしたの。だからエルヴェルはこの時まで、レイジャックの借金のことは知らなかった。
彼女は自分が原因を作ったことを棚に上げ、勝手に借金を相続させられたことに激怒したけれど、もはや後の祭り。相続した財産はすべて業者に取られ、邸宅も差し押さえられたわ


相続した財産をすべて失ったエルヴェルの不幸は、さらに続いたわ。
付き合っていたテイジェルは、エルヴェルが財産を失ったことを知ると、彼女との交際をやめて、別に付き合っていたご令嬢との結婚を宣言したの
裏切られたエルヴェルは、刃物を持って結婚式に乱入し、テイジェルを殺そうとしたけれど、
止めに入った花嫁の顔を彼女が切り着けたことに激怒したテイジェルに、腹部を刺されて亡くなったわ


巨額の富に目がくらんで無心になり、自分の都合を貫いて生きてきた女の末路・・・哀れね


しかし16年前のその事件が、イルジアさんとどう関係が・・・!!まさか!!


(軽くうなずき)そう、そのまさかよ。
イルジア=アントワネットは、本当はエルヴェル=クレデロアの子なの


事件当時、エルヴェルは妊娠中だった。
急所を一撃で刺されていたため、彼女は病院に運ばれた時には既に亡くなっていたけれど、
体内で別の鼓動が聞こえたため、帝王切開したところ、赤ちゃんが生きていたんだ


病院で引き取り手を探していたところ、名乗り出たのは妹のルキア。
自分を守ってくれた父・レイジャックのためにも、この子を責任を持って育てたいとのことだった。
そして彼女がつけた名前がイルジア。父の遺言により、自ら母の旧姓・アントワネットを既に名乗っていたため、あの娘はイルジア=アントワネットという名前になった次第だ


レイジャックさんは、エルヴェルさんの暴走を止められなかった責任から、あえてクレデロア家を潰す形で戒め、ルキアさんを守った。
一方、ルキアさんは自分でこれからの道を開くため、クレデロア家の肩書きを封印し、同時にエルヴェルさんの子を育てることにした
なんて複雑な事情なんだ・・・


イルジアさんがこのことを知ったら、これからはもとより、生きることにも迷うはず・・・
うん、このことは私たちだけの秘密ということにしておかないと


ええ。しどーかんさんも心的負担が大きくなるけど、イルジアのためにもお願いするわ