The Tomboy and the Rebel Aristocrat 妄想日記
㉜ローズと紅茶の祝宴 (1)
キャンディとテリィは結婚式の後、チャペル・オブ・ローズライトの庭で、
アルバートやエレノアなどの出席者とともに祝福のスナップを撮った。
テリィが持参した三脚を使い、教会関係者に撮影してもらったのだ。
そして、キャンディのアルバイト先であるハーバー・ビスケットでのパーティーのために、
2人は出席者より一足先に教会を後にした。
テリィはキャンディのロングトレーンが汚れないように、キャンディを抱きかかえ、
愛車のパッカードまで歩いて行った。
新居までは、車でほんの数分だった。
キャンディはハーバー・ビスケットのシェリーとヘレンに、ウェディングドレス姿を見せたいとテリィに伝えた。
テリィは再度キャンディを抱きかかえ、新居と敷地内にあるハーバー・ビスケットの間を往復した。
そして、着替えのために新居に戻ったキャンディはウェディングからイブニングドレスに、
テリィは白のテイルコートから、礼装に着替えた。
キャンディのイブニングドレスは、ダスティローズ。
胸元に薔薇の刺繍があり、袖はシフォン素材。全体的に控えめな華やかさと、軽やかさがありキャンディに似合っていた。
テリィは、白いシャツと白いネクタイ、白薔薇のブートニアが映え、黒のディナージャケットをより気品高く魅せていた。ベストはシルバーで黒のジャケットに軽やかさを添えていた。
テリィは、キャンディのイブニングドレス姿をカメラに収めたかったが、時間がなかったためあとで撮影することにした。
2人は手をとり、急ぎ足で敷地内のハーバー・ビスケットに向かった。
キャンディとテリィは、ハーバー・ビスケットの裏口から入った。
店内は、スープの温かな香りやクッキーの香ばしい香りで満たされ、
ティールーム入り口近くの窓辺には、キャンディが結婚式で使用したブーケが飾られていた。
すでに7人の出席者は到着し、シェリーからウェルカムドリンクのレモネードがふるまわれていた。
そして。古民家風のティールームの雰囲気をそれぞれに楽しんでいた。
その時、
『コラッ、ダメじゃないか。ケーキが台無しだ。』
と、アーチーのたしなめるような声がした。
『キャンディ、ごめんなさい。アーリーンと、アレックがケーキをつまみ食いしてしまった
ようだわ。』
と、すかさずアニーが申し訳無さそうに言った。
アーチーも、キャンディとテリィの方を向き、謝った。
キャンディとテリィが様子を確認すると、アーリーンはケーキの装飾の砂糖菓子の薔薇を食べかけていたが、アーチーに注意され動きが止まっていた。
アレックの口のまわりや指にはケーキのクリームがついていて、アーチーに注意されながらも、指をなめていた。
『こんな時間ですもの、アーリーンも、アレックもお腹が空くわよね。美味しい香りもしているし、
わたしもお腹がペコペコよ。テリィ、早く始めましょう。』
『あぁ、そうだな。オレも、腹が減ったよ。』
と、キャンディは優しく微笑みながらアーリーンとアレックに言った後、テリィを見つめた。
テリィも優しくアーリーンとアレックに微笑みかけ、その後キャンディにうなずいた。
そして、素早くコダックのヴェスト・ポケットを取り出し、
『カシャ。』
と、アーリーンとアレックのつまみ食いの様子を撮影した。
キャンディは、テリィのカメラを持つ指、カメラを構える姿にセクシーさを感じていた。
キャンディ自身が被写体でなくても、テリィのこの姿を見ると胸がキュンとなった。
まさか写真を撮られるとは思いもしていなかったアーリーンとアレックは、恥ずかしさで
照れ笑いしながら、アーチーとアニーに甘えていた。
そんな中、出席者は席についた。
キャンディとテリィは、並んで立ち、テリィは感謝のスピーチを述べた。
『みなさん、今日はキャンディと僕のために出席いただき、ありがとうございます。
みなさんの温かいお祝いに包まれて、キャンディも僕も幸せです。
これからも、僕たちを宜しくお願いします。
ここハーバー・ビスケットは、キャンディがお世話になっているティールームです。』
と低音のヴァイオリンのような深く響き渡る声で言った後、
キャンディがハンドベルのような明るい声で続けた。
『ご紹介します。シェリーとヘレンです。シェリー、ヘレンありがとうございます。』
キャンディが紹介すると、シェリーとヘレンは調理している手を休めて、軽く会釈した。
そして、キャンディはシェリーとヘレンに、出席者7人を紹介したが、エレノアがテリィの母親であったことは2人にとっても衝撃だった。
『このティールームは、テリィもわたしもお気に入りの場所です。
そんな素敵な場所でみなさんと幸せなひと時を過ごせることに感謝します。
みなさんも、美味しい紅茶やクッキー、お料理を楽しんでくださいね。
今日はわたし達を祝福してくださり、ありがとうございます。
言葉で言いつくせませんが、みなさんに愛と幸せが届きますように。』
と、言った後に出席者から拍手がわいた。
キャンディとテリィは、しばらく幸せそうに見つめ合った。
そして、乾杯の時間に移るが、この時代1920年〜1933年まではアメリカにおける禁酒法で
アルコールの製造・販売・流通が禁止されていた。
ただし、アルコールを飲むと言う行為自体は禁止されていなかったのだが、入手は困難であった。
また、宗教や医療目的の使用は一部認められていた。
そのため、祝宴の場での乾杯は、ジンジャーエールや、スパークリング・サイダー、
グレープフルーツジュースなどが一般的であった。
キャンディとテリィ、そして出席者はジンジャーエールを、
アーリーンとアレックは、りんごジュースを乾杯のドリンクとした。
アルバートが、
『To Love and happiness, always』
これからもずっと、愛と幸せを
と、祝宴の言葉を述べた後、ジンジャーエールのグラスを軽く持ち上げた。
それに続き、キャンディとテリィ、出席者もジンジャーエールを軽く持ち上げ、乾杯が交わされた。
アーリーンとアレックもアーチーとアニーに促され、大人たちを真似しながらりんごジュースを持ち上げていた。
静かであたたかな乾杯だった。
そして、グラスがおろされるとやわらかい拍手が広がった。
キャンディとテリィは指を絡め、寄り添い、出席者に向かって微笑んだ。
拍手が落ち着くと、会食が始まった。
すでに午後6時になっており、会食にはちょうど良い時間だった。
テーブルには、温かなアスパラガスのスープ、鶏のロースト、レモンとハーブのポーチド・サーモン、フィンガーサンドイッチ、小さなパン、季節の苺、野菜サラダ、
そして、祝福を象徴するウェディングケーキが並び、目にも胃にも魅惑的だった。
ニューヨークの空はまだ明るく、港近くの路地裏にも優しい光が届いていたが、
空は少しずつ、淡いピンクと淡い紫のグラデーションになろうとしていた。
路地裏とは反対側の、新居の敷地の一角にあたる庭がティールームの窓から眺めることができた。
美しい薔薇が咲き、樹木がまるで森のように生い茂る光景は、都会の喧騒からかけ離れた安らぎを感じることができた。
キャンディとテリィは、アスパラガスのクリームスープを口にした。
アスパラガスの緑が深緑を感じさせ、スープが喉越し良く胃の中に吸い込まれていくようだった。
『新鮮で、うまいアスパラガスだな。クリームスープもコクがある。』
と、テリィは空腹を満たされご機嫌だった。
『そうでしょ! このクリーム・オブ・アスパラガスは、季節限定なの。
旬の今しか食べられない、人気メニューよ。』
と、キャンディは言った。
『玉ねぎはわたしが切ったの。味付けも、ヘレンと一緒に。』
『そうか。今度、家でも作ってもらおうか。』
と、テリィが言うと、
『えぇ、もちろんよ。美味しいアスパラガスが手に入った時に作るわね。』
と、満足げなテリィを見て、キャンディは嬉しかった。
そして、アニーに
『味はどう?』
と、たずねた。
するとアニーは、まだ上手にスープを飲めないアレックを見守りながら、
『とても美味しいわ。子どもたちは、フィンガーサンドイッチも美味しいって。
お楽しみのケーキは食事の後でね、って言ってあるの。』
と、最後はアーチーを見つめながら言った。
アーチーも頷きながら、
『スープもいい味だけど、僕は鶏のローストが気に入ったなぁ。重たくなくて、いくらでも
食べられるよ。』
と、満足した様子だった。
『良かったわ。ウフフ。』
と、キャンディは自分が褒められたように、嬉しかった。
『キャンディ、こんないい店をどうやって見つけたんだい? ニューヨークに来たばかりだよね。』
と、アーチーがキャンディに尋ねた。
『えぇ、最初はイギリスに行く予定だったでしょ。
船に乗る前の日ニューヨークに着いて、その日にここを見つけたの。
紅茶もクッキーも美味しくって、お店の雰囲気も良かったから、気に入ったのよ。』
『そうか。ニューヨークに着いた日に、見つけてたんだね。
いいところに、巡り会ったね。』
『わたし、紅茶に関わる仕事がしたくて …… そしたらテリィが、女性スタッフだけのお店か、
男性スタッフが少ない店にしろって言うから、ここを思い出したの。
テリィがそんなこと言わなくても、ここが気に入っていたから、ここしか選択肢はなかった
と、思っているわ。』
と、キャンディは言った後に、余計な事を喋り過ぎたか?と、テリィの様子を見た。
案の定、テリィの表情が少し鋭くなっていた。
しかし、もう話してしまったから仕方ないと開き直ったキャンディだったが、アーチーが、
『女性スタッフだけの店にしろ?だとは、キャンディを縛りつけるのはよくないよ、テリィ。』
と、アーチーはややきつい口調で、テリィに言った。
『いや、縛りつけてはいないさ。キャンディは色々と逸話があるからね。
羽目を外さないための制約だよ。』
『逸話? なんだい、それ?』
『まぁ、なかなかモテるんだよな。』
と、テリィはキャンディの顔をニヤリとしながら覗きこんだ。
『もう、言いたいこと言って、調子いいんだから。』
と、キャンディは呆れ顔で言った。
『アーチー、アニー、聞いてくれる?
この間、シカゴに行った帰りにペンシルベニア駅までテリィが迎えに来てくれたの。
わたしはね、テリィが″寂しかったよ″とか、言ってくれるのかと思ったら、何と言ったと思う?』
アーチーもアニーも想像がつかず、考えこんだ。
『″メスザル、一匹、捕獲″って、言ったのよ。』
と、キャンディは少し苦々しい様子で話した。
『メスザル、一匹、捕獲⁈ 』
アーチーとアニーは同時に声をあげたが、その後フッと、吹き出した。
『もぅ、そんなにメスザルが恋しいなら、動物園に行って、メスザルを眺めてたらいいじゃない。』
と、キャンディはそう言いながらジンジャーエールを一気飲みした。
『いや、オレはこっちのおてんばサルのほうが、いいんだなぁ。』
と、テリィがサラリと言うと、
『テリィ、惚気るのか? 俳優って言う奴は、こんな時にサラリというもんだな。』
アーチーが言った。
アニーも、アルバートも、ジョルジュも同じことを感じていたようだった。
アーリーンとアレックは、幼児用にほぐされたポーチド・サーモンを食べるのに夢中だった。
そしてエレノアは、テリィが長年心を閉ざした表情しか見せていなかったのに、こんなに嬉しく幸せそうな表情をみせることにあらためて驚いていた。
恥ずかしさで紅潮したキャンディだったが、
アスパラガスのスープをお代わりし、鶏のローストをテリィの分と一緒に取り分けた。
『キミは、いつも美味しそうに食べるね。』
と、テリィはキャンディに言った。
『だって、美味しいのよ。』
キャンディは、緑色の虹彩をキラキラさせながら話した。
いつの間にか、全身の紅潮はなくなり、リラックスしていた。
そんな二人のやり取りを、アルバートとエレノアは微笑みながら見ていたが、
アルバートが、
『君たちは、何年も会っていなかったようには見えないね。
まるで熟年の夫婦のように、息があっているし、愉快な夫婦だね。』
『熟年の夫婦⁈ 』
とキャンディは、テリィの顔を見ながら言った。
『君たちは、反発しているようで、阿吽の呼吸を感じるんだ。』
と、アルバートは言った。
『熟年の夫婦か …… そうなりたいですね。これからも、ずっと一緒に … 』
と、テリィは最後は少し照れながら、呟くように言った。
そして、テリィは、テーブルクロスの下で、キャンディの手を握った。
キャンディもテリィの手を握り返した。
『えぇ。』
と、キャンディは照れながら一言だけ答えた。
そして、
『今度、動物園に行きましょうよ。』
『動物園? 可愛いおてんばサルに会いにかい?』
『そうよ。可愛いおてんばサルに会いに行きましょう。』
『いいね、そうしよう。可愛い子ザルもいるな。』
『ウフフ。楽しみだわ。』
2人は、昔、アルバートに会いに動物園に行ったことを思い出していた。
するとエレノアが、
『ねぇ、キャンディ、あなた達の新居は部屋数があって、お掃除も大変でしょ。
わたしの家に来ているメイドを一人、週一回、あなた達の家に来てもらう事にしたら
どうかしら?』
突然のエレノアの提案にキャンディは驚いた。
『あっ、ありがとうございます。エレノアさんのお気持ちが嬉しいです。
ただ … メイドさんは必要ないです。
使っていない部屋は、週に2回くらい掃除すればいいかなと … テリィと話したんです。
わたしのティールームの仕事は週4回ですし、寝室とリビングくらいなら、なんとか掃除も
出来ます。
庭のお手入れも、定期的に庭師に入ってもらうので … 』
と、テリィをチラッと見た。
すると、テリィが
『キャンディ、そうしてもらったら?』
と、言い出した。
『えっ? メイドはいらないと、あなたも言ってたわよね?』
と、キャンディはテリィに小声で確認した。
『あぁ、そう思ってたけど、キミも仕事をしながらだと大変だろ。
オレも休みの日は手伝うが、公演が始まるとキミに負担をかけるかも知れない。
子どもが産まれたら、もっと大変だぞ。』
と、テリィも小声でキャンディに言った。
キャンディは、テリィがエレノアの提案を受け入れる姿勢が意外であったが、
嬉しくもあった。
『あの、メイドさんをお願いします。
二人で何とかしようと思っていましたが、今後の事を考えるとお願いしたいです。』
『わかったわ。』
と、エレノアはニコリと微笑んだ。
『週一回なら、あなたも気兼ねなく頼めると思うの。』
『ありがとうございます。そうですね、本音を言うと、週一回来てもらえると助かります。』
『ねぇ、それと、テリィが地方公演の時は、あなたはあの広い新居で1人になるのでしょ。
1ヶ月も大変よ。
あなたの仕事が休みの時は、うちに泊まりに来てもいいのよ。』
と、エレノアは優しい母のように、キャンディに言った。
『ありがとうございます。はい、その時は泊まりに行きますね。』
と、キャンディは言ったが、エレノアの家に泊まりに行くのは緊張すると思った。
テリィは表情を変えずに、照れ隠しのようにも見えた。
『テリィの地方公演の時は、テリィとは別行動で、初日と千秋楽を観に行こうと思っているん
です。別行動なら、テリィにも迷惑をかけないで、お芝居を観てこれます。
ボストン、ニューヘブン、フィラデルフィアなら日帰りでもいいのですが、
出来るなら、泊まりがけでゆっくり行こうと思っています。』
と、ローズマリーの初日を観劇した気分に酔いしれ、嬉しそうに言った。
『キャンディ、あなた、テリィの地方公演を観に行ってくれるの? 嬉しいわ。
地方公演の初日は、ある意味、本公演の初日より緊張するの。
あなたが観に来てくれるなんて … 心強いわね。』
と、エレノアはキャンディに言ったあと、テリィを見つめた。
テリィは嬉しさを噛みしめていた。
隣で聞いていたアニーが、
『エレノアさんって、気遣いがあるけれど、嫌味がないわね。』
と、キャンディに囁いた。
『えぇ、そうなの。素敵な方よ。』
と、言った後、アニーに
『コーンウェル家はどうなの?』
と、尋ねた。
『うちは、中東にいるから滅多に会えないわ。でも、気さくでわたしの事を大事にしてくれるわ。』
と、言い、続けた。
『キャンディ、テリィが地方公演の時、一ヶ月も1人ぼっちなの?
ねぇ、子どもたちと泊まりに行ってもいい?』
『もちろんよ‼︎ アニーが来てくれるなんて、それも、アーリーンとアレックも‼︎
嬉しいわ。』
『アーチーは仕事だから、わたしとアーリーンとアレックだけになるけれど、
子どもたちも喜ぶわ。』
『アニー、僕を置いてキャンディの所に泊まりに行くの? いやぁ、寂しいなぁ。』
と、アーチーはアーリーンとアレックを見つめ残念そうだったが、
『連休が取れたら、ニューヨークに迎えに行くからね。』
と、アニーに言った。
すると、テリィが、
『なんだい、オレが一ヶ月も居ない間、楽しそうじゃないか?』
と、わざと皮肉っぽくキャンディに言った。
『あなたが一ヶ月も居なくて、わたしが寂しいだろうって、みんなが心配してくれているのよ。
1ヶ月 … どうしていようか?と思っていたけれど、あなたのお芝居を観に行ったり、
エレノアさんの家に泊まりに行ったり、アニーたちが泊まりに来たり、
ここでのアルバイトもあるし、けっこうあっという間に過ごせそうだわ。』
と、キャンディは言った。そして、
『だから、安心して。お芝居に集中してね。』
と、テリィに囁いた。
テリィは微笑みながら、黙って頷いた。
テリィも地方公演の時のキャンディを心配していたが安心感に満たされ、心が和んだ。
『キャンディ、そろそろキミのおすすめの紅茶を淹れようか?
オレが運ぶよ。』
『そうね、わたしもJapan式ロシアンティーが飲みたくなったわ。
みんなに飲んでもらいましょう。』
キャンディとテリィは、ティーカップを温めた。






