The Tomboy and the Rebel Aristocrat  妄想日記

 

 

 

 

 

 

㉜ローズと紅茶の祝宴 (1)

 

 

 

 

 

 

 

 

キャンディとテリィは結婚式の後、チャペル・オブ・ローズライトの庭で、

アルバートやエレノアなどの出席者とともに祝福のスナップを撮った。

テリィが持参した三脚を使い、教会関係者に撮影してもらったのだ。

 

 

そして、キャンディのアルバイト先であるハーバー・ビスケットでのパーティーのために、

2人は出席者より一足先に教会を後にした。

テリィはキャンディのロングトレーンが汚れないように、キャンディを抱きかかえ、

愛車のパッカードまで歩いて行った。

新居までは、車でほんの数分だった。

キャンディはハーバー・ビスケットのシェリーとヘレンに、ウェディングドレス姿を見せたいとテリィに伝えた。

テリィは再度キャンディを抱きかかえ、新居と敷地内にあるハーバー・ビスケットの間を往復した。

 

 

そして、着替えのために新居に戻ったキャンディはウェディングからイブニングドレスに、

テリィは白のテイルコートから、礼装に着替えた。

キャンディのイブニングドレスは、ダスティローズ。

胸元に薔薇の刺繍があり、袖はシフォン素材。全体的に控えめな華やかさと、軽やかさがありキャンディに似合っていた。

テリィは、白いシャツと白いネクタイ、白薔薇のブートニアが映え、黒のディナージャケットをより気品高く魅せていた。ベストはシルバーで黒のジャケットに軽やかさを添えていた。

テリィは、キャンディのイブニングドレス姿をカメラに収めたかったが、時間がなかったためあとで撮影することにした。

2人は手をとり、急ぎ足で敷地内のハーバー・ビスケットに向かった。

 

 

 

 

 

 

キャンディとテリィは、ハーバー・ビスケットの裏口から入った。

店内は、スープの温かな香りやクッキーの香ばしい香りで満たされ、

ティールーム入り口近くの窓辺には、キャンディが結婚式で使用したブーケが飾られていた。

すでに7人の出席者は到着し、シェリーからウェルカムドリンクのレモネードがふるまわれていた。

そして。古民家風のティールームの雰囲気をそれぞれに楽しんでいた。

 

 

 

その時、

 

『コラッ、ダメじゃないか。ケーキが台無しだ。』

 

 

と、アーチーのたしなめるような声がした。

 

 

 

 

『キャンディ、ごめんなさい。アーリーンと、アレックがケーキをつまみ食いしてしまった

 

ようだわ。』

 

 

と、すかさずアニーが申し訳無さそうに言った。

アーチーも、キャンディとテリィの方を向き、謝った。

 

 

 

キャンディとテリィが様子を確認すると、アーリーンはケーキの装飾の砂糖菓子の薔薇を食べかけていたが、アーチーに注意され動きが止まっていた。

アレックの口のまわりや指にはケーキのクリームがついていて、アーチーに注意されながらも、指をなめていた。

 

 

 

 

『こんな時間ですもの、アーリーンも、アレックもお腹が空くわよね。美味しい香りもしているし、

 

わたしもお腹がペコペコよ。テリィ、早く始めましょう。』

 

 

『あぁ、そうだな。オレも、腹が減ったよ。』

 

 

 

と、キャンディは優しく微笑みながらアーリーンとアレックに言った後、テリィを見つめた。

テリィも優しくアーリーンとアレックに微笑みかけ、その後キャンディにうなずいた。

そして、素早くコダックのヴェスト・ポケットを取り出し、

 

 

 

『カシャ。』

 

 

と、アーリーンとアレックのつまみ食いの様子を撮影した。

キャンディは、テリィのカメラを持つ指、カメラを構える姿にセクシーさを感じていた。

キャンディ自身が被写体でなくても、テリィのこの姿を見ると胸がキュンとなった。

 

 

まさか写真を撮られるとは思いもしていなかったアーリーンとアレックは、恥ずかしさで

照れ笑いしながら、アーチーとアニーに甘えていた。

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、出席者は席についた。

キャンディとテリィは、並んで立ち、テリィは感謝のスピーチを述べた。

 

 

 

『みなさん、今日はキャンディと僕のために出席いただき、ありがとうございます。

 

みなさんの温かいお祝いに包まれて、キャンディも僕も幸せです。

 

これからも、僕たちを宜しくお願いします。

 

ここハーバー・ビスケットは、キャンディがお世話になっているティールームです。』

 

 

 

と低音のヴァイオリンのような深く響き渡る声で言った後、

キャンディがハンドベルのような明るい声で続けた。

 

 

 

『ご紹介します。シェリーとヘレンです。シェリー、ヘレンありがとうございます。』

 

 

キャンディが紹介すると、シェリーとヘレンは調理している手を休めて、軽く会釈した。

そして、キャンディはシェリーとヘレンに、出席者7人を紹介したが、エレノアがテリィの母親であったことは2人にとっても衝撃だった。

 

 

 

『このティールームは、テリィもわたしもお気に入りの場所です。

 

そんな素敵な場所でみなさんと幸せなひと時を過ごせることに感謝します。

 

みなさんも、美味しい紅茶やクッキー、お料理を楽しんでくださいね。

 

今日はわたし達を祝福してくださり、ありがとうございます。

 

言葉で言いつくせませんが、みなさんに愛と幸せが届きますように。』

 

 

 

と、言った後に出席者から拍手がわいた。

キャンディとテリィは、しばらく幸せそうに見つめ合った。

 

 

そして、乾杯の時間に移るが、この時代1920年〜1933年まではアメリカにおける禁酒法で

アルコールの製造・販売・流通が禁止されていた。

ただし、アルコールを飲むと言う行為自体は禁止されていなかったのだが、入手は困難であった。

また、宗教や医療目的の使用は一部認められていた。

そのため、祝宴の場での乾杯は、ジンジャーエールや、スパークリング・サイダー、

グレープフルーツジュースなどが一般的であった。

 

 

キャンディとテリィ、そして出席者はジンジャーエールを、

アーリーンとアレックは、りんごジュースを乾杯のドリンクとした。

 

 

アルバートが、

 

 

 

 

『To  Love  and  happiness, always』

 

  これからもずっと、愛と幸せを

 

 

 

 

と、祝宴の言葉を述べた後、ジンジャーエールのグラスを軽く持ち上げた。

それに続き、キャンディとテリィ、出席者もジンジャーエールを軽く持ち上げ、乾杯が交わされた。

アーリーンとアレックもアーチーとアニーに促され、大人たちを真似しながらりんごジュースを持ち上げていた。

静かであたたかな乾杯だった。

 

 

そして、グラスがおろされるとやわらかい拍手が広がった。

キャンディとテリィは指を絡め、寄り添い、出席者に向かって微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

拍手が落ち着くと、会食が始まった。

すでに午後6時になっており、会食にはちょうど良い時間だった。

テーブルには、温かなアスパラガスのスープ、鶏のロースト、レモンとハーブのポーチド・サーモン、フィンガーサンドイッチ、小さなパン、季節の苺、野菜サラダ、

そして、祝福を象徴するウェディングケーキが並び、目にも胃にも魅惑的だった。

 

ニューヨークの空はまだ明るく、港近くの路地裏にも優しい光が届いていたが、

空は少しずつ、淡いピンクと淡い紫のグラデーションになろうとしていた。

路地裏とは反対側の、新居の敷地の一角にあたる庭がティールームの窓から眺めることができた。

美しい薔薇が咲き、樹木がまるで森のように生い茂る光景は、都会の喧騒からかけ離れた安らぎを感じることができた。

 

 

 

キャンディとテリィは、アスパラガスのクリームスープを口にした。

アスパラガスの緑が深緑を感じさせ、スープが喉越し良く胃の中に吸い込まれていくようだった。

 

 

 

『新鮮で、うまいアスパラガスだな。クリームスープもコクがある。』

 

 

と、テリィは空腹を満たされご機嫌だった。

 

 

 

『そうでしょ! このクリーム・オブ・アスパラガスは、季節限定なの。

 

旬の今しか食べられない、人気メニューよ。』

 

 

と、キャンディは言った。

 

 

 

『玉ねぎはわたしが切ったの。味付けも、ヘレンと一緒に。』

 

 

 

『そうか。今度、家でも作ってもらおうか。』

 

 

と、テリィが言うと、

 

 

 

『えぇ、もちろんよ。美味しいアスパラガスが手に入った時に作るわね。』

 

 

と、満足げなテリィを見て、キャンディは嬉しかった。

 

 

 

 

 

そして、アニーに

 

 

『味はどう?』

 

 

と、たずねた。

 

 

するとアニーは、まだ上手にスープを飲めないアレックを見守りながら、

 

 

『とても美味しいわ。子どもたちは、フィンガーサンドイッチも美味しいって。

 

お楽しみのケーキは食事の後でね、って言ってあるの。』

 

 

 

と、最後はアーチーを見つめながら言った。

 

 

 

 

アーチーも頷きながら、

 

『スープもいい味だけど、僕は鶏のローストが気に入ったなぁ。重たくなくて、いくらでも

 

食べられるよ。』

 

 

と、満足した様子だった。

 

 

 

『良かったわ。ウフフ。』

 

 

 

と、キャンディは自分が褒められたように、嬉しかった。

 

 

 

『キャンディ、こんないい店をどうやって見つけたんだい? ニューヨークに来たばかりだよね。』

 

 

と、アーチーがキャンディに尋ねた。

 

 

 

『えぇ、最初はイギリスに行く予定だったでしょ。

 

船に乗る前の日ニューヨークに着いて、その日にここを見つけたの。

 

紅茶もクッキーも美味しくって、お店の雰囲気も良かったから、気に入ったのよ。』

 

 

 

『そうか。ニューヨークに着いた日に、見つけてたんだね。

 

いいところに、巡り会ったね。』

 

 

 

『わたし、紅茶に関わる仕事がしたくて ……  そしたらテリィが、女性スタッフだけのお店か、

 

男性スタッフが少ない店にしろって言うから、ここを思い出したの。

 

テリィがそんなこと言わなくても、ここが気に入っていたから、ここしか選択肢はなかった

 

と、思っているわ。』

 

 

 

と、キャンディは言った後に、余計な事を喋り過ぎたか?と、テリィの様子を見た。

案の定、テリィの表情が少し鋭くなっていた。

しかし、もう話してしまったから仕方ないと開き直ったキャンディだったが、アーチーが、

 

 

 

『女性スタッフだけの店にしろ?だとは、キャンディを縛りつけるのはよくないよ、テリィ。』

 

 

 

と、アーチーはややきつい口調で、テリィに言った。

 

 

 

『いや、縛りつけてはいないさ。キャンディは色々と逸話があるからね。

 

羽目を外さないための制約だよ。』

 

 

 

『逸話? なんだい、それ?』

 

 

 

『まぁ、なかなかモテるんだよな。』

 

 

と、テリィはキャンディの顔をニヤリとしながら覗きこんだ。

 

 

 

『もう、言いたいこと言って、調子いいんだから。』

 

 

と、キャンディは呆れ顔で言った。

 

 

 

 

『アーチー、アニー、聞いてくれる?

 

この間、シカゴに行った帰りにペンシルベニア駅までテリィが迎えに来てくれたの。

 

わたしはね、テリィが″寂しかったよ″とか、言ってくれるのかと思ったら、何と言ったと思う?』

 

 

 

アーチーもアニーも想像がつかず、考えこんだ。

 

 

 

 

 

『″メスザル、一匹、捕獲″って、言ったのよ。』

 

 

 

 

と、キャンディは少し苦々しい様子で話した。

 

 

 

 

 

『メスザル、一匹、捕獲⁈ 』

 

 

 

アーチーとアニーは同時に声をあげたが、その後フッと、吹き出した。

 

 

 

 

『もぅ、そんなにメスザルが恋しいなら、動物園に行って、メスザルを眺めてたらいいじゃない。』

 

 

と、キャンディはそう言いながらジンジャーエールを一気飲みした。

 

 

 

 

『いや、オレはこっちのおてんばサルのほうが、いいんだなぁ。』

 

 

と、テリィがサラリと言うと、

 

 

 

『テリィ、惚気るのか? 俳優って言う奴は、こんな時にサラリというもんだな。』

 

 

 

 

アーチーが言った。

アニーも、アルバートも、ジョルジュも同じことを感じていたようだった。

アーリーンとアレックは、幼児用にほぐされたポーチド・サーモンを食べるのに夢中だった。

そしてエレノアは、テリィが長年心を閉ざした表情しか見せていなかったのに、こんなに嬉しく幸せそうな表情をみせることにあらためて驚いていた。

 

 

 

 

 

 

恥ずかしさで紅潮したキャンディだったが、

アスパラガスのスープをお代わりし、鶏のローストをテリィの分と一緒に取り分けた。

 

 

 

『キミは、いつも美味しそうに食べるね。』

 

 

と、テリィはキャンディに言った。

 

 

 

『だって、美味しいのよ。』

 

 

 

キャンディは、緑色の虹彩をキラキラさせながら話した。

いつの間にか、全身の紅潮はなくなり、リラックスしていた。

 

 

 

 

そんな二人のやり取りを、アルバートとエレノアは微笑みながら見ていたが、

アルバートが、

 

 

 

『君たちは、何年も会っていなかったようには見えないね。

 

まるで熟年の夫婦のように、息があっているし、愉快な夫婦だね。』

 

 

 

『熟年の夫婦⁈ 』

 

 

とキャンディは、テリィの顔を見ながら言った。

 

 

 

『君たちは、反発しているようで、阿吽の呼吸を感じるんだ。』

 

 

と、アルバートは言った。

 

 

 

 

『熟年の夫婦か ……  そうなりたいですね。これからも、ずっと一緒に … 』

 

 

 

と、テリィは最後は少し照れながら、呟くように言った。

そして、テリィは、テーブルクロスの下で、キャンディの手を握った。

キャンディもテリィの手を握り返した。

 

 

 

『えぇ。』

 

 

 

と、キャンディは照れながら一言だけ答えた。

 

 

 

そして、

 

『今度、動物園に行きましょうよ。』

 

 

 

『動物園? 可愛いおてんばサルに会いにかい?』

 

 

 

『そうよ。可愛いおてんばサルに会いに行きましょう。』

 

 

 

『いいね、そうしよう。可愛い子ザルもいるな。』

 

 

 

『ウフフ。楽しみだわ。』

 

 

 

2人は、昔、アルバートに会いに動物園に行ったことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

するとエレノアが、

 

『ねぇ、キャンディ、あなた達の新居は部屋数があって、お掃除も大変でしょ。

 

わたしの家に来ているメイドを一人、週一回、あなた達の家に来てもらう事にしたら

 

どうかしら?』

 

 

 

 

突然のエレノアの提案にキャンディは驚いた。

 

 

『あっ、ありがとうございます。エレノアさんのお気持ちが嬉しいです。

 

ただ … メイドさんは必要ないです。

 

使っていない部屋は、週に2回くらい掃除すればいいかなと … テリィと話したんです。

 

わたしのティールームの仕事は週4回ですし、寝室とリビングくらいなら、なんとか掃除も

 

出来ます。

 

庭のお手入れも、定期的に庭師に入ってもらうので … 』

 

 

 

 

と、テリィをチラッと見た。

 

 

 

 

すると、テリィが

 

 

『キャンディ、そうしてもらったら?』

 

 

と、言い出した。

 

 

 

 

『えっ? メイドはいらないと、あなたも言ってたわよね?』

 

 

と、キャンディはテリィに小声で確認した。

 

 

 

『あぁ、そう思ってたけど、キミも仕事をしながらだと大変だろ。

 

オレも休みの日は手伝うが、公演が始まるとキミに負担をかけるかも知れない。

 

子どもが産まれたら、もっと大変だぞ。』

 

 

と、テリィも小声でキャンディに言った。

 

 

 

 

キャンディは、テリィがエレノアの提案を受け入れる姿勢が意外であったが、

嬉しくもあった。

 

 

 

 

『あの、メイドさんをお願いします。

 

二人で何とかしようと思っていましたが、今後の事を考えるとお願いしたいです。』

 

 

 

『わかったわ。』

 

 

と、エレノアはニコリと微笑んだ。

 

 

 

『週一回なら、あなたも気兼ねなく頼めると思うの。』

 

 

 

『ありがとうございます。そうですね、本音を言うと、週一回来てもらえると助かります。』

 

 

 

 

『ねぇ、それと、テリィが地方公演の時は、あなたはあの広い新居で1人になるのでしょ。

 

1ヶ月も大変よ。

 

あなたの仕事が休みの時は、うちに泊まりに来てもいいのよ。』

 

 

 

と、エレノアは優しい母のように、キャンディに言った。

 

 

 

 

『ありがとうございます。はい、その時は泊まりに行きますね。』

 

 

と、キャンディは言ったが、エレノアの家に泊まりに行くのは緊張すると思った。

テリィは表情を変えずに、照れ隠しのようにも見えた。

 

 

 

 

『テリィの地方公演の時は、テリィとは別行動で、初日と千秋楽を観に行こうと思っているん

 

です。別行動なら、テリィにも迷惑をかけないで、お芝居を観てこれます。

 

ボストン、ニューヘブン、フィラデルフィアなら日帰りでもいいのですが、

 

出来るなら、泊まりがけでゆっくり行こうと思っています。』

 

 

 

と、ローズマリーの初日を観劇した気分に酔いしれ、嬉しそうに言った。

 

 

 

 

『キャンディ、あなた、テリィの地方公演を観に行ってくれるの? 嬉しいわ。

 

地方公演の初日は、ある意味、本公演の初日より緊張するの。

 

あなたが観に来てくれるなんて … 心強いわね。』

 

 

 

 

と、エレノアはキャンディに言ったあと、テリィを見つめた。

 

テリィは嬉しさを噛みしめていた。

 

 

 

隣で聞いていたアニーが、

 

 

 

『エレノアさんって、気遣いがあるけれど、嫌味がないわね。』

 

 

と、キャンディに囁いた。

 

 

 

 

『えぇ、そうなの。素敵な方よ。』

 

 

 

と、言った後、アニーに

 

 

 

 

『コーンウェル家はどうなの?』

 

 

 

と、尋ねた。

 

 

 

 

『うちは、中東にいるから滅多に会えないわ。でも、気さくでわたしの事を大事にしてくれるわ。』

 

 

 

と、言い、続けた。

 

 

 

『キャンディ、テリィが地方公演の時、一ヶ月も1人ぼっちなの?

 

ねぇ、子どもたちと泊まりに行ってもいい?』

 

 

 

『もちろんよ‼︎  アニーが来てくれるなんて、それも、アーリーンとアレックも‼︎

 

嬉しいわ。』

 

 

 

『アーチーは仕事だから、わたしとアーリーンとアレックだけになるけれど、

 

子どもたちも喜ぶわ。』

 

 

 

 

『アニー、僕を置いてキャンディの所に泊まりに行くの? いやぁ、寂しいなぁ。』

 

 

 

 

と、アーチーはアーリーンとアレックを見つめ残念そうだったが、

 

 

 

『連休が取れたら、ニューヨークに迎えに行くからね。』

 

 

 

と、アニーに言った。

 

 

 

すると、テリィが、

 

 

 

『なんだい、オレが一ヶ月も居ない間、楽しそうじゃないか?』

 

 

 

 

と、わざと皮肉っぽくキャンディに言った。

 

 

 

『あなたが一ヶ月も居なくて、わたしが寂しいだろうって、みんなが心配してくれているのよ。

 

1ヶ月 … どうしていようか?と思っていたけれど、あなたのお芝居を観に行ったり、

 

エレノアさんの家に泊まりに行ったり、アニーたちが泊まりに来たり、

 

ここでのアルバイトもあるし、けっこうあっという間に過ごせそうだわ。』

 

 

と、キャンディは言った。そして、

 

 

 

『だから、安心して。お芝居に集中してね。』

 

 

と、テリィに囁いた。

 

 

テリィは微笑みながら、黙って頷いた。

テリィも地方公演の時のキャンディを心配していたが安心感に満たされ、心が和んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『キャンディ、そろそろキミのおすすめの紅茶を淹れようか?

 

オレが運ぶよ。』

 

 

『そうね、わたしもJapan式ロシアンティーが飲みたくなったわ。

 

みんなに飲んでもらいましょう。』

 

 

 

 

キャンディとテリィは、ティーカップを温めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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おてんばちゃんとヤンチャ貴族

 

 

 

覚書④   AI画像

 

 

 

テリィの誕生日、1月28日にキャンディとテリィの結婚式ドキドキブーケ1妄想日記を投稿したく、

ブログ立ち上げ後、駆け足で投稿してきました。

 

もっと丁寧に描けばよかったかしら……と、思わないわけではありませんが、

これはこれで大切なわたしの妄想日記です

 

今は、キャンディとテリィの結婚式後のパーティーを描いていますが、今月はなかなか

妄想日記に集中する時間がありません汗うさぎ

そして、頭にあるストーリーを文字起こしするのは、予想以上に大変なこともわかりました。

3行の文章を完成させるのに、1時間ほどかかることもあります。

でもね、キャンディとテリィの幸せな日々を想うと時間が経つのも忘れてしまいます。

 

 

 

今日は、AI画像を残したいと思います。

カバー写真に使用したものもあります。

AI動画も投稿したいのですが、再生出来ないと困るので、画像のみとします。

 

 

 

 

アトリエ・エタニテの回のカバー写真。

キャンディのウェディングドレス。

立体ローズのモチーフが、特徴的。

 

AI画像 Grokで生成。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新居に引っ越す前のテリィのアパートにて、タバコを吸うテリィ。

妄想日記では、テリィは自宅ではほとんど喫煙はしない→稽古場の休憩時間や、

外出先では喫煙する設定にしているので、貴重な一枚ビックリマーク

 

 

AI画像 Grokで生成。

 

 

 

 

       

 

 

 

 

 

 

 

 

少し節目がちのテリィ。

 

AI画像 Grokで生成。

 

 

 

 

       

 

 

 

 

 

 

 

 

ローズウィンドウのステンドグラスの教会での、結婚式ドキドキブーケ1ドキドキブーケ1ドキドキ

 

ちょっとアルバートさん寄り?ですが、

キャンディに向かって歩いてくる幸せいっぱいのラブラブラブラブ音譜音譜テリィ。

 

 

AI画像 Grokで生成。

 

 

 

 

      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じく、キャンディに微笑むテリィブーケ1ドキドキブーケ1ドキドキブーケ1

 

 

AI画像 Grokで生成。

 

 

 

      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      

 

 

キャンディとテリィの新居宝石緑ブーケ1カメラコーヒーラブラブ

奥の小さく見える建物が、キャンディのアルバイト先のハーバー・ビスケット。

向かって、左側→ハーバー・ビスケットとは反対側に、ガレージと正門があります。

正門側は車の通行が可能ですが、ハーバー・ビスケット前の路地裏は車の通行は不可。

 

結婚式を挙げた教会、チャペル・オブ・ローズライトは、向かって右上付近にあります。

教会は、正門側からでも、ハーバー・ビスケット前の路地裏からでも行くことができます。

 

AI画像   ChatGPTで生成。

 

 

 

 

 

 

 

    

      

 

 

新居のセカンドリビングのイメージ。

 

 

AI画像  Grokで生成。

 

 

 

 

 

 

 

 

キャンディとテリィの新しい未来は、愛にあふれていますドキドキラブラブドキドキラブラブドキドキ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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おてんばちゃんとヤンチャ貴族

 

 

 

 

㉛祝福のスナップ

 

 

 

チャペル・オブ・ローズライトで祝福を受けたキャンディとテリィは、教会の外に出た。

キャンディのロングトレーンが汚れないように、テリィはキャンディを抱き抱え、

ローズウィンドウのステンドグラスが写真に収まる位置にキャンディをおろした。

 

17時過ぎ、太陽は西に傾きかけていたが、光はまだ午後の明るい光だった。

港から吹くやわらかな風が、教会とその周辺を包み込んでいた。

そしてローズウィンドウのステンドグラスは、黄昏前の光に照らされ、赤や金色に輝いていた。

キャンディとテリィは、まだ結婚式の余韻に浸っていた。

やわらかな風があたると、キャンディのウェディングドレスのローズモチーフも優しく揺れ、ヴェールも微かに揺れた。

ロングトレーンも優しくなびき、キャンディはさらに優しい幸福感に包まれた。

そんな中、テリィは相棒のカメラである小ダックのヴェスト・ポケットを取り出した。

 

 

 

 

『キャンディ、いいよ、その笑顔!』

 

 

 

テリィの声かけにキャンディは、結婚式の余韻に浸る笑顔で、テリィを見つめた。

キャンディはテリィがカメラを構える姿、カメラを大切に扱う仕草が好きだ。

テリィがカメラを構え、シャッターを押す指を見ると、キャンディの胸はトキメキが溢れ出しそうになるのだ。

それに反応するかのように、テリィのシャッターを押す指も弾んでいた。

 

 

 

 

『カシャ。』

 

 

 

と、シャッターを切る音がやわらかい風に溶け込んでいった。

 

 

 

 

『キャンディ、とっても綺麗だ。』

 

 

 

 

と、テリィは再びシャッターを押す。

 

 

 

 

 

『ねぇ、テリィ、あなたも一緒に。』

 

 

 

 

『あぁ。』

 

 

 

と、テリィは嬉しそうにキャンディに微笑んだ。

ちょうどフィルムが切れたため、新しいフィルムに交換した。

そして、アルバートに撮影を依頼した。

テリィは、首元のプラストロンを少し整えながら、キャンディの隣に立った。

見つめ合う2人。

真上から降り注いでいた光も、少しずつ横から差し込むようになっていた。

キャンディのロングトレーンが、石畳の上に静かに広がる。

立体ローズのモチーフが風に撫でられ、花びらが微かに揺れていた。

テリィはそっと、キャンディの手を取り指をからめた。

 

その瞬間、アルバートはシャッターを切った。

 

 

 

『カシャ。』

 

 

 

そして、もう一枚、

 

 

 

『カシャ。』

 

 

 

シャッターを切る音が、心地よく空に響いた。

 

 

 

 

『2人とも、良い表情だよ。モデルが良いから、僕でも綺麗に撮れたと思うんだ。』

 

 

と、アルバートが言うと、

 

 

 

『アルバートさん、カメラマンが似合ってるわ。

 

エスコートも、ありがとうございました。わたし、緊張しちゃって …… 。』

 

 

 

 

『緊張したっていいじゃないか。素敵だったよ、キャンディ。』

 

 

 

 

と、優しいアルバートの言葉にキャンディは安らいだ。

 

 

 

 

『アルバートさん、キャンディのエスコートをありがとうございました。』

 

 

 

『素敵だったよ。キャンディも、テリィも。』

 

 

 

『アルバートさんが撮った写真も、楽しみですよ。』

 

 

 

『迷カメラマンだけど、一応お役に立てたかな?』

 

 

 

と、テリィとアルバートが笑いながら話しているところに、

アーリーンと手をつないだアーチーと、アレックを抱いたアニーがやってきた。

 

 

 

『キャンディ、テリィ、素敵な式だったわ。おめでとう。

 

キャンディのウェディングドレス姿も見惚れるほど綺麗だし、

 

ローズウィンドウのステンドグラスが、美しくて感動したわ。』

 

 

と、アニーが祝福した。

 

 

 

『ありがとう、アニー。このステンドグラスが気に入って、ここに決めたのよ。』

 

 

 

『ステンドグラスの光が、床や壁に落ちている美しさが、子どもたちにも伝わったみたいで、言葉を失ってたわ。

 

 

キャンディ、指輪はエメラルドなの? 』

 

 

 

『そうなの。5月の誕生石のエメラルドよ。

 

エメラルドの石言葉には、″幸運″ ″幸福″ ″希望″ ″愛″なんかがあるらしいわ。

 

テリィが言ってたの。』

 

 

 

『テリィが? 』

 

 

 

『えぇ、彼は物知りなのよ。ウフフ ……   そしてね、お互いの指輪に、お互いの髪の毛を

 

封入しているの。』

 

 

 

『えっ? それも、テリィのアイデアなの? 』

 

 

 

『うぅん、それはわたしが考えたの。』

 

 

 

『キャンディが考えたの? すごいアイデアね。

 

このウェディングドレスも、素敵ね。ローズのモチーフが立体感あるようにできるなんて。』

 

 

 

 

『指輪がローズカットでしょ。だから、ウェディングドレスにもローズを入れたかったの。

 

そしたら、立体的なローズモチーフを作れるブライダル・クチュリエールさんだったから、

 

お願いしたわ。』

 

 

 

『結婚式まで、一か月 … くらいしかなかったのに、よく準備できたわね。

 

きっと神様が、キャンディとテリィに味方したのね。』

 

 

 

と、キャンディとアニーは、教会のローズウィンドウのステンドグラスや、

指輪、ウェディングドレスの話題で盛り上がっていた。

 

 

 

 

 

 

一方、アーチーは、

 

 

『なんだよテリィ、母親のことには驚いたよ! 』

 

 

『アニキが知ったら、もっと驚いていただろうな。』

 

 

 

と、アーチーは興奮してテリィに言った。

そして、テリィとキャンディの顔を交互に見ていた。

テリィはすましていたが、キャンディは苦笑いするしかなかった。

エレノアとテリィの母子関係については、アルバート以外は知らせておらず、

アーチーにとっての衝撃は計り知れなかった。

しばらくすると、アーチーは取り乱していた自分を封じ込めるようにして、テリィに声をかけた。

 

 

 

『やぁ、テリィ、キャンディを泣かせるようなことをしたら、どうなるかわかってるよね?』

 

 

 

『キャンディを泣かせる? いや、それはないね。キャンディが僕を泣かせる事があったとしても。』

 

 

 

と、言ったので、すかさず横からキャンディが、

 

 

 

『何ょ、わたしがあなたを泣かせる? 可愛い花嫁に向かって失礼ね。』

 

 

 

 

と、テリィの戯けた言葉に対して、キャンディも戯けて返した。

テリィは、アーチーが恥ずかしくて、″おめでとう″と言えないことや、

キャンディを大切に想っていることを感じていた。

テリィとキャンディの雰囲気が、固くなっていたアーチーの心を少しほぐした。

 

 

 

 

 

アニーも、テリィに祝福を伝えた。

 

 

 

『テリィ、おめでとう。キャンディをもう、離さないでね。

 

キャンディも心の奥底では、ずっとあなたのことを想っていたのよ。』

 

 

 

 

『あぁ、ありがとう。そうするよ。君もイカした彼と幸せに。』

 

 

 

と、テリィはアニーに伝えた。

 

 

 

『ありがとう。 … わたしも、あなたのママのことは驚いたわ。

 

キャンディは、何も言ってなかったし……  素敵なママと、お茶目で可愛い花嫁さんがいて

 

あなたは幸せね。』

 

 

 

と、アニーは言った。

 

 

 

 

その言葉を聞いたテリィは、絡めていたキャンディの指を握った。

 

 

 

 

 

『花嫁たぁん、おめでと。』

 

 

『天使さんみたい。』

 

 

と、アーリーンがキャンディに駆け寄ってきた。

アレックは、アニーに抱かれたまま、キャンディを見ていた。

 

 

 

『ありがとう。アーリーン、アレック。』

 

 

アーリーンは、ウェディングドレスのローズモチーフが気になるらしく、

手に触れたローズモチーフを引っ張ったため、アーチーに優しく諭された。

そして、今度はロングトレーンを拾い上げるような仕草をして、アニーに諭された。

 

 

 

『いいわよ、触らせてあげて、アニー。』

 

 

 

『キャンディがバージンロードを歩いている時に、あの子ったら、

 

ロングトレーンをずっと見ていたのよ。童話のお姫様みたいって。』

 

 

 

『アーリーンに、トレーンガールを頼めば良かったかしら?』

 

 

と、キャンディはアニーに言った。

 

 

 

『そうね。でも、アーリーンにはまだちょっと早いかも。』

 

 

と、アニーは答えた。

 

 

 

 

 

キャンディに許可をもらったアーリーンは、ロングトレーンを目を輝かせながら

拾い上げ、嬉しそうにしていた。

 

 

 

そして、テリィの方を見たアーリーンは、

 

 

 

『かっちょいい!』

 

 

と、言った。すると、テリィはアーリーンの頭を優しく撫でた。

頭を撫でられたアーリーンは、嬉しくてたまらない様子だったため、アーチーは少し嫉妬を

感じた。

テリィは、アニーに抱かれたアレックの頭も優しく撫でた。

アレックは恥ずかしそうに、テリィを見つめていた。

 

 

 

 

『あなたは、子どもにもモテモテね。』

 

 

 

と、キャンディはテリィにささやいた。

 

 

 

 

『キミにモテるだけで、十分だよ。』

 

 

 

と、テリィもキャンディにささやいた。

 

 

 

 

 

すると、

 

『グランチェスターさま、キャンディスさまとのご結婚おめでとうございます。』

 

 

 

と、ジョルジュがテリィに挨拶をした。

 

 

 

『ありがとうございます。あなたが、キャンディに僕の手紙を届けてくださったそうですね。

 

そのおかげで、キャンディと僕は一緒になることができました。』

 

 

 

 

 

と、アルバートはジョルジュに頭を下げた。

 

 

 

 

『グランチェスターさま、わたしはウィリアムさまの仰つけに従ったまででございます。

 

お二人のお幸せを祈っています。』

 

 

と、静かに祝福した。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、エレノアが2人に声をかけた。

 

 

 

『素敵な結婚式だわ。温かい人たちに恵まれて、あなたたちは幸せね。』

 

 

 

『ありがとうございます。わたしは孤児だけれど、こんなに祝福してくれる人が

 

いて、そして … 愛する人がいて幸せです。』

 

 

 

と、キャンディはテリィの顔を見た。

テリィは、静かに微笑んでいた。

すると、キャンディは、

 

 

『ねぇ、テリィ、エレノアさんと写真を撮りましょうよ。わたしがカメラマンになるわ。』

 

 

 

『いや、いいよ。これから、集合写真を撮るし、キャンディのドレスが汚れるだろ。』

 

 

 

『集合写真と、エレノアさんと2人で撮る写真は別よ。それに、ドレスが少し汚れるくらい、気にしないわ。』

 

 

 

『撮らなくていいよ。』

 

 

 

と、キャンディとテリィは、揉め出した。

 

 

 

すると、アルバートが

 

 

『どうかしたの?』

 

 

 

と、そばに来たため、キャンディは事情を伝えた。

 

 

 

『それなら、僕が撮るよ。それならいいだろう、テリィ?』

 

 

と、アルバートがテリィに確認した。

 

 

 

 

『…… はい、キャンディも一緒なら。』

 

 

 

 

『えっ? わたしも? 』

 

 

 

 

『それは、いいね。キャンディも、一緒にね。』

 

 

 

『でも ……    … 』

 

 

 

と、キャンディは言葉を濁した。

キャンディは、テリィとエレノアが2人で撮影する写真を撮りたかったのだ。

それを理解しているアルバートだったが、テリィを妥協させるにはテリィの言う通りに

した方がいいと思った。

返事を渋るキャンディに対して、エレノアが

 

 

 

『キャンディ、お願い。一緒に ……  』

 

 

 

と、頼み込んできた。

 

 

 

 

『… はい、わかりました。』

 

 

 

と、キャンディは承諾した。

 

 

 

 

そして、エレノアを真ん中にして両端に、キャンディとテリィは並んだ。

エレノアは青みを帯びた淡いすみれ色のシルクサテンのイブニングドレスを着ていた。

ストレートラインだったが、ヒップラインにはドレープがあり、エレノアが歩くたびに

静かに揺れて、さりげないセクシーさを感じた。

派手ではないが、キャンディは自分には出来ない着こなしだと思った。

胸元はボートネックで、エレノアの鎖骨が美しく強調されていた。

肩から胸にかけてのビーズの刺繍は、西に傾いていた午後の光を受けて、星屑のように

美しく輝いていた。

大女優の風格を、キャンディは感じた。

 

3人が静かに並んだところで、アルバートはシャッターを切った。

 

 

 

『カシャ。』

 

 

 

 

『う…ん? テリィ、少しかたいよ。もう少しリラックスして。』

 

 

 

と、アルバートはテリィに声をかけた。

 

それを聞いたキャンディは、テリィに変顔をして見せた。

 

 

 

『クククククッ ……  』

 

 

 

と、テリィは喉の奥で笑った。

そして、もう一枚。

 

 

 

『カシャ。』

 

 

 

アルバートはシャッターを切った。

 

 

 

『今度は、良かったよ。』

 

 

 

と、アルバートは満足気に言った。

 

 

 

 

『アルバートさんったら、本物のカメラマンみたいね。』

 

 

と、キャンディは笑いながら言った。

 

 

 

 

『キャンディ、こんな機会を与えてくれてありがとう。』

 

 

 

と、エレノアは清々しい表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

テリィは、キャンディに言った。

 

『そろそろ、集合写真を撮らなくちゃな。』

 

 

 

『そうね。シェリーも、ヘレンもお料理を準備して待ってるわ。』

 

 

 

 

 

テリィは、愛車に積んできた木製の三脚を出した。

革ベルトを外し、構図の中にローズウィンドウのステンドグラスが入るように位置を調整した。そして、

 

 

 

『僕が合図をしたら、このレバーを押してください。』

 

と、教会の関係者に頼んだ。

 

 

 

 

『なんだ、テリィは本格的だな。三脚も自分で持って来たのか。

 

プロの写真家みたいだなぁ。』

 

 

と、アーチーが言った。

 

 

 

 

『アーチーは、写真は撮らないの?』

 

 

と、キャンディが聞くとアーチーは、

 

 

 

 

『一応、カメラは持ってるよ。でもさ、記念写真は、専属の写真館に頼んでいるからね。

 

自分でこんなに、本格的に撮るなんてやったことないよ。』

 

 

と、答えた。

アニーもうなずいていた。

 

 

 

 

アーチーもアニーも …… キャンディ以外は誰も、テリィが来年には劇団を退団し、

写真学校へ進むことはまだ知らない 。

 

 

 

 

テリィが写真家に転向すると知った時、今日のこの瞬間をそれぞれが

思い出すのだろうと、キャンディは思った。

 

 

 

 

 

優しい風がキャンディのヴェールを撫で、立体ローズのモチーフの花びらも揺れた。

テリィはプラストロンを直し、キャンディの隣に立つとキャンディの指をからめた。

キャンディとテリィは一瞬見つめあった。

そして、9人はそれぞれ微笑みながら、カメラに目線を向けた。

 

 

 

 

『カシャ。』

 

 

 

心地よいシャッター音が空に響いた。

 

 

 

 

 

キャンディは、ここにはいないが、

ポニー先生、レイン先生、グランチェスター公爵、パティ、アンソニー、ステア

シェリー、ヘレンたちの祝福を感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

The Tomboy and the Rebel Aristocrat  妄想日記

おてんばちゃんとヤンチャ貴族

 

 

 

㉚黄昏の祝福

 

 

 

 

爽やかな早朝の、東の空が淡いオレンジ色に染まる頃、キャンディは目を覚ました。

約1ヶ月前、ニューヨークに来たときよりも、日に日に日の出が早くなっているのを

感じていた。

庭のバラの花は、また一輪咲き始めているだろうか ———

キャンディは3階の寝室の窓から確認するため、ベッドから起き出そうとしたところ、

隣で眠っていたテリィから、グッとキャンディの肩を引き寄せられた。

 

 

 

 

『キャンディ、誕生日おめでとう。』

 

 

静寂の中、テリィの低く甘美な声が響いた。

 

 

 

『テリィ、起きていたの? ウフフ、ありがとう。』

 

 

 

と、キャンディが笑みを浮かべると、

テリィはキャンディの身体の上に覆いかぶさり、そっとキャンディの唇に、自分の唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

しばらくして、唇をゆっくりと離したテリィが言った。

 

 

『キミの誕生日を祝うのは、初めてだなぁ。

 

その初めての祝う誕生日が、オレたちの結婚式ってわけだ。』

 

 

 

 

『そうね。一生、忘れられない誕生日になるわ。

 

テリィ、わたしの誕生日を結婚式にしてくれて、ありがとう。』

 

 

 

『一生、忘れられない誕生日か  ……  』

 

 

 

と、テリィは少しはにかむように言った。

 

 

 

 

『あなたの誕生日も、まだお祝いしたことがなかったわね。

 

来年のあなたの誕生日も、2人でお祝いするわ。』

 

 

 

『あぁ、オレはキミがいてくれるだけで、十分なんだ。』

 

 

と、テリィは目を閉じてキャンディを抱きしめた。

 

キャンディも目を閉じ、テリィに身をゆだね、しばらく2人は抱擁した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結婚式当日ではあったが、テリィは稽古へ、キャンディはハーバー・ビスケットの

アルバイトへ向かった。

 

テリィは17時からの結婚式に間に合うように、16時で稽古を切り上げ、教会に向かう予定だ。

そして、テリィには”今日のこだわり”があった。

それは、”今日はキスシーンはやらない”と言う、テリィ自身の決め事だった。

稽古は、立ち稽古から通し稽古に進んでいたが、今日の祝福の日には、演技とは言え、

他の女性とキスシーンはしたくなかった。

幸い、今日の通し稽古はキスシーンやロマンス寄りのシーンはなかったので、テリィは

ほっとしていた。

 

 

 

 

キャンディは、テリィが稽古に行った後、アルバイト先のハーバー・ビスケットに

出勤した。

ハーバー・ビスケットは、敷地内にあるため、数十秒で到着する。

今日のキャンディの勤務は、14時までだった。

普段なら15時までだが、キャンディとテリィの結婚式のパーティーが貸切で行われるため、

14時までの時短営業だったのだ。

店の扉には、”本日、貸切のため、14時で営業終了”の紙が貼ってあった。

14時に営業終了後、シェリーとヘレンはパーティーの準備に入るのだ。

 

 

厨房には、朝の暖かく柔らかい陽光が差し込み、キャンディの心も優しく穏やかになっていた。

キャンディは、ヘレンと一緒に、クッキーの下準備をした。

まずは、小麦粉をふるい、砂糖やバター、卵を加え、バニラエッセンス、シナモンを少量入れた。

クッキーは、ティールームのお客様の提供用の他に、結婚式のパーティー用も準備するため、いつもより多く焼かなくてはならない。

今日のクッキーは、結婚式にちなんで、ハート型と星型だ。

古いブリキ製のハート型と星型の焼き菓子型を使い型を取り、ガスオーブンで焼いていく。

1920年代半ばのニューヨークでは、ティールームや一般家庭では、ガスオーブンが一般的だった。

日本でガスオーブンの転換期は、1970年代であり、アメリカとは40〜50年の差があった。

ガスオーブンから漏れる熱気は、キャンディの頬を優しく撫でて、心を躍らせた。

 

 

クッキーが焼き上がる間、今日から新作メニューとなった”ストロベリーティー”の

オーダーが入った。

シェリーが、次々とストロベリーティーのオーダーをキャンディに伝えていく。

キャンディおすすめの、Japan式ロシアンティーの名前を変えた紅茶だった。

ティーカップを温め、紅茶を蒸らし、手作り苺ジャムを温めたカップに入れていく。

キャンディは幸せそうにストロベリーティーを飲んでいるお客さんを見ると、自然と嬉しくなった。

 

そんなうちに、クッキーは焼き上がっていった。

焼き上がりの香ばしい香りが厨房に広がり、さらにキャンディの心は躍った。

黄金色のクッキーは、型で抜いてはいるものの、良く見ると微妙に一つ一つの形が違う。

手作りの温もりが感じられるクッキーだった。

キャンディは、ハート型を一つ摘み、味見する。

バターの香りと、ほんのりシナモンの味にキャンディは満足気に微笑んだ。

 

 

 

 

 

キャンディは14時にハーバー・ビスケットの勤務を終え、新居へ戻った。

アルバート、アニーとアーチ、

そしてアーチとアニー夫妻の愛する子どもたち、アーリーンとアレック、

そして、ジョルジュが新居へやってきたのは、15時近かった。

 

 

 

『キャンディ、結婚おめでとう! 幸せになってね。』

 

 

 

『わぁ、アニー! ありがとう! 長旅、疲れたでしょう? 来てくれて嬉しいわ。』

 

 

 

『あなたの結婚式をお祝い出来るなんて、わたしも嬉しいわ。

 

キャンディ、もうテリィを離してはダメよ。』

 

 

 

『えぇ、彼と一緒に歩んでいくわ。アーリーン、アレックも元気そうね。』

 

 

 

『あの子たちも、今日は楽しみにしてきたのよ。』

 

 

 

キャンディは幼なじみのアニーから祝福され、心から嬉しかった。

そして、キャンディとアニーは、まだ満開ではないが美しく咲くバラたちの中でかくれんぼをするアーリーンと、アレックを優しく眼差しで見つめた。

アーリーンと、アレックは金髪で青い目をしていた。

4才になる姉のアーリーンは少し内気なところもあるが、弟思いだった。

2才の弟アレックは、まだ甘えん坊の好奇心旺盛な子だった。

 

 

 

『アニー、誕生日おめでとう。』

 

 

と、キャンディはアニーを祝福した。

 

 

 

『キャンディ、ありがとう。あなたと同じ誕生日に、あなたの結婚式。

 

ずっと忘れないわ。』

 

 

 

『ウフフ、そうね。今日は特別な日よ。アニー、誕生日はお祝いしたの?』

 

 

 

『昨日の夜、泊まったホテルでね、アーチがルームサービスで、バースデーケーキを頼んで

 

くれたの。食事も美味しいわ。ニューヨークのホテルは、最高ね。

 

アーリーンとアレックも、はしゃいでいて、ちょっと寝不足なの。

 

今日もそのホテルに、泊まるのよ。』

 

 

 

『アーチはあなたを大切にしているわね。あなたが幸せそうで何よりよ。

 

今度は、うちに泊まりに来てね。ホテルとは行かないけど。』

 

 

 

と、キャンディとアニーは笑みがこぼれていた。

 

 

 

 

 

 

『やぁ、キャンディ! 僕は …… 気取り屋との結婚は、複雑だよ。

 

でも、君が幸せになるなら受け入れるよ。

 

絶対、幸せにしろよ!と、気取り屋に言うからね。アニキとアンソニーも、同じ気持ちだろうなあ。』

 

 

 

『アーチ! 遠いところ、来てくれてありがとう。

 

わたしね、もう十分に幸せなの。大丈夫よ、心配しないで。

 

この間、シカゴに行った時に、ステアとアンソニーには、報告して来たわ。』

 

 

 

『えっ? 墓参りしてくれたんだね。ありがとう。』

 

 

と、アーチが嬉しそうに言うと、キャンディは静かに頷いた。

 

 

 

 

『しかし、いい家と庭だね。森の中にいるみたいだね。』

 

 

 

『そうなのよ。それも、気に入ったの。今度、アニーや、アーリーン、アレックスと

 

泊まりに来てね。』

 

 

 

『そうするよ。港も近くて、気持ちがいい場所だね。アニーや子どもたちも、喜ぶよ。

 

そういえば今日は、気取り屋の母親も来るって? アルバートさんが言ってたね。

 

どんな母親なんだろ? あの気取り屋の母親は。』

 

 

と、エレノアがテリィの母親であることを知らないアーチは、興味深そうに言った。

アルバート以外は、まだテリィとエレノアの関係を知っていなかったので無理もなかった。

 

 

 

 

 

 

『今日は爽やかな五月晴れだね。まるで君のようだよ、キャンディ。

 

キャンディとテリィの永遠の幸せを祈っているよ。』

 

 

 

と、アルバートは祝福した。

 

 

 

『アルバートさん! 忙しいところ、ありがとうございます。

 

今日は、宜しくお願いします。

 

テリィもアルバートさんが承諾してくれて、安心してたわ。

 

バラも少しずつ咲き始めていて、素敵な庭でしょ? あとで、家の中も案内しますね。』

 

 

 

 

『忙しくとも、キャンディの結婚式は特別だよ。

 

君を見ていると、テリィに愛されていることが伝わってくるね。

 

でも結婚しても、君はアードレー家の養女なんだ。何かあったら相談にのるからね。』

 

と、キャンディを優しく包み込んだ。

 

 

 

『アルバートさん 、ありがとうございます ……。 』

 

 

と、キャンディはアルバートの優しさを胸の奥が熱くなるほど、感じた。

 

 

 

 

『新居も少し使い込まれているけれど、そこもまたいいね。』

 

 

 

『そうなの。大切に使いこまれてきた雰囲気も、安らぐわ。』

 

 

と、キャンディは答えた。

 

 

 

 

 

『キャンディスさま、ご結婚おめでとうございます。』

 

 

と、ジョルジュも控えめに祝福した。

 

 

 

『ジョルジュ! あなたも忙しいのに来てくれたのね、ありがとう。

 

ずっとわたしを陰から見守ってくれて …… いつも、ありがとう。』

 

 

 

『とんでもありません。ウィリアム様からのご指示は、わたしの使命です。お気になさらずに。

 

キャンディスさまと、グランチェスターさまのお幸せをお祈りしています。』

 

 

 

と、ジョルジュはかすかな笑みと、うっすらと涙を浮かべ、キャンディを祝福した。

 

 

 

 

——— みんな、ありがとう。ありがとう。わたしは、幸せよ! ありがとう! ———

 

 

 

 

キャンディは、祝福に優しく抱かれた午後を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テリィは、稽古を早めに切り上げ、新居近くの教会であるチャペル・オブ・ローズライトに向かった。

ハーバー・ビスケット側の路地裏は、車は通行出来ないため、新居の正面玄関側の道を

愛車のパッカードツイン・シックスを走らせた。

そして、教会近くのガレージに車を停め、駆け足でキャンディの待つ教会の控え室に急いだ。

 

 

『キャンディ!』

 

 

と、テリィはノックする間もなく、勢いよくドアを開けた。

 

 

そこには鏡の前に静かに佇む、純白のウェディングドレスを纏ったキャンディがいた。

身体の線に寄り添うプリンセスラインのウェディングドレスは、

ウエストから緩やかに広がるフレアが、キャンディの可憐さ、自由な生き方を表している

ようだった。

チュールとオーガンジーが幾層にも重なり、その上の刺繍レースが、まるで春の庭を切り取ったように繊細で美しかった。

胸元は、テリィ希望のオフショルダー。

花びらが重なり合うカッティングが、鎖骨ラインを美しく引き立たせ、気品と柔らかさを感じさせた。

このウェディングドレスのこだわりは、立体的にあしらわれたローズモチーフだった。

ローズモチーフは、キャンディがローズカットの指輪に合わせて、オーダーした。

一輪、一輪が丁寧に形作られ、まるで今にも香り立ちそうで、生命を吹き込まれたような存在感を放っていた。

背後に流れるロングトレーンは、キャンディとテリィの永遠の絆を象徴しているようだった。

 

そして、黄昏前の優しい光が、白いウェディングドレスを染め、

キャンディのウェディングドレス姿を柔らかなシルエットとして浮かび上がらせた。

ドアを開けた勢いで、キャンディの金髪の髪かふわっとなびき、

白い肌は純白のウェディングドレスに照らされきめ細やかに、映えていた。

 

 

 

 

 

テリィは、しばらく呆然と立ち尽くした。

 

 

 

 

 

キャンディが、先に口を開いた。

 

 

『テリィ、わたし、似合っているかしら …… ?』

 

 

 

 

『あぁ、最高だよ! キャンディ!』

 

 

 

 

と、やっとテリィは我に帰った。

 

 

そして、相棒のカメラであるコダックのヴェスト・ポケットを取り出して、

キャンディのウェディングドレス姿を数枚撮影した。

 

 

『カシャ。』

 

 

『カシャ。』

 

 

 

その様子は、まるで本物の写真家のように真剣であり、また愛する女性を一途に想う純粋さを秘めていた。

 

 

 

『テリィ、あなたもテイルコートに着替えないと、時間になるわ。』

 

 

と、キャンディはテリィを促した。

 

 

テリィは、テイルコートに着替えた。

テリィが纏ったのは、白のイブニングアンサンブル。

黄昏時の柔らかな光に調和した光沢を程よく押さえた上品な白だった。

生地は上質なウールに、シルクを含ませていた。

テリィの身体の動きに合うよに縫製されたテイルコートは、まるでテリィの身体の一部

のように馴染んでいた。

蝶ネクタイではなく、白のプラストロンが全体を優しい印象に引き立てていた。

 

 

 

 

『まぁ! あなたって、何を着ても決まるわね。素敵よ。』

 

 

 

『おい、おい、そんなに見惚れるなよ。』

 

 

 

と、テリィは照れ隠しで言った。

 

 

 

『あら、あなただって、さっき …… 』

 

 

と、キャンディが言いかけた時、ドアをノックする音が聞こえた。

 

 

『どうぞ。』

 

 

と、キャンディが言うと、アルバートと、エレノアが入ってきた。

 

 

アルバートとエレノアは、新郎新婦の美しさ、輝きに息をのんだ。

人生の門出に立つ愛し合う2人とは、こんなにも美しく輝いているのだろうか …… 

若さや持ち前の美貌、華やかさとは違う、内面から湧き上がる2人の幸福感を

アルバートとエレノアは、感じ取った。

 

 

 

『アルバートさん、ご無沙汰しています。』

 

 

と、テリィはアルバートに歩み寄った。

 

 

 

 

『テリィ、久しぶりだね。さっき家に寄らせてもらったよ。

 

今日は君とキャンディの大切な日だ。おめでとう。』

 

 

と、アルバートはテリィに祝福の言葉をかけた。

 

 

 

『ありがとうございます。色々と心配をかけて、すみません。

 

なんとか、今日を迎えることが出来ました。ありがとうございます。

 

先月、キャンディとシカゴに行ければ良かったのですが。』

 

 

 

 

『気にしないでいいよ。それより、キャンディと幸せになってくれよ。

 

君も、色々とあったね …… キャンディのことも含めて、楽しいことばかりじゃなかったよね。

 

でもさ、誰かを責めたり、ジャッジするようなことは必要ないと思うし、僕はそんなことを

 

したくはないよ。

 

ただ、キャンディと幸せになってくれれば、それでいいんだから。』

 

 

 

『はい。キャンディと生きることが、僕の幸せです。僕も彼女を幸せにします。

 

2人で一緒に幸せになると、キャンディと約束したんです。』

 

 

 

 

と、アルバートの目を見つめて告げると、

アルバートは、静かに頷いた。

 

 

そんな二人のやり取りを見ていたエレノアは、目に涙が溢れてきた。

キャンディは、そっとエレノアに寄り添った。

すると、エレノアは涙をポロリポロリと流しながら、

 

 

 

『テリィ、キャンディと幸せにね。』

 

 

 

と、言った。

 

 

少しの沈黙のあと、テリィはエレノアの肩にそっと手をおき、

 

 

『今まで、ありがとう …… 母さん … … 』

 

 

と、感謝の気持ちを伝えた。

 

 

 

 

そして、テリィはアルバートに言った。

 

 

『アルバートさん、このカメラでキャンディと僕のツーショット写真を撮って

 

もらえませんか?』

 

 

 

『もちろんだよ。だけど、新郎新婦を撮影なんて、ちょっと緊張するなぁ。』

 

 

と、言いながらもアルバートはすでに、カメラマン気取りだった。

エレノアの頬には乾ききらない涙の跡があったが、微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

17時、5月の黄昏前の柔らかな陽光が西側のローズウィンドウのステンドグラスを

透かし、赤や青、紫、金色の光の粒子がバージンロードに美しく降り注いでいた。

そして、新婦キャンディの白いヴェールも、夕陽に染まったステンドグラスの光を受けて、

淡い虹色に染まっていた  ——— まるで、天からの祝福を受けているかのように。

 

 

低く、深く、荘厳な音色のパイプオルガンが鳴り響く中、エスコート役のアルバートと共に

キャンディは光の粒子の中を、歩み出した。

一歩、一歩、進むたびに、ウェディングドレスがふわりと揺れる。

ローズモチーフもかすかに揺れる。

ロングトレーンが静かに床をすべる。

キャンディは緊張のあまり、動きがぎこちなく、アルバートはゆっくりと歩んで行った。

 

 

そして、祭壇の前で、アルバートはゆっくりと手を離した。

祭壇前には白いテイルコート姿の新郎テリィが待っていたが、肩や胸の付近が

ステンドグラスの光の粒子で、薔薇色に染まっていた。

キャンディの緊張をほぐすために、テリィはキャンディの耳元で、

 

 

『オレがいるから。』

 

 

と、低く甘いヴァイオリンのような声で、ささやいた。

 

キャンディは小さく頷いた。

 

 

誓いの言葉のあと、差し出されたエメラルドのローズカットの指輪も、

夕陽に染まったステンドグラスの光を受けて、薔薇色にも見えた。

テリィは、慎重にそして優しく、エメラルドのローズカットの指輪を

キャンディの指に通した。

続いて、キャンディもテリィの指に、内側に小粒のエメラルド(シークレットストーン)が

埋め込まれた指輪を通したのだが、小刻みに指を振るわせていた。

 

 

 

 

『あなた方は、夫と妻になりました。』

 

 

 

の宣言の後、テリィはキャンディの白いヴェールを持ち上げ、頬に優しく手を添えた。

一度、緊張が和らいだキャンディだったが、キスの瞬間となり、キャンディの白い肌は

紅潮していた。

しかし、テリィはためらわなかった。

目を閉じ、優しく、そしてためらわず、唇を重ねた。

その瞬間、ローズウィンドウのステンドグラスから、鮮やかな光の粒子が降り注ぎ、

テリィの白いテイルコートと、キャンディの純白のウェディングドレスが優しい薔薇色に

包まれた。

キャンディは、温かい気持ちになり、緊張が溶けていくように感じた。

テリィは、永遠を約束するような想いに包まれ、唇を重ねていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

The Tomboy and the Rebel Aristocrat  妄想日記

おてんばちゃんとヤンチャ貴族

 

 

 

 

 

 

㉙新居の訪問者

 

 

 

キャンディはテリィと電話で話した翌日、アンソニーとステアのお墓参りに行った。

まだ午前中の空気は少しひんやりとしていたが、春の光はやわらかく、

青空と白い雲のコントラストが、春の訪れを感じさせた。

そして、墓地の芝生には淡い緑が広がり、春の使者のロビンが、芝生をつついていた。

 

 

 

 

 

キャンディは、ヘッドストーンのお墓の前に立った。

アンソニーのお墓には、白いスイートピーを供えた。

花言葉は、「優しい思い出」「門出」

 

 

 

——— アンソニー、薔薇作りにはげんでる?

 

もうすぐ、あなたの大切なスイートキャンディの季節よ。

 

わたしね、スイートキャンディが咲いた、わたしの誕生日に結婚するの。

 

彼はね、あなたのように、わたしを大切に想ってくれる人なの。

 

わたしはわたしの道を行くわ。

 

でも、あなたのことは忘れない ———

 

 

 

 

 

 

ステアのお墓には、ピンクのカーネーションを供えた。

花言葉は、「感謝」「温かい心」

 

 

 

——— ステア、今も発明を楽しんでる?

 

わたし、テリィと結婚するわ。

 

彼とは今まで、色々あった …… けれど、もう過去には囚われないわ。

 

過去に縛られても、何も生まれないことを知ったから。

 

これからは、楽しい毎日を過ごしてゆくわ。

 

あなたも、アンソニーと楽しんでね ———

 

 

 

芝生をつついていた二羽のロビンが、それぞれアンソニーとステアのヘッドストーンの縁に

とまった。

キャンディは、胸元がオレンジ色のロビンに愛らしさを感じるとともに、

アンソニーとステアがロビンに姿を変えて、キャンディの結婚を祝福しているように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、金曜日の夜、キャンディはニューヨーク行きのブロードウェイ特急に乗った。

アルバートもジョルジュも駅まで見送りに来ることは出来なかったが、

来月、キャンディの結婚式での再会を思うと、キャンディの胸には静かな温もりが

灯っていた。

また、今回の帰郷ではアニーやアーチに会うことは叶わなかったが、

手紙の返事より先に、電話で祝福を受けており、結婚式での再会を待ち遠しく感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

キャンディを乗せたブロードウェイ特急は、土曜日の夕方、ニューヨークの

ペンシルベニア駅に到着した。

地下ホームに響く低い振動とともに、ブロードウェイはゆっくりとホームに吸い込まれた。

 

テリィは、夕方の混み合う中、目立たぬようにホームの隅に立っていた。

その佇まいは気品があり、静かだが光を帯びた存在感があった。

キャンディは、すぐにテリィに気づいた。

テリィは見送りの時と同じダークネイビーのコートだったが、

顔隠し用のスカーフはライトラベンダーで、春らしさとともにキャンディの帰宅を

待ち焦がれているようだった。

 

 

 

キャンディが列車を降りる頃には、テリィも列車のドア付近に近くまで来ていた。

テリィの顔は、ライトラベンダー色のスカーフで口元まで覆われていたが、

緑色がかった青い目には、嬉しさがあふれていた。

キャンディも嬉しさで、胸が高鳴っていた。

 

キャンディとテリィはお互いに駆け寄り、テリィはキャンディを両腕で包み込んだ。

そして、

 

 

『メスザル、一匹捕獲。』

 

 

 

と言った。

 

 

 

 

——— えっ? メスザル、イッピキホカク? ———

 

 

 

キャンディは、テリィの甘い言葉を期待していたため、少し拍子抜けした。

しかし、開き直っていった。

 

 

 

『ねぇ、メスザルは、この後、どうしたらいいかしら?』

 

 

 

『帰ったら、紅茶を淹れてもらおうか。』

 

 

 

と、テリィは甘い声でいった。

 

 

 

『いいわよ。二杯目は、あなたが淹れてね。』

 

 

 

『あぁ、いいよ。』

 

 

 

と、言ったテリィは、宝物を取り戻した少年のように微笑んでいた。

夕暮れ時の駅舎は人で溢れていたが、テリィの手の温もりを感じながら、

キャンディはテリィと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャンディがニューヨークのテリィのアパートに帰宅した、翌週と翌々週に、

テリィの稽古が休みの日を使い荷物を新居へ運び出した。

新たに購入した物は、ベッドやソファ、少しキッチン用品を買い足したが、

あとはウィテカ邸に備えつけてあった物をしばらくは使うことにした。

 

キャンディとテリィは、4月の下旬には棲家となる新居で、祝福に包まれた新しい生活を

始めた。

そして、それと同時に、キャンディはハーバー・ビスケットでのアルバイトも始まった。

アルバイトは、週4回、午前9時から午後3時までだった。

 

 

 

 

 

 

 

ハーバー・ビスケットでのアルバイトを始めて三日目のことだった。

そろそろ午後3時になろうとしていた時、キャンディはハーバー・ビスケットの前に

立っている女性に気がついた。

店の中を除きこむような仕草があるその女性に、キャンディは見覚えがあった。

ウィッグをつけて変装しているが、エレノアだった。

 

キャンディはエレノアに手紙を出していた。

テリィが一向にエレノアに結婚報告をしないため、キャンディはこれまでのお礼も含めて

手紙を出した。 

キャンディのイギリス行きは中止し、急ではあるが結婚に至る経緯、そして新居の住所と

電話番号、ハーバー・ビスケットでのアルバイトのことも手紙に書いていた。

その後、エレノアからも祝福と結婚式出席の返事が届いた。

 

 

 

キャンディは店の外に出て、エレノアに小さな声で、呼びかけた。

 

 

『エレノアさん  … ですよね?』

 

 

 

『キャンディ、わたしよ。気づいてくれたのね、ありがとう。

 

午前中に電話をかけたのだけれど、留守のようで。きっと、ここにいると思ってきてみたの。

 

もう少し早く来てお茶を飲むつもりだったのだけれど、道に迷ってしまったわ。』

 

 

 

と、静かに苦笑いをした。

 

 

エレノアは、淡いパールグレーの上質なシルククレープのワンピース、

その上にはライトベージュの薄手のスプリングコートを羽織り、

首元には、アイボリーのシフォンのスカーフを巻いていた。

そして、コートと同じ色のライトベージュのクロッシェハットを深く被っていた。

 

 

『わたし、3時で終わりなんです。

 

すぐに来ますから、ここで、待っててくださいね。』

 

 

 

と、キャンディはエレノアに言って、急いで店の中に戻った。

 

 

 

 

すると、シェリーが

 

『キャンディ、知り合いの人?』

 

 

と、聞いてきた。

 

 

『はい、紅茶を飲みに来てくださったのだけど、道に迷って遅くなってしまったそうなの。』

 

 

『そうだったの。残念ね。

 

キャンディ、もう時間よ。今日も忙しくて、ろくに休憩が取れなくてごめんなさいね。

 

これ、持ってて。』

 

 

と、香ばしいクッキーを紙袋に入れて、キャンディに渡した。

 

 

 

キャンディの目は輝いた。

 

『わぁ、嬉しい!』

 

 

 

すると、ヘレンが、

 

『キャンディ、今日もご苦労様だったね。また明日、よろしくね。』

 

 

 

『はい、忙しいけれど、楽しいわ。また明日、よろしくお願いします。』

 

 

 

と言い、キャンディは裏口から外に出た。

 

そして、薔薇の茂みにある細い抜け道の門の鍵を開け、店の前で待つエレノアに

声をかけた。

 

 

 

『まぁ、こんな所に抜け道があるのね。』

 

 

『はい、わたしもこの抜け道を使うのは、今日が初めてなんです。』

 

と、エレノアに言い、抜け道用の門の鍵を閉めた。

 

 

 

ハーバー・ビスケットの裏口から続く新居の庭は、少しずつバラが咲き始めていた。

5月になり、春の名残と、初夏が入り混じった気配の中、バラの優しい香りは空気に溶け込んでいた。

時折、風に乗ってふわっとその香りを漂わせるが、主張しすぎない優しい香りだった。

そして、ローズマリーやタイムが若い花をつけ、ラベンダーはまだ背を伸ばし始めた頃だった。

庭全体の季節の切り替わりを、キャンディは感じた。

 

 

 

『まぁ、美しいわ。まるでコテージガーデンのようね。』

 

 

と、エレノアは立ちどまり、庭を眺めた。

 

 

 

そして、

 

 

『キャンディ、テリィと一緒になってくれて、ありがとう。』

 

 

と、キャンディに伝えたその目は、潤んでいた。

 

 

 

 

『わたしの方こそ、お騒がせしてしまいました。』

 

 

と、キャンディは頭を下げたあと、

 

 

 

『今まで見守ってくださり、ありがとうございます。

 

テリィと一緒に、幸せになります。』

 

 

と、エレノアの潤んだ目を見つめながら伝えた。

 

 

 

 

歩き始めた2人は、新居の前に立った。

 

『あらっ、半地下になっているのね。』

 

 

『はい、この半地下はテリィのお気に入りなんです。稽古用に使っています。』

 

 

と説明するキャンディに、エレノアは微笑んだ。

 

 

 

写真家になるために、来年春には劇団を退団し、

写真学校に通うテリィのことを、まだエレノアは知らない ———

 

そう思うと、”稽古用に使っている”と説明するのは、胸が痛かったが

キャンディが余計なことを言う訳にもいかなかった。

 

 

 

 

 

新居に入ると、エレノアはジャパンド・ハイボーイをはじめとした、いくつかの調度品に

目が入った。

 

 

『これは、ジャパンド・ハイボーイよね。

 

以前のこのお屋敷の持ち主は、美術品に興味がある方だったの?』

 

 

 

 

『お屋敷を建てた方は、美術商だったと、不動産屋さんが言ってました。

 

そう言えば、テリィも、その … ジャパンド・ハイボーイのことを言ってたわ。

 

テリィの美術センスは、エレノアさんゆずりなんですね。』

 

 

 

と、キャンディに言われたエレノアは嬉しかったが、

 

 

 

 

『美術品に関しては、父親ゆずりだと思うわ。』

 

 

と、少し遠くを見るように言った。

 

 

 

 

 

キャンディはJapan式ロシアンティーを淹れた。

 

 

『紅茶の中に、わたしの手作りの苺ジャムが入っているんです。

 

テリィは甘いものは苦手なんですが、これは”嫌いじゃない”と言って、飲んでくれるんです。

 

来週から、お店でも新作メニューとして出すことになりました。』

 

 

 

と、エレノアの前に置かれたティーカップからは、温められた苺ジャムから

やわらかな甘酸っぱさが立ち上り、そこに淹れたての紅茶の湯気が重なっていった。

エレノアはそっとカップを傾け、一口だけ含み、静かに飲んだ。

 

 

『  …… 思っていたより、ずっと優しくて上品ね。香りも良いわ。』

 

 

 

と、エレノアはキャンディに言った。

 

 

 

 

『ありがとうございます。元々のロシアンティーはこの飲み方ではないんです。

 

日本では、紅茶の中に苺ジャムを入れて飲むスタイルをロシアンティーと言っていて、

 

わたしもこの飲み方が好きなんです。

 

テリィは、少ししか苺ジャムは入れないんですけどね。ウフフ。』

 

 

 

『あなたは、研究熱心なのね。手作り苺ジャムが美味しさの決め手ね。』

 

 

と、エレノアは2人の新婚生活を垣間見れたようで嬉しかった。

キャンディは、”研究熱心”と言われて、恥ずかしくもあった。

 

 

 

 

午後の優しい光をうけたリビングから、庭を見おろすと

咲き始めたバラとまだ蕾のバラが、午後の優しい光をうけ、煌めいていた。

エレノアは、また一口、また一口と紅茶を愉しんだ。

 

 

 

 

 

『結婚式まで日がないけれど、準備は大丈夫?

 

わたしで出来ることなら、お手伝いするわよ。』

 

 

 

『エレノアさん、ありがとうございます。

 

準備はまぁまぁ、整っているので大丈夫です。式のあとに行うパーティは

 

さっきのティールームで行うので、シェリーさんとヘレンさんに頼んでるんです。』

 

 

 

と、キャンディはエレノアに感謝して、伝えた。

 

 

 

『そうなのね。他に何かあったら、遠慮なく言ってね、キャンディ。

 

…… 差し出ましいけれど、結婚指輪やウェディングドレスは、どうしたの?』

 

 

 

と、エレノアは言いにくそうに、義理の母として花嫁を気遣い尋ねた。

 

 

 

『はい、結婚指輪は、テリィが調べた工房でわたしの誕生石のエメラルドをローズカット

 

にしてもらったんです。

 

エメラルドのローズカットはテリィの提案で、わたしも気に入ったので。

 

そして、それぞれの髪の毛を封入することしました。

 

わたしの髪の毛を、テリィの指輪のシークレットストーンの内側に、

 

テリィの髪の毛を、わたしのローズカットの下に。

 

それは、わたしが提案しました。』

 

 

と、キャンディは緑色の目を輝かせながら、嬉しそうに言った。

 

 

 

『まぁ …… !』

 

 

エレノアは、驚いていたがやはり嬉しそうに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

『ウェディングドレスは、テリィがいつも洋服や小物をオーダーしているアトリエのテーラーの

 

奥さんがにお願いしました。

 

その奥さんは、ブライダル・クチュリエールなんです。

 

手配もすでに、テリィがしてくれてたんですよ。

 

わたしはローズが好きだし、ローズカットの指輪に合わせてバラのモチーフをドレスに

 

あしらうデザインにしました。

 

 

あっ、テリィがオフショルダーが良いと言うので、押し切られて …… 』

 

 

 

と、キャンディは苦笑いしながら言った。

 

 

 

 

『そうだったのね。良かったわ。

 

テリィは、あなたに一途ね。うふふふふ。』

 

 

 

と、エレノアの嬉しそうな笑い方が、テリィがクククと笑うと時と、同じ表情だった。

やっぱり、テリィとエレノアは親子なのだと、キャンディは思った。

そして、”一途”と言う言葉が、キャンディの胸に満ちていった。

 

 

 

 

 

『教会は、テリィも決めかねていたんです。

 

それで、この家に決めたあと、2人でそこの教会を見にいったんです。

 

ローズウィンドウのステンドグラスのある素敵な教会だったので、そこに決めました。』

 

 

 

 

『そうなのね。日がないから、心配していたけれど、ほっとしたわ。

 

テリィは、何にも言ってよこさないし …… 』

 

 

 

と、エレノアは嬉しさの中に、少し寂しさを含ませていた。

 

 

 

 

『テリィは、わたしがエレノアさんに連絡してくれるだろう …… あてにしていたみたい

 

なんです。男の人は、母親に言いづらいことがあるみたいですね。

 

それに ……   … 』

 

 

と、キャンディは言いかけたが、余計なことを言ってテリィが憤慨しないか気になった。

 

 

 

『それに ……?』

 

 

エレノアは気になって、キャンディに聞き返した。

 

キャンディは、話しを続けることにした。

 

 

 

 

『あの … 教会を見に行った時に、赤ちゃんに授乳をしているママがいたんです。

 

テリィは、その様子をじっと見ていました。

 

テリィは確かに、エレノアさんのことを考えていたと思います。

 

言葉には出さないけれど、エレノアさんのことを想っています。』

 

 

 

と、キャンディは静かだが力強く言った。

 

キャンディのその言葉に衝撃を受けたエレノアが、ポツリと言った。

 

 

 

 

『あの子は、乳離れが遅かったの。』

 

 

 

 

 

——— えっ? テリィは乳離れが遅かったの? ———

 

 

 

 

 

『意外ですね。テリィが乳離れが遅かったなんて。』

 

 

 

と、キャンディは言った。

 

 

 

『えぇ、そうなのよ。あの子は、乳離れが遅かったの。

 

わたしはテリィの妊娠、出産を公にしていなかったでしょ。

 

そろそろ女優に復帰しなくてはいけない頃にも、あの子は乳離れしてくれなくって ……。』

 

 

 

と、エレノアは懐かしさを秘めながら、愛するわが子、テリィのことを思い出していた。

 

 

 

 

『仕事に復帰しなくてはならない時に、大変でしたね ……

 

でも、乳離れが早いから良いわけではないし、遅いから悪いわけではないと……

 

思います。テリィのペースがあったのかしら?』

 

 

 

と、キャンディは言葉を選びながら、優しく伝えた。

 

 

 

 

『そうなのよね。わたしの都合で、乳離れさせようとしただけで、あの子には

 

関係なかったのよね。

 

無理に離そうとすると、余計にしがみつく子だったの。

 

安心しきるまで離れなかったわ。

 

でもね、ある日突然、すっと離れたのよ。 まるで自分で決めたみたいによ。』

 

 

 

と、エレノアは言った。

 

 

 

 

——— 誰よりも自由で、誰よりも深く人を想う人 ———

 

 

 

今までのテリィの行動から、キャンディの脳裏に浮かび上がったのは、それだった。

 

 

 

 

『テリィはね、自分が納得しないと前に進まないわ。

 

自分から欲しがったものを手に入れたら、ずっとそれを大切にするの。

 

だから、あなたのことも一生、大切にするわ。』

 

 

 

 

と、エレノアはキャンディの手をとった。

 

 

キャンディは、全身が熱くなっていくのを感じながら、

 

 

 

 

『わたしもです。ずっと、テリィを大切にします。』

 

 

 

と、エレノアに伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレノアは結婚祝いの一つとして、

カーフレザーのダークバーガンディ(赤褐色)のアルバムを2人に贈った。

このアルバムの1ページを飾るのは、結婚式の写真だろうか?

それともテリィが撮影した写真だろうか?

テリィの帰宅を待ち侘びながら、夕食の支度をするキャンディは

胸の奥まで満たされるような、やわらかな幸福に包まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

The Tomboy and the Rebel Aristocrat  妄想日記

おてんばちゃんとヤンチャ貴族

 

 

 

 

 

㉘帰郷(4)  電話の相手

 

 

 

 

 

シカゴとニューヨーク間は、1時間の時差があり、

シカゴはニューヨークより、1時間遅く時を刻んでいる。

そして、アードレー家に静かな夜が訪れようとしていた。

日はすでに沈み、空は深い藍色に変わろうとしていた。

キャンディは電話ニッチで、テリィに電話をしようとしていた。

1920年代、電話ニッチ(電話用の壁のくぼみ)は設備として取り付けられていたが、

それは、富裕層の象徴でもあった。

 

 

アルバートからは、”電話代は気にしないでいい”  ”自由に電話を使っても良い”と

言われたが、当時のシカゴ⇄ニューヨークの電話代は、日本円にすると

1カ月の下宿代に匹敵していた。

キャンディはアルバートの言葉に感謝していたが、テリィの声が聞ければ充分だと短時間で

電話を切るつもりでいた。

 

 

 

 

 

キャンディは、エントランスホール脇の電話ニッチに立った。

(※情報収集を進めていくと、まだこの時期はキャンドルスティック型の電話が主流で

あったようですが、妄想日記のため、時期的には少し早いが、ハンドセット型電話を登場

させます)

クランクを回す音が、静かに響く。

 

 

 

『オペレーターです。』

 

 

と、落ち着いた女性の声だった。

 

 

 

 

『ニューヨークをお願いします。』

 

 

と伝えたキャンディは、少し声がうわずいていた。

 

 

 

 

『お呼び出し番号をお伺いします。』

 

 

 

 

『ニューヨーク、セントラル・パーク近く、マレー・ヒル1287番です。』

 

 

 

 

『マレー・ヒル、ワン、ツー、エイト、セブン、

 

マレー・ヒル局へお繋ぎします。

 

夜間のため、少々お時間をいただくことがあります。』

 

 

 

 

と、案内があり低い雑音が続いた。

キャンディは、窓の外を見つめた。

月光に照らされた早咲きのバラと蕾。

そして遠く瞬く星。

ここから、約715マイル(約1,150km)先に、テリィがいる。

715マイルは、東京から福岡より少し先までの距離だ。

同じ夜空の下で、テリィもこの星空をみているかもしれない ——— と想うと、

キャンディは胸が温かくなった。

 

 

しかし、なかなか電話は繋がらなかった。

 

 

『ただ今、呼び出し中でございます。そのままお待ちください。』

 

 

と、アナウンスが入った。

 

 

そして、キャンディはそのまま待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、雑音が消えた。

 

 

 

『キャンディ?』

 

 

 

感度はあまり良くないが、確かにテリィの低く甘いヴァイオリンのような声が聞こえた。

 

 

 

『わたしよ! テリィ、あなたの声が聞こえるわ。』

 

 

と、キャンディは嬉しく声がはずんだ。

 

 

 

 

『無事に着いたんだな。そっちは、ニューヨークより寒いだろ? 体調は大丈夫か?』

 

 

 

 

『えぇ、まだ少し寒いわ。でも、元気よ。 あなたこそ、お稽古で疲れていない?

 

ちゃんと食事をとってる? 寝る時は、あたたかくしてる?』

 

 

 

 

テリィは、少し苦笑いしながら、

 

『あぁ、心配するな。その調子だと、キミは元気だね。

 

オレたちの報告はすんだの?』

 

 

 

 

『すんだわ。ポニー先生も、レイン先生も喜んでくれたわ。

 

アルバートさんは、今日サンフランシスコから帰ってきたばかりよ。

 

手紙は今日、読んでくれて、結婚おめでとうって言ってくれたわ。

 

バージンロードのエスコート役も引き受けてくれたわ。』

 

 

 

 

『それなら、良かったよ。

 

イギリスに行きが、結婚に変更になっただろ。

 

アルバートさんも、驚いているんじゃないかと思ってたんだ。

 

まぁ、反対されたところで、引き下がることはないけどな。』

 

 

 

と、テリィが安堵している様子がキャンディに伝わってきた。

 

 

 

『それなんだけど、ジョル … 』

 

 

と、言いかけた途端、キャンディは背後に気配を感じて、振り向いた。

 

 

 

 

 

キャンディの後ろには、ニールが立っていたのだ。

 

 

 

 

ニールは、仕事の打ち合わせで、アードレー家に来ていたが、

キャンディはその事を知らなかった。

ニールが打ち合わせをおえたのは、1時間ほど前だったが、最近多忙を極めていた

ニールは、ソファで居眠りをしてしまい、少し前に目を覚ました。

今日は、運転手なしでニールが運転して来たため、帰宅も急ぐ必要はなかったが、

キャンディが電話をしている所を通りかかったのだった。

 

 

振り向いたキャンディは、以前にも増してチャーミングで、美しくなっていた。

それは、単に若さや、華やかさだけではないと言う事を、ニールは感じた。

愛する人がいて、愛されていることを疑わないことがキャンディの透明感のある美しさを

より引き立てていた。

ニールは、キャンディが魅力的になった理由はわからなかったが、無性に干渉したくなった。

 

 

 

 

『おい、キャンディ、勝手に電話を使っていいのか?』

 

 

 

『ニール、何故あなたがここにいるのよ。

 

それに、電話は、アルバートさんに許可をもらっているわ。

 

電話中だから、離れてほしいわ。』

 

 

と、キャンディは驚きと少し苛立ちを感じた。

 

 

 

 

——— ニール? 奴がいるのか? そこに? ———

 

 

と、テリィはキャンディの会話から、状況を推測した。

 

 

 

 

 

 

 

『誰と電話しているんだ?』

 

 

”バージンロードのエスコート役”と、キャンディが電話で言っていたのが聞こえたニールは、気になっていた。

キャンディの様子から、電話の相手は男性だと直感した。

 

 

 

 

『あなたには、関係ないわ。とにかく、今、電話中なの。

 

お願いよ、邪魔をしないで。席を外してちょうだい。』

 

 

 

と、キャンディは先程よりはトーンを落として言った。

遠距離電話のため早くテリィとの電話をすませたいキャンディだったが、

”邪魔しないで”と言う言葉が、ニールの癇に障った。

 

 

 

 

『生意気なヤツだな。誰と喋ってるんだ。よこせ!』

 

 

 

と、キャンディの持っていた受話器を取り上げようとした。

 

 

 

 

『何をするのよ! やめて! やめてよ!』

 

 

 

と、キャンディはニールから受話器を奪われないように抵抗した。

 

 

 

 

『キャンディ、キャンディ! 大丈夫か?』

 

 

 

と、テリィは電話で伝えたが、受話器はキャンディとニールの奪い合いになっていて、

キャンディの耳には届かなかった。

 

 

 

キャンディから無理矢理に受話器を奪い取ったニールは、

 

 

 

『やぁ、僕はキャンディの幼なじみだ。』

 

 

と、ニールは電話の相手に言った。

 

 

 

『幼なじみ? ちょっと、変なこと言わないでよ、ニール!』

 

 

と、キャンディは受話器を取り返そうとしたが、ニールにかわされてしまった。

 

 

 

 

テリィもニールに返答した。

 

 

『やぁ、君が幼なじみ?』

 

 

 

 

『幼なじみと言うより、キャンディを奉公させてやってたから、

 

恩人と言ったほうが、いいかな。』

 

 

と、ニールは悪ぶる様子もなく電話の相手に言った。

 

 

 

 

 

——— えっ? 恩人? ———

 

 

 

と、キャンディは可笑しくて吹き出した。そして、

 

 

 

 

——— テリィは、なんて言ってるのかしら ? ———

 

 

 

と、テリィの声が聞こえないため、気になって仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

『僕の妻に、失礼な事をしておいて恩人だって? 僕の妻に失礼な事をしないでくれ。』

 

 

 

 

『僕の妻? …… キャンディの結婚相手か?

 

お前も生意気そうな奴だな。僕を誰だと思っているんだ!』

 

 

 

 

『君は、ロンドンに居た時も、僕の妻に酷いことをしていたなぁ。

 

1人では何も出来ない、おぼっちゃま君よ。』

 

 

 

 

 

『あぅ …? 僕の妻 ……  ?       ……  ロンドン…  ?      ……  !!!!!』

 

 

 

 

ニールは、電話の相手の会話の内容と、どこか聞き覚えのある声に気づいた。

そして、ニールの知る1人の男性に辿り着いた。

 

 

 

 

『アァア ———アァッ———ッ!!』

 

 

 

 

と、奇声を上げ、

 

 

 

 

『ガチャン!』

 

 

 

と、電話を切ってしまった。

そして、そそくさと立ち去って行った。

 

 

 

 

 

『えっ! なんてことを!』

 

 

 

キャンディはニールが電話を切ってしまったことを信じたくなかった。

そして、ニールにテリィとの関係を知られてしまったことで、今からマスコミに

知られてしまう不安が過った。

 

 

すると、ニールの奇声とキャンディの興奮した声に気づいたジョルジュが、驚いた様子で

やってきた。

 

 

 

『キャンディスさま、どうかされましたか?』

 

 

と、ジョルジュに確認されたキャンディは、事情を話した。

 

 

 

 

 

『結婚式の前にマスコミや世間に知られたくないのに ……でも、もう覚悟してた方がいいの

 

かしら?』

 

 

 

と、キャンディは半ば覚悟を決めていたが、ジョルジュが

 

 

 

『お任せください。』

 

 

 

と、言った。

 

 

 

直ぐにジョルジュは、アルバートに経過を説明した。

そして、アルバートとジョルジュはニールを追いかけ、

キャンディとテリィの関係を他言しないようにお灸を据えたため、

2人の関係が暴露されることなかったのだ。

 

 

迅速なジョルジュの対応と、アルバートの計らいにキャンディは感謝した。

そしてキャンディはもう一度、テリィに電話しようと思った。

その時、電話ニッチから、真鍮のベルがリン …リン…と乾いた音を立てて鳴り響いた。

 

 

 

 

——— きっと、テリィだわ!———

 

 

 

 

キャンディは直ぐに、電話を取った。

普段、電話はメイドが取り次ぐが、キャンディは電話の前にいたため、

躊躇しなかった。

 

 

 

 

『キャンディ、大丈夫か? 怪我はないか? 』

 

 

 

『あぁ、テリィ! 大丈夫よ。

 

アルバートさんとジョルジュがニールを追いかけて、わたしたちのことを

 

他言しないようにお灸を据えてくれたから、安心して。』

 

 

 

 

『そうか。アイツが急に、電話を切るから、びっくりしたよ。』

 

 

 

『ねぇ、あなたはニールに何と言ったの?』

 

 

 

『特別な事は言ってないよ。

 

”僕の妻に失礼なことをしないでくれ”

 

”1人では何も出来ない、おぼっちゃま君よ” って、言っただけさ。』

 

 

 

『名乗らなかったの?』

 

 

 

『あぁ。名乗る必要もないだろ?』

 

 

 

『さすがね。名乗らずに、撃退したわけね。』

 

 

 

『アイツはいつから、キミの恩人になったんだい?』

 

 

と、テリィは笑いを堪えながら聞いた。

 

 

 

『わたしの方が聞きたいくらいよぉ。』

 

 

 

と、キャンディも可笑しくて仕方なかった。

 

 

 

 

すると、テリィが言った。

 

 

『キャンディ、さっき何か言いかけてたな?』

 

 

 

 

『そう、そう! アルバートさんの話では、あの時ジョルジュはアルバートさんに

 

わたしが船に乗ったのか、乗らなかったのか報告するために、

 

港のどこかでわたしたちを車に乗るまで、見ていたんですって。』

 

 

 

と、キャンディは、最後のほうは声をひそめて言った。

 

 

 

『えっ? ずっと見てたのか? あの時のオレたちを?』

 

 

 

『そのようよ。アルバートさんは、ジョルジュから報告を聞いていたから、

 

わたしたちのことをある程度は、受けとめていたようなの。

 

ジョルジュは、なぁーんにも言わないから、ちょっと恥ずかしくて ……。』

 

 

 

 

『おっさん、やるな。』

 

 

 

 

『テリィ、おっさんじゃなくて、ジョルジュよ。ジョルジュ。

 

結婚式には、きちんとお礼を言ってね。』

 

 

 

『あぁ、わかったよ。

 

しかし、あのおっさんは、オレが写真家になったら、運転手兼ボディガードを頼みたいくら

 

いだ。しばらくは、マスコミに追われるだろうから、いいボディガードになりそうだなぁ。

 

キャンディには、アシスタントをお願いしてさ。』

 

 

 

 

『だから、おっさんじゃなくて、ジョルジュよ。

 

きっと、アルバートさんが、ジョルジュのことを離さないわよ。

 

それにね、わたしだって、あなたのアシスタントのことは先のことだし、

 

どうなるかわからないわよ。ウフフ。』

 

 

 

『オレの妄想だ。妄想なんだから、いいだろ?』

 

 

と、テリィの低く甘い声が、キャンディの耳元に響き、

キャンディの胸はトキメキで揺さぶられた。

そして、続けた。

 

 

 

 

『ジョルジュは、口は堅いし忠実だし、執事の鑑ね。

 

そうね、妄想なら、ジョルジュはいくらでも、あなたの運転手兼ボディガードに

 

なってくれるわ。ウフフ。

 

アルバートさんは、わたしを甘やかすこともなく、縛りつけることもなかったわ。

 

学院生活のためのロンドン行きは … 最初は嫌だった。でも、あなたと出会えた。

 

アルバートさんの決断がなかったら、わたしたち、出会うことはなかったわ。』

 

 

 

『キャンディ …… 』

 

 

 

と、テリィも感慨深い気持ちになった。

 

 

 

 

『あっ、あなたとお喋りしていると、長話しになっちゃうわね。

 

テリィ、あたたかくして休んでね。土曜日の夕方には、ニューヨークに着くわ。』

 

 

 

『あぁ、迎えに行くよ。』

 

 

 

『次の日も、お稽古でしょ。無理しなくていいわよ。

 

列車が遅れることもあるわ。』

 

 

 

 

『心配するな。

 

早くキミの淹れた紅茶を飲みたいから、迎えに行くよ。』

 

 

 

と、テリィはキャンディに言った。

 

 

 

 

『わかったわ。おやすみなさい、テリィ。』

 

 

『おやすみ、キャンディ。』

 

 

 

2人はお互いに、相手が電話を切ってから自分もきろうと思い、なかなか電話をきれなかった。

仕方なく、キャンディは受話器をそっと置いた。

そして、テリィも受話器を置いた。

シカゴとニューヨークは715マイル(1,150km)離れているが、

キャンディとテリィの心は淹れたての紅茶のように、あたたかく安らいでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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おてんばちゃんとヤンチャ貴族

 

 

 

 

 

㉗帰郷(3) 永(とこしえ)の絆

 

 

 

 

翌朝、春の光に包まれてはいたが、ニューヨークの朝とは違っていた。

同じ4月でも、ミシガン湖からの風はまだ冬の名残を運んでいたからだ。

キャンディは深い事情を詮索せずに、キャンディの結婚を心から喜んでいる

ポニー先生とレイン先生に、感謝していた。

そこには、言葉がなくても成立する信頼関係があった。

 

 

キャンディは、午前中のうちにアードレー家に向かった。

子どもたちは、キャンディの突然の帰郷に驚きと嬉しさが溢れていたが、

すぐにポニーの家を跡にすることに動揺を感じた。

 

 

 

 

『キャンディ姉ちゃん、ポニーの家で暮らすんじゃないの?』

 

 

『どっかに、行っちゃうの?』

 

 

 

と、子どもたちは口々にキャンディに尋ねた。

 

昨夜、子どもたちにはキャンディ自身のことについて語ってはいなかった。

結婚については、式のあとに手紙で報告する予定だ。

 

 

 

『アメリカで暮らすことにはしたけれど、わたしの住む家は、ニューヨークなの。

 

そのうちに、また泊まりにくるわね。』

 

 

 

と、キャンディは笑顔で、子どもたちを1人1人抱きしめながら伝えた。

次に帰郷した時には、すでに養子となり、ポニーの家を去っている子もいるだろう ……

子どもたちの新しい未来を考えると、『待っててね。』とも言えず、抱きしめることで

想いを伝えた。

子どもたちは寂しさはあったものの、それぞれに受けとめた。

 

 

そしてキャンディは、結婚式には出席できないポニー先生とレイン先生に言った。

 

 

 

『式がすんだら、写真を送りますね。』

 

 

 

『まぁ、写真を! 楽しみにしているわ、キャンディ。』

 

 

『素敵な式になることを祈っているわ。テリュースさんにも、宜しく伝えてね。』

 

 

 

と、ポニー先生とレイン先生も、キャンディの心遣いを嬉しく思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、キャンディは午後にはアードレー家に到着した。

アードレー家周辺は、ポニーの家付近より暖かだったが、ニューヨークよりは寒かった。

春のやわらかい光を受けたアードレー家の広い大邸宅は、優雅で静かな品を纏って佇んでいた。

穏やかな屋根の曲線が美しく、優しく並ぶ窓は磨き上げられ、輝いていた。

そして、バラの門では、スィートキャンディはまだ硬い蕾のままだったが、

長い冬の眠りから覚めたように、早咲きのバラが静かに開き始めていた。

まだ葉の色が柔らかな緑の枝先に、淡いピンクの蕾がいくつか膨らみ、一日一日と色を濃く

していた。

そして、一輪、そして一輪と、庭に新しい息吹を吹き込んでいたのだ。

 

 

 

『おかえりなさいませ、キャンディスさま。』

 

 

 

と、ジョルジュが静かな笑みでキャンディを迎えた。

 

 

 

『ジョルジュ! あぁ、ありがとう。テリィの手紙を届けてくれて。

 

あなたにお礼を言う前に、あなたは居なくなってしまっていて、

 

あなたがいなければ、きっとわたしは ……  船に … … 』

 

 

 

と、キャンディは言いかけたが、その後の事情をまだ知らないジョルジュに、

どう話せばよいのか言葉につまった。

ジョルジュは、静かな笑みをそのままに冷静にキャンディを見つめていた。そして、

 

 

 

『ご主人様は先程サンフランシスコからお帰りになり、キャンディス様のお手紙を読んで

おられました。』

 

 

 

と、キャンディに伝えた。

 

 

 

『わかったわ。荷物を置いたら、行ってみるわね。』

 

 

 

と、キャンディは、吹き抜けのエントランスから続くマホガニー製(桃花心木)階段を

上っていった。

広々としたエントランスに、イオニア式の柱のヴォリュートが柔らかい雰囲気を感じさせ、

ヴェネチアン・ガラスのシャンデリアが派手過ぎず、上品だった。

キャンディは、アードレー家に帰ってきた実感が湧いてきた。

 

 

 

 

 

 

キャンディは、アルバートの執務室兼応接室のドアをノックした。

 

 

 

『どうぞ。』

 

 

 

と、アルバートの声がした。

 

 

 

キャンディは、ゆっくりとマホガニーのドアを開けた。

午後の陽光が、南向きの大きな窓から柔らかく差し込み、部屋全体が淡い金色に染められていた。

アルバートは、窓辺の深い緑色のビロード張りのアームチェアに座っていた。

そして、マホガニーのデスクには、読んだばかりの、キャンディからの手紙が置いてあった。

 

 

 

 

『キャンディ、手紙を読んだよ。テリィと、新しい生活をはじめるんだね。』

 

 

 

アルバートは、穏やかに、そしてキャンディを包み込むように言った。

 

 

 

 

『アルバートさん …    帰ってきたばかりで疲れているのに、驚かせてしまってごめんなさい。 

 

こんな展開になるなんて、わたしも驚いているの。』

 

 

 

少し緊張しながら話すキャンディを、アルバートは優しい眼差しで見つめていた。

 

 

 

 

『テリィとは、連絡も取ってはいなかったわ。でも、わたしの心の中には、いつも彼がいた。

 

彼のことは、忘れたくても、忘れられなかったの ———

 

イギリス行きは、”テリィの事を忘れられない、わたしを赦す”ことから計画したの。

 

でも、船に乗る前に、ジョルジュから手紙を受け取って ……  … 』

 

 

 

 

キャンディは、一つ一つ想いを辿るように話していたが、胸がつまってしまった。

 

 

 

すると、静かにキャンディの話を聞いていたアルバートが

 

 

 

『キャンディ、結婚おめでとう。

 

キミとテリィが、一時の感情で結婚を決めたとは到底思えないよ。

 

2人は離れていても、心は深く繋がっていたんじゃないかなぁ。

 

それで良いじゃないか。過去に囚われる必要は無いんだから。

 

キミは、キミの道を進んでいけばいいんだよ。

 

テリィと幸せになるんだよ。』

 

 

 

 

と、立ち上がり、キャンディの方へ歩み寄った。

キャンディを祝福する笑顔は、清々しく優しさにあふれていた。

キャンディは、アルバートの表情を見て心がほどけた。

 

 

 

 

『アルバートさん …… ありがとうございます。

 

わたし、テリィと一緒に、幸せになります。』

 

 

 

 

キャンディは涙を浮かべながら、アルバートに想いを伝えた。

 

 

 

 

『キミの結婚を聞いて、僕はとっても嬉しいよ。

 

君とテリィが一緒になるのは …… 運命だったんじゃないかな?

 

ジョルジュからも、報告は聞いていたから。そうだったらいいなと、思っていたよ。

 

まぁ、この手紙を読むまでは、真相は分からなかったけれどね。』

 

 

 

『ジョルジュから、報告を … ?』

 

 

 

『テリィの手紙がポニーの家から届いた時、僕はサンフランシスコに行かなくてはならなかったから、手紙をジョルジュに託したんだ。

 

その時にジョルジュには、キャンディがアクイタニア号に乗ったか、

 

乗らなかったのかは確認してほしいと、伝えたんだ。』

 

 

 

『えっ? それじゃあ、ジョルジュはあの時、まだ港に居たのね?』

 

 

 

と、キャンディは驚いた。

 

 

 

『そうだよ。ジョルジュは結果的には君たちの様子を忍び見ていたわけだけど、

 

それは、僕への報告義務のためだったからね。

 

気を悪くさせたかな? キャンディ。』

 

 

と、アルバートはキャンディに気遣った。

 

 

 

 

『いいえ、あんな所を見られて、恥ずかしいだけです。

 

…… ジョルジュは自分の任務を全うしただけですものね。』

 

 

 

と、キャンディはさりげなくアルバートには伝えたが、全身が紅潮する思いだった。

 

 

あの時、ニューヨーク港でテリィの手紙を読み、背後から 

″そんなに恋しいのかい?″と言う懐かしい声が聞こえた。テリィだった。

そして、抱きしめられた。キャンディは涙が溢れていた。キスもした。

あの状況を、ジョルジュは港のどこからか、忍び見ていたのだ。

 

 

 

『ジョルジュから、キミは船に乗らず、テリィの車に乗り、行ってしまった———と、

 

電話で報告を受けたよ。

 

僕はキャンディがテリィと再会したことで、新しい未来を踏み出すんじゃないかとは

思っていたんだ。

 

そのあと、キャンディから電話があったことも手紙が届いたことも、聞いているよ。』

 

 

 

 

 

——— テリィの車に乗ってメアリー・エリザベスに行くところも、見られてたのね。

 

   さっきは、何も言っていなかったのに。ジョルジュ、口が固いわね。執事の鑑ね。

 

   キスも見られてたなんて ———

 

 

 

 

 

キャンディは全身が紅潮する中、出来るだけ冷静に話した。

 

 

 

『わたし、テリィからの手紙で動揺していて、まさかテリィがやって来るとは思わなくて ……

 

グジャグジャになった顔を見られたと思うと恥ずかしい ……

 

でも、ジョルジュやエレノアさんや、みんながテリィの手紙をわたしに、

 

それも乗船する前に届けたいと繋いでくれたから、わたしはテリィとお互いの気持ちを

 

確認できたの。あと、五分手紙が届くのが遅かったら、船に乗っていたわ。

 

みんなに、感謝を伝えたい。』

 

 

 

アルバートは、大きく頷きながら、

 

 

 

『アンソニーやステアも、キャンディの結婚を喜んでいるはずだよ。』

 

 

 

と、キャンディに伝え、窓から早咲きのバラを見下ろした。

キャンディも、アンソニーとステアが微笑んでいるように感じた。

そして、アルバートに対して確かな信頼に支えられた安心感があった。

その安心感は、テリィに対する1人の男性としての恋愛対象としての信頼・安心感とは、

違っていた。

養父と言うよりは、兄のような …… 存在に近いとも感じていた。

甘やかすこともなく、縛ることもなく、ただキャンディを信じて、いつも見守っている。

 

 

 

 

 

 

『結婚式には、ジョルジュと出席するよ。』

 

 

 

『嬉しいわ。アルバートさんには、一緒にバージンロードを歩いてほしいの。』

 

 

 

『もちろん、引き受けたよ。 僕も、いよいよ花嫁さんの父親か …… 』

 

 

 

と、アルバートは感慨深そうに答えた。

 

 

 

『アルバートさん、ありがとうございます。

 

テリィからも、アルバートさんに宜しく伝えてほしいと言付かってきました。

 

結婚式のあと、わたしのアルバイト先のカフェでパーティをするの。

 

是非、パーティにも出席してくださいね。』 

 

 

 

と、キャンディは嬉し涙に変わっていた。

 

 

 

『もう、バイト先も決まっているのだね。

 

キャンディの働くカフェでパーティか。それは、楽しみだよ。』

 

 

とアルバートは言い、

 

 

『そのパーティには誰が出席するの?』

 

 

と、尋ねた。

 

 

 

 

『パーティと言っても、内輪だけなの。

 

アルバートさんとジョルジュの他には、エレノアさんでしょ。

 

テリィのお父さまは、まだはっきりしていなくて、

 

あとはアニーとアーチー、お子ちゃま2人だから、7人は確定ね。

 

あっ、それに、カフェのシェリーとヘイゼルぐらいかしら。』

 

 

 

『そうか、それはちょうどいいよ。

 

そのパーティで、僕自身の報告をさせてもらってもいいかな?』

 

 

 

『アルバートさんの報告 …? 』

 

 

 

『僕にとっては、身近な人たちの集まりだから、少しだけ時間をもらえたら、

 

いいんだけどね。』

 

 

 

と、アルバートは言った。

 

キャンディは、アルバートに何か事情があるのだと感じ、それ以上は

詮索しなかった。

 

 

 

『もちろん、かまわないわ。アルバートさんの報告って、どんな事かしら?

 

パーティまではおあずけね。』

 

 

と、笑って承諾した。そして、

 

 

 

 

『今夜、テリィに電話をしたいんです。

 

遠距離になるから、電話代はわたしが払いますから、電話を使っていいかしら?』

 

 

 

 

『もちろん、電話を自由に使っていいよ。

 

テリィも、キミの声を聞きたがっているだろうね。

 

それに、キミはアードレー家の養女なんだから、電話代の心配なんてしなくていいんだよ。』

 

 

 

と、アルバートはキャンディに伝えた。

 

 

 

『アルバートさん、ありがとうございます。

 

わたしは、テリィの元気な声が聞ければ、それでいいの。』

 

 

 

と、話すキャンディをアルバートは、優しく見つめていた。

キャンディも、テリィの帰宅時間が待ち遠しかった。

午後の春の光は優しく、キャンディとアルバートの影を床に長く伸ばしていた。

窓の外では、早咲きのバラが夕方の斜光を受け、淡いピンクの花びらを

やわらかいアプリコット色に染めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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おてんばちゃんとヤンチャ貴族

 

 

 

 

 

㉖帰郷(2)  あたたかな場所

 

 

 

シカゴ行きのペンシルベニア・リミテッドに乗車したキャンディを見送ったテリィは、

地下ホームで立ち尽くしていた。

先程まで握っていたキャンディの手の温もりが、まだ残っている。

その余韻に浸るように、テリィはその場を動けなかった。

そして、キャンディの金髪の髪の毛が発車時にふわっと揺れ、ずっと見えなくなるまで

テリィを見つめていた光景も、目に焼き付いていた。

 

 

テリィはこのまま、キャンディの居ないアパートに直帰する気持ちには、とてもなれなかった。

キャンディがシカゴから帰宅するのは、五日後だ。

その間   ……  どうやり過ごせばいいのか。

明日からは舞台の稽古があるので、日中は気がまぎれる。

稽古に集中すればいい。

夏に予定している地方公演は、約一か月は家を空けることになるし、

キャンディに会えなかった月日を考えれば、1週間程度、キャンディがそばに居ないことなど、容易いことかもしれない。

しかし、キャンディとの充実した甘い生活を知ってしまったテリィには

月日の長さでは測れなかった。

 

 

今から、どうしようか?

アパートに帰り、台本を読む?

台本は頭に入っている。あとは、心の中で、舞台をなぞるだけだった。

しかし、今は、そんな気にはなれない ———

 

 

テリィの普段の休日は、カメラを連れ、緑の残る場所や自然の気配を感じる場所に

出かけていた。

もしくは、乗馬や釣りに出かけることもあった。

アパートで過ごす休日なら、台本読みや読書、スクワットや腕立てなどのトレーニングだ。

今日は、カメラは持って来なかったし、写真を撮る気持ちにはなれない。

 

 

テリィは、愛馬のシルヴァンと過ごすことを決めた。

そして、愛車のパッカードを走らせ、ブロンクスのヴァン・コートランド・パークに向かった。

ヴァン・コートランド・パークは、ニューヨーク市内でも最大級の公園で、

森や草地、小川に恵まれ、ブライドル・パス(乗馬道)も整備されていた。

ブライドル・パスは公園内のため、ギャロップ(全力疾走)は出来ないが、

ウォーク(常歩)、トロット(速歩)を楽しむことができ、

周囲に人がいない状態の短い直線なら、キャンター(駆け足)は可能だった。

その上、セントラール・パークと比べると、ヴァン・コートランド・パークは

目立ちにくく、あまり人目を気にする必要がないことが、テリィは気に入っていた。

 

 

テリィは公園近くの厩舎に、愛馬と、乗馬服や乗馬道具をあずけており、

厩舎で乗馬服に袖を通した。

ダークグレーのツイードジャケットは、霧雨あとの、まだ少し冷たい春風には適していた。

そして、白のコットンシャツ、アイボリーのブリーチズ(乗馬ズボン)は

爽やかな春を演出し、ダークブラウンのブーツと、ツイードのキャップが、全体を引き締めていた。

 

 

 

『元気だったか? シルヴァン。』

 

 

 

テリィは、白馬のシルヴァンの首を優しく撫でた。

シルヴァンは、セオドラの血筋をひいていた。

シルヴァンの語源は、ラテン語で、『森』や『自然』に由来していた。

静かに響く、渋みと甘さの同居したテリィの声に、シルヴァンも

嬉しそうに、テリィに鼻を寄せてきた。

 

 

 

『3週間ぶりか。さぁ、いくぞ、シルヴァン。』

 

 

 

と、テリィはブライドル・パスを、ウォークとトロットを繰り返しながら、進んだ。

テリィは手綱を引かなかった。

ハミに触れるか触れないかの合図で、シルヴァンは歩調を調整していた。

静かだが、心地よく蹄の音が鳴り響き、公園内の若葉や草木に吸い込まれていく。

時々、春風が優しくなびき、テリィの髪がサラサラと風に包まれた。

 

 

 

 

『なぁ、シルヴァン、今度、可愛い女(こ)を紹介するよ。

 

オレの大切な女(こ)なんだ。ちょっと、おてんばちゃんだけど、

 

そんなところも、たまらなく可愛いんだぜ。』

 

 

 

 

シルヴァンは、まるでテリィの言葉を理解して祝福しているかのように、

目を細め、耳も柔らかく、歩調も一定で進んでいた。

そんな白馬に騎乗する気品ある青年の姿を見かけても、

まさか人気俳優のテリュースだとは誰も思わなかった。

テリィは、シルヴァンとの時間を楽しんだ。

 

 

 

 

そして、テリィは夕方5時頃、アパートに戻ってきた。

人気のない部屋 ———

テリィは、キャンディが言っていた、シチューの蓋をあけた。

 

 

 

『なんだ! 3人前はあるじゃないか。』

 

 

 

——— キャンディ、オレを太らせる気か? ———

 

 

 

テリィは、いつものように、クククッと笑った。

 

 

そして、サラダは、4人前はあった。

 

 

 

———  オレは、馬か?  ———

 

 

 

 

——— キミは、分量と言うものを、知らないようだね? ———

 

 

 

 

『アハハ、アハハ!』

 

 

 

と、テリィは可笑しくて仕方なかった。そして、苺ジャムが入った小瓶を見つけた。

 

 

 

 

——— そう言えば、列車の中で紅茶に入れて飲むからと、

   苺ジャムをつくってたなぁ … ———

 

 

 

 

テリィは、昨夜キャンディが苺ジャムを煮詰めていたことを思い出した。

普段のテリィなら、ストレートでしか飲まない紅茶だったが、キャンディ恋しさに

Japan式ロシアンティーを飲むことにした。

 

 

テリィは、湯気のたつダージリンに苺ジャムを少しだけ入れた。

苺ジャムの甘酸っぱい香りが、テリィの心をくすぐった。

 

 

 

 

——— キャンディは、今、どこを走っているのだろう?  ハリスバーグあたりか? ———

 

 

 

湯気の向こうに、キャンディの面影が重なった。

『甘酸っぱくて、美味しいでしょ?』と、笑顔でテリィを見つめる。

離れていても、2人が重ねてきた日々は、何気ない日常に息づいていた。

ここに居なくても、言葉を交わさなくても、同じものを想い、同じ温度を覚えている。

寂しさは消えはしないが、テリィはキャンディとの絆を感じながら、一口、また一口、

Japan式ロシアンティーを味わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、キャンディも握っていたテリィの手の温もりが、残っていた。

発車間際に、顔隠しのスカーフを外したテリィの表情は、大切な宝物とのしばしの別れを

決断した少年のようで、キャンディの頭から離れなかった。そして、

——— キャンディ、待ってる ———  と、低いトーンだがどこか甘い声も、

キャンディの胸の奥に響いていた。

 

 

地下ホームから発車したペンシルベニア・リミテッドは、少しずつ加速していった。

地下トンネルから、ハドソン川の下のトンネルを通過し、ニュージャージー側の地上に出ると、窓の外の景色は一変し、ハッケンサック湿地帯が現れた。

そこは広大で、静か、少し荒涼とした沼地が広がり、葦や草の生い茂る平坦な土地が広がっていた。

そして、遠くには工場や倉庫が見え、煙突からは煙が上がっていた。

線路は盛土になっており、橋を渡る。

列車は西の空へどんどん、滑り出していった。

 

 

窓の外の世界が少しずつ表情を変えていき、次第に田園風景が広がってきた。

 

 

 

 

——— 地方公演の時は、一か月もテリィと離れてしまうのよね?

 

   それに比べたら、5泊6日なんて…… … ———

 

 

 

キャンディも寂しさを払い切れることは出来なかった。

しかし、キャンディはもう知っていた。

 

 

離れている時間があるからこそ、再び会える喜びが、こんなにも確かだと言うこと。

テリィとの新しい生活は、いつも一緒にいることだけで、成立するわけではない。

それぞれの日常を大切にし、戻る場所が同じであると言うこと。

それが、キャンディとテリィの絆なのだ。

 

寂しさはある。

けれどそれ以上に、信じ合える日々がある。

キャンディはそっと胸に秘め、今日一日を楽しもうと思った。

 

 

 

そして、

 

『ドウン、ドゥン、ドウン、ドゥン …… 』

 

と、低くリズムを打つような走行音に眠気を誘われたキャンディは、いつのまにか眠ってしまった。

 

 

 

 

キャンディが目覚めた時、深いタスカンレッドの車体は、サスケハナ川にかかる石造橋を

横断していた。ロックビル橋だ。

ロックビル橋は、1902年の完成当時より、現在2026年に至るまで、

”世界最長の石造アーチ鉄道橋”である。

橋の長さは、3,820フィート(1,160m)。

 

そんな最長級の橋から眺めるハリスバーグのサスケハナ川は、川全体が夕色を帯び煌めいていた。

キャンディは、雄大な川の美しさに圧倒された。

そして、喉の渇きもあり、ポーターに紅茶を頼んだ。

食事は、食堂車(ダイニングカー)で摂るのが基本だが、ドリンクは個室にはこんでもらうことが出来たのだ。

 

しばらくすると、個室にティーポット、ティーカップ&ソーサー、砂糖、ミルクが

丁寧に運ばれた。

キャンディは砂糖は入れずに、昨夜煮詰めて小瓶に入れてきた、苺ジャムをたっぷり入れた。

 

 

 

『あぁ、なんて甘酸っぱい香りなの。』

 

 

 

キャンディは自然と、笑みが溢れた。

 

 

 

——— 夕食には、まだちょっと早いわね。テリィは、何をしているかしら ……?

 

   紅茶を飲んでいるかしらね。やっぱり、ダージリン? ———

 

 

 

——— 苺ジャムを置いてきたけど、Japan式ロシアンティーを飲んでくれてるかな?———

 

 

 

 

同じ頃、キャンディを想いながらテリィも、Japan式ロシアンティーを味わっているとは

つゆ知らず、キャンディは愛する人に想いを馳せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車内で一泊し、翌日の昼、ペンシルベニア・リミテッドはシカゴに到着した。

シカゴのユニオン駅が完成するのは、1925年5月である。

そのため、この妄想日記の舞台である4月にペンシルベニア鉄道の列車は、

シカゴ市内の既存ターミナルから発着していた。

キャンディがシカゴで列車を乗り換え、ミシガン湖畔南側のポニーの家の最寄駅に着いたのは、夕方だった。

 

 

4月半ばにさしかかっていたが、ミシガン湖畔はまだまだ寒かった。

キャンディは、ポニーの家に帰る前に、テリィの手紙をポニーの家からアードーレー家に

届けてくれたジョージの家に寄った。

しかし、ジョージは留守だったため妻のエミリーに感謝を述べ、ポニーの家に向かった。

 

 

 

 

 

ジョージの家から、ポニーの家までは徒歩で20分ほどの距離だった。

ポニーの家に続く道を歩き始めると、淡いオレンジ色の空が紫色のグラデーションに

移り変わろうとしていた。

そして、まわりにはクロッカス、ラッパスイセン、すみれが静かに咲いていた。

 

冷たい春風に揺られる紫と黄色のクロッカスは、春の息づかいを静かに感じさせた。

また、黄色いトランペットのようなラッパスイセンが、ポニーの丘の春の訪れを告げており、紫の絨毯のようなすみれが、オレンジと紫のグラデーションの空と調和していた。

 

しばらくすると、白い木版張りの外壁のポニーの家が見えてきた。

夕光に染められたポニーの家は静寂の中に佇んでいたが、キャンディが近づくにつれ、

子どもたちの賑やかな声が聞こえてきた。

 

窓越しにキャンディを見つけた数名の子どもたちが、外へ出てきた。

 

 

 

『キャンディお姉ちゃん、おかえり。どうしたの?』

 

 

『ポニーの家が、恋しくなったの?』

 

 

などど、キャンディに声をかけてきた。

 

 

ポニー先生、レイン先生宛ての手紙には、結婚のことはまだふせておいてほしいと書いたので、子どもたちは本当の理由は知らなかったが、キャンディが帰ってきたことは嬉しかった。

 

 

 

『そうよ。やっぱり、アメリカに居ることにしたわ。』

 

 

 

『やった〜!』

 

 

と、子どもたちは喜んだ。

 

 

 

子どもたちはキャンディに遊んでほしくて、おねだりをした。

 

 

 

『みんな、その前にお土産があるの。ジャーン!』

 

 

と、キャンディは手品師のようにお土産を出した。

 

 

すると、幼い子も、年長の子も、女の子も、男の子も、みんな宝石のように目を輝かせた。

それは、メアリー・エリザベスのキャンディ(飴)だったのだ。

色とりどりのドレスのような包み紙のキャンディ(飴)は、宝石のように見えた。

子どもたちの喜ぶ姿を見て、キャンディは嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

子どもたちが寝静まりかえったあとキャンディは、ポニー先生とレイン先生に

Japan式ロシアンティーを淹れた。

 

 

『あらっ、良い香りね。苺ジャムは、あなたの手作りなの?』

 

 

と、ポニー先生が言うと、レイン先生も

 

 

『甘酸っぱい香りが、なんだか懐かしく優しくなるわね。』

 

 

と、キャンディに言った。

 

 

『はい、市場で買った苺をジャムにしたんです。

 

アルバイト先のティールームでも、メニューに入れてもらおうかと思っているんです。』

 

 

 

『いいと思うわよ。子どもたちにも飲みやすそうね。』

 

 

と、ポニー先生は言った。すると、レイン先生が、

 

 

『テリュースさんも、お飲みになるの?』

 

 

と、キャンディに尋ねた。

 

 

 

『彼は、甘いものが苦手なんです。でも、このJapan式ロシアンティーは、嫌いじゃないと

 

言ってました。』

 

 

と、少し恥ずかしそうに答えた。

 

 

 

 

『あらためて、キャンディ、結婚おめでとう。』

 

 

『おめでとう、キャンディ。』

 

 

と、ポニー先生とレイン先生はキャンディを笑顔で祝福した。

 

 

 

キャンディは言葉につまってしまった。

キャンディをずっと見守ってきた2人に祝福され、なんとも言えない気持ちと感謝の気持ちでいっぱいになったのだ。

 

 

 

『ポニー先生、レイン先生、ありがとうございます。

 

テリィからも、先生たちに宜しく伝えてほしいと、こと付かってきました。

 

突然の展開で、先生たちを驚かせてしまいました …… 』

 

 

 

『何を言っているの、キャンディ。わたしもレイン先生も、あなたが幸せになるのが

 

1番嬉しいことなのよ。幸せになってね。』

 

 

 

『そうよ、キャンディ。

 

あなたの幸せは、テリィさんの幸せでもあるのよ。

 

そして、その温もりはティールームに来るお客さんにも、そっと届くわ。

 

無理はしないでね。自分を大切になさい。』

 

 

と、レイン先生はキャンディに伝えた。

 

 

 

キャンディはポニー先生と、レイン先生の言葉をかみしめた。

 

 

 

 

『はい、わたし、幸せになります。テリィと一緒に、幸せになります。』

 

 

 

 

 

 

 

冷え込む春の夜だったが、あたたかいJapan式ロシアンティーで、

3人は満たされていた。

 

そして、キャンディの幼い頃のおてんばエピソードで、夜更けは過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

The Tomboy and the Rebel Aristocrat  妄想日記

おてんばちゃんとヤンチャ貴族

 

 

 

 

 

㉕帰郷(1) あなたを想う

 

 

 

 

霧雨の朝だった。

キャンディは、大おじさまであるアルバートや、ポニーの家へ結婚の報告をするため

今日からシカゴへ行くことになっていた。

アードレー家とポニーの家には、手紙による報告はすんでおり、アードレー家には電話も入れた。

しかし、アルバートは出張のためサンフランシスコへ行っており、直接に話は出来ていない。

アルバートの帰宅は明後日である。それまでは、手紙の内容も知ることはないだろう。

ポニーの家には電話がないため、手紙だけが唯一の連絡手段であった。

今日は月曜日で、テリィは稽古が休みだ。キャンディを駅まで送って行くことになっているが、その前に、アトリエ・エタニテに寄り、ウェディングドレスのトワルを確認することになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

キャンディとテリィが、昼前にアトリエ・エタニテへ到着する頃には、朝の霧雨は止んでいた。

ニューヨークの街にかかるくっきりとした虹と、濡れた石畳の湿り気が、

少し前の時間を教えてくれていた。

 

 

今日のキャンディのファッションは、

春コート:ローズベージュ系、ウールのミディ丈、ストレートシルエット

ワンピース:アイボリー系、シルクのクレープ素材、襟元に刺繍

帽子:クローシュ、生成り、リボンはコートと同色

靴:ライトブラウンのレースアップ、トラベルシューズ

手袋:ベージュの薄手レザー

鞄:ブラウン、ミディアムサイズのレザートランク

 

テリィのファッションは、

コート:ダークネイビー、ウール素材

スーツ:ネイビー、マットなウール素材

シャツ:白

ネクタイ:ボルドー

帽子:ブラックのフェドラ

靴:ブラックのオックスフォード

スカーフ:アイボリー→顔隠し用

 

当時の4月の平均気温は、

ニューヨーク:約10℃

東京    :約13〜14℃

と、東京より3〜4℃低く、寒かったのでコートはこの時期も必須だった。

 

 

 

 

アトリエ・エタニテのミュリエルは、笑顔で2人を迎え入れた。

そしてキャンディとテリィが、アトリエに足を踏み入れると、

トルソーにかけられた白いトワルが、雨上がりの柔らかい光で輝いていた。

 

まだ、仮布に過ぎなかったが、オフショルダーのフィット&フレアのプリンセスラインが

自然な雰囲気のエレガンスを際立たせていた。

そして、ローズの立体感あるモチーフが華やかさを添えていた。

そのラインと、ローズモチーフに心奪われたキャンディは、立ち尽くした。

 

 

 

『どうだ?  気に入った?』

 

 

 

と、テリィが言葉をかけると、キャンディは

 

 

 

『ええ!   想っていた以上に素敵よ。』

 

 

 

と、興奮気味に答えたので、テリィも嬉しかった。

 

 

 

 

 

そして、キャンディは試着した。

そっと優しく、ウェディングドレスに身を包んでいく。

仮布ではあったものの、ほぼキャンディの体型にフィットしており、

キャンディの白い肌、きめ細やかな肌の魅力を際立たせていた。

キャンディの外見ばかりではなく、内面の清らかさ、美しさを引き立てていると、

テリィは感じた。

 

 

 

 

 

『もう少し、ウエストは詰めてみますね。

 

その方が、さらに見た目がスッキリ綺麗になります。』

 

 

 

 

と、ミュリエルはまち針で調整しながら、キャンディに伝えた。

 

 

 

 

すると、テリィは言った。

 

 

 

『キミは、ナイスボディではないが、似合ってるよ。』

 

 

 

『えっ? けなしているの? 褒めているの?』

 

 

 

『褒めているのさ。決まっているだろう。』

 

 

 

『ちょっと、もっと他の言い方はないの。もぉ〜!』

 

 

 

と、ふくれるキャンディを見て、テリィはいつものようにクククッと笑った。

そして、

 

 

 

『オフショルダーが、セクシーだよ。』

 

 

 

テリィの低く、渋く、甘い声がキャンディの耳にやわらかく触れた。

 

 

 

 

 

——— テリィったら、近くにミュリエルがいるのに ……  

   あなたって言葉の魔術師ね。 ———

 

 

 

 

 

キャンディは顔を赤らめ、言葉を出せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後のペンシルベニア駅は、買い物客、旅行客、ビジネスマンであふれていた。

キャンディは、ペンシルベニア・リミテッドに乗車する。

ペンシルベニア・リミテッドは、ブルマン寝台車で、ブロードウェイ特急より停車駅は、

やや多いが格式ある列車だった。

キャンディは、ブロードウェイ特急に乗車したかったのだが、ブロードウェイ特急は夕方発

なのだ。

見送りのテリィへの配慮や、夕方発ではシカゴの到着も遅くなるため、

午後の早い便のペンシルベニア・リミテッドに決めた。

 

1920年代半ば、ニューヨーク⇄シカゴ間は、列車では約20時間前後の移動時間を要した。

その区間は、東京から福岡までより、長距離である。

そして、車なら3〜4日、もしくはそれ以上の日数がかかっていた。

車の平均速度が30〜40キロであり、道路も未整備で、パンクも多発していた。

自動車旅行への移行期の始まりだったが、まだまだ鉄道が王道であった時代だった。

 

 

 

キャンディとテリィは、ペンシルベニア駅の古代ローマ風の駅舎内を移動し、地下ホームへ

向かった。

駅舎はカラカラ浴場をモデルとし、大待合室は非常に高いアーチ型天井だった。

また、コンコース側はガラス天井のため明るく、壮大な構造だった。

 

 

 

 

『キャンディ、こっちだ。』

 

 

 

『こっちね?』

 

 

 

と、テリィはキャンディと手をしっかりとつなぎ、そして片方の手にはキャンディのトランクを持ち、キャンディを誘導した。

顔隠しのためのアイボリーのスカーフをしたテリィに導かれ、キャンディは迷子にならぬように、必死について行った。

行き交う人混みを潜り抜け、2人は、ペンシルベニア・リミテッドの車体を目の前にした。

 

 

 

機関車は黒に近いダークグリーン、客車はタスカンレッドだった。

タスカンレッドは、深い赤褐色。

ただの赤ではなく、赤に茶とわずかな紫が溶け込んだ色。

例えるなら、—— 成熟したワインの澱 ——

また、当時の車両の側面のレタリングは、本物の金箔を使用していたことから、

列車の格、会社の誇りを感じさせた。

 

キャンディは、洗面台、トイレ付きの鍵付き個室の、コンパートメントを予約していた。

テリィと一緒なら贅沢をして,最高級のドローイングにしたかったが、今回は一人旅。

このコンパートメントで十分だと感じた。

まだ出発まで時間があり、テリィもキャンディと一緒にコンパートメントに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

『キャンディ、トランクはここでいいかい?』

 

 

 

『えぇ、そこでいいわ。』

 

 

と、キャンディが言うとテリィはトランクを置き、

キャンディが脱いだローズベージュ系の春コートをさっとハンガーにかけた。

キャンディは、テリィのさりげない気遣いが嬉しかった。

 

 

そして、テリィは

 

 

 

 

——— オレも、このまま …… キャンディと一緒に、行けたらなぁ ———

 

 

 

 

と、深い想いを巡らした。

 

すると、キャンディが言った。

 

 

 

 

『明日のお昼頃、シカゴに着いて、夜はポニーの家に泊まるわ。

 

でも、ポニーの家には電話は無いの。

 

明後日の午後にはアードレー家に着くから、明後日の水曜日の夜に電話するわね。』

 

 

 

 

この話は数日前から何回も、キャンディから聞かされていたためテリィは、苦笑した。

 

 

 

『わかってるよ。水曜日の夜、オレが帰ってきた頃に、電話をくれるんだろ。』

 

 

 

 

『そうよ。あなたが、お稽古から帰った頃に電話するわ。

 

ただ … 長距離だから、電話代が大変なのよ。

 

3分話しただけで、4〜5ドルかかるらしいわ。長話は無理ね。』

 

 

 

シカゴとニューヨーク間の電話代は、1925年の日本で比較すると、

3分で日本円8〜10円であり、当時の1カ月の下宿代に匹敵していた。

 

 

 

『そうだな 、キミの声だけ聞ければいいさ。』

 

 

 

と、テリィも納得した。

 

 

 

『シチューとサラダを作ってあるから、今晩、食べてね。』

 

 

『あぁ、ありがとう。』

 

 

と、テリィは言ったものの、キャンディがいないアパートで1人で食事をすることを

考えると、寂しかった。

 

 

 

 

『洗濯はわたしが帰ってからするから、ためておいて。あっ、そろそろホームに出ていた方がいいわ。』

 

 

と、キャンディがテリィに促した。

 

 

すると、テリィは数秒間、キャンディを強く抱きしめた。

キャンディも、そのまま受け入れた。

 

 

そして、テリィは個室を立ち去る間際に、

 

 

 

『キャンディ、必ず個室の鍵は閉めろよ。あと、知らない男とヘラヘラ喋るんじゃないぞ。』

 

 

と、念を押し列車を降りた。

 

 

 

 

 

——— 知らない男とヘラヘラって? 笑わせるわね。

 

自分は、仕事とはいえ、女優とはブジュブジュ、キスするくせに …… ———

 

 

 

と、キャンディはクスッと笑った。

テリィが寂しくて余計に強がりな事を言っているのも感じていた。

キャンディも寂しくて仕方なかったのだが……

 

 

 

 

 

 

 

キャンディは窓を開けた。

ホーム側に立ったテリィは、キャンディの手を握った。

 

 

『アルバートさんに、よろしく伝えてくれ。ポニーの家にもな。』

 

 

 

『えぇ、伝えるわ。心配しないで。

 

それより、あなた、夜はあたたかくして寝てね。冷えると喉にも良くないわ。』

 

 

 

『あぁ …  キャンディも、気をつけてな。土曜日に帰ってくるんだよな?』

 

 

 

『そうよ。金曜日の夜に、ブロードウェイ特急に乗るわ。夕方には着くはずよ。』

 

 

 

『稽古が終わったら、迎えに来る。キミが、早く着いたら、ホームで待っててくれ。』

 

 

 

『わかったわ。その時は、待ってるわ。』

 

 

 

 

 

その瞬間、車掌の

 

 

『ご乗車願います!』

 

 

の掛け声が、ホームに響いた。

 

 

 

最後の乗客が乗り込んだ。

テリィは、握っていたキャンディの手をゆっくり離した。

そして、ドアが閉まるころに、

 

 

『チリン。』

 

 

と、真鍮のベルが鳴った。

 

 

わずかな振動を感じ、重厚な車体がゆっくりと動き出した。

 

 

 

 

『テリィ、行ってくるわ。』

 

 

 

『待ってるよ、キャンディ ——— 』

 

 

 

と、テリィは顔隠し用のスカーフを外した。

2人はお互いの顔しか、見えなかった。

 

 

 

少しずつ速度が増してきて、キャンディの顔もテリィの顔も小さくなっていく。

 

 

 

ペンシルベニア・リミテッドが構内を抜け、長い地下区間を進んだのち、

外の光を受けた瞬間、

 

 

『ゴーン』

 

 

 

と、機関車の大きなベルが鳴った。そして、

 

 

 

『ホォーッ』

 

 

と、ホィッスルが空に放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

キャンディとテリィは今まで握っていた手の温もりの余韻に浸りながら、

お互いが見えなくなるまで、目を離さなかった。

 

 

 

ペンシルベニア・リミテッドはキャンディを乗せて、春の光に満ちたニューヨーク郊外を

駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

The Tomboy and the Rebel Aristocrat  妄想日記

おてんばちゃんとヤンチャ貴族

 

 

 

 

 

㉔At Peace

 

 

 

 

今日からまた、テリィの稽古が始まる。

アパートの窓辺には、春の柔らかい光が差し込み、日の出とともに夜の名残を

少しずつほどいていた。

早朝の冷たい空気がまだ残る室内が、澄んだ温かい空気へと少しずつ満ちていき、

窓を少し開けると、アパートの敷地内にある樹木が風に揺れ、優しく温もりのある風が

室内に流れ込んできたのだ。

そして、小鳥の軽やかなさえずりが心地よく、近くの石畳を走る自動車の音が聞こえた。

ニューヨークの街が朝を迎え、息づいているのをキャンディは感じた。

 

 

 

キャンディはお湯を沸かし、カップを温めた。

テリィは朝食前と後に、2回に分けて紅茶を飲むことが多いからだ。

朝食前は軽めのストレート、

朝食後は同じ茶葉を濃いめにして飲むのが、テリィ流だった。

朝食は軽くすませることが多く、朝は紅茶で始まり、紅茶で終わる。

 

ウヴァの清涼感あるシャープな香りが部屋を包むころ、洗面を終えたテリィが、

キャンディの隣に来た。

テリィは普段から、バスローブ姿で紅茶や朝食をとる。

それに合わせて、キャンディも朝はバスローブ、もしくはパジャマにエプロンと言う姿が定番になっていた。

 

 

 

『キャンディ、この香りは …… ウヴァだろ?』

 

 

 

『ええ、そうよ。テリィ、さすがね。ウフフ。』

 

 

 

 

キャンディは、テリィの低く渋く、そして甘い声に胸の奥がくすぐられるようだった。

 

 

ウヴァは、清涼感が特徴的でシャープである。気持ちの切り替えには適している。

連休明けの稽古日に合わせて、キャンディはテリィのためにウヴァを選んだ。

 

それをテリィは見抜いていた。

キャンディが、テリィの今日と言う日に合わせて、紅茶を選び、お湯を沸かし、カップを温め、茶葉の量を計り、お湯を注ぎ、蒸らしてくれる ———

 

 

そんな何気なく見える日常でもテリィには、とても嬉しかった。

朝食後、キャンディが淹れた濃いめのウヴァを飲みながら、

 

 

 

『身体が引き締まるよ。』

 

 

 

と、テリィはキャンディに嬉しそうに言った。

 

 

 

キャンディは静かに微笑んだ。

 

 

 

『夕食の時は、オレが淹れるよ。』

 

 

 

『あらっ、あなたはお稽古で疲れるでしょ。わたしが淹れるわよ。』

 

 

 

 

と、キャンディはテリィを気遣った。

 

 

 

 

『いや、朝はキミが淹れてくれたから、夕食の時はオレが淹れたいんだ。』

 

 

 

『そう。じゃ、お願いするわね。美味しい紅茶、楽しみにしてるわ。』

 

 

と、キャンディは和かに言った。

 

 

 

 

 

 

テリィは考えていた。

 

———  今日のキャンディには … ダージリンがいいかな。

    でも、夜には少し、合わないなぁ。

 

キャンディはミルクティーが好きだ、アッサムか? 

 

それとも、イングリッシュ•ブレックファーストか?

 

レモンティーも好きだったな …… そうするとディンブラか。

 

昨日のJapan式ロシアンティーなら、やっぱりディンブラか … ?  ———

 

 

 

 

テリィは、キャンディのための紅茶を考える喜びに浸っていた。

 

昨日、テリィは『人の役に立ちたいと思ったことはないんだ。』と、言っていたが

キャンディのためなら想いを巡らし、キャンディが喜ぶことを考えていることに対しては

自然なことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、稽古に出かける時間が来た。

 

 

 

『テリィ、気をつけてね。いってらっしゃい。』

 

 

 

『あぁ、行ってくるよ。キャンディも、無理するなよ。のんびりしてていいんだからな。』

 

 

 

『のんびりしたいところだけど、洗濯や掃除がたまってるわ。先ずは、それを片付けてからね。』

 

 

 

 

と、キャンディは言った。

テリィは、キャンディの唇にキスをすると、サッとドアを開けて、アパートの階段へ向かって歩き出した。

キャンディには一瞬のことで、身動きが出来なかった。

テリィが階段を降りる前に振り向くと、キャンディが部屋の前の廊下から、

テリィを見守っているのが見えた。

テリィは一旦立ち止まり、軽く手を上げた。すると、キャンディはにこやかに手を振った。

このまま、キャンディの元へ帰りたい衝動に駆られそうになり、テリィは足早に階段を

降りて、アパートの裏手のガレージへ行った。

そして愛車のパッカードに乗り込み、イースターを祝うニューヨークの街を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

稽古場のある劇場では、三連休明けの役者や舞台スタッフが久しぶりの稽古に

胸を躍らせていた。

この三連休は一部のスタッフをのぞき、舞台準備のため休稽古だった。

新作のローズマリーの舞台に合わせ、緞帳の新調や、カメラや音響の調整等が行われて

いたのだ。

 

 

 

テリィが新調された緞帳を確認に行くと、数人のスタッフが緞帳を眺めていた。

その中の1人、ルーサーがテリィに気づいた。

 

 

『テリィさん、おはようございます。新しい緞帳は,やっぱりいいですよね。』

 

 

 

『あぁ、おはよう。』

 

 

テリィはルーサーに言葉少ないが、にこやかに挨拶をした。

 

 

 

 

ルーサーは照明担当の20代前半のアメリカ人で、

濃い栗色の髪に、ヘーゼル色の目をしていた。

体格はアメリカ人にしてはやや小柄で、愛嬌があり人懐っこい性格だった。

他の役者やスタッフが、近寄り難いテリィに一線をおく中、テリィにいつも笑顔で接していた。

 

 

 

客席の視界に広がる緞帳は、若草色のダマスク織だった。

ダマスク織は、光で模様が浮かんできたり、消えたりする。

派手さはないが、内面から浮かびあがる葉の紋様が、静かな内面を表しているように見えた。

そして、若草色はロッキー山脈の自然、再生、希望、純粋さを表しているようにテリィには感じた。

 

 

 

『テリィさん  … なんかいい事あったんですか?』

 

 

 

と、ルーサーが言った。

 

 

 

『えっ? どうしてだ?』

 

 

 

『なんか、わからないっすが、いつもと雰囲気が違うなって … 

 

す、すみません。余計な事を言っちゃって。』

 

 

 

『いや、いいんだ。』

 

 

 

 

テリィは、アトリエ・エタニテのミュリエルに、

『こんなに笑う方だとは知りませんでした。』と、言われたことを思い出し、

気恥ずかしい気持ちになった。

そっと、その場から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

午前中の本読みが一段落し、昼休憩になった。

タバコを吸いに行くため席を立ったテリィを、ローズマリー役のマリエルに

呼び止められた。

 

 

マリエルは、フランス系アメリカ人の20代半ばの女優だった。

栗色の髪に、明るい青色の目をしていた。

温和な性格で、特別な美人と言うわけではないが、雰囲気美人と言う感じだった。

明るい青い目は、照明があたると、きっと舞台映えするだろう。

嫌味のない性格なので、キャンディとも仲良くなれるタイプではないかと、テリィは密かに

思っていた。

 

 

 

『テリィ、恋でもしたの?』

 

 

 

『ん …… ?』

 

 

 

と、テリィは聞き返した。

 

 

 

 

 

『表情が優しくなったわね。

 

あなたなら、女性からモテるでしょうから、まぁ不思議じゃないけど、

 

あなたを虜にする女性ってどんな魅力的な人なの …… ?

 

それとも、別な理由?

 

エリオットも同じような事を言っていたわ。役作り? 違うわね。』

 

 

 

 

エリオットとは、ホーリー役の20代後半の俳優のことだった。

テリィは無言のまま、微笑みながら立ち去った。

マリエルは、テリィのそんな微笑みを見るのは初めてだったので、ますますテリィの変化が

気になった。

 

 

 

 

 

 

 

そして午後は、第二幕の本読みだった。

稽古場に置かれた長机と椅子に、春のあたたかい日差しが差し込み眠気を誘っていた。

第二幕には、見所のインディアン・ラブ・コールのシーンがあった。

 

 

テリィは、歌う。

 

 

 

 

Oo—Oo—Oo—Oo—Oo……

Melting into the night sky,  I am calling you

  夜空に溶けながら、あなたを呼んでいる

 

 

Oo—Oo—Oo—Oo—Oo……

This voice drifts beyond the wind, beyond the light

         この声は、風を超えて、光を超えて

 

 

Oo—Oo—Oo—Oo—Oo—……

When I’m calling you, I’m searching for you deep within my soul

  あなたを呼んでいるとき、魂の奥深くであなたを探している

 

 

 

 

 

優しく、甘く、そして力強くもあるインディアン・ラブ・コールに

稽古場にいた監督、役者、舞台スタッフは、何かが違うと感じた。

連休前のテリィが演じたジム役のインディアン•ラブ•コールとは、

透明さも、愛の尊さ、魂の深さも違っていた。

 

 

 

 

 

 

稽古の帰りに、テリィは監督のバーナードに声をかけられた。

バーナードは50代後半のアメリカ人男性で、金髪でグレーの目をしていた。

普段は静かだが、感性は鋭い名監督だった。

 

 

 

『テリィ、君のインディアン・ラブ・コール、素晴らしかったよ。

 

この三連休前より、一段と奥深くなってきた。みんなも、聞き惚れていたな。

 

連休中は、リフレッシュできたようだね。』

 

 

 

『ありがとうございます。』

 

 

とだけ、テリィは答えた。

 

 

 

普段から、テリィは長話をすることはなかったので、バーナードはそうテリィに伝えると

機嫌良く、立ち去った。

 

 

 

 

 

 

———  オレは、変わったわけじゃない。

   キャンディがそばにいるだけで、心が安らぐのさ  ———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、キャンディは、テリィが稽古に出かけると、先ずは掃除と洗濯を片付けた。

テリィは今まで、週二回メードを頼んでいたが、キャンディが同居することになり、

メードを断ったためだった。

特に気を遣うのが、テリィのバスローブの洗濯だった。

テリィは朝は朝食後までバスローブで過ごし、夜も入浴後は就寝までバスローブで過ごす。

バスローブを10着以上、持っていた。

そのうち、シルク素材が数着あったが、ほとんどはコットンだった。

キャンディは優しく石鹸で手洗いをして、日陰干しにした。

シルクは手洗い出来ないため、日陰干しにして、後日、専門業者に依頼する予定だ。

バスローブの色は、アイボリーとパールグレーが多かったが、

スモーキーブルーや、ダスティーラベンダー、深いネイビーもあった。

キャンディは、愛するテリィの愛用品を優しく扱った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄昏時、玄関のドアの鍵を開ける音がした。

 

 

 

『テリィだわ。』

 

 

キャンディは待ちきれず、玄関ドアまで走った。

 

 

 

 

『キャンディ、帰ったよ。何もなかったかい?』

 

 

 

『おかえりなさい、テリィ。大丈夫よ。』

 

 

 

2人は朝からの離れていた時間を埋めるかのように抱き合い、頬や唇に熱いキスをした。

そして、しばらく玄関で抱擁した後、キャンディはテリィがイースターリリーを

買ってきたことに、気がついた。

 

 

 

『今日は、イースターだったわね。綺麗なイースターリリーだわ。』

 

 

 

『劇場近くの花屋で見つけたんだ。』

 

 

 

と、テリィは言いながら、

 

 

 

『あっ、美味しそうな香りがするなぁ。』

 

と、鼻をクンクンさせた。

 

 

 

『夕食は、ハンバーグよ。焼き上がったばかりなの。』

 

 

 

『あれ? 挽肉なんてなかっただろ?』

 

 

 

『あなたが置いていったスペアキーで、そこの市場まで行ってきたの。

 

お肉屋さんで、牛肉を挽いてもらったわ。

 

あなたには、”緊急事以外にはスペアキーは使うな”って言われたけれど、

 

お肉がないのは緊急事態だったから …… 』

 

 

 

と言ったキャンディに対して、

 

 

 

『やっぱりな。家でじっとしているわけないと思ったが、脱走したか。

 

キミにとって、肉が無いのは緊急事態なわけだね。』

 

 

 

と、テリィはニヤリとした。

 

 

 

『えっ? ちょっと、脱走だなんて。お肉屋さんに配達を頼もうかと思ったけれど、

 

女性の同居人がいるなんて噂がたったら、困るでしょ。

 

だから、ひとっ走りして買ってきたのよ。

 

それに、挽肉がないとハンバーグが作れないわ。緊急事態よ。』

 

 

 

と、キャンディは茶目っけたっぷりに答えた。

 

 

 

そんなキャンディを可愛いと想いながら、焼き上がったハンバーグをのぞき込んだ

テリィは、次の瞬間、

 

 

 

『なんだ! このいびつな形は?』

 

 

 

と、驚きの声をあげた。

 

 

 

『あら、形は気にしないで。味は美味しいのよ。』

 

 

 

『味よりも、形に驚いたよ。』

 

 

 

『ハート型にしようと思って …… 上手くいかなくって、お直ししてたら、

 

こうなって ……  こうなったの …… 』

 

 

 

『ハート型だったのか?』

 

 

 

と、テリィはクククッと笑った。

 

 

 

『そう、ハートよ。いびつだけど、愛情たっぷりなのよ。それにね、

 

 

Okakura(岡倉天心)の本に、”不完全さの美”のことが書いてあったわ。』

 

 

 

 

 

テリィは、キャンディが持っていた岡倉天心の『The Book of Tea』1906年英語で執筆の

中で、”不完全さの美”をテーマとしたことが書かれていたのを思い出した。

その時は、パラパラとページをめくった程度でじっくとは読んでいないが、

日本の美意識である、わびさびと結びついていることが書かれていた。

不完全なもの、儚いもの、シンプルなものの中に、真の美を見出す東洋的思想を

茶の湯を通して西洋人に紹介していた。

完璧を求める西洋の美学とは対照的だったのだ。

 

 

 

その岡倉天心の不完全さの美を、このハンバーグの形に持ち込むのは多少、強引にも

感じたテリィだったが、キャンディに言った。

 

 

『と言うことは、このいびつなハンバーグは芸術作品ってことだね?』

 

 

 

『え、ええ、芸術よ。世界に1つだけのハンバーグよ。』

 

 

 

『オレも、夕食後に、世界で一つだけの紅茶を淹れるよ。

 

キャンディは、アッサムのミルクティー、

 

オレはストレートでね。』

 

 

 

キャンディはにこやかにうなづいた。そして、

 

 

『ねぇ、テリィ、お稽古はどうだったの? インディアン・ラブ・コールは歌ったの?』

 

 

 

『その話は後だ。まずは、キャンディ特製のハンバーグを食べさせてくれ。

 

世界に一つだけのオレのための、ハンバーグをね。』

 

 

と、テリィは嬉しさを噛みしめるような表情で言った。

 

 

 

 

『わかったわ。スープも出来上がっているし、あとはサラダを盛り付けるだけよ。』

 

 

 

と、キャンディはサラダを盛り付けはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、あたたかな春風は冷たさを帯びて、夕闇が迫っていたが

キャンディとテリィは、夕食を楽しんでいた。

一緒に暮らした長い年月や、会っていた時間の長さは、必ずしも愛の深さを約束はしないことをキャンディとテリィは、証明していた。

時間の長さより、心がどれだけ響きあったか、魂が共鳴したか、

それが2人を強く結びつけていたのだ。