うちには、仏壇はない。

お葬式の時に使った白木の台に、夫の遺骨、写真、蝋燭台、線香立て、そして花瓶代わりのとっくりがある。



お葬式は、自由葬にした。 


自由葬といっても、仏式だ。

(自由葬と言っても、仏式なんですよ、と業者は言ってた)

自宅で行った。



私と子供たちは無宗教だ。

夫も。

神様や仏様は信じてるが、儀式的な事には興味がない。

お金の問題もあった。

会場借りて仏式ですると、安くても自由葬の2倍以上になる。



突然の死だったので、知り合いに知らせる気力もなかった。

家族だけで、見送りたかった。

参列者は家族だけ。

大きな会場だと、寂しかっただろう。



そして、犬。

うちのおばあちゃんワンコ。

夫は犬を、とても可愛がっていた。

犬に、会いたいだろうと思った。

犬も夫に会いたいだろう。


何より、夫は家に帰りたかっただろう。

寒い山で、急な発作を起こし、亡くなった。

アッと言う間のことだったと、聞いた。



家に帰って、あーあ、疲れたなーと、いつもの焼酎を飲みたかったろう。



夜中に何度も、私は夫が安置されてる居間に行った。

顔にかける白い布がなくて(たぶん、葬儀社の人が忘れたみたい)、柴犬タオルをかけた。

(タオルは顔の形が出るので、微妙だったけど)

娘がプレゼントしたもので、夫は気に入ってよく使ってた。



部屋は寒かった。

寒い部屋で、夫は文句も言わず寝ていた。

私は横に座って、夫に文句を言ったりしてた。

結局、私ら夫婦は、分かりあえんかったな、とかね。



これが、お通夜だった。



お通夜の参列者は、私だけ。

夫婦だけの、お通夜。



夫は不満だったかもしれない。

もっと、儀式的なことをしてほしかったかも。

でも、私は満足だった。



夫と家族であるうちに、別れられた。

私も、そして子供たちももちろん、夫のことは忘れない。



悲しみで泣くことも、まだある。

娘は特にショックが強くて、体のバランスを崩している。



少しずつ、日常が戻りつつある。

朝は夫に、コーヒーと線香をあげて。

たまに、夫の残したお酒も供えて。

「朝酒やな」とか、言いながら。