夫の車を引き取ってもらった。
業者の方が2人来て。
スタッドレスタイヤも一緒に。
業者の車の後に、夫の車が続いた。
運転していたのはもちろん、業者。
涙が出た。
夫の車が、駐車場に止められることは、もうない。
夫が急死した直後。
夫の姉に連絡しようと、夫の手帳を見た。
夫の携帯は警察が持っていって、いつ帰って来るかわからなかった。
夫の手帳を勝手に見たことはない。
見る気もなかった。
私と夫は、決して仲良い夫婦でなかった。
私はサッサと離婚したかった。
夫がどう思っていたかは、知らない。
夫の気持ちなんて、興味なかったから。
夫が独身時代から愛用していた、システム手帳。
手垢でクタッとしている表紙をめくった。
1枚の写真があった。
私と娘、息子。
保育園の入園式だろうか。
娘は5歳くらい。息子は2歳くらい。
そして、若い私。
若い私は、写真を撮る夫にほほ笑んでいた。
幸せそうだった。
涙が出てきた。
嗚咽が止まらない。
夫は、この写真を見返していたのだろうか。
妻が、自分に対してどんどん冷たい態度を取っていくなかも。
どんな思いで、この写真を手帳の1枚目に入れ続けていたのだろう。
言いたいことがあれば、言えばよかったのに!と、私は思った。
私は夫に、ひどい態度をとっていた。
夫はそれに、何も言わなかった。
お互いに。
気持が分かりあえていた時もあったのだと、私は泣きながら思った。
幸せだと、思っていた時期もあった。
でも夫は、何も言わず、話し合う機会もなく、死んでしまった。
例え話し合っても、私の気持ちは夫に戻ることはなかっただろう。
でも、夫の気持ちを聞いて、そして円満に離婚することも、できたはすだ。
実際、時期を見計らい離婚することは、決まっていたのだし。
なのに、夫は死んでしまった。
突然に。
死んでしまってから。
夫の知らなかった部分がでて来る。
私はそれを、抱えて生きていくのだろう。