薬ができるという前提で動いているのはどうなんだ? | 耳鼻科医として、ときどき小児科医として

耳鼻科医として、ときどき小児科医として

以前にアメブロで書いていましたが、一時移籍し、再度ここに復活しました。専門の耳鼻咽喉科医としての記事を中心に、ときにサブスペシャリティな小児科診療のこともときに書いていきます。

コロナに関しては、経口薬が期待されている。全世界が期待しているのは間違いないが、経口薬ができたらワクチンはいらないとか、できるのが当然かのように主張する人があとをたたない。

 

薬の業界を知っている人はこんなことを言わない。薬の開発には非常に時間がかかるし(最低でも数年)、仮に開発されても本当に効果があるのか、画期的な薬であるかどうかは使ってみないとわからない。また、ワクチンは新しい薬だから怖いと言っている人たちが、このような新薬を恐れないのも不思議なものだ。新薬として使われ始めてから、後に副作用が多すぎて発売中心になったものはけっこうある。

 

コロナがはやりはじめたころ、アビガンというインフルエンザ用の薬が効果があると一部では使われた。アビガンを普通の医者が使えるようにしろというクレームはわきあがったが、今そんなことを言う医者も市民も誰もいない。なぜ言わなくなったのか、治験をして検討したら、効果がないということが証明されてしまったからだ。

 

喘息用のオルベスコという吸入薬がコロナに効くという噂がながれたときも、この薬を求める人が増え、市場から消えた。今はこの薬をコロナに使うという医者は誰もいないことだろう。

 

この薬がコロナに効くと言われて、次々にでてきては消えている。一部の人が効くと言っても、医学的な効果が本当にあるのかは大規模調査をしないとわからないのだ。

 

今、効くのではないかという声が消えていない薬が、イベルメクチンという寄生虫薬。この薬がほぼ手に入らなくなっている。効くのではないかといううわさがひろまってしまっているからだ。

 

この薬が効くと言っている論文は、医学後進国からしかでていない。このため、米国などの先進国でも治験をしたが、効果があるという結果がでてこなかった。日本でも北里大学でこの薬の治験を進行中だが、治験の結果がでないより前に、治験に参加す患者が集まらず、まったく薬の検討が進んでいない状況である。

 

そうこうしている間に、当初「イベルメクチンは効く」とでてきた論文が、取り下げられてしまったそうだ。論文としてその内容にかなり問題があると指摘されて、取り下げられてしまったそうだ。効果のもとになった論文が却下されてしまえば、効くという根拠も失われてしまった。もちろん、効果がないということが証明されたわけでもない。これから薬の治験がすすめば、「この薬は効くね」という評価が得られるのかもしれない。それにもまだ時間がかかりそうだ。

 

薬の効果は医学的に評価される。数例使って病気がよくなったというのでは、個人的感想であり、まったく評価されない。コロナというのは軽症者の多くが自然治癒してしまうので、たまたま使った患者が自然治癒した人をみている可能性があるからだ。

 

このような新薬に期待する声が多いのはわかる。しかし、効果が証明されていないような薬を、その段階で持ち上げるのには問題が大きい。

 

インフルエンザには多数の内服薬があるが、効く人もいるが、効かない場合も多い。薬はあっても、その薬があるがゆえに、インフルエンザは心配ないと言っているのは、医学素人だけである。医者の感想としては、そりゃ認められた薬はあるけど、インフルは流行するし、重症化する人もいる。そんなところであろう。もっともインフルで重症化する比率は、コロナに比べれば極めて低く、亡くなるのはほとんど高齢者である。

 

コロナに有効な薬の開発は現段階ではなされていない。明らかに効果がある、予想以上に効果があるのは、ワクチンなのだが、ワクチン否定派はその効果があるワクチンを否定し、まったく効果が確認されていない薬がすぐにできあがるものと思って、ワクチンを否定していく。