智くんとの出会いは
 
都会から遠く離れた海だった。
 
 
あの日
 
両親がいなくなった実家の片付けと一周忌の準備でお寺への用事を済ます為にひとり田舎に帰ってきてた。
 
 
 
実家に帰ると決まって歩いた散歩道の海岸を
 
ポツリポツリ歩いてるとここに似つかわしくない人の姿があった。
 
 
 
 
「あの~、釣りだったらここよりももう一つの海岸の方が釣れますよ」
 
 
見ず知らずの女に話しかけられ、
返事をしようか知らぬ顔をしようかどうしようかと躊躇しているみたい。
 
 
「私怪しい人じゃないですよ(笑)そんなに警戒しないでください。
 
釣りしに来たんですよね?」
 
 
 『なんで?』
 
 
「なんでって大野くんの釣り好きは有名ですよ」クスッ
 
 
 
『なんだバレてたのか』
 
 
「逆ナンでもされてるかと思った?」
 
 
 
『思った』(笑)
 
 
 
「車で少し行ったところの海岸の方が釣りのポイントなの・・さらったりしないから良かったら案内しましょうか?」
 
 
 
それでもまだ躊躇してる
 
 
 
「せっかくのオフなんでしょ?悩んでる時間がもったいないよ」
 
 
 
なかば強引に案内することになった。
 
 
 
私の助手席に乗り込んだ彼が車内を見回して言う
 
 
 
『嵐・・好きなの?』
 
 
「あっ!驚くよね?嵐だらけで・・・めちゃくちゃファンです」
 
 
 
『あ、、ども。ありがと』
 
嵐一色の車内に驚かれてしまった。当然だな。
 
 
 
「引いちゃった? 引くよね? せっかくのオフなのに・・なんかごめん。今日はファンとしてじゃなくていち地元民として案内させて頂きます」
 
 
 
『ね、誰が好きなの?』
 
 
 
「ん?」
 
 
『嵐』
 
 
「えっとねぇ・・ニノちゃん」(照)
 
 
『ニノなんだ』
 
 
「うん。ニノちゃん」(笑)
 
 
 
気になるんだね。
テレビでよく聞いてる場面見るけどテレビじゃなくても聞くんだ!っておかしかった
 
ほんとナチュラルな人だわ。
 
 
 
 
海岸に着くと、ひと通りの説明をして帰りはまた連絡くれたら迎えにきてもいいよという由を伝えた。
 
 
『帰っちゃうの?』
 
 
「1人のほうが気楽でしょ?」
 
 
『手伝って』
 
 
「手伝ってってなんにもわかんないけど大丈夫かな?私にも出来ること?」
 
 
『簡単だから』
 
 
「じゃぁ手伝う!
大野フィッシングクラブの会長さんの助手、頑張らせていただきます」(笑)
 
 
『おぅ!』
 
 
 
大野くんが忙しく餌をつけたりあっちの竿見たりしてる間私はもう一つの竿の番をしたりして
時間が経つのも忘れて楽しかった。
 
 
糸引いてるよ!って言うと
リール握ってまだ巻いちゃダメだよ堪えて
 
って言いながら駆け寄ってきた
 
 
 
こうやってじわりやって、
 
今!今!巻いて!!
 
 
って大野くんの手が重なりリールを慎重に且つ素早く巻いた
 
次の瞬間手元が軽くなり
 
 
あ~ぁバレちゃった
 
 
 
2人の落胆の声が漏れた
 
 
そして顔を見合わせて笑った。
 
 
「釣りって楽しいね」
 
 
『でしょ』
 
 
くしゃっと笑う大野くんにドキッとした。