宝塚雪組全国ツアー仙台公演「誠の群像/SUPERVOYAGER」感想② | 百花繚乱

百花繚乱

駆け出し東宝組。宙から花のように降る雪多めに鑑賞。

 

だいもんの伏し目に刺され、客席で果てました。

なにあの伏し目。

なにあのリーサルウェポン。

 

 

■和物の雪組 ここが俺らの本丸

オープニングの 「参る!」 からの、だんだら羽織の新撰組隊士揃い踏み。

「雪組子、ここにあり!」 という感じ。

 

眼光するどく、白鉢巻は冴え冴えと、体をかすかに揺らして足踏みする居ずまいだけでかっこいい。

雪組子の新撰組に対する 「ここが俺らの本丸だから」 感がすごい。

和物に対する自負にあふれてて、余裕すらうかがえる。

そこから覆いかぶさるように風雲漂うドラマティックな主題歌になだれ込み、一気に盛り上がる。

 

殺陣は切られてなんぼだと思うのだが、今回の眞ノ宮るいちゃん&下級生、いい斬られっぷりでした。

とやーっと突っ込んで斬られてはけ、ぐるっと回って斬られ、戻ってきて斬られ、しかもちゃんと体ごと崩れ、上段の構えも美しい。

あと、りーしゃが刀を敵の胸にさしたまま、敵の目を見ながらまじりじり後ずさっていくのにも痺れた。善さん、本当になんでもできる・・・

 

 

 

■誠の群像 全国ツアー版

新選組の魅力は、何者かになりたいという情熱が、幕末の混乱に乗じて現実になったことだと思う。

秩序が崩壊する時代は、窒息感からくる疲労だけでなく、硬直した状態に風穴をあけて再生するための活力もみなぎってる。

「誠の群像」 は、新選組のそういった陽の部分をほとんど描かず、陰の部分 「滅びの美学」を強調してた。

 

初演に比べるとずいぶん長くなったという池田屋騒動などは、本来新撰組の晴れ舞台なのでもっと盛り上がるシーンになってもいいと思うが、隊士たちが達成感に浸るわけでもなく、総司が血を吐いたところで終わる。

内ゲバが多く、切腹が繰り返し出てくるし、土方は 「人を斬って誰からも尊敬されない。ただ恨みを買う」 と侘し気につぶやき、始りから終わりを示唆しているような雰囲気だ。

望海風斗のストイックな土方像と相まって、とにかく死の香りが強い。

 

全国ツアー版では銀橋や大階段がなく、空間の奥行きが少なくなった分、さらに緊迫感が増して、滅び行く隊の閉塞感をより強く感じた

その中で、沖田君の爽やかさ、近藤さんのおおらかさは一服の清涼剤だった。

あと、カレンさんの八重の人間味も。

 

 

 

■賢者の土方歳三

ドラマや映画の新撰組は、男性が演じる肉体の存在感がある。

立ち回りも荒々しい迫力があって、映像では汗と泥と血がつきものだ。

男性の筋肉は鎧、戦うための体なのだと思わせられる。

 

宝塚では、いい意味で、肉体の存在感が希薄だ。

「人殺し集団」 という台詞が一瞬ぴんとこないほど、居姿が涼しげで美しい。

生々しさが減る分、理念や精神性を描くのに向いていると思う。

 

望海土方は特にそうで、武士というより隠者のようだった。

NOW ONでご本人も語っていた通り、「誠の群像」 の土方歳三は外に発散する役ではなく、内側にこらえている時間が長い。

せりふも動きも歌も少ない中、沈黙の演技で土方の極度なストイックさ、危ういまでの理想の苛烈さを存分に感じさせて見事。

 

あれは、仏像の眼ですね。←仏像好き

目を開けすぎると雑念が浮かんで心が乱れる、目を閉じれば寝てしまう。

座禅などで、精神集中のためにする半眼。

その瞳が後半の敗残の新撰組、洋装になってからは、らんらんと異様に光っている。

 

多分現実はもっとぎらぎらで荒くれてたと思うが、知的で清冽な佇まい、全場通して垂れ流しのだいもんの色香が、宝塚らしい土方歳三像でとてもよかった。

 

最後に 「あの人は句をつくり、花を愛で、世が世なら仏のような人で」、というお小夜の台詞があったが、荒くれものだったけど実はやさしい人、のようなまとめ方はやや蛇足だったかな、と。

太平な世なら、土方歳三という名は残っていなかった。

鬼が鬼として生きた、それでよかったと思う。

それほどの凄みと哀しさを感じさせる土方だった。

 

 

 

■お小夜と土方

芹沢鴨に強引に手籠めにされたのに、結局その女となるお梅に対して、新選組隊士が 「乱暴される男を好きになる。女とはわからんものよ」 という台詞があるが、男の周りはその男と同じ人格レベルの女が集まるもの

なので、女とは愛だの恋だののことばかり考えていて、すぐに流されて、力のあるものに弱く、好色だと信じている男の人には、その手の女性しか寄ってきてないというだけだと思う。そして女性観が偏る。

だから土方が初めて恋に落ちた女として、お小夜のキャラクターはかなり無理があると思った。

 

お小夜は、土方に想いを残しながらもあっさり嫁ぐ。

嫁いでいても土方を思い続ける。( 当時の基準では不貞・不忠)

それを自らためらいなく口にする。

自分に恋の思い出をつくってくれ、とねだる。

何よりも、自分の大切な男が魂をかけている新選組を、自分のために辞めてくれ、と要求する。

 

武家の女の矜持や慎みが感じられない要求の高い女に、求道者のような土方が惚れるとは思いにくい。

真彩ちゃんも葛藤や抑制の表現が弱かったと思う。

 


 「たとえ、五十年連れ添うとも、ただの二夜であろうとも、ちぎりの深さに違いはないと思うてくださるか」  と 小夜の「ご乱心ください」 は原作でも肝になるせりふだが、誠の群像では二人がじっくり情を交わすシーンがないので、せっかくのキラーフレーズが唐突に響く。 

それをねじふせて説得力を持たせたのは、ひとえにだいきほの力技だと思う。

 

「土方様との逢瀬は夢のようで」 ・・のその逢瀬の場面を見たかった。

部屋の中で寝転ぶだいもん土方と、縫物をしながら話に耳を傾けるお小夜。

下手な俳句をひりだしてお小夜にからかわれる土方、見たかった。

 

 

 

■適材適所のはまり役

・勝海舟/ 翔君

粋だねえ・・・。ほれぼれするようないなせな男だねえ。

劇中で唯一、明るい未来を夢見てる男。

勝さんの「にっぽん」  【Nip’pon 大好きで大好きで、あの弾ける 「ぽん」が出ると、「きたーーっ」とうれしくなってしまう。

江戸っ子の啖呵を思わせるような歯切れのよさ。いなせだねえ。

 

・近藤さん  

にわさん近藤さん、人の好さ、局長の風格、だけど俗物的な感じもあって、まさしく近藤勇。

おっさんギャグは、にわ近藤じゃなかったら斬り込んでたとこです。

近藤さんが刀を持つと、なぜか重く見えるのもすごい。

「歳、楽しかったなあ」 と笑う近藤さんの後ろで、大粒の涙を流す八重さんは嗚咽ものだった。

 

 

・沖田総司 綾凰華

あやなちゃんのまばたきはいかん。人を殺める。

潤んだチワワのような目で、長―い睫毛をパチリ・・・パチリ、と音がしそうなくらいしばたかかせると、涼しいそよ風が舞う

で、キラキラした黒い瞳で、「天国に行くのは、山南さんだと思います!!」って、 どう考えても行くのはお前だああああ!!!

「武士だから切腹ですよ」 と諭す言葉を穏やかな笑顔で聞いている様子とか、「かわいそうだったなあ」 とは言うけれどお梅を殺してしれっとしてるところとか、あどけなさと残酷さとのアンバランスが沖田総司のイメージにぴったり。

 

 

・斎藤一/黒田黒田了介 煌羽 レオ

戦う体だ、と感じたのがかりさま。

少しウェイトを増やしたせいか、体つきに厚みが出て、刀を構えるときに背中が鞠のように丸まり、瞬時に戦闘態勢に入る様がいかにも剣豪らしかった。

るろうに剣心で咲ちゃんが演じた斎藤一が記憶に新しいが、こっちの斎藤一は本当に武人という感じ。

黒田さんの最後の決め台詞、 「けいれーーーい」 も、難しいセリフだと思うけれど、絶妙のテンポでした。

 

 

・山南敬助/榎本武揚 彩風 咲奈

新選組に齟齬を感じながら、新選組に敵対するわけでもなく中から変えるわけでもなく、つかまるとわかっていて隊を離れるという山南敬助の行動は謎だが、咲ちゃんの爽やかさで涼し気な山南に 「琵琶湖が綺麗だった」 といわれると納得してしまう。

初演のいかにも理想に燃えた剣士の稔幸さん(とんでもない美青年) とまたちがった繊細な山南もよかった。

朝月希和ちゃんの柳腰、お白粧の香りが漂ってきそうな玄人ぶり、美しい・・。

 

 

・お小夜/真彩希帆

 震える声、驚く声、声の説得力は素晴らしい。

氷雨降るかのようなだいもんの 「心を凍らせて」 の歌の後の真彩ちゃんのソロ紫陽花幻想」。

二つの場面がまるで一つのシーンのようにつながって聞こえる歌唱の統一感と素晴らしいクオリティ。絶品でした。

 

・刀屋/一禾 あお(いちかあお)

 うまいなあ・・。海千山千の商人のいやったらしさがよく出てた。102期生とは恐ろしい。

 

 

・芹沢鴨/高松凌雲 夏美 よう

あゆみ姉さん(お梅) と、いちゃいちゃしまくるのだが、お二人ともアダルト過ぎて、頭の中には 「乳繰り合う」 と言う言葉がよぎりました。

ちち・・くりあう・・

あゆみ姉さんのご当地ネタ 「うち・・萩の月食べたいわあ」

芹沢先生 「おお、それは精がつき・・・・精がつく??」 首をかしげる。

牛タンバージョンもありましたね。

貴女たちはそれ以上精はいらん。