No.3-21 もうこの業界には、戻らない
医師から「栄養失調になりかけ」(笑)と言われながら、がむしゃらに働き続ける日々。その終焉は、突然、訪れました。
ある朝、脇腹を激痛が射抜ぬき病院へ搬送された私は、治療のため2ヶ月に渡る休職期間を経て、仕事復帰しようとしたのですが…
なぜか、意識がとても遠いところへ行ってしまったような感じがして、どうしても、自分の元いた環境を受け入れることができなくなっていました。
仕事が嫌になったわけでも辞めたいと思ったわけでもありません。
すべての根因は、今まで自分がいた世界がある種特異な環境だった、ということに気づいてしまったこと。自分の外側に“普通”の世界があることをリアルに、中途半端に知ってしまったが故に、バランスとか時間軸とか、色んなものが少しずつ狂ってしまって、病気になる前と同じような意識でそこにいることが、できなかったこと。
そして、医師から告げられた「休養・加療」を理由に、退職の意を伝え、私をこの世界で生きていけるように一から育て上げてくれた会社での、最後の日を迎えることになったのです。
「クライアントから、本当にいいものを書いてくれるって、一番評判のいい書き手だった。 その文章の才能は間違いない。いつかまた一緒に仕事ができる日がくることを楽しみにしてる」。
社長夫婦からもらった最後の言葉に、今までやってきたことが、一瞬にして報われたような、気がした。初めて、自分を「よく頑張ったね」って、褒めてあげられる、そう思った。
そして、誰もいない事務所を、荷物を抱えて後にするとき、私は心に決めていました。
「もう、この業界には、戻らない」と。
「“書く”ことは、二度と仕事にはしない」と。
書くことしかしてこなかったため、退職後は何をしたらいいのかがまったくわからず…。
1年ほど飲食店でアルバイトをした後、未経験OK、人間性重視、という謳い文句に惹かれて、ある産婦人科の受付として就職しました。
初めての受付事務という仕事は、とても新鮮で楽しくて、思いのほか毎日が満たされてました。
「書く」ことを求め続けた自分が嘘のように。